番外編 新聞記者の一日 ③
5月4日 午前9時40分更新
〜『霄太刀』カネミツ・トキサダへの取材〜
ーーーよろしくお願いします。
「このような場に慣れて居らぬので至らぬ点は御容赦願う」
ーーー意外に緊張されてらっしゃる?
「うむ」
ーーーでは軽く緊張を解す質問を……カネミツさんは自身が立ち上げた剣の流派の師範代ですがどんな剣術なのですか?
「拙者の斎佐陀流は無明一刀流を基にした全方想定型の殺人剣よ」
ーーー全方想定?
「魔物…人…絡繰…どのような相手にも刀を駆使し勝利することを信条としている」
ーーーでも魔法や遠距離攻撃などが得意な相手には対応が厳しいのでは?
「ふっ……ならば斬撃を飛ばし首を切断するまで」
ーーー斬撃を飛ばす…?
「刀を侮り過信する輩ほど我が流派の的なり」
ーーー私に詳しい原理は分かりませんがカネミツさんの実績が斎佐陀流の強さを証明してると思います。…門弟で構成された『刀衆』の活躍も著しいですし。
「有り難き評価だ」
ーーー…本題の黒永悠についてですがカネミツさんはどうして彼の冒険者ギルドを応援しようと思ったのですか?
「個人指定依頼を通じ黒永殿の心柄に触れたからよ」
ーーーどんなソロオーダーですか?
「拙者の後始末…ある指定危殆種の討伐だ…そして…」
ーーーそして?
「これ以上は言えぬ」
ーーー……残念です。ムクロさんもご自身とデポルさんはソロオーダーを通じて彼を信頼したって口振りでしたがカネミツさんも同じですね。
「左様」
ーーー私の集めた情報では緊急査問会で十三翼の半数が黒永悠の制裁処置に肯定的だったと聴いてます。カネミツさんはどちら側でしたか?
「肯定側だ」
ーーー……意地悪な言い方ですが助けられて手の平を返した?
「否定はせぬ。……『灰獅子』や『串刺し卿』は内心では拙者に憤慨しているだろう。だが黒永殿は違う」
ーーー違う?
「本当ならば誰よりも納得がいかぬであろうに…当然の様に手を差し伸ばし救うてくれた…器と度量の違いを痛感させられたよ」
ーーー………。
「ホーク殿……黒永殿が設立する冒険者ギルドは素晴らしいギルドになる。…どうか拙者のように契約者だと狭き見解で誤解する者にもあの御仁の義が伝わる文を書いて頂けぬか?」
ーーー!?
「宜しく頼み申す」
ーーーあ、頭を上げて下さい!…私は真実を基に記事を書きますから…その……カネミツさんの真摯な願いに沿うように努力しますので。
「…うむ」
ーーー…えっと…ベアトリクスさんにも質問しましたがご自身と比較すると何方が強いと思いますか?
「拙者と黒永殿か」
ーーー因みに彼女はモチベーションで変わると言ってましたよ。
「モチベーション……成る程」
ーーー?
「…世には我武者羅に自己の強さに意義を見出す者と闘う意義と理由を他者に見出す者がいる」
ーーーはい。
「拙者は前者に近い。…十三翼の一員である『冥王』は正にそれだが黒永殿は明らかに後者だろう。闘う意義を見出せぬならば拙者も勝てるとは思うが……一線を超えた黒永殿が相手となれば『金獅子』殿でもなければ勝てぬまい」
ーーー……分かりました。最後に彼の女性関係について質問です。
「………」
ーーーどんな印象ですか?
「………ふむ」
ーーーカネミツさん?
「英雄は色を好む……それだけ言っておこう」
ーーー…………。
「…………」
ーーー…これでインタビューは終わりです。ありがとうございました。
「失礼仕る」
……黒永悠は人格者で強い。それは分かった。
しかし女にだらしないイメージが一層増していく。
英雄は色を好む…彼のこの一言が真実か否か…私には追求する義務があるのではないか?
残る四人は全員女性…気を引き締めて取材しなきゃ!
〜『天秤』ミコー・フェム・ダルタニアスへの取材〜
「…ふぅー……やっとボクにゃんの出番かぁ〜」
ーーーお待たせしてすみません。
「…機械化学研究の…資金援助はぁー…」
ーーーへ?
「…『金翼の若獅子』…ボクにゃんが運営指揮する研究団体『昇日の瞳』までぇ…よろしくぅー……窓口はミミ・ブリティッシュヘアだよー……君たちのお金が…化学の未来を作る…」
ーーーミコーさん…?
「…あふぅ…一気に喋ると……疲れるなぁー…今の…まんま記載してね」
ーーー…あの、取材の趣旨は分かってますか?
「…嫌だなぁ…ちょっと宣伝しただけじゃにゃいかー…えーっと……ポークさん?」
ーーーホークです。
「そだっけー…」
ーーー…取材に移らせて貰いますね。ミコーさんは様々な学術分野でも異端…いえ…新説を唱える学者として有名ですが彼との関係は?
「科学者」
ーーーはい?
「…ボクにゃんは冒険者であり学者でもあるが……正式な肩書きは科学者……聴き慣れない呼称だと思うけど…覚えといてー……」
ーーー分かりました。
「…んでぇ〜…黒永くんとの関係だっけ…?……そだねー…依頼者と冒険者…機械化学研究の理解者で協力者……ビジネスパートナー……かな」
ーーーそれだけですか?
「……にゃるほど……にゃはは!…君が聞きたいのは……ボクにゃんが黒永くんを……恋愛対象として…ふぅー…見てるかどーか…ってこと?」
ーーー!!
「分かり易い…分かり易い……色だねぇー…」
ーーー…考えが分かるのは天眼のスキル…ですか?
「うにぃー」
ーーー……。
「……答えてあげるよ…黒永くんを好きか嫌いか…で聞かれたら…嫌いじゃないな……下心がないし偏見もない……自然体で……馬鹿みたいに親切なんだもの…ふふ…変人奇人と…よく言われるボクにゃんだって……女の子だしぃー……」
ーーー次の質問ですが黒永悠に好意的なミコーさんは彼の冒険者ギルド設立をどう思ってますか?
「彼がボクにゃんの理解者で…ある限り……ボクにゃんは…黒永君の味方だ…新たに設立する冒険者ギルドも応援したいと思ってるぅ…」
ーーーその辺りは先に取材した三名と共通してますね。……ミコーさんは彼の過去について興味が湧いたりはしませんか?
「フォークさん」
ーーーホークです。
「…君が想像してる以上に…黒永くんは…常識を凌駕した…存在だよ……新聞記者として…好奇心が刺激される……気持ちも分からないでも…ないが……下手に藪を…突くのは…控えた方がいい…」
ーーーどういう意味でしょうか?
「身の程を弁えず太陽に…近づき過ぎた鳥は焼け死ぬ……そうは…思わないかい……?」
ーーー…脅し、ですか?
「違うよぉ…親切な…助言にゃーん…それを踏まえ…どんな記事を書くか…楽しみにしてるから…」
ーーー有難い助言に痛み入ります。
「あっ…研究資金援助…の旨は…必ず掲載してね?」
ーーーそれは確約致しかねます。
「……掲載するって言うまでぇ……ボクにゃんは…動かにゃいー…」
ーーー…もう取材は結構ですのでお引き取り願えますか?
「動かにゃい…動かにゃいぞぅ……そーだ…」
ーーー?
「…機械科学とは何か…折角だし…説明してあげる……話を聴けば…ボーグさんも…きっと……興味が温泉の如く…湧き出すよぉ…?…そもそも…科学とはね… 一定領域の対象を客観的な……方法で…系統的に研究する活動なんだ…ミトゥルー連邦では馴染みがない…単語なだけ……民衆の帝国を憎む気持ちで警戒されてるけど……本腰を入れて学べば…新たな未来への……扉が開くはずだよ…」
ーーー!?
この後、彼女は暫く喋り続けた…ってか名前を覚える気ないだろあの人!
…プラスに考えれば謎が多いミコー・フェム・ダルタニアスの一端を知れただけでも幸いか?
私の好奇心を更に刺激する物言いだったなぁ…『天秤』さえも信頼し機械科学研究に理解を示すヒューム……彼は本当にロスリット国出身なのだろうか?




