番外編 新聞記者の一日 ⑤
〜『灰獅子』ラウラ・レオンハートへの取材〜
ーーー最後になりましたが宜しくお願いします。
「此方の不手際で迷惑を掛けて申し訳ない。…あの面子相手じゃ疲れただろ?」
ーーー…いえいえ…有意義な取材でしたよ。
「そう言って貰えると助かるよ」
ーーー気になる点を最初に質問しますがラウラさんは冒険者ギルド法改革推進派の代表ですよね?黒永悠も推進派の一員ですか?
「…そもそも僕が改革を推進する理由は遥か昔に制定されたギルド法じゃ現代と噛み合わないからだ。王族の特権適用…純血種に対する過剰な優遇…依頼金で左右される受注システム…これらの古き悪習は撤廃すべきだと思ってる」
ーーーふむふむ。
「悠が設立するギルドは新しい未来の冒険者ギルドになると僕は信じてる…初代『金翼の若獅子』GMが掲げた…『冒険者は未知を切り拓き脅威を払う人々の希望たれ』…を誰に言われずとも実行している唯一の冒険者だからね。彼はちっとも意識してないがそういう意味では推進派の一員になるかな」
ーーー成る程!…カネミツさんは内心ではラウラさんが自分に憤慨してると仰ってましたが私は黒永悠の存在が潤滑油的な役割を担ってる印象を受けました。…どう思いますか?
「概ね当たってるよ。……憤りを感じてる点も含めてね」
ーーーラウラさんの宣伝したいアピールポイントを教えて下さい。
「悠は優しくて…他者に寄り添い…一生懸命で……その姿を見てると自分も助けになりたい…そう思うんだ」
ーーー………。
「…だから自然にギルドの垣根を超え身分も種族も関係なく慕う仲間が集まる…だって一人で何でも抱え込む彼を放って置けないから……それは単純な力じゃ推し量れない強さだ。きっと悠のギルドは絆を大切にする冒険者ギルドになるだろうね」
ーーー…素晴らしい返答をありがとうございます。
「ふふ…上手く説明できたか自信がないけど」
ーーー十分ですよ!最後がラウラさんの取材で良かったです。
「いえいえ」
ーーー今日はお忙しい中、インタビューに応じて頂きありがとうございました。原稿案は紙面に載せる前に検閲して頂くので仕上がり次第、お持ちします。
「ちょっといいかな」
ーーーはい?
「……先のインタビューで悠の女性関係についての質問が多かったそうだね?」
ーーーそれは…まぁ……話題に挙がったもので質問をさせて頂きました。
「僕には聞かないのかい?」
ーーーラウラさんに?
「…僕は悠の親友だ。もし誤解があれば悠も困るだろうし弁明が必要じゃないか」
ーーー…実は女性関係が複雑そうで…ベアトリクスさんもルウラさんもエリザベートさんも…ご自身が彼と恋愛関係にあると仰ってました。
「へ、へぇー」
ーーーどれが真実ですか?
「誰とも恋愛関係じゃないよ。悠の態度と言動に三人は誤解してる……彼の名誉の為に言っておくが遊び感覚で女性に手を出すような男じゃない」
ーーー……えー…では三人の見当違いだった?
「こ、こほん…女性の好みは知ってるけどね!」
ーーーどんな女性が彼のタイプですか?
「…真面目で仕事に一生懸命な頑張り屋さん…使命感が強く責任感があり…髪は長く切れ長の瞳…男装が良く似合う獅子族の女の子……って言ってたよ」
ーーー獅子族の女性ですか?かなり具体的で…外見的特徴はラウラさんに酷似してますね。
「そうだね!僕みたいな女の子が良いっても言ってたなぁ…ふふふ…」
ーーー……まさかと思いますが男色?失礼ですがラウラさんは女性と見間違うほど綺麗な容姿をされてますし…。
「ち、違うよ!悠にそっちの趣味はないから!」
ーーー…しかし黒永悠はモテますねー……有名な十三翼の女性陣をこうも惑わせるとは驚きです。
「頼り甲斐があって料理も上手で優しいし容姿なんて気にならない魅力があるんだ。…下心なく支えてくれる…親身になってくれる…そんな彼に一生を尽くしたいって思うのは仕方ないかな。無自覚で鈍感だけど…時折見せる無邪気な笑顔やドキッとさせられる仕草を独り占めしたいって思っちゃう」
ーーー………ラウラさん?
「あ、あくまで女性の立場に立った感想だよ?」
ーーーそうですか。
「き、今日は取材に来てくれてありがとう!…君の記事を楽しみにしてるよ」
ーーー恐縮です。
「悠の女性の好みの話は紛れも無い真実だ」
ーーーは、はい。
「間違っても他の三人の意見を参考にしちゃ駄目だよ」
……つ、疲れた!!
濃い取材になったので原稿を作成するに困らないが文面は相当に気を遣わないといけない。…誰かを優遇し書いたら怒鳴り込んできそうな勢いだ。
……彼の生き生きと黒永悠について話す横顔はまるで恋する乙女みたいだった。
…黒永悠は人たらしなのか?
一癖も二癖もある十三翼の面々にこれだけ信頼され好かれるのは単純に凄い。
おっと…次はオーランド総合商社に行かなくちゃ…走って行かないと約束の時間に間に合わないかも!
私は急いで第五区画へ向かった。




