ヒャタルシュメク ⑥
5月13日 午前8時更新
〜3時間後 ココブー王国 西通路〜
モンスターを一掃しつつ進むも30分前から四人の体調が急変した。
「大丈夫か?」
「……大丈夫ダ」
『ヤ…ヤー…』
周囲の景観も奇態になり余計に気が滅入る。
…俺は元気だがこのままじゃ拙いな。
「…カカ…コレ……ゴンズイ花ノ花粉ジャ…?」
「ギアッサ…ゴンズイ花二コンナ効力ナイ…」
「ゴンズイ花?」
「触ルトMPヲ吸ウ花粉ヲ吐キ出ス不思議ナ花…昔ハ西通路二イッパイ咲イテタ…」
…MPを吸う?
「頭が痛いか?」
「…俺痛イ…」
「倦怠感…怠さはどうだ?」
「怠サ?…体ハ重イ…バガーマ…」
…魔素欠乏症の症状にそっくりじゃないか。
ゆっくり休める何処がないがマップを開いて周辺を確認しよう。
「!」
驚いた…辺り一帯がほんのり赤く点滅してる。
その先に大きな赤いマークが爛々と光っていた。
……原因はこいつか?
こうなると周囲を覆う不気味な花と植物が非常に怪しく思えてくる。
鑑定の結果は…。
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・蔓延る吸魂花
ココブー王国の西通路に群生するゴンズイ花が瘴姫バイガーダラの影響を受け空気中にMPを吸収する特殊な花粉を吐き出す吸魂花へ変異。吸収したMPはバイガーダラへ還元され吸収され続けると異常状態『枯渇』が発症する。
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「………」
「ユー…?」
「四人とも俺の背後に」
「…ナニスル…ンダ?」
燼鎚・鎌鼬鼠を構え案内役の戦士の一人であるググの問いに答える。
「燃やすのさ」
灼熱の炎が瞬く間に燃え広がる。
「ワ、ワブール!?」
「ボーボー!!」
「何ヲシテ……ハッ!?」
カカの顔色が良くなった。
「頭痛が治っただろ?」
「ウ、ウン!…デモナンデ…?」
予想的中だぜ。
「ヤプール!」
「…ウェッ!?ハ、花ガマタ!?」
あ、性懲りもなくまた芽が生えやがった!
……本体を叩かないと埒が明かないか。
「ここでちょっと待っててくれ」
「ユーハ何処へ!?」
「大元を倒してくる」
炎を撒き散らし走った。
〜西通路 吸魂花の園〜
「酷いな」
夥しい数の吸魂花が花粉が漂わせる場所に辿り着いた。
…花粉症患者が見たら発狂するぞこれ。
中心に鎮座する異常に大きな蕾がゆっくり花弁を広げる。
ーー嬉…嬉嬉嬉…贄…贄贄贄贄ぇ…?
両眼が花で塞がり緑の肌に蔓が巻き付いた異形の女が嗤う。
…こいつが娼姫バイガーダラだな。
「ぐっ!?」
再び自分の意思と裏腹に右腕が荒ぶる。
一気にMPが消費され燼鎚・鎌鼬鼠から金属音が鳴り響く。
撃鉄を起こし跳躍する。
ーーー嬉…!?
振り下ろすと黒炎の大爆発が起きた。
余波で一帯の吸魂花と草木は焼失し吹き飛ぶ。
「痛ってぇ…!」
至近距離で爆風を浴びた俺もダメージを負う。
草の焼ける臭いが肺を満たし煙が視界を遮る。
足元でバイガーダラが笑って見上げていた。顔と左半身の一部以外は焦げて消滅している。
…致命傷の一撃だったに違いない。
ーーー…嬉嬉……嬉…贄……度と……りがと…う…。
「あっ」
死骸は塵となり風に拐われる。
「……これではっきりした」
ミコトの不可解な反応…共通するモンスターの異常性…最期の台詞……全ての原因はナックラビィーに違いない。
理外の怪物、か。
…そもそもあのアルマでさえ抗えなかった封印を自力で解いてる時点で有り得ない話だ。
「上等だよ」
不思議と恐怖は感じないし負ける気もしない。
…余計にやる気が漲ったぜ。
常識外れの勝負ならこっちだって負けてない。
「俺と相棒の力を見せてやるよ」
呟くと同意するかの如く一瞬だけ右手が震えた。
…取り敢えず片は着いたしカカ達を呼びに行こう。
〜百合紅の月1日 ココブー王国 西通路〜
「………」
「グー…グー…」
「ダウー…」
「モー…オ腹イッパイ…」
疲労困憊の四人はよく眠っている。
今は野営をして休憩中だ。
俺は武器の整備と火の番をしつつ周囲の警戒を続ける。
西通路に跋扈していた危険なモンスターは殆ど駆除したし帰り道は俺が居なくても大丈夫だろう。
「……ユー」
カカが起きる。
「ゆっくり眠ってていいぞ」
「質問ガアル」
「ん?」
「……地上ノ人ハ皆ガオ前ミタク優シイノカ?」
「………」
「オドゥムヨリ危険デ怖イ生キ物…私ハソウ教ワッタ…欲ニ溺レタ自然ヲ汚シ争イヲ繰リ返ス……コレハ違ウノカ?」
「……違わない」
「……」
「俺みたいな奴もいるけど全員がそうじゃない」
悲しいけどそれが事実だ。
「…ソウカ」
火の粉が音を立て飛ぶ。
「待ってくれないか?」
「待ツ?」
「…またココブー族が地上で安心して幸せに暮らせる未来を俺が作る」
「……」
「協力してくれる心強い味方もいるんだ」
「………」
「何年後になるか分からないが約束するよ」
誰かが動かなくちゃ何も始まらない。
千里の道も一歩からだ。
俺が先駆けになれば理解者もきっと増える。
カカは頰を薄く染め微笑む。
俺は小指を差し出す。
「…ヤプール…約束…?」
「約束だ」
小指を握るカカに俺も笑って答えた。
〜5時間後 西通路 ガシャモの石像〜
野営地を出発し時間は掛かったが遂に到着した。
空間の中央に鎮座する半壊の石像がガシャモの石像か。
「コレガ最深部へ続クガシャモノ石像…相変ワラズ不気味…」
「アウー…嫌ナ…空気…」
「体震エル…?」
「怖イ…」
…俺もこの背筋を伝う悪寒には身に覚えがある。
「ここから先は一人で行く」
「ユー…」
「案内してくれてありがとな…気を付けて王国に帰るんだぞ?」
「ムガルガ…オ願イ…ナックラビィーヲ」
「ヤー!皆ト信ジテ待ッテル!」
「……ウゥ…ウゥーー!」
「ググ…ダダ…エコ…大丈夫だよ」
屈んで三人に微笑む。
「ユーノ約束ヲ私信ジテル…無事祈ル」
「勿論だ」
カカが力強く手を握った。
「転移ノ呪文ハ…コッコブー・ドゥマン・チャチリ・ムチャマー」
四人と離れ石像と対峙する。
いよいよここからが本番だ。
「コッコブー・ドゥマン・チャチリ・ムチャマー」
呪文を唱えると浮遊感と一緒に光に包まれた。




