休日を満喫しよう!④
5月29日 午後13時26分更新
5月30日 午後22時50分更新
〜20分後 第5区画 オーランド総合商社〜
「人がいっぱい」
ビジネスマンで賑わう一階のエントランスホールは金翼の若獅子や巌窟亭とは違った活気がある。
「どんな風に働いてるの?」
「そうだなぁ…俺の場合だと錬成品を売ってお金を貰って……『オーランド総合商社』は買った錬成品を自分達が経営する店に卸して売り捌くんだ」
「他の皆は何をするの?」
「事業を計画したり…土地を売買したり…商品を輸入したり輸出したり……色々かな」
「事業ってどんな事業?」
「たしか牧場を開拓して町を作る計画があるぞ」
「それでどうやってお金を儲けるの?」
知的好奇心が刺激されたのかアイヴィーは矢継ぎ早に質問してくる。俺もそこまで詳しくないし誰かに説明して……あっ!
「ちょっと受付に行こうか」
「ん」
受付のローランさんに事情を説明し案内もとい見学を頼めないか聞いてみる。
「…畏まりました。悠様たっての御希望ですので社長の方へ確認してみます」
「すみません」
「お嬢さんもちょっと待っててね?」
「わかった」
「喉が乾いてないか?待ってる間にジュースでも買いに行こう」
「アイヴィーはコーヒーでも大丈夫だから」
「……へぇ」
「飲めるもん」
「ふふふ」
自信満々に胸を張るアイヴィーを見てローランさんが笑った。
〜10分後〜
エントランスのベンチに座る。
「……」
一口啜り恨めしい顔でアイヴィーはカップを睨む。
「どうした?」
「…悠はコーヒーを飲みたそうだしリンゴジュースと交換してあげてもいい」
「…ほら」
「ん!」
念のためリンゴジュースを買っといて良かった。
「苦かったか?」
「家では角砂糖10個と生クリームをいれるから」
…そりゃ激甘でコーヒーの苦味も綺麗さっぱり消えて飲めるだろうなぁ。
「悠様」
「どうでした?」
「その…社長自らご案内すると申してまして」
ふぇ!?
「……レイミーさんが?」
「当社の稼ぎ頭である悠様の御息女ならば時間を割いて然るべきだと仰ってました」
隣で聞いていたアイヴィーが目を輝かせる。
「…先ずは四階執務室に行って頂けますか?」
「分かりました」
想像してない展開だ。昇降機に乗り四階に移動する。
〜午後14時45分 四階 執務室〜
ノックして部屋に入る。
「…こんにちわ」
「久しぶりね」
「うん」
俺のSランク昇格依頼の実技試験を一緒に観戦した以来かな?
「我儘を聞いて貰ってすみません」
「気にしないで頂戴。アイヴィーは悠さんの娘ですし多少の融通を図って当然でしょう」
贔屓して貰って恐縮しちゃうぜ。
「僅か10歳で二つ名を冠するAAランクの冒険者で『辺境の英雄』の娘……話題性も十二分でルックスも申し分ないわ。この際、『オーランド総合商社』に所属してみたらどうかしら」
「私が?」
「前も言ったけど広告モデルの仕事に興味はない?」
確かにアイヴィーならきっと可愛いって評判にな……待てよ…可愛いなら男が群がるってことじゃないか!?
「…ちょっと恥ずかしいかも」
ポーズを決め男に媚びた視線を向けるアイヴィーのポスターに興奮する男共を想像する……わぁ〜い!お義父さんもれなく全員をぶっ殺したくなっちゃったぞぉ〜!
「慣れたら気にならないわ」
「悠はどう思う?」
「反対!…そーゆー仕事は絶対に駄目!」
即答で否定する。
「…あまり過保護だと娘に嫌われますよ」
「アイヴィーは嫌ったりしないよな?…な!?」
「う、うん」
「しゃああああっ!!」
喜びのあまりガッツポーズを決める。
「親馬鹿ね……まぁ彼女の将来について互いの教育方針の相違は追々話すとしましょう」
「…って何か言いました?」
「気にしないで下さい」
眼鏡の位置を直しつつレイミーさんは涼しい顔で答える。
「では見学の前に『オーランド総合商社』の概要を簡単に説明しましょうか」
「よろしく」
「あらためてお願いします」
ソファーに座り話を聞いた。
事業概要のレクチャーを受け社内を見学する。
レイミーさんの指示で各部署の統括責任者がわざわざ自分達の業務内容を説明してくれた。
…ほんっと仕事中にありがとう!
最後に二階の錬成品を取り扱う部署を訪ねる。
〜午後15時10分 二階 調合品試作室〜
壁には瓶詰めのポーションを陳列する棚が並び白衣を着た職員が錬金術に勤んでいた。
「ここは我が社で雇った錬金術師や錬成術士がポーション系のアイテム精製を行う試作室です」
調合は錬成炉を使った手軽な錬金術に比べ難しい。
…やっぱ俺には無理だな。
「クルル」
「ん…社長じゃん!それにユーと…その娘は?」
「俺の娘です」
「え〜!名前は?」
「私の名前はアイヴィーだから」
「…意外じゃん!独身だって思ってたけど」
「独身だけど色々と事情があるので」
「ふーん」
「今は彼女の希望で社内見学の案内をしてるの」
「マジ?社長自ら?…へぇ」
クルルさんはまじまじとアイヴィーを見詰める。
「貴女から錬成品部門の説明をして頂戴」
「りょ〜…あーしは錬成品部門の責任者のクルル!よろしくねアイヴィー」
「よろしく」
「ま、見てのとーり新薬開発や錬成品のレシピ作成があーし達の仕事」
「レシピ作成が?」
「手軽な素材と簡単な手順でポーションが作れれば材料費を抑えて大量生産できるっしょ?…君みたいな冒険者には関係ない話だけどHPを回復させる手段っつーのは限られてるわけさ…魔法の習得も適正で左右されっしポーションの需要は高いからね」
「なるほど」
「調達が容易い素材アイテムで高い薬効が作れれば一番の理想だけど分量・配合率・組み合わせは無限に等しいしレシピ作成ってのは難しいんだ」
「錬成炉を使ったらどうですか?」
呆れた顔でクルルさんは俺を一瞥する。
「……本気で言ってる?錬成炉は消費する素材アイテムと対価が見合わないし狙ったアイテムの錬成はほぼ不可能だよ」
希少な素材を使えば成功率は上がるがその素材の調達で手間が生じる、か。
きっと労力に見合わないのだろう。
…俺は各種必要パラメーターが高いしミコトの影響があるから問題ないが。
「手順が間違ってる」
「ん?」
アイヴィーは素材を配合していた職員を見て呟く。
「…薬草の粉末量を10mg減らして昆虫系のモンスターの体液を足すべき」
「分かるのか?」
「勉強して調合のスキルを習得したから」
「マジ!?」
「この人が作ってる麻痺治しのポーションじゃ麻痺は治ってもHPは回復しない」
…エンジの一件の後も研鑽し技術を磨いてたのか。
「ちょっとアイヴィーにやらせて欲しいから」
「……え、え?」
呆気に取られた職員がレイミーさんを見る。
「面白い…構いません。やらせてあげなさい」
許可が下りたので職員に代わり次々と素材をアイヴィーは調合をしていく。




