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番外編 アイヴィーの日常

4月27日 午前10時20分更新



〜百合紅の月1日〜


黒永悠がヒャタル・シュメクの調査依頼に出発し二日が経過していた。…今回は彼の義理の娘アイヴィー・デュクセンヘイグのお話である。


〜午前7時30分 マイハウス アイヴィーの部屋〜


「ぅん…?」


小鳥の囀る音で起床した。


銀色に輝く長い髪は寝癖で飛び跳ねている。


「………」


アイヴィーは部屋を見渡し一緒に寝ていたキューが居ない事を寝惚け眼で確認した。


先に食卓へ向かったのだろう。


ベッドから起き上がり自分も一階に向かう。



〜午前7時35分 マイハウス キッチン〜



「アイちゃんおはよう〜」


「おはよ…」


「お顔を洗って寝癖を直してね〜」


朝食を用意するオルティナが優しく微笑みかける。


「……りょーかい」


アイヴィーは朝に弱い。


目を擦りながら洗面所へ向かう。


「はやくしにゃさいよ〜」


ーーきゅきゅ〜!


「ししょー…きゅー…おはよ…」


アルマが前足で顔を撫でながら急かす。



〜午前8時30分 リビング〜



朝食を食べ終え歯を磨き普段着に着替える。


「師匠」


「今日の稽古は9時からね」


「了解」


特訓の開始時刻をアルマに確認するのはアイヴィーの日課である。


「わたしは家事が終わってから参加しますね〜」


「アイヴィーも食器洗いを手伝うから」


「ふふふ〜!偉いです〜」


「…子供扱いしないで」


頭を撫で褒めるオルティナに向け呟く。


照れているのだ。


言うまでもないが子供である。



〜午前9時40分 地下二階 アルマの稽古場〜



オルティナも合流したのでいよいよ本格的な特訓の開始だ。


「バトルパラメーターの項目の数値は常に最高値が表示されるわ」


「うん」


「戦闘技・魔法・呪術・奇跡・スキル……各種アビリティは数値の高さが影響し高低で威力や効果が増減するけど常に100%最高値を反映させるのは難しい。それは自身の状態に応じて出力が変動するから……知ってるわよね?」


「はいな〜!戦闘の基本ですからね」


「今日は最高値に近い攻撃を高確率で発揮できるよーにする稽古よ」


アルマは鋳造魔法で竜鋼石を堅固な騎士を模した魔導人形へ変える。


「二人とキューで倒しなさい」


「これは強そうですね〜」


「…凄い硬そう」


ーーきゅきゅう…きゅきゅ…!


「タイムリミットは15分ってとこね……時間までに倒せなかったら致命傷級の爆発が起きるから必死に攻撃しにゃさいな」


「「!?」」


その一言に慌てて武器を構えた。


「…キュー!」


ーーきゅきゅーう!!


ーー………。


アイヴィーの号令に応じキューが騎士に突進する。


魔法詠唱の時間を稼いでるのだ。


「渦来れ!スパイラクア!」


「…闇の石よ砕き注げ…ダークレイン」


放った魔法は前進を止めるも破壊には至らない。


騎士は元気いっぱいに斧を振り回し襲いくる。


「にゃふふ!ゆっくりしてる暇はにゃいわよ〜」


四苦八苦する弟子達の姿を見て檄を飛ばす。


生物は極限の中に身を晒す事で成長し進化する……アルマはそう確信し自身も実践してきた。


稽古にはその価値観が顕著に表れている。


〜14分後〜


息も絶え絶えにアイヴィー・オルティナ・キューは魔導人形をなんとか倒した。


「よし!次いくわよ」


「…アルマ師匠…休憩時間は……?」


「闘いながら休みなさい」


無茶苦茶である。


「次は攻撃力が高い魔導人形と防御力が高い魔導人形の二体が相手ね」


迫り来る魔導人形を見てオルティナは叫ぶ。


「…アイちゃん!わたしが最初に相手をするから交代で休もう」


流石はS級の冒険者である。戦闘経験・戦闘数値は現段階でオルティナの方がアイヴィーより上だ。


「……ソル」


アイヴィーは霊剣ソルシオンを握り締める。


ーーー…漸く我の出番か。待ち詫びたぞ。


「集え霊峰の息吹…結晶となり…汝を映す鏡なれ」


詠唱に呼応しソルシオンが光輝く。


「プラザナス・バイケーション」


ーーー…我が主の命に従い…霊剣ソルシオン…此処に見参す!!


「おぉ〜!」


「…へぇ」


剣が消え蒼く光放つ美麗なる天使が出現した。


結晶魔法の一つ…プラザナス・バイケーション。


それは精霊化した武器を依代に術者のイメージを投影させ常世に顕現させる魔法だ。


イメージが精巧且つ魔力の質が高いほど顕現される造形に影響を受ける。美しく神聖な姿で顕現されたソルシオンはアイヴィーの才能の高さを発露させていた。


「私とオルティナは少し休憩するからキューと頑張って」


ーー…きゅっ!?


ーーー…えっ!?


予想外の指示に驚くソルとキュー。


「キューとソルは強いし大丈夫ってアイヴィーは信じてるから」


ーーーし、しかしだな…主よ…?


ーーきゅきゅ〜!!


「……駄目?」


ーーー………。


ーー……。


主のお願いには逆らえない。…況して上目遣いで愛らしく頼むアイヴィーの破壊力は絶大だ。


ーーー……命通わぬ無機なる者よ…我が結晶剣の錆にしてくれるわっ!往くぞキュー!!


ーーきゅきゅきゅっ!きゅー!!


「あんた達も元は無機物でしょ」


冷静なアルマの突っ込みを無視してキューの背に跨りソルは魔導人形へ突進した。


「休憩しよう」


「……アイちゃんは将来、女王様になりそうですね〜」


「………」


アルマはアイヴィーに感心していた。


…僅か10歳で精霊化した武器を従え難易度の高い結晶魔法を扱う技量は見事としか言い様がない。


自分の()()を実際に実行されるとは微塵も思って無かったのだ。


このまま鍛えれば…世界屈指の……いや最強の魔法使いへと成長する素質を秘めている…そう確信した。


「…にゃふふふ!」


予想を超える弟子の成長と才覚に師匠は嬉々として笑う。



〜午後13時 マイハウス リビング〜


「………」


アイヴィーはリビングで読書に勤しむ。


今日の稽古は午前中で終了だ。


「おやつはまだ?」


「さっきお昼ご飯を食べたばかりですよぅ〜」


「にゃふ」


おやつを強請るアルマをオルティナが嗜める。


「…キューは何してんのかしら」


「悠の部屋で卵を暖めてるよ」


「ふーん」


「龍の卵を孵化させるって聞いた時は驚きましたよ〜」


「あいつは一度決めたら頑固だし」


「…でも孵らない」


「飛龍の卵は孵化まで10年とか20年くらいかかるの〜」


「そうなの?」


「ええ〜…でもあの卵の状態を見るともう直ぐですね〜」


「さすが竜人族」


「えへへ〜」


「オルティナはどこか行くの?」


外へ行く支度をするオルティナに問う。


「ちょっと食材の買い出しに〜」


「私も行く」


「…ふぁ〜……あ!悠に畑の枯れ草を集めて果物の収穫をしてくれって頼まれてたのすっかり忘れてたわ」


「ファイト」


「ま、わたしにかかれば一瞬だけどね」


鉱石と鋳造魔法で作った魔導人形を数体従えて庭に向かう。


「……何度見ても鋳造魔法を簡単に使えるアルマ師匠には驚くわ〜…高位魔法の中でも特に習得が難しい魔法なのに」


「全盛期に比べたら全然よ」


神樹のお陰で封印の効力は弱まってるが神樹の成長は時間を要する。


「行ってきま〜す」


「行ってくる」


「はいはい」


第6区画の商店街に向かった。



〜午後13時30分 第6区画 商店街〜



「ーーお!今日は旦那は一緒じゃねーのかい?」


商店街を歩いていると肉屋の店主が店先でアイヴィーに声を掛ける。


「うん。悠は依頼に行ってるから」


「…おほっ…そ、そちらの別嬪さんは…?」


「初めまして〜」


「ギルドメンバーのオルティナだよ」


店主は鼻の下を伸ばし顔を綻ばせる。


「……綺麗な姉ちゃんには特別に安くすっからうちで肉を買ってきなよ!」


「まぁお上手ですね〜」


「ーー姉さん!…そんな腐った肉を売ってる店じゃなくて鮮度抜群の魚はどーだい!?美味いぜ〜」


向かいの魚屋が負けじと声を張り上げる。


「黙ってろ!腐ってんのはテメーの禿げ頭だろーが!」


「…んだと!?このデブ!」


「うふふふ〜」


中年男性同士が醜く言い争う。


爆乳の若い美人に少しでもお近付きになりたい欲望が見え隠れしていた。



〜午後14時20分 第6区画 浪漫時計〜



食材の買い出しを済ませ喫茶店の浪漫時計のテラスでティーブレイクを楽しむ。


「お魚もお肉もいっぱい買えちゃいました」


「半額で売ってくれた」


「…二人とも奥さんに怒られてましたけどね〜」


オレンジジュースを飲みつつアイヴィーは頷く。


「やぁ」


「お疲れ」


鮫を模した兜と重鎧を装備した男が現れた。


彼の名前はヒースフェア。第一騎士団『(スクアーロ)』に属する騎士団員だ。


「『辺境の英雄』は居ないのか?」


「悠は依頼」


「なるほどな…そして…」


ヒースフェアはオルティナを見て呟く。


「…君は『水雲の息吹』…オルティナ・ホワイトランだな」


「はいな〜」


「ベルカに移住したと噂は聞いてたが…まさかアイヴィーと一緒に居るなんてな」


「オルティナは悠のギルドのギルドメンバーだよ」


「!?」


「うふふふ〜」


「…驚いた」


ヒースフェアは珍しく冒険者にも友好的な人物だ。


「俺の名前はヒースフェア。騎士団の団員だ」


「よろしくです〜」


オルティナは辺りを一瞥した後に微笑む。


「アイヴィーとヒースフェアは顔見知り」


「ははは!実はアイヴィーを騎士団に来ないかって勧誘してる内に仲良くなってね」


「まぁ〜」


「いつも悠が騎士団に移籍するなら考える…って言ってる」


「それは難題ですね〜」


ヒースフェアは頷き答える。


「…彼を契約者と警戒する輩もいるが『辺境の英雄』は素晴らしい男だよ……『辺境の英雄』の冒険者ギルドが第6区画に設立するって話は騎士団内でも評判になってる……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「そうなの?」


オルティナの双眸が細まる。


「それは警戒しちゃいますね〜」


「………」


「どうして?」


「…騎士団本部の第一騎士団『鮫』団長シオン・カナベラル……()()()()()()『処刑人』の二つ名は冒険者や傭兵の間じゃ()()()()()だもの〜」


首を傾げるアイヴィー。


「…シオン団長は彼を高く評価してる。挨拶に行くのも()()()()()じゃない…さて…俺は仕事に戻るよ。お茶の時間を邪魔して済まなかったね」


「そうですか〜……店の周辺に待機してる()()()()()()()にもよろしくお伝えください〜」


「!」


「オルティナ・ホワイトランが『辺境の英雄』の冒険者ギルドに所属したと〜」


「…やれやれ…流石と言う他ないな」


ヒースフェアは苦笑し去って行く。


アイヴィーは意味が分からずオルティナを見上げる。


「気にしないで大丈夫〜…たぶん情報収集でしょう」


「?」


オルティナはヒースフェアが偶然を装い近付いて来た事を見抜いていた。


今や悠の実力は十二分に証明され高い影響力を併せ持ち注目を浴びて当然だ。


…それは複雑な過去を背負うアイヴィーも無関係ではないのだ。善意や好意が前提にあっても騎士団が接近するのは政治的な意味合いがあるはず……そう解釈し自分が注意しなくてはいけないと考える。


異世界からの来訪者である悠はパルキグニアの常識に疎い部分があるしアイヴィーはまだ10歳の子供だ。


そしてその考えは大体当たっていた。


謎が多い契約者と獅子抗争の裏切り者の娘で吸血鬼の少女……情報収集し警戒するのは致し方ない。


しかし、仕事とはいえ必要以上に接近し騎士団に勧誘するのはヒースフェアなりの善意でもある。


適切に実力を評価せず少女を邪険に扱う冒険者ギルドの噂を心配してのものだった。


現在は悠が()()を利かせてる甲斐がありいわれなき差別と侮蔑は払拭しつつある。


オルティナは気を取り直し笑う。


「それよりも今日の夕飯は何が良いですか〜?」


「クリームシチュー」


「うふふ〜!シチューは得意料理ですよぅ」


程なくして二人は家に帰宅した。



〜夜20時30分 マイハウス リビング〜



夕食を終え団欒の時間を満喫する。


「髪はちゃんと拭かなきゃダメ〜」


「ん」


風呂上りの濡れた髪をタオルで拭く。


「…しっかしまぁ…こーして見ると本当の親子みたいね〜」


「アイちゃんみたいな可愛い娘なら大歓迎です〜」


「………」


黙ってるがアイヴィーも満更ではない顔だ。


「にゃふ!…そーなると悠が父親ね」


「うふふふ〜」


オルティナもアルマの一言に嬉々として微笑む。


「オルティナは悠が好き?」


「ええ〜!()()自信を持って答えれるわ〜」


アイヴィーと一緒に寝た夜を思い出し頷いた。


「はぁー…物好きね〜あんたって」


「アルマ師匠も好きでしょ?」


「…はいはい」


適当な返事ではぐらかすも尻尾は正直だ。


「……でもヒャタル・シュメクに一人で行ったのは大丈夫ですかね〜…彼処で行方不明になった冒険者は数え切れないって話ですが」


「悠なら大丈夫」


そうは言いつつ本当はアイヴィーも不安だ。


「大丈夫よ」


アルマは二人に向け喋る。


「あいつが契約してる従魔(ミコト)は理を超越した祟り神……その力を()()()()()()()()()扱える悠に勝てるモンスターも人もそうそう居ないわ」


「本当?」


「まぁ上には上がいるけどね」


アジ・ダハーカや金獅子がそうなのだろう。


「そう考えるとゴウラ様は桁違いですね〜」


「分かりやすく簡単に例えてあげる」


アルマが魔法で宙に表を作り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


・最強にして究極の魔王 アルマ

(全盛期)総合戦闘力100


・緋の魔女 ランダ

(全盛期)総合戦闘力90


・泣き虫のアジ・ダハーカ

(当時基準)総合戦闘力60


〜〜〜〜〜〜〜以下略〜〜〜〜〜〜〜〜


・悠に勝った亜人 ゴウラ

(現段階予想)総合戦闘力55


・ミスター原始人 悠

(現段階)総合戦闘力40


・弟子二号 オルティナ

(現段階)総合戦闘力6


・弟子一号 アイヴィー

(現段階)総合戦闘力5


・サボり魔 キュー

(現段階)総合戦闘力5


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ざっと表にしたらこんな感じね」


「アイヴィーとキューは5…」


ーー…きゅきゅ〜!きゅ!


「分かりやすいでしょ?」


「…泣き虫のアジ・ダハーカ……アジ・ダハーカって伝説の煌星龍ですよね〜?……他にも神話級のモンスターの名前がありますけど……甘えん坊のフェンリル…見栄っ張りの九尾…」


「わたしの独断と偏見だし総合戦闘力ってのも適当に書いてるわ。アビリティやスキルを考慮してない遊びみたいなもんよ……悠が従魔ミコトの力を完全に解放し扱えたら全盛期のわたしでも敵わにゃいわね〜」


「……なるほど」


「格下が格上の相手に勝つ方法は幾らでもあるし実際にランダは自身のスキルを上手く使って最強の魔王(わたし)を封印したもの」


「…なんにせよ…この表を見たら頑張らなきゃって思いますね〜」


「一桁から脱却したい」


ーーきゅ〜!!


「にゃふふ〜…その心意気に応えるのも師匠の務め…明日は今日より厳しい特訓メニューを用意してあげるから覚悟しなさいよ!」


……こうしてアイヴィーの一日は終わる。


幸せに満ちた日常に孤独な少女の面影はなかった。



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