フィオーネの本気!終
〜夜22時10分 第6区画〜
食事会から約三時間後。
酔っ払ったフィオーネを家へ運んでいる最中だ。
「…うふふふ…ゆ〜…しゃ〜〜ん…」
「はいはい」
意識が微睡んでるフィオーネが名前を呼ぶ。
「…夜道で良かったぜ」
お姫様抱っこでも目立たなくて済む。
ミニスカートでおんぶは拙いので仕方ない。
「もう直ぐ着くからな」
「…もー……そこは…違いますよぅ…ゆ〜しゃんの……えっち…」
…夢の俺は何してんの!?
火照った寝顔と熱い吐息が悩ましい。
うーむ…無防備過ぎる一面を曝け出すのは俺を異性と見てないのか……それともやっぱり……?
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『ちょっと頑固で…裏表のない不器用な性格で…他人のために一生懸命なとこも…心配で放って置けなくなっちゃうとこもて鈍感でやきもきさせる態度も…全部含めて私は大好きです!』
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思い出し首を横に振って呟く。
「…なーんてあるわけないか」
男は女の言葉を簡単に勘違いする悲しい生き物……歳上で頼れるってだけの話さ。
夜風が吹きフィオーネから香る酒の匂いと香水の匂いが鼻を擽った。
〜夜22時30分 第6区画 ルクスリエード〜
マンションに到着後、受付の管理人に事情を説明すると快く部屋まで案内してくれた。
本来は門前払いだが辺境の英雄の活躍と噂…あとはフィオーネに話を聞いてる事が信用を得た。
…初めて自分の二つ名が役に立ったな。
〜ルクスリエード 301号室 フィオーネの部屋〜
「ほら着いたぞ」
「ん…」
優しく体を譲るも全く起きる気配がない。
…放置も出来ないしベッドまで運ぶか。
壁際のスイッチを押すと照明のランプに光が灯る。
可愛い小物…観葉植物…整頓された本棚…掃除も行き届いてるお洒落な部屋だ。
ルウラやミコーさんの汚部屋とは大違い。
「…寝室はこっちかな」
〜フィオーネの部屋 寝室〜
「よっ」
「ん…」
起こさない様に注意しベッドに寝かせる。
布団を掛けて……これでよし!
「…すぅ…すぅ…」
可愛い寝顔を見て思わずにっこり。
「んじゃ行くか」
無事に運び終わったし家へ帰ろうって…ん?
「………」
シャツの裾をフィオーネの左手が掴んでいた。
「…悠…さん…」
「起こしちゃったか?」
「うぅー…」
…どうやら寝言のようだ。顔を歪め少し苦しそう。
「…無茶しないで…」
「……」
「心配……します……」
夢の中で俺は何をしてるやら…。
「大丈夫だ。傍にいるぞ」
優しく髪を撫でて耳元で囁く。
「…うふふ」
聴こえてはない筈だが今度は安心した様に微笑む。
「ポカポチャー…は…焼いちゃ駄目…生で……」
ポカポチャーって何だ?俺は焼いたのか?
…もう暫く一緒に居てあげるとすっか。座って壁に寄りかかりフィオーネの寝顔を眺めた。
〜早朝4時30分 フィオーネの部屋 寝室〜
「…あれ…私…?」
目覚めたフィオーネは辺りをぼんやりと見渡す。
「マカロニで悠さんと…あぁ…そっか」
自分が酔い潰れた事を思い出したがどうやって家に帰って来たか迄は覚えていない。
二日酔いで痛む頭を回転させ状況を把握する。
「…服はそのままだし誰がベッドに……あっ」
疑問は直ぐに解決した。
「くかー…くかー」
壁に寄りかかり座ったまま悠は爆睡している。
連日の戦闘と移動による疲労と寝不足でフィオーネの寝顔を眺める内に眠ってしまったのだ。
「…風邪引いちゃいますよ?」
「むにゃむにゃ…」
自分を家に運びベッドに寝かせたのは悠……悪戯に頰を突っついてみる。
「む……」
「うふふ」
起きる気配はない。
胸を締め付ける心地よい感覚に満たされていく。
意中の彼がこんなにも近くで寝入ってる。
昨夜とは正反対の光景だった。
「…どうしてそんなに鈍いんですか?」
「すぅ…すぅ…」
「好きな男性じゃなきゃ一緒に食事に行ったり…大好きなんて言わないですよ…?」
「むにゃ」
「…安心して貴方の前で眠るのは襲われても良いって…思ってる証拠なのになぁ」
悠の性格で送り狼は無理だろう。
…フィオーネも誰にでもあんな姿を晒す訳じゃない。自制心は強いし普段なら介抱する側である。
悠の前でだけだ。
それは信頼と好意の裏返しと言えよう。
「えい」
徐にほっぺたを抓り引っ張って遊ぶ。
「…むぐぅ…ん…」
「………」
フィオーネの顔が近付き悠の頰に両手を添え距離は徐々に…徐々に…縮まっていく。
「悠さん」
名前を呼び唇と唇が触れる。
それは数秒間の短いキスだった。
「皆には負けませんから」
そう言って穏やかに美しく笑う。
…フィオーネは何も知らず爆睡を続ける悠にそっと毛布を羽織らせ風呂場へと向かった。




