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忿怒に燃ゆる荒神 終




〜ヒャタルシュメク 最深部 厭世の底〜



「…疑問…我が深淵…解き放ち……お前か?」


醜く尖った爪先が俺を指差す。闇に浮かぶ極彩色の両眼の瞳孔が水平に細まる。


山羊の頭に人の上半身…灰色の肌を薄い獣毛が覆う。


尨大な大きさに全貌は掴めない。


封印から解放されたナックラビィーが道端の小石を見るように俺を見下ろしていた。


圧巻の大迫力である。


「………」


「…愉悦…愉悦…()()の矮小なる産物…挑むとは」


古神?


「…百…千…万…捉えた魂…足りぬ…足りぬ…」


次々と周囲に浮かんだ光玉が異形の怪物に変わる。


「!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『…でもナックラビィーに殺された者……囚われてしまう…だから蕾…咲かない』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…穢れし強欲を…憎悪…この世界…染める…」


「お前は…何が目的なんだ?」


無駄とは分かっていたが我慢出来ずに問う。


ナックラビィーは嗤って答えた。


「…()()…破壊…特別…理由は皆無…産物…根絶…我が身…封じた…報い…滅ぼす…」


…………。


「…倶利伽羅剣」


業火が大太刀に纏い淵嚼蛇の黒蛇が揺らめく。


「禍面・蛇憑蛇」


左手を翳し白面を被った。


「…!…馬鹿な…」



ーーー…ォオォォォォオオォォッ!!



顕現せし幻影……忿怒に燃える荒神の慟哭を目の当たりにしたナックラビィーは叫んだ。


「…古神…現世…関与…()()()な筈……!?」


ゆっくりと大太刀を上段に構え右足を引く。


「淵断・轟」


三日月の軌跡を描いた無慈悲な斬撃は怪物を巻き込みナックラビィーの左腕を切断する。両断した左肩と腕は数多の光玉となり消えて深淵が祓われた。


俺は悠然と踏み出しナックラビィーに近付く。


「……再生…不可…!?…魂…消失…!……この…攻撃は…ギャアアアアアアア…!!!」


「羅刹刃・朔月」


次は右肩から先が消し飛ぶ。容赦のない斬撃が闇を消し致命的な痛手を与える。


血飛沫の代わりに光玉が溢れた。


今までに無い()()…まだだ…まだ先がある!


「…オォォ…ォォォォ…」


高揚感が魔力と血を滾らせ黒い瘴気が漏れる。


「……我…深淵なり……!何人も冒ぬ…選ばれし獣……死を…死を……死をーー!!」


足元の黒い水が引き闇が畝る。


漆黒の大海嘯は垂直の波壁を作った。


「…嗚呼ッ!?…ば、馬鹿な……!」


「羅刹刃・莫月」


波壁を斬り伏せ霧散させる。


強化アビリティを全て使用した戦闘技の威力は想像を凌駕した。


「百折剣」


一瞬で跳躍し距離を詰め懐に入る。


「アッギッ!?…ギャアア…!グガッ…ウギィ…!!」


上半身を駆け巡り僅かな戦意もへし折るように斬り刻む。


……光玉を失ったナックラビィーの体が萎んでいく。


見る影もないほど哀れな姿に成り下がった。


「…我が魂が……消失…力が…力が……!」


「………」


「…懇願!懇願!懇願!…駄目…!」


「…懇願、ダト?」


「…我の消失…自己の破滅…!!…その身…纏う…深淵……我が……()()()()()()…踏み止まれ…!」


()()ヲ壊スノニ躊躇ウ必要ガアルカ?」


「!」


「オ前ガ奪ッタ物ハ全部返シテ貰ウ」


「嗚呼…赦免を…赦免を……消えたくない…」


慈悲を懇願するナックラビィーは這いずり回る。


「…仮ニ俺ガ許シテモ」


蛇憑卸が解除するまで残り4秒。



()()()()()()()()()()


「静止…静止ぃ……静止ぃぃーー!!」



ーー忿怒荒神流・奥義が開眼。『神度剣(かむどのつるぎ)』を習得しましたーー


大太刀を蠢く黒蛇が禍々しくも神々しい刀を構築する。



「…忿怒荒神流奥義…神度剣!!」



神速で放つ十字斬撃が暗黒空間を裂く。


「…嗚呼…嗚呼…嗚呼呼呼ぁ…?」


一片の黒花が舞い金剛鞘に大太刀を納めた。



「…嫌…嫌…嫌だ…魂を……我に魂を…絶望と苦悶………我が深淵が…深淵……嗚呼呼呼呼呼嗚!!?」



絶叫と共に衝撃と破壊が襲う。


神度剣の斬閃は烈々たる攻撃を幾度も…幾度も…繰り返しナックラビィーを斬り刻む。


凄まじい余波は無差別に周囲すら巻き込むだろう。

……練度が極まれば奥義へ至る、か。


オルドが言っていた言葉を思い出す。


そしてナックラビィーは塵となり消滅した。


全ての光玉()は解放され蛍火の様に浮かぶ。


…計り知れない数だ。


ココブー族の他に人…モンスター…動物…色んな命が奪われこいつに囚われていたんだな。


「漸く自由に……痛っ!…ぐあぁぁ…!」


蛇憑蛇の反動が全身を襲う。


「こ、この音は?」


轟音と共に足場が崩れ出し奈落の底に落ちていく。


「…ちょっ…やばっ…落下死とか…洒落になんねー…!?」


動きたくても動けない。


「……あーーーーー!!!」


崩れた崖と一緒に俺も転落した。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 曲彩色⇒極彩色 それと、ご存知でしたら申し訳ないのですが、極彩色の読みはごくさいしきです。 [一言] いつも楽しみにしてます!!
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