休日を満喫しよう!⑤
6月2日 午後16時52分更新
〜10分後〜
「できた」
黄色の液体を小瓶に注ぎアイヴィーが職員に渡す。
「こんなに色が濃くなるなんて…初めてだ……凄いな君は!」
「…麻痺治しのポーション改…麻痺の状態異常を治すだけでなく一定時間は免疫効果を高めHPの回復も……素晴らしい調合技術です」
職員とレイミーさんに褒められアイヴィーは腰に手を当て鼻高々な様子だ。
「アイヴィーにかかれば朝飯前だから」
「……」
「…クルル?」
無言でアイヴィーの両肩を掴む。
「……『オーランド総合商社』に登録してうちの部署で一緒に働かない?」
興奮したクルルさんの表情が怖い。
「あの手際の良さ…素材の見極め…作業速度!…調合師の資格は?」
「独学だから」
「ど、独学!?…社長!マジでこの子には唾をつけとくべきだよ……っつーかあーしと一緒に国家錬金術師を目指そ!ね?…ね!?」
「は、はう」
がくがくと首が縦に揺れる。
「あんなに興奮してる部長は久々に見たな」
「…本当に凄い才能よ」
「グーバー式調合術じゃない見慣れぬ調合法だったが……ふむ」
他の職員もアイヴィーを高く評価している。
「悠さんがあの子に錬金術を教えたのでは?」
「俺は錬成炉しか使わないし調合は出来ません」
アルマと本人の力だ。
「……どの分野にも天才はいますがアイヴィーは才能の塊ですね」
「ふっふっふ」
自分が褒められるより嬉しいぜ。
クルルさんの希望で暫くアイヴィーは調合試作品室で一緒に新薬開発に参加する。待ってる間が暇だったので適当に素材を調合して遊んでたら不気味な小さいモンスターを誕生させてしまった。
…暴露ないように焦って退治したのは内緒の話。
百合紅の月15日の武器市場参加の件もあらためて説明を受け了承する。
〜午後16時15分 エントランスホール〜
見学も終了しエントランスに移動した。
「今日はありがとうございました」
「楽しかったから」
「近い将来に所属するアイヴィーの良い経験になって嬉しいわ」
……レイミーさんはその気満々だが登録してもモデルは絶対に許さんぞ。
「これはプレゼント」
小さな薄いカードをアイヴィーに渡す。
「調合品試作室の入室許可証よ。今後は受付でこのカードを提示すれば案内してくれるから何時でも来て頂戴」
「ギルドメンバーじゃないのにいいの?」
「ええ。アイヴィーには特別に許可するわ」
「…悠!特別だって」
嬉々とした表情で俺を見詰める。
「凄いぞアイヴィー」
目を細め破顔し褒めた。
「えへへ」
「贔屓して貰っちゃってすみません」
「この子には素晴らしい才能がある……決してえこ贔屓ではなく先行投資と考えて頂き結構です」
「先行投資…」
「今度来る時は作った錬成品を持ってくるから」
「それは楽しみだわ」
『鉄仮面』…『鋼の女』…そう呼ばれ畏怖されるレイミーさんが顔を綻ばせている。
意外に子供好きなのかな?
「そんな風に笑ってると本当に素敵です」
「………」
俺がそう言うとほんのり頬を染めた。
「…そうですか?」
「普段も綺麗ですが魅力三割増しですね」
「…き、綺麗だなんて…いきなり…」
珍しくレイミーさんは狼狽してる様子だ。
「きっと素敵な彼氏が見つかると思いますよ」
「…………」
この一言に表情が瞬く間に曇る。
あ、あれ?
「…次回から悠さんの買取査定は厳しく査定します」
「なんで!?」
褒めたのに理不尽だーー!
「悠は本当に鈍感だから…」
呆れ顔でアイヴィーは呟いた。
「えぇ」
「他の娘との関係も安心できる反面、苛立ちも募ります」
「他の娘?」
「……もういいわ。先程も言いましたが武器市場のイベントには午前9時までに第3区画の中央広場に来て下さい」
「了解です」
「それと孤児院の件ですが今は相手方の動きがありません」
「……」
あの日、ユーリニスへ牽制したのが効いた…いや…そんな奴じゃないか。
「…怪しい動きがあれば即座に依頼を出しますので宜しく頼みます」
「任せて下さい」
オーランド総合商社を出て別の区画に向かった。
まだ帰るには時間があるし雑誌を調べる。
…お!雑誌の情報によると第11区画は服屋やアクセサリーショップが多いらしい。
折角だし行ってみよう。
〜第11区画 ファンシーストリート〜
お洒落なブティックにアクセサリーショップやポップな小物が満載の雑貨屋が並ぶ。
アーケードの看板に掲げてるファンシーストリートって名前がぴったりだ。
「久しぶりに来た」
「来たことがあるんだな」
「あの店でドレスを買ってたから」
「へぇ…」
アイヴィーは派手な髑髏や十字架を飾ってるゴシック調のドレスショップを指差す。
……エリザベートが好きそう。
「エリザベートも常連客だって言ってたよ」
やっぱりぃ!
店名は…えーっとPrincess…変な筆記体で読み辛いな…Doll…プリンセスドール?
「興味が湧いたし入ってみよう」
「ドレスの新作がでてるかも」
彫刻が施された木製ドアを開け入店する。
〜ゴシックファッション専門店 Princess Doll〜
「凄っ」
越を凝らしたデザインの服・アクセサリー・靴が売られていた。両耳がピアスだらけで目の隈が濃い女店員が怠そうに服を畳んでる。
「ジャージィ」
「アイヴィーじゃん」
「うん」
顔見知りらしい。
「背後にいる店長が好きそうなおっさんは?」
おっさんじゃねぇし!まだ30歳だしぃ!
「私のお義父さんだよ」
「…へー」
「どうも」
挨拶すると下から上まで彼女が睨め付ける。
「うちは専属の服職人が作ったオーダーメイドの服ばっかだしゆっくり見てきな」
「新作のドレスはある?」
「サマードレスの新作があんぜ」
「…欲しい」
「高価でレアな素材を使ってあしらえた店長自慢の自信作よ」
「俺が買ってあげるからゆっくり見てきていいぞ」
「え…でも…」
「服ぐらい遠慮すんなっつーの……一家の大黒柱である俺にどーんっと甘えなさい」
自信満々に胸を張る。
「やったぁ!悠大好き!」
「ははは」
大喜びで破顔するアイヴィーに俺も頰が弛む。
アイヴィーは天使なんじゃい!
「…太っ腹な父ちゃんだな」
「娘の笑顔のためなら当然だ」
「うちは儲かるからいいけど……あ、店長」
「ん?」
背筋が凍りつき悪寒に襲われる。
「あらぁん」
振り向くと筋骨隆々の男が舌舐めずりをしていた。
逞しい大胸筋や上腕二頭筋でフリルのドレスの張力は限界を迎えそう…青い顎髭と濃い化粧…強い香水の匂いが鼻を刺す。
「こ、こんにちわ…」
「プリンセスドールの店長をしてるぅ…ビューティ・ジョーでぇ〜〜す!」
「…俺は黒永悠です」
「有名人だし知ってるわよん!」
「このおっさんが有名人?」
「ジョージィはヒッキーちゃんだからぁ知らないのねぇ〜」
尻を突き出しポーズを決めるジョーさん。
「気軽にぃジョーちゃんって呼んでね!」
「…あ、ははは」
「私ぃ…魅惑の堕天使と名高い服職人なのよぅ」
み、魅惑の堕天使っ!?確かに堕天して血迷ってる感はあるけど…。




