ヒャタルシュメク ⑤
〜翌朝 扉木の月31日〜
夜光石の光が消えヒャタルシュメクは朝を迎える。
…既に準備万端だ。
最深部までのルートを聞いて出発しよう。
俺はキング・ドドの遺跡へ向かった。
〜ココブー王国 キング・ドドの遺跡〜
「最深部…ガシャモの石像から行く…一番近い」
道順を訪ねるとキング・ドドはそう答えた。
「ガシャモの石像?」
「…此処から西通路へ進み…転移石像ある。…でも凶暴化したオドゥムの巣窟……奥へ行くほど危険」
今更知ったがオドゥムはモンスターって意味だ。
「了解!」
「最深部は深く溟い…まるで澱んだ水の底…困難な道のりになる…気を付けて欲しい」
「キング・ドド」
完全武装したカカとココブー族の戦士が部屋に入って来た。
「ムガルガノ道案内ニ我ラモガシャモノ石像マデ一緒ニ行ク」
「いや大丈夫だぞ?」
「…ココブー族ノ危機…戦士ガ指ヲ咥エテ見テルダケジャギアッサ!」
「ギアッサ!ギアッサ!」
「ユー…カカはココブー王国の大戦士…強い…きっと案内人の務め果たす」
「んー」
…何かあれば俺が守ればいっか。
「分かった。案内を頼むよ」
「ヤー!」
頼もしい案内人と一緒に西通路へ続く門へ向かう。
〜20分後 ココブー王国 西門〜
キング・ドドを筆頭にココブー王国の住民総出で見送りに来てくれた。
「…予言の契約者…ムガルガ…勇気ある戦士に…『獣神』の加護を……」
『加護ヲ〜〜!』
膝を突き祈るキング・ドドを全員が真似る。
「ははは…」
加護は十二分に間に合ってるんだよなぁ。
「ユー…カカ姉チャン…」
「ウッ…ウッーー!」
ニコとミカだ。
「家デ大人シク待ッテテネ?」
俺は屈んでミカの頭を撫でる。
「…ナックラビィーを倒したら俺も一緒にお父さんとお母さんを探す」
「「!」」
「それまで王国から出るなよ?…男と男の約束だ」
「……」
差し出した左手の小指を握った握るニコ。
「……分カッタ!!約束ゼッタイ!」
「いい子だ」
声援を背中に浴びつつ門を潜り西通路へ進む。
〜20分後 ココブー王国 西通路〜
西通路は仄暗く異形の植物が群生していた。その広さは通路って範疇を超えてる。
…不気味なジャングルって感じだ。
「…む!?」
突如、行手を阻むようにモンスターが現れる。
鰐と植物が融合したような…うわぁ…気持ち悪いモンスターだな。
「下がってろ!俺がーー」
「プア!プア!…カカレ!!」
「ヤー!」
「ヤー!」
「ヤー!」
カカが一直線にモンスターに飛び込んだ。
「スピアレイン」
風を切り裂く槍の連突きがモンスターの顔を抉り肉片が飛び散った。
「ココブー・フレイム!」
「ココブー・フレイム!」
「ココブー・フレイム!」
その隙に三人の戦士が踊るような炎を放つ。
悲鳴も抵抗もなくモンスターは瞬く間に絶命した。
「ーー戦う……って強っ!?」
「コノ程度ノオドゥムニユーノ手ハ煩ワセナイ」
可愛い風貌に騙され舐めてたがカカは相当強い。
……並の冒険者じゃ足元にも及ばないだろう。
「ヤー!ムガルガノ役ニ立ツ!」
「…頼もしいぜ」
いやマジで!
「デモ西通路ハ奥ヘ行クホド…ナックラビィーノ影響ヲ受ケタ危険ナオドゥムガイッパイ。全部ノ通路ガ変異シタオドゥムニ溢レタラ王国滅亡」
「…そうはさせないさ」
そのまま石像を目指し進む。
〜2時間後 西通路〜
「…止マレ!」
「?」
先頭を歩くカカが止まる。
「ンガンデ!?」
「アウー…最悪…」
「マジシモ…」
「どうしたんだ?」
「ンガンテ…西通路ヲ徘徊スルトテモ危険ナオドゥム……」
「速イ…力強イ…魔法使ウ…麻痺シタ相手ヲ頭カラ食ウ……見ツカルト厄介」
一つ目巨人の上半身に蜘蛛の脚……これまた嫌悪感が半端ないモンスターだ。
「時間ハカカルガ迂回シタ方ガイイ」
「……」
「ユー?」
「四人は此処に居てくれ」
「…チ、チョッ!?」
危険なモンスターを野放しに出来ないし迂回する時間が勿体ない。
ンガンテに向かってゆっくり歩く。
…蜘蛛のモンスターを見るとアルカラグモを思い出すなぁ…あの時は苦戦したけど。
俺に気付き白濁した一つ目が凝視した。
ーー…贄……敵…光…食…闇闇闇闇闇闇…闇…。
…え、喋った?
「!」
急に前腕と上腕の筋肉が肥大し自分の意思に反して金剛鞘の大太刀を抜いた。
…な、なんだこれ…!?
鋭い横凪の一閃は剣風で周囲の草木もろともンガンテの上半身と下半身を両断する。
背筋が寒くなる見事な太刀筋……少し間を置き体液が噴水の如く噴き出す。
ーー…闇…闇…嗚呼嗚呼…嗚呼嗚呼嗚呼…嗚呼ッ…嗚…アァ…これ…自由……に……。
霧散するンガンテの死骸を呆然と眺める。
筋肉の肥大は収まったが右手が震えていた。
…今の斬撃を放ったのは俺じゃない。
間違いなくミコトだ。
「………」
一体、なぜ…?
「!」
待てよ…ンガンテはナックラビィーの影響を受け変異したモンスター……ミコトが反応したのはンガンテじゃなくナックラビィーじゃないか?
「…マ、マ、マジシモ!?」
「ヤプール!…一撃デ倒シタ!!」
「ヤー!ムガルガ〜…ムガルガ〜…ユー様〜!」
「ツ、強過ギル…コレガ予言ノムガルガノ力…」
飛び出したカカ達が騒ぐ。
「ざっとこんなもんさ」
「ヤプール!…マダ先ハ長イガユーガ入レバ安心」
「………」
「ユー?」
「…何でもないよ」
本当はンガンテの最期の言葉が気になってたが今となっちゃ知る術はない。
カカを先頭に再び俺達は歩き出した。




