強さの価値 ①
6月10日 午前7時37分更新
6月10日 午後19時05分更新
〜百合紅の月9日 金翼の若獅子〜
翌日、立会人を頼みにカネミツさんを訪ねる。
〜午前10時 三階 カネミツの庵室〜
「…決闘の立会人とな?」
「ええ」
「何故、某に?黒永殿であれば『灰獅子』も『串刺し卿』も喜んで引き受けるであろう」
「んー…今回は静かに終わらせたいので」
「相手は?」
「ヨハネです」
湯呑みを持つ手が止まり相貌が険しくなる。
「…『冥王』か」
「あの野朗は俺の家族を公然の場で侮辱した…争いは好きじゃないが売られた喧嘩は買いますよ」
「ふむ」
茶を啜りカネミツさんは笑う。
「かたや十三翼…一方は契約者…本来なら矛を収めるよう提言するのが正しいのだろう」
「……」
「…だが男には時に譲れぬ矜持がある」
「そんな格好良いもんじゃないけど…まぁ」
頭を掻きつつ肯定した。
「喜び謹んで引き受けようぞ」
「ありがとうございます!」
「女子に分からぬ世界…これも青春よ」
袴姿に胡座で座り肯くカネミツさんの姿は侍にしか見えない。
「して場所と時刻は?」
「ベルカ東街道のカーネギー草原です。彼処なら人も居ませんし…時間は午後16時でお願いします」
「相仕った」
「ヨハネにも時間と場所を伝えないと…」
「彼奴なら訓練場にいようぞ」
「訓練場?」
「演習場から少し北へ進むと『金翼の若獅子』のランカーが使用する特殊な訓練施設がある…『冥王』は常に其処に入り浸ってるでな」
モンスターハウスに続き新施設の登場だ。
〜午前10時30分 金翼の若獅子 訓練場〜
演習場を北へ進み看板を見つけた。
「これが訓練場ね」
外観は半円のドーム型施設って感じ…空間拡張魔導具で中を弄ってるんだろうなぁ。
守衛が立ち塞がる。
「ここは『金翼の若獅子』に所属するランカー専用施設……Sランクの契約者が何用か」
「ヨハネに用事があってきた」
「ヨハネ様に?」
「黒永悠が会いに来たって言えば飛んでくるぜ」
「…暫し待ってくれ」
守衛は扉を開け中に入る。
〜5分後〜
「邪魔ダ!!」
扉を蹴り飛ばしヨハネが登場。
爛々と目を輝かせ髪の毛が逆立っている。
「…待ちくたびれたゼ」
派閥の配下も次々と現れた。
「ヨハネ様になんの用だ契約者ぁ!?」
「ぶっ殺すぞコラァ!」
…ヨハネと同じで好戦的な連中ばっかだな。
「黙ってろ」
鬱陶しそうにヨハネは部下を睨む。
効果は絶大で一気に静まりかえった。
「…場所はカーネギー草原で時間は午後16時」
「ハッハッーー!いいネェ!」
「立会人も頼んだ」
「おぅ!最高に激ってきタ…『灰獅子』がよォお前に構うなってうるせェンだよ?…あんな依頼は認めねェだのなんだの…でも安心したゼ」
まるで玩具を買って貰えた子供のように笑う。
「お前も俺と同じ戦闘狂だ」
俺がお前と同じ?…心底、嫌な気分だ。
「俺を戦闘中毒と一緒にすんな」
「カッカッカッカッ!」
「…覚悟しろよ糞野朗。全員の前でアイヴィーとオルティナに土下座させてやる」
「上等ォ!…やってみろヨ…色惚偽善者」
互いの魔圧が衝突し視線が交錯する。
「…じゃあな」
「おぉ…」
俺達は同時に踵を返し違う方向に歩いた。
〜午後14時30分 金翼の若獅子 ギルド広場〜
「悠」
「あ」
カーネギー草原に出発しようと広場を移動中にラウラと遭遇した。
な、なんてタイミングが悪い時に…!
「依頼に行くの?」
「あー…うん」
「少しは休まなきゃ駄目だよ。ずっと働きっ放しじゃないか」
「それはラウラも同じだろ」
「……」
整った眉を顰め目を細める。
「…どうした?」
「…何か怪しい」
エスパーかよ!?
「べ、別に何も」
「いつもと違って挙動が変だし」
「き、気のせいだって!…ラウラは仕事か?」
「ううん…偶には体を動かそうと思ってダンジョンでモンスターの駆除をしてきた帰りさ」
それ運動ってレベルじゃないやん。
「…それより本当に何か隠してない?」
じーっと俺を見る目が怪しい。
「し、してない……あー!そうだ!今度二人で遊びに行かないか?」
「え」
「ラウラも普段は忙しくて遊ぶ機会がないだろ?」
「…本当に?僕と二人で?」
「おー!野朗同士の親睦を深めるためにも遊びに行こうぜ」
や、やばい…勢いに任せて誤魔化し方が雑過ぎたか?
「ぜ、是非行こう!!」
あれ…通じた?
「他の娘達は抜きで二人で遊びに…ふふふ」
「そうだな」
「約束だからね?破ったら許さないよ」
「…勿論だ」
都合良く話題を変えれて良かったぁ!流れで遊びに行くことになっちゃったけど…。
「ふっふ〜ん!じゃあ悠も依頼頑張ってね」
稀に見る上機嫌で鼻歌混じりにラウラは行ってしまった。
「ふぅ…危ない危ない」
これ以上、誰かと会ってもはぐらかすのが大変……急いで転移石碑に向かった。
〜午後16時 カーネギー草原〜
起伏のない見通しの良い草原が広がり周囲に遮る物は何一つない。
…先月、依頼でここのダンジョンを攻略したっけ?
俺とカネミツさんは先に到着しヨハネを待つ。
「…黒永殿」
「来たか」
「あ?立会人ってカネミツに頼んだのか……てっきり『舞獅子』か『串刺し卿』だと思ってたヨ」
首と肩の骨を鳴らし数メートル先で止まる。
「此度の仕合、拙者がしかと見届けようぞ」
「どーだっていいさ…俺ぁ目の前のご馳走しか目に映ってねェ」
燼鎚とペナルティを握り締める。
「夕飯までに帰りたいしさっさっと終わらせる」
「…ハッハッハッ!」
ヨハネは左手で大鎌を担ぎ声高らかに嗤う。
大鎌は不気味に光り布が覆っており右手には鎖鎌が握られている。
「テメェの死体は責任持って俺が家まで運んでやっから心配いらねェ…」
殺気が漲った猛々しい魔圧が発せられた。
互いに動かず静止する。開始の合図も何もない。
…強い風が吹くと同時に燼鎚と大鎌が衝突する。
「…さすがに力が強ぇなァ」
「ーーふんっ」
鍔迫り合いを制したのは俺だった。
押し切るように燼鎚で殴るが一瞬でヨハネは体勢を整え距離を取る。
「!」
左手の鎌が伸び迫る…いや鎖を掴み振り回したのか!
真横に避けるが切っ尖が再び襲う。
自由自在に操っていた。
ペナルティの銃弾で鎌を弾き方向を変え距離を詰めた。
振り上げた燼鎚・鎌鼬鼠の刃は当たらない。
ヨハネも身を逸らし回避する。
「楽しいなぁおい!?」
狂喜の笑みを浮かべ叫んだ。
「…お前だけだ馬鹿野郎が」
俺はそう呟き突進した。




