誰も彼も祝福は降り注ぐ
〜午後17時32分 第99区画〜
「!?」
「…これは一体…?」
エリザベートとベアトリクスが攻撃の手を止めた。
怪物の群れは塵となり風に拐われた。
「暗雲が晴れていく…」
ゼノビアは空を見上げ呟く。
花は枯れ頭上を覆っていた暗雲は夕焼けに変わる。
澱んだ空気が消え清々しく新鮮な空気が彼女達の肺を満たした。
「あ、unbelievable!!」
「光の…玉?」
次々と宙に光玉が浮かぶ。
「…なんと幻想的なのだ…」
エリザベートは見惚れた。
幾百…幾千…幾万…夕焼け空に吸い込まれた光玉は祝福するように優しく輝き降り注ぐ。
「じ、地面が…わっつ!?」
ルウラが飛び跳ねる。
草木が芽吹き緑の苔がヒャタルシュメクを覆う。
有り得ない成長速度で豊かな自然が育まれ始めた。
「この氣…まさか……『精霊の祝福』…」
「精霊の祝福とは?」
ベアトリクスは驚くゼノビアに問う。
「死んだ獣人の魂は自然に還り新たな命となる…実りある豊穣を齎らす……霊獣族に伝わる伝承よ。伝説とばかり思っていたけど…怪物の出現…消滅……一体何が」
「決まってるじゃないか」
ラウラが微笑み言葉を紡ぐ。
「…悠だよ」
猛々しい殺気は消え穏やかな表情だった。
「くくくっ……成る程な」
「それなら合点がいきますね」
「いぇーい!流石はルウラのはずはんど!!」
他の三人も同意し喜ぶ。
「彼がこれを?…信じ難い…いえ…そうなのね」
ゼノビアも氣が充ちた自然豊かな光景を目にして思わず笑う。
「一先ず事態の把握と被害状況の確認……それに最優先事項の悠の救出…ここからが本番だよ」
気を引き締め直しラウラは真剣な顔で告げる。
「暫く第99区画は閉鎖…早急に救助班と調査班の編成が必要ですわね?」
「れすきゅーはルウラが行く!!」
「落ち着けルウラよ」
他の冒険者と民衆の野次馬も周囲に集まりだした。
…ナックラビィー…深淵の獣を悠が完全殲滅した影響だとはこの場に居る誰も予想だにしない。
〜午後17時40分 マイハウス 庭〜
「終わったみたいね」
アルマは遠く上空で降り注ぐ光の雨を眺め笑う。
「あのバカが簡単に負けるわけないっつーの」
「…師匠!行ってくる!…キュー!」
ーーきゅきゅう〜!
「私も〜!」
「ちょっと待ちなさ……って行っちゃったか」
居ても立ってもいられない二人はキューの背に跨り第99区画へ飛んで行ってしまった。残されたアルマは前足で顔を撫でながら呟く。
「この地にはまだ他にも問題を抱えてる……ってランダは言ってたっけ?」
雲一つない逢魔時に星が天空で煌めく。
「でも心配ないわよ」
それは悠が居るからだ。
口に出さずとも心の中で確信する。
「にゃーあ…あぁー…腹が減ったわねぇ〜」
出払った家族の帰宅をのんびりと待つアルマだった。
〜同時刻 ヒャタルシュメク ココブー王国〜
ココブー王国全域のモンスターと動植物はナックラビィーの呪縛から解放された。
穏やかに草を喰むモンスター…立派な果樹に実をつける瑞々しい果実…緑溢れる樹々と草花…悪夢は祓われ本来の美しい姿を取り戻したのだ。
そしてキング・ドドの遺跡周辺に育つ葬樹木は光に包まれていた。
「オォ……オォン…!」
感動で身を震わせ泣くキング・ドド。
「マジシモ!マジシモ!!」
「花咲イタ!ヤプール!」
「…囚ワレタ魂…解放サレタ!…予言ノムガルガ…王国ニ…奇跡ヲモタラシタ!!…ランダ様…貴女ノ予言ハ…嘘ジャナカッタ……」
「ヤプール!ユー!ユー!」
「ムガルガノ契約者!ユー!」
キング・ドドの傍にいたニコとミカも踊り喜ぶ。
「……本当ニ凄イ男ダ」
カカはお面を外し微笑む。
「ヤプール!伝説ノムガルガ!!」
「…涙ガ…ウェーン!」
「ムガルガト一緒ニ戦ッタ…光栄」
国中がお祭り騒ぎだった。
葬樹木の花は咲き誇り祝福の花弁が舞い乱れる。




