番外編 新聞記者の一日 終
5月9日 午前8時8分更新
〜第5区画 午後13時30 オーランド総合商社〜
時間ぎりぎりだったが約束の時間に間に合った。
取材するGMのレイミー・オーランドは『鉄仮面』と渾名される敏腕社長…病死した先代の跡を継ぎ巨大商人ギルドへオーランド総合商社を成長させた女傑だ。
…どんな話が聴けるか楽しみ!
〜オーランド総合商社 二階 応接室〜
「失礼致します。ベルカタイムス取材記者のホークさんを御連れしました」
案内してくれたギルドガールが扉を開け恭しく一礼し去っていく。
「どうぞ」
「おう」
「お待たせして申し訳ありませ…って貴女は…?」
鋭い視線が私を射抜く。
「どうせ取材すんならオレも一緒に……ってレイミーに誘われてよぉ」
ベルカで一番の職人が集う職人ギルド『巌窟亭』の受付所兼鍛治職人…『紅兜』のモミジ・アザクラ。
冒険者顔負けの腕っ節と卓越した鍛治技術で若くして組合の顔役に抜擢されている。
彼女はこの後の取材予定だった。
……十三翼の女性陣もそーだったけど黒永悠は綺麗で可愛い女性の知り合いが多いみたい。
「配慮に感謝します。今日は忙しい中、有名なお二人に取材に応じて頂き光栄です」
「当社に所属するギルドメンバーの取材ですもの」
「へっ…手短に頼むぜ」
挨拶もそこそこにインタビューを開始した。
〜『鉄仮面』レイミー・オーランドと『紅兜』モミジ・アザクラへの取材〜
ーーー黒永悠が両ギルドへ所属したきっかけは?
「オレからか?…まぁ簡単に言うとユウは冒険者のくせに『巌窟亭』に所属させてくれっていきなり来たんだよ……冒険者が舐めてんのか!?…って最初はオレも喧嘩越しだったけどよぉー…アイツの度胸と鍛治技術は本物で登録を認めたんだ」
ーーー冒険者嫌いで有名なモミジさんがですか?
「今も嫌いだっつーの……ただユウのお陰で冒険者も全員がクソじゃねーってのが分かっただけ」
ーーー彼の人柄の良さは『金翼の若獅子』の十三翼の方々も口を揃えて言ってました。
「チッ!いけすかねぇ連中だぜ……緊急査問会での一件を忘れたのかよ?ボケ共がっ!!」
ーーー…つ、次はレイミーさん教えて頂けますか?
「彼女の紹介よ」
ーーーモミジさんの?
「ユウが商人ギルドにも所属してぇっつーから得意先のオーランド総合商社を紹介したんだよ」
「モミジに…『うちの職人を紹介したい』…って連絡を貰った時は驚いたわ。まさか職人を兼務してる冒険者とは思わなかったもの」
ーーー私も初めて聴いた時は驚きました。…次は黒永悠のギルドでの働き具合を教えて貰えますか?
「どうせ事前に調べてんだろ?今更説明する必要があんのか?」
ーーーお二人の意見が一番信憑性があるので改めて聴かせて欲しいです。
「ま、いいけどな…ユウは凄腕の鍛治職人だ。鍛えた品のクレームは一件もねぇしセンスも抜群で…『巌窟亭』の皆伝通知書も渡してある」
ーーーそれは凄い!…ヴァナヘイムのトモエ殿下にも刀を贈ったそうですが?
「贈ったんじゃねー……あの姫さまは無茶な依頼を吹っかけてきやがったがユウは臆せず真っ向から技術で黙らせたんだよ。うちの気難しい連中も信頼してるしアイツは最高だ……今も冒険者なんか辞めて職人一本に絞りゃあいいって思ってっし」
ーーー『巌窟亭』で認められるのは並大抵じゃないでしょうに…レイミーさんは如何ですか?
「金の卵を産む稀有な逸材かしら」
ーーー金の卵?稀有な逸材?
「ホークさんは近頃、当社の各道具店で取り扱ってる錬成ポーションはご存知ですか?」
ーーー知ってますよ。病も呪いも治すオーランド総合商社印の特製ポーションシリーズは高値に関わらず即日完売の人気ポーションでベルカタイムスでも宣伝しましたし。
「生産者は悠さんよ」
ーーー……は?
「彼の錬成術の腕前は国家錬金術師と同程度…もしくはそれ以上……錬成品を鑑定し続けた私の目に狂いはありません」
ーーーて、手先が器用なんてレベルじゃないですよ?
「貴女の仰る通りだわ。安定した高品質ポーションの精製…希少な宝石と超希少品の売却…… 悠さんのお陰で今年度の前期売上は大幅な黒字が見込めそうです」
ーーー…今日は黒永悠に驚かされてばかりだ。
「気持ちは分かります。…錬成品の生産者名も明かさず伏せて欲しいと頼むのは彼くらいでしょうね」
ーーーなぜ?
「名前が広まるのは好きじゃねーかんな」
「ええ…そうじゃなきゃ孤児院への多額の援助を隠したりしないわ」
「『灰獅子』も言ってたっけ……ベルカ孤児院へ冒険者報償金を全額寄付してるって」
「事業投資から建て直しも要求するくらいだもの」
ーーー……彼は聖人か何かですか?
「ユウにとっちゃ困ってる奴を助けるなんざ…特別でも何でもねー普通なことで…わざわざ他の奴等に言い触らす必要もねぇってことさ」
「騙されないか偶に不安になりますが」
ーーーこの度、冒険者ギルドを設立しますがどう思われますか?
「レイミー」
「ええ」
ーーー?
「悠さんのギルドは既存から脱却した斬新で類をみない冒険者ギルドになるでしょう」
ーーー斬新と言いますと?
「私とモミジが監修した道具店と鍛治屋を施設内にオープンする予定です」
ーーー道具店はともかく…冒険者ギルドと職人ギルドが提携するなんて…前例がないんじゃ?
「ねぇーな」
「人望と実力を兼ね備えた彼だからこそ…です」
ーーー組合から反発を買うのでは?
「別に違法じゃねぇーし文句があればオレとユウに直接言えばいい」
ーーーそれは…うん…。
「遺恨が続く両ギルドの関係を改善する切っ掛けにもなる……『灰獅子』も喜んで協力してくれるでしょう」
ーーーラウラさんも…黒永悠の周りにはギルドの垣根や身分を超えた仲間が集まる…と言ってましたが正にその通りですね。
「成る程。…兎に角、ベルカタイムスに載れば良い宣伝になるわ」
「変な記事を書いたら黙っちゃいねーけどな」
ーーーあはは…皆さんに取材をしましたがどうも…著名な女性に彼は好かれるようですね。
「「………」」
ーーーどうかしましたか?
「…あー…その…なんだ…ユウは鈍いとこがあっからな…煮え切らねー態度に誤解しちまってんだろ?」
ーーー誤解とゆーか…ミコーさんを除いた十三翼の女性陣はご自身が特別な関係にあるとそれぞれ主張されてましたけど。
「……っんなわけねーだろ!?」
ーーー…ひっ!?
「ユウと付き合いが長いオレが一番に決まってんだろーが……あぁんっ!?」
ーーーそ、そうなんですか?
「…あっ!…い、いや…違うってわけじゃねーけど…その……」
「悠さんは眼鏡をかけた知的で冷静な女性が好きよ」
「……はっ?」
「彼自身も大人だから騒がしい若い娘より落ち着いた女性に惹かれるのでしょうね……つまり私みたいな」
ーーーレイミーさん…?
「…ユウがいつそんなこと言ったよ?」
「言わずとも分かるわ」
「年増の勘違いってのは怖いな」
「……私はまだ20代よ?」
「9歳も歳上だからよぉ…男は若い女に好かれた方が嬉しいに決まってんだろ?」
「その考え方は間違ってるわ。歳が近い異性の方が悠さんも意識するでしょう」
「笑えるジョークじゃねーか」
「私は冗談が嫌いよ」
「……あぁ?」
「何か不満でも?」
ーーー……き、今日は取材にご協力して頂きありがとうございました!
挨拶もそこそこに剣呑な雰囲気に包まれた応接室から逃げるように退室した。
…あの二人も彼女達と同じ穴の貉だったとは。
取材内容は十分で話題性も申し分ないがこうなると全員が納得する原稿を書き上げるのは至難だ。
……本人に直接、話が聴きたい。
女性関係について容赦なく問い詰めたくなった。
彼は優しいそうだし突撃取材にも応じてくれそう……よし!依頼から戻ってきたらチャレンジしてみよう。
今日は疲れたし帰って…酒を飲んで……あ、駄目だ。
一回戻って編集長に報告しなきゃ。
…編集長もきっと驚くだろうなぁ。
番外編はこれで終了です(。ゝω・。)ゞ
次話以降は本編再開になります!
…ヒャタルシュメク攻略編再開( ゜Д゜)ゞ




