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忿怒に燃ゆる荒神 ①



〜ヒャタルシュメク 最深部 厭世の底〜


不可解で異質な形状の崖の一本道が続く。


…道の脇にはただ暗黒が広がってる。


頼りない道を照らすのは微かに赤く光る鉱石だけ。


形容し難い造形をした虫が宙を浮遊し地を奇怪な生き物が這う……まるで深海に居る気分だ。


血が煮えるように右手の躍動も強くなる。


一歩踏み出すと突然現れた不気味な塊が道を塞いだ。


「!?」


塊はスライムに類似しているが緑色の液体の中にモンスターや人の腐敗した肉片が浮かぶ。


武器を構え更に目を見張った。


これを皮切りに異形の怪物が次々と出現したのだ。


…数えるのも馬鹿らしくなるな。


「簡単には行かせてくれない……ってか」


良い度胸だ…後悔すんなよ化け物共!


俺もミコトも()()()()()だ。


「……蹴散らして進ませて貰う!!」


怪物の群れに突貫した。


〜2時間後 厭世の底〜


「ーーふぅ…ふぅ…!」


息が乱れ汗が頰を伝う。


ペナルティの弾丸が炸裂し最後の一匹に止めを刺した。


捻じ伏せ…斬り捨て…焼き尽くした怪物の亡骸は闇に溶け消えた。


「はぁー…ったくサーチする気も失せるわ」


蜜に集る蟻みたい湧いてきやがって!


…骨が折れたがこれで先へ進めるぜ。



〜7時間後 厭世の底 鏖殺の道〜



巨大って範疇を超えた地下空洞を時間の感覚も忘れ辟易するほど歩く。


真っ直ぐ道が続いてるのが唯一の救いか…。


「ん?」


あの光は一体…?まだ距離はあるものの不定期に輝きを放つ光の柱を視認した。


小走りで先へ進むと丸く広い崖に差し掛かる。



「!!」



ーー…敵…敵敵敵敵敵敵敵…嗤嗤嗤!


ーー滅……滅滅…滅…滅滅滅…哭哭哭…。



奇怪な槍で一心不乱に怪物を突き刺し嗤う。


錆びた鉈で怪物をぐちゃぐちゃに斬り裂き哭く。


…怪物の黒い泥に似た体液で汚れた()()()()…罅割れた()()()()()()()……3m(メートル)を超す体躯は酷い咬傷と切傷まみれで変色しているが褐色の肌の名残がある。


「そんな……!」


ココブー族なのか……?


ーー…?…邂逅…!…敵敵敵敵っ!!?


ーー哭哭哭…滅…滅滅!


割れた面から覗く白濁の瞳が俺を凝視した。


けたたましい雄叫びが響く。



「(サーチ…!)」



ーー全項目該当外。表示不可ーー


ーー全項目該当外。表示不可ーー


ーーサーチ対象が創造神の加護の対象外。鋼の探究心の効果を無効化ーー



「…はっ!?」


警告音と共にメッセージウィンドウが現れる。


こんなの初めてだ…。


「問答無用かよ…!」


槍と鉈の猛襲を躱すが反撃するにも躊躇ってしまう。


「おい!あんた達はココブー族か!?」


ーー敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵…!


ーー滅滅滅滅滅滅滅!


質問の答えは攻撃で返された。


「…この…止まれっつーの!?」


淵嚼蛇で締め上げ拘束した。


ーー敵敵敵敵敵敵敵敵!!


ーー…滅…滅滅滅滅!


……どうする!?


対話が成り立たないし倒すしかないのか…糞っ!…いや…駄目で元々だ…呼びかけ続けてみよう!


でもなんて言えばいい…?


ココブー族に縁がある何かは…!


………。


「あー…あーっ……!」


半ば焼けくそ気味に()()()()()()()で俺は叫んだ。



「ーーキング・ドド!」



ーー…敵…敵…敵敵…敵!


ーー滅…滅滅…滅…!


…心なしか大人しくなった?



「ググ!…ダダ!…エコ!…カカ!」



ーー敵…敵敵…!


ーー……滅…滅滅?


あと知ってる名前は…えーっと……!?



()()()()!」



ーー!!


ーー!!


明らかに様子が激変した。


「……ニコとミカを知ってるのか?」


ーー敵敵敵敵…違ッ……!?


ーー……愛…滅滅…哭…!


嫌な想像と予感が脳裏を過ぎり声が震える。


「ニコとミカは可愛い兄弟で…」


まさか…嘘だよな?



「……()()()()()()()がいる」


ーー…………。


ーー…………。



完全に力が抜け白濁の瞳に僅かな光が宿った。



何でなんだ…?


こんな救い難い結末があるか?



この二人はニコとミカの()()だ。



危険は承知だが淵嚼蛇の拘束を解除し近付く。


俺は俯き必死に考えを巡らせた。


…この状態からでも助ける方法を探せ…ナックラビィーを倒せば元に戻るかも知れない…アルマとアイヴィーの力を借りて特別なポーションを精製すればエンジの時みたく救う手筈が……えっ!?


顔を上げ思考が止まる。


二人が()()()に武器を向けていた。


「や、止めろ!!」


静止は虚しく槍が胴体を貫き鉈が頭に刺さる。



ーー敵敵…嗤……済マナ…礼ヲ……。


ーー…滅…哭…思イ……トウ。



「……あぁ…」


一瞬で死骸は塵となり消え槍と鉈が音を立て地面に落ちた。


膝を突き両拳を握り食いしばった歯が軋む。


「畜生っ…畜生ぉ……!!」


右手を振り上げ地面に悔しさをぶつけようとするも直前で止まった。


「……ミコト?」


落ちた槍と鉈を震える人差し指が指差す。


「!」


その()()を即座に理解し武器に触れて呟く。


「骸の呼び声」


黒い霧が覆い光の粒子が残った。



『俺…ト妻…家族ヲ…皆ヲ…助ケタカッタ…』


『…王国デ…一番強イ戦士ノ義務…ソレガ今生ノ別レデモ…』


「……」


聴き逃さないように集中する。


『反対サレルカラ…黙ッテ王国出タ…ソレガ甘カッタ。…クアッサ…ナックラビィー…敵ワズ…魂囚ワレル…ケドオ前ノ言葉……愛シイニコトミカ…思イ出シタ』


『置キ去リニシタ酷イ父ト母……恨マレテモ仕方ナイ……』


『…カカニ伝エテ欲シイ…俺ノ跡ヲ継ゲト…ソシテニコトミカ…宝物ダト』


『傍ニ居テアゲラレナクテゴメンネ……!デモズット…ズット…愛シテル!』


『ヤプール…コノ無念…想イオ前ニ託ス…ムガルガヨ…』


…そして残留思念は消えた。温かい父と母の言葉と誰も知らぬ真実を知り一滴、二滴と雫が落ちる。


じんわりと手袋を濡らした。


何度も目を擦り二人の形見を腰袋に仕舞って立ち上がる。


「…行かなきゃ」


俺は前へと進んだ。


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