仕事して生活しよう!①
〜 朝7時50分 金翼の若獅子 受付カウンター 〜
「悠さん。おはようございます」
「おはようございますフィオーネさん」
ぷぃ、と顔を背けられた。
……あ!敬称と敬語はするなって言われたんだっけ。
「あー…おはようフィオーネ」
「はい」
にこにこ笑う。本当に無視されたよ…。
「昨日は良く眠れましたか?」
「ああ。フィオーネやマージョリーさんには感謝しかない」
「……曰くつきの家でも気になさらないのですね。ふふふ。喜んで頂けて何よりです。手伝える事があるなら何時でも仰ってください」
「ありがとう。けど暫くは一人でするよ。ひと段落したら遊びにきてくれ」
「約束ですよ?」
アルマの事は周りに内緒にした方が良いだろう。
余計に騒がれても面倒だし。
「うん。それとクエスト依頼を受注したいから見せて貰えるかな?」
「はい。今日のFランク依頼はこちらになります」
鉄鉱石×5の採取依頼に…薬草×9の採取依頼。それとオオツノバチの討伐依頼が三つ。
報酬金は合わせて3000G。
…薬草と鉄鉱石は腰袋に3つあるが足りないな。
「全部受けるよ。あとGランクの依頼は?」
「Gランクの依頼は……一つありますね」
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クエストランク:G
クエスト名:バケモノの確認依頼
依頼者:ベルカ釣り倶楽部会員 マートン
報酬金:0G
内容:北ベルカ街道の湖畔で釣りをしてら正体不明のバケモノが泳いでた…ギルドで確認してくれない?
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「北ベルカ街道に湖畔があります。未確認のモンスターを依頼主は見たそうです。討伐依頼ではありませんし誤認かもしれませんが……無理しないで下さいね」
「とりあえず見てくるさ。じゃあまた後で」
湖畔、か。ボッツ達がウェンディゴ・変異種に襲われてた場所だな。
「はい。お気をつけて」
転移石碑から北ベルカ街道へ向かった。
〜1時間後 北ベルカ街道〜
三つのFランク依頼を達成し湖畔付近まで歩く。
採取ではまた依頼品以外のアイテムも拾った。
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・薬草×15
・ツツジ香花×4
・アブラダケ×3
・ベルカの薬草×2
・鉄鉱石×6
・銀鉱石×4
・金鉱石×3
・魔石(中)×1
・ベルカファイア(小)×1
・ベルカモンド(極小)×1
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「そう言えば昨日、拾ったアイテムも鑑定してなかったっけ…。帰ったらまとめて鑑定しよう」
〜10分後 北ベルカ街道 湖畔〜
マップを開くと赤いマークが湖を漂っている。
…結構な大きさだ。
ーークエストを達成しましたーー
「赤いマークって事はモンスター…。確認だけでも良いらしいが……被害が出る前に討伐すべきだよな」
新しい能力も試しておきたい。
「禁呪・九墨蛇」
右腕に黒蛇纏いと同じく無数の太い黒蛇が纏わる。
揺らめき禍々しい瘴気を発していた。
「モンスターまで距離があるけど…」
湖を漂うモンスターに向けて水飛沫を撒き散らし以前とは比べ物にならない速度で黒蛇が伸びていく。
「おっ!?」
モンスターを捕えた。
「だ……っらああ!!」
そのまま岸辺まで引き寄せる。
ーールルルルルルルルォ!??
岸辺に打ち上げられたモンスターは8mはあるコバルトブルーの大トカゲ。
手足が六本と尻尾の先に大きな瘤がある。
サーチっと。
ーー対象を確認。ステータスを表示ーー
名前:湖畔に潜む瘤蜥蜴
種族:爬虫獣類 Lv31
戦闘パラメーター
HP10000MP1500
筋力350 魔力700
体力621 敏捷630
技術408
耐性:水耐性(Lv6)雷耐性(−Lv6)
戦闘技:粘着舌・水流弾・水散弾・丸食い
固有スキル:水中強者・自己再生・擬態
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世界中の湖畔に生息する爬虫獣類種のモンス
ター。数年の歳月をかけ成体に進化するが幼
体は他生物の餌食になり易く成体まで成長す
る個体は少ない。
水中で真価を発揮するスキルを持ち陸上では
弱体化する。また一定時間で傷が再生する。
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ーールァ!!
口から水の塊を吐き出し俺に向かってくる。
右腕の黒蛇が黒く巨大な手を形成し塊を弾く。そのまま瘤蜥蜴に黒蛇の拳で殴った。
ーーグェ!?
吹っ飛ばされた瘤蜥蜴の尻尾を掴みそのまま上に放り投げる。
九墨蛇を解除し魔弾・ケーロンに持ち替えリミットブレイクの戦闘技を発動させーー。
「E・ショット…!!」
黒鉄色の一筋のレーザーが身体を貫き地面に落下。
落下した瘤蜥蜴は死んでいた。
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HP7000/8700 MP2000/2700
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「HP1000にMP700の消費…。注意して使わなきゃ」
呆気なく倒してしまった。…他にも試したかったが仕方ない。
死骸と素材を回収し転移石碑に向かった。
〜午前10時20分 金翼の若獅子 広場〜
出入国管理所から中央区画を抜け広場に到着。
「あ!ユウさん」
中に入ろうとしたら声を掛けられる。メアリーだ。ボッツとラッシュも隣に居た。
「フィオーネさんから聞いたよ。お家を借りたって……第6区画の丘上の廃家でしょ?『呪われた家』って噂の…」
「ああ。…でも素敵な家だよ」
喋る不思議猫はいるけど。
「よく借りたよな〜。俺だったら怖くて無理」
「あんたとユウさんじゃ石と金ぐらいの差があんだから一緒にしたら失礼でしょ」
「うっせーぞデブ乳!」
…デブ乳は酷い。
だけど15歳でこの巨乳…。びっくりする発育の良さ。
「二人ともやめないか。片付けや家具の運搬なんかあれば手伝いますから言ってください」
「あ!わたし行きたい!」
「ボッツさんもメアリーもありがとな。でも、大丈夫だ。気持ちだけで充分、嬉しいよ」
「遠慮しなくても良いのに…あとユウさん。俺は呼び捨てで構いません。年下だし自分より強い人からさん付けは…」
「ならボッツって呼ぶよ。これからクエストか?」
「はい。厄介な相手ですが他のPTもいるので頑張ります」
「厄介な相手?」
「イビルプラントってモンスターが大量発生したのでそれの討伐依頼です。毒と麻痺の異常状態を引き起こす攻撃をするんですよ」
「単体ならまだねー…」
「ユーさんのランクが同じなら手伝って欲しいけどまだFランクだもんなー。…アルカラグモの単独討伐者が低ランクってのもおかしな話だぜ」
「ふむ…」
異常状態か。俺は耐性のお陰で気にならないけど普通に考えれば厄介だ。…あ、これを渡しておくか。
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特製ハイポーション×5
・モーガンの錬成炉で錬成した特製ポーション。
HPを3000回復させる。回復量も高く一定時間病や
異常状態を無効にする。
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俺は使わないし特製ポーションとこれあげよう。
「良かったら貰ってくれ」
ボッツに特製ポーション×4と特製ハイポーション×5を渡した。
「これは…。ユウさんが錬成したポーションですか?」
「ああ。異常状態を治癒できるし俺は使わないからやるよ」
「そんなポーションをタダで貰えないよ」
「三人に無事に帰ってきて欲しいだけさ。歳上の言うことは聞くもんだぞ」
「…お気遣いありがとうございます」
ボッツが深々と頭を下げる。若いのに礼儀正しくて好感が持てるな。
「気にすんなって」
「ありがとー!!」
メアリーが抱きついてきた。む、胸が…!
「ユーさんが困ってんぞ。んでもサンキューな」
「頑張ってこいよ」
三人を見送って中に入る。
…ん?何やら騒がしいな。
〜金翼の若獅子 一階フロア〜
男女の三人組とフィオーネが言い争っていた。他の大勢のメンバーが興味津々な様子で囲み眺めている。
騒がしい原因はこれか。
「どうかしたのかこれ」
「『三又矛』のアルバートがフィオーネ嬢にアタックしてんだよ!玉砕し続けてても心が折れねぇ不屈の男だぞ?有名だろーが。お前知らねぇ……あ」
俺に気付いたメンバー達が退けていく。気付いたら海を割ったモーセのような状況。
…突っ立っていても仕方ない。
クエスト依頼達成の報告もあるし歩みを進める。
〜 一階 受付カウンター前〜
「フィオーネさん…!今夜19時に第6区画の三つ星レストラン『シャル・リ・ド』を予約している次第…愚生とご一緒して頂きたく…!」
「申し訳ありませんアルバートさん。何度もお伝えした通り私は……あ、悠さん」
困り顔のフィオーネが俺に気付いた。
「……ユウ?」
一本角が額から生え整った顔立ちのミディアムヘアーのイケメンが睨む。
「アルカラグモをソロで討伐したFランクの無所属登録者……貴殿がクロナガユウか」
「ええ。そうです」
「…愚生の名はアルバート。『金翼の若獅子』に属するAランクの『所属登録者』だ。『三又矛』のリーダーもしている。……貴殿の捜索依頼を受けた者と言えば分かるかな」
「その説はご迷惑を掛けました」
「……フィオーネさんからの依頼だ。迷惑な事は一つもない」
「超迷惑だったけどねぇって感じぃ?」
「黙れ。イージィ」
イージィと呼ばれた女性は小麦色の肌と背中から生えた小さな羽根が特徴的なギャルっぽい女性だ。
「やれやれじゃ」
「ドゥーガルだって思うっしょ?」
ドゥーガルと呼ばれた初老の男性が呆れた様子で溜息を吐く。髭を生やし尻尾が生えた亜人。
「…お騒がせしてすみません。クエストの達成報告ですよね?」
「あ、うん」
「いや、駄目だ。まだ愚生とフィオーネさんの話は終わってない。貴殿はFランクだろう?終わるまで下がってろ」
……なんだぁこいつ。
「話を戻します。…幾度も断られど今日は誘いを受けて頂けるまでこの場から動かぬ所存です」
「……私は仕事中で他のメンバーの方々も受付カウンターを利用できず困っています。辞めて頂けませんか?」
「文句がある者は名乗りでるがいい」
誰も名乗りを挙げない。…高ランクのギルドメンバーだか知らんが横暴過ぎる。こっちだって職人ギルドにも行きたいし予定があるんだぞ。
それに…。
「俺だ」
世話になってる人が困ってるのは見過ごせない。
「え…」
「…なに?」
周囲が騒つく。
「依頼達成の報告もできないし予定が狂う。簡単に言うと邪魔だ」
「……」
「それにフィオーネが困ってるだろ。やめろ」
「…………フィオーネ、だと?」
「お前が誰であろうと関係ない。皆に迷惑を掛けるな」
「悠さん…」
助け船を出されたのが嬉しかったのかフィオーネの瞳は潤んでいる。
「……貴殿…フィオーネさん…を…呼び捨てだと?…Fランクの分際で…愚生に…やめろだ、と?」
わなわなと両肩を震わせる。こいつはフィオーネが好きなんだろう。
恋は盲目だ。
「…愚生を馬鹿にして……許さんっ!貴殿に『決闘』を申し込む!!」
「は!?ちょっ…マジで何考えてんのって感じぃ」
「お主……。流石にそれはないぞ」
「黙れ!!」
「ゆ、悠さん…私は大丈夫です!……決闘を受けないで下さい!ちゃんと話せばアルバートさんも落ち着いてくれるから…」
この周囲の慌てようを察するに只事じゃないらしい。
「…話を拗らせちゃったけど決闘って?」
「決闘は冒険者ギルド法で定められた法の一つで…冒険者同士の意見が決裂し衝突した際、お互いの同意の元に戦闘で決着をつける乱暴な決着方法なんです!…幾ら悠さんでもAランクのアルバートさん相手に決闘は無謀です…!」
「……」
「…それに敗者は勝者の望む条件を受け入れなければなりません…」
「先程、愚生に言ったな?関係ないと。…もしも貴殿が勝てば愚生は二度とフィオーネさんをお誘いする事も話し掛けもしない」
「俺が負けたら?」
「冒険者ギルドを辞めろ」
「悠さん駄目です!絶対に受けちゃいけません」
「……………」
…さてどうする。今更謝っても仕方がない。
でも必死に止めるフィオーネを無視するのも…。
「…逃げるのか?負け犬め」
「上等だ。受けてやる」
…ごめんフィオーネ。流石に負け犬はムカついた。
「あ、あのFランク……決闘を受けやがった!?」
「おい!他の奴にも声かけてこい!!賭けだ賭け!」
「バカ。成立するわきゃねーだろ」
「いや…アイツはアルカラグモを討伐者らしいぜ?わかんねーぞ」
周囲が一気に色めき立つ。
30歳にもなる大人が恥ずかしいが負け犬と侮辱されて黙ってられる程、心が広い訳じゃない。
「……ゆ、悠さん……」
フィオーネが泣きそうな顔で俺を見詰めた。
「…悪い。だけどフィオーネが困ってるのは見過ごせないし…負け犬って言われたら引き下がれない」
「アルバートぉ…。あんたさマジ馬鹿って感じぃ。低ランク相手に大人気なさ過ぎ」
「ランカー候補が聞いて呆れるわい…」
「……あんなに…あんなに…フィオーネさんと…親しく……許せん…!!」
「…あーあ。聞いてないって感じぃ」
その時だった。
「貴公達。何を騒いでいる」
凛とした声が響き一瞬で場が静まり二階から降りてきた人物に注目が集まる。
濡鴉が如き漆黒の長髪に軍帽軍服の服装に身を包み艶麗な亜人の女性だ。オッドアイの瞳は好奇心で輝き大きな羽根と尻尾を翻す。
「エリザベートさん…実はーー」
フィオーネが駆け寄り女性に事情を説明した。
〜3分後〜
「くっくっく!面白い。実に面白いぞ。FランクとAランクのランカー候補が決闘だと?……しかも理由はフィオーネ嬢への恋慕とはな」
「エリザベートさんならこの場を収束して頂けますよね…!?」
「……ふむ。話だけ聞けばアルバートよ。貴公に非があるが」
「あーしもこいつが悪いって思う感じぃ」
「儂も同意見じゃ」
「…愚生はAランクだ。Fランクが意見し侮辱するなど許せん」
「成る程。してFランクの……貴公の名は?」
「黒永悠です」
「黒永悠…珍しい名前だな。どう思ってる?」
「事の発端は俺の発言にもあります。…結果、フィオーネを余計に困らせました。貴女が治めても遺恨が残るし彼と決闘しますよ」
「ほう…相手はAランクのランカー候補だぞ。それでもか?」
それが凄いのかよく分かんないからなぁ。
「肩書きに酔って何をしても良い理由にはならない。それに怖じけるほど繊細でもないので」
「貴殿…!!余程、殺されたいらしいな…!」
アルバートは怒りで顔が真っ赤だ。
「くっくっ…あーはっはっは!…双方の合意は得た。フィオーネ嬢よ。男同志ここまで話が盛り上がれば水を刺すのも野暮であろう」
「そんな…」
「この決闘は『金翼の若獅子』所属の『十三等位』である吾…『串刺し卿』のエリザベート・K・ツェルペリが立会人となろう!」
彼女が高らかに宣言した。
〜午前11時 金翼の若獅子 演習場〜
本部施設を出て左最奥に戦闘訓練を行う演習場に移動した。申し分ないスペースが確保されている。…簡易席もあるし金翼の若獅子って資本力があるんだなぁ。
中央に対峙する俺とアルバート。その間にエリザベートさんが立つ。
「では立会人として簡単なルールを設ける。
①魔法・呪術・奇跡のアビリティは使用禁止。
②立会人が戦闘不能と判断した場合は決闘を中断。
③携帯アイテムの使用は不可。
ーーっと落し所はこの程度で良かろう。…質問は?」
「ない」
「大丈夫です」
「アルバート・ダンブルビーが勝利した暁には黒永悠の冒険者ギルドの登録を抹消。…負けた場合はフィオーネ・アルタランに金輪際の対話を禁止。…エンブレムに誓い相違はないな?」
「ない」
早く始めろと言わんばかりに勇んでる。
「では黒永悠よ。貴公が勝利した際の望みは聞いてなかったが……何を望む?」
「特にないです」
「………いい加減にしろっ!?愚生を馬鹿にしているのか!!」
「馬鹿にしてる訳じゃない。あんたに望みなんてない。…それだけだ」
いよいよ俺を噛み殺しそうな勢いだ。
「くっくっく!ならば負けた際は?」
「好きなようにしてくれ」
「良かろう…。黒永悠が勝っても何も望みはなし。負けた場合は勝者に身を委ねる…相違はないな?」
「はい」
「悠さんっ!!」
フィオーネが簡易席から叫ぶ。
「…お願い…どうか…どうかっ……無理はしないで…!」
「心配するな。大丈夫さ」
笑って応えた。
「両者準備は良いな?」
空気がピリつく。お互い目を逸らさない。
「始めッ!!」
掛け声と同時にアルバートが迫る。
槍の突きが空を鋭く切り裂く。
「ッシ!ッシ!ッシ!!」
…速いが対応できるな。身を躱し下がった瞬間ーー。
「竜紋一衝!!」
〜同時刻 演習場 簡易席〜
「あーあ。あれを食らったら終わりって感じぃ」
「可哀想じゃがこれでーー」
イージィとドゥーガルの予想を覆し悠は倒れなかった。槍を掴み防いでいる。
「ーー…な、なんじゃと…」
「豪速のアルバートの突きを止めた…?」
二人の驚きを他所に他の観客…もとい野次馬が盛り上がった。
〜演習場 中央〜
腹部に刺さる瞬間に槍を止めた。あ、危ねぇ…!
「な!?…っ!…ぬ、抜けないっ!」
…恐らくアルバートは敏捷の数値が高い。だが筋力は俺の方が上だ。負ける気がしないな。
強く握って槍を叩き折る。
「ばっ馬鹿な!!……ぐふぁ!?」
隙を付き金剛鞘の大太刀で叩き伏せた。……が体勢を立て直し距離を取るアルバート。
周囲からは歓声と怒声が湧く。
「まだ戦うか?」
できることなら降参して欲しい。
「…舐めるなッ!!」
今度は二対の剣が握られていた。自分も二刀で応戦するが…。
「!」
距離を見誤る。避けたと思ったら当たる。
何でだ…俺のは当たらない…!?
〜同時刻 演習場 簡易席〜
「…ああ!?悠さんっ…!」
「歪だな。黒永悠はアルバートのバトルパラメーターを凌駕している筈だ。…剣の振りや体捌きを見れば分かる。……しかし、あれだけの強さで対人戦闘の経験が乏しいとは不可解」
心配するフィオーネの隣でエリザベートは冷静に悠を観察していた。
〜演習場 中央〜
「……」
「どうした!動きが鈍いぞっ!!」
先程から防戦一方だ。
…もしや武器を持った相手との対人経験の差、か?
なら仕方ない。
経験の差は前に出る根性と勇気で埋めさせて貰う!
剣撃を越え傷を負いながら強引に前に出る。
そしてーーー。
「三日月斬りっ!」
鋭い剣撃がアルバートの双剣を切断し破壊した。
「…はぁっ!?」
その勢いで金剛鞘に大太刀を納め大剣のまま横に薙ぎ払う。
「ぐがああああああッ!!!?」
軋み骨が折れる鈍い音が耳に届き嫌な感触が武器越しに伝わる。
そのまま吹き飛び壁に激突した。
瓦礫に埋もれアルバートは伏せたまま動かない。
「ーーふぅ。終わったな」
エリザベートさんが近付き声高らかに叫んだ。
「くっくっく……わざわざ確認するまでもないな。勝者は黒永悠!この決闘の終了を宣言する!」
大きな歓声が演習場を包んだ。
「!」
フィオーネが駆け寄りそのまま抱き着いた。
「ちょっ…え?ちょっ!?」
柔らかい感触が…!
「馬鹿っ!…悠さんの大馬鹿!!馬鹿馬鹿!……ばか…」
ぐすっと泣くフィオーネが胸を叩いた。
「あー…済まない。…でも、結果オーライだろ」
「悠よ」
エリザベートさんが笑い此方を見る。
「貴公は低ランクではあるが只者ではないな。…何者なのかね?」
最近よく使うパワーワードで答える。
「田舎者です」
彼女が一際、大きく笑った。




