仕事して生活しよう!②
〜午後12時30分 金翼の若獅子〜
急展開な決闘だったが無事に勝利を収め演習場から本部施設へ戻った。騒がれて辟易したが……自業自得だし仕方ない。
フィオーネも仕事に戻っている。
FランクとGランクの依頼達成をギルドカードから確認して貰い依頼品の薬草×9と鉄鉱石×5を渡した。
〜 金翼の若獅子 一階フロア 受付カウンター 〜
「正体不明のモンスターは瘤蜥蜴だったのですね。討伐までして頂きありがとうございます。……はい。依頼品も確認出来ました。では報酬金になります」
3000Gを受け取った。
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冒険者ギルド
ランク:F
ギルド:なし
ランカー:なし
GP:50
クエスト達成数:10
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所持金:47万1000G
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「モンスターの死骸と素材はどうされますか?」
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オオツノバチの死骸×20 素材4
湖畔に潜む瘤蜥蜴×1 素材×1
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今回は全部売ることにして地下の解体場に行き業者に死骸と素材を渡す。解体には然程、時間もかからなかった。査定も済み受付カウンターで買取額を貰う。
「20万9千Gになります。死骸と素材の買取額の内訳をお聞きしますか?」
「大丈夫だ」
聞いてもいまいち分からないし。
金額を受け取り仕舞う。
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所持金:68万G
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「…それと悠さん。応接室でお話があります。申し訳ありませんが少々お時間を頂けませんか?」
呼び出しを食らった。
〜 一階フロア 応接室 〜
部屋に案内されソファーに座り淹れてくれたお茶を啜った。
「ふぅ」
「…改めて私事の騒動に巻き込んでしまい誠に申し訳ありませんでした」
フィオーネが深々と頭を下げる。
「謝ることは一つもないよ。頭を上げてくれ。…あいつは前からああなのか?」
「…Aランクに昇格される以前はあそこまで強引な方ではありませんでした。活躍し名が広まってランカー候補と呼ばれる様になってからです。下位ランクを蔑ろにする態度や発言をされたのは…」
有名になって気がおっきくなっちゃった系男子。そーゆーのって一番嫌われると思うなぁ。
「そっか」
「こんなご迷惑をお掛けして…決闘なんかさせて……私はギルドガール失格です」
落ち込むフィオーネに優しく声を掛ける。
「違う。俺が余計な事をしなけりゃ面倒な事にならなかった。…それに迷惑だったら最初から決闘なんかしない。恩人が困ってたら助けるのは当然だろ?…だから…その……上手く言えないが謝ったりするな。自分も責めるな。一言、ありがとうって言ってくれれば充分さ」
暫しの沈黙を挟み面を上げ微笑む。
「……はい。ありがとうございます」
うんうん。やっぱ泣いてる顔より笑ってる方が良い。
「でもあんな無茶はしないで。決闘は安易に申し込んだり受けたりすべきではありません」
「約束するよ」
「……絶対ですよ?」
俺の両手を強く握る。
「あ、ああ…」
フィオーネの瞳が熱を帯びるように俺を見詰める。
顔が近付き桜色の唇が扇情的だ。
……ん?何で応接室に呼ばれたんだっけ。
「そういえば応接室に呼ばれた理由を聞いてなかったな」
苦虫を噛み潰したような表情。
「……悠さ……は鈍…です」
両手を離し頰を膨らませ拗ねられた。ぼそっと何か言われた気もする。……なんでぇ?
「……こほん。実はエリザベートさんが悠さんと直接お話したいとご希望がありまして」
決闘の立会い人を務めた美人なお姉さんか。
…パルキゲニアって美男美女が多い気がする。
「間も無く来られるかと思いますが…悠さんについて色々と質問をされました。何か意図があると思います……気を付けてくださいね」
がちゃ、と音がして扉が開く。
エリザベートさんと…えっとアルバートと一緒にいた…確かイージィにドゥーガルって人だ。
三人が部屋に入ってきた。
「やぁ。待たせて済まない。此方の二人も会って謝らせてくれって頼まれたものでね」
「…うちのバカが迷惑かけたって感じぃ。ごめんねぇ」
「儂からも謝らせてとくれ」
頭を下げる。
「謝るならフィオーネに謝ってください。…最初からちゃんと二人が彼を止めてればこんな騒ぎにはならなかったのでは?」
「正論過ぎて返す言葉もないのぉ。すまんかった」
「……ま、そうよねって感じぃ。マジごめんねぇ」
「いえ。アルバートさんのお怪我は?」
「左上腕骨顆上骨折に肋骨三箇所骨折…あと何箇所か深めに切創してっけどぉ……治癒装置のマギアイテムに浸かってから明日には元気っしょって感じぃ」
マジか。ってか魔道具便利過ぎぃ!
「アルバートも今回の件はかなり反省しとる。決闘の取り決めで彼奴がフィオーネに二度とちょっかいをかけることもない……ユウだったかの。許してやってくれんか?」
「はい、もう充分です。俺も挑発的な発言してましたし……イージィさんとドゥーガルさんでしたよね?気にしないでください」
「……優しーしぃ。あんがとねぇって感じぃ」
「本当にありがたいのぉ」
エリザベートさんが手を叩く。
「さあさあ諸君。仲直りも出来たみたいじゃあないか。吾は悠と個人的に話がしたいのだ。申し訳ないが……ご退席願えるかな?」
促され三人が応接室を出て行く。
「ーーさて。貴公……確か冒険者ギルドに登録してまだ二日だったかな?」
「はい」
「年齢は?」
「30歳です」
「フィオーネ嬢から話はある程度は聞いているが貴公は詮索を嫌うそうだな。吾にも教えてはくれぬか?」
「複雑な事情があるのでお断りします」
愉快そうに笑うエリザベートさん。
「くっく…成る程。ならまどろっこしいのは嫌いでね。担当直入に言おう。吾の部下になれ」
「部下?」
急に何を言ってんだろ。
「…嗚呼、貴公はあまりギルドの内情や一般常識を知らぬとフィオーネ嬢が言っていたな」
長い髪を弄りこちらを見る。
「はい」
「『金翼の若獅子』はミトゥルー連邦を束ねる冒険者ギルドの総本部。…各支部を合わせ所属登録者は三万人を超える超巨大組織だ。派閥争いも頻繁でね。ランカー達は互いに自分の部下を率いて競い合っている」
三万人…。
「特に十三等位は個々の実力が拮抗している。そうなると部下の質が重要になる訳だ…。吾は運が良い。貴公の様な強大な力を持つ者を偶然にも見つける事が出来たのだから」
「…スカウトみたいなもんですか?」
「ああ。そうなる。吾の部下になれば……そうだな。住居もGRも貴公に見合う物を用意させよう。金銭に困る事もない。Fランクの貴公にとって悪い話ではあるまい?」
ランカーからのお誘い、か。
「お断りします」
美味い話だが別にFランクで困ってるわけじゃない。
自分のペースで仕事をしたいし…。
「くっくっくっ……即答じゃあないか。地位や名誉に興味がないのかい?」
「まだ冒険者ギルドで働いて二日だし…ゆっくり自分のペースで過ごしたいので」
「物怖じせずはっきり言うではないか。……益々気に入った。話が早急過ぎた様だな。また機会を見て誘うよ」
お願いです。やめてください。
「吾はSSランクだ。このカードを渡しておこう。気が変わったら三階受付カウンターにこれを見せ給へ。…吾の部屋に案内してくれる」
「はぁ。ご丁寧にどうも」
きらきら輝くカードを渡された。
「…吾は諦めが悪い。覚悟しろ」
優雅な立ち振る舞いで不穏な言葉を置き土産にエリザベートさんが応接室を出ていく。
俺もひと段落したし巌窟亭に行こう。
金翼の若獅子を出て第二区画へ向かった。
〜数時間後 金翼の若獅子 GM執務室〜
「ーーーーっとこんな具合だ。面白い男だろう」
エリザベートより決闘の一件の報告を受けた人物が書類に走らせる手を止めて溜め息を吐く。
「……アルバートは期待外れだった。恋慕で己を見失い権力を振り翳すなんて…残念だ。彼のランカー候補の件は白紙に戻そう」
「ああ」
「黒永悠、か。フィオーネからも報告は受けてるが…気になるね。暫くは動向を見守ろう」
「構わんが他の上位陣に勘付かれると厄介だぞ」
「それも含めて、さ」
「くっくっくっ……分かったよ『灰獅子』」
灰獅子と呼ばれた人物は再び書類業務を再開した。




