忙しくも楽しい毎日を謳歌しよう!⑭
4月14日 午前8時17分更新
〜5分後〜
「うまうま」
食べ終わるの早過ぎだろ。
綺麗に骨だけ残して食ったなー…。
「美味しゅう御座いました」
「また作ってねー!」
喜んで貰えて嬉しいけどね。
ご満悦の三匹を背に火の後始末をした。
「…これでよしっと」
さてベルカに帰ろう。誰の背に乗ろうかな。
「出発ですか?」
「うん」
「我が背にお乗り下さい。ランとは比較にならぬ速力で野を這いましょう」
自信満々な笑みを浮かべる。
あれより速いって吐く自信しかないわ!
あ…ハクの背に吐く…ぷぷっ!
「聞き捨てならない」
ランが会話に割って入る。
「私はご主人様を気遣って全力じゃなかった」
「負け惜しみを言うな」
「ハクは仕切りたがりで目立ちたがり屋」
「…美しく優れる者こそ主が乗るに相応しい」
「私に決まってる」
「……」
「……」
やめて!舌先を出して互いに威嚇しないで!!めっちゃ怖いから!口が耳まで裂けてるから!
「あはは〜」
シロも笑ってないで止めろよ!
「ま、待て待て!交代で乗るから…そうしよう!」
「…主がそう仰るなら」
「ご主人様の命令なら仕方ない…」
「ほっ」
意外と仲が悪い二人だった。
「にしし!…本当は僕たちに上か下か…優劣なんてないんだけどねー」
「…三匹…三人って姉妹なのか?三つ子なのか?」
「んー…そー喩えるのが一番分かりやすいのかなぁ」
どうにも彼女達は常識外れの存在だ。
「と・に・か・く!マスターは平等に接しなきゃダメだよ〜?」
「お、おう」
「…二人にばっか構って僕を蔑ろにしたら…背後からパクッて食べちゃうからね」
明るく脅された!?…シロは温和だけど怒らせたら一番やばそうだな。
円滑な交流のお陰で以前より扱い辛くなった気がするぅ〜…。
程なくして出発するも交代する距離で再び揉めベルカ北街道に着く頃には朝になっていた。
〜朝6時30分 ベルカ北街道〜
「三人ともお疲れ様」
「いえ!主の為ならば…火の中…水の中…闇の中でもお傍で添い遂げます」
「ご主人様…またお肉たべたーい…」
「あはは〜!ランってば食い意地が凄いんだから」
「また用意するよ」
次はお菓子でも作ってやろう。
唐突にハクは優しい眼差しを俺に向け喋る。
「…ミコト様と同じく繋がる故に分かる…主の器は大きく深い…強力になった我々の力も無垢なる弱き民の為に使い熟せるでしょう」
「?」
「うんうん〜」
「人になれる他にもあるのか?」
「説明不足でしたね」
「人妖化の利点は対話だけじゃないよ」
「そーそー…機動力を犠牲に…夜刀神の力の一端を使えるんだ…」
「ミコトの力?」
いまいち要領が掴めない。
「論より証拠…見ててご主人様…」
ランが遠くに離れたモンスターの群れに手を翳す。
街道から随分と距離があるぞ。
「淵を泳ぎし魔鯨」
「!?」
闇の空間が広がり禍々しく歪で巨大な鯨が跳ぶ。
モンスターの群れを蹂躙し貪って消えた。
一瞬の惨劇…阿保みたいな破壊力だった…。
「い、い、い、今のは…?」
「これは『荒神の言霊』… ミコト様が得意とする術…人の認識では魔法に分類される力です」
「使った分だけ僕たちの顕現される時間が減っちゃうけど〜」
「…ご主人様が戦局を見極めて命令してね…」
無闇やたらに使っちゃいけない類の力だわこれ。
「口惜しいですがそろそろ別れの刻」
「…いつものお願い…」
「だねー!」
屈んで頭を下げる三人。
……これは撫でろって事だよな?
「どうかな?」
「ふふふ…」
「気持ちいい」
「マスターの手はあったかくて好き〜」
俺も暖かい気持ちになる。
…ペットを愛でる感覚に近い?
優しく撫で続けると次第に消えていく。
「またな」
三人が淡い光の残滓となり風と共に散る。
…何にせよこれからも頼もしい限りだな。
「んー!」
座りっぱなしだったので背伸びをした。
…ちょっと早いがこのまま金翼の若獅子に行こう。
〜午前8時 金翼の若獅子 カネミツの庵室〜
「どうぞ飲まれよ」
「お気遣いどうも」
煎じた茶を出される。
到着して朝飯を食べてから三階に向かった。
タイミングよくカネミツさんに会えて良かったぜ。
「あらかた顛末はゲンノスケより聞いておる」
「そうですか」
わざわざ詳細を報告する必要は無いみたいだ。
「…僅か一日足らずで饕餮を討伐とはな。黒永殿に依頼した拙者の判断は正しかった」
「食い止めてくれた門弟の皆さんのお陰ですよ」
「ご謙遜されるな」
湯呑みを口に運び茶を啜る。
うっわ…苦っ…!!
苦味がダイレクトに脳を揺さ振りやがる。…カネミツさんはよく平気な顔で飲めるな。
「…して黒永殿への報酬金だが1500万Gで如何か?」
「1500万…」
「不服ならば更に上乗せしても構わん」
口籠った俺を見て勘違いしたらしい。
「金額に文句はありません。…ただ門弟の方々と分配して貰えますか?」
「何故?」
「俺一人の成果じゃないし」
「…其方が単独討伐したと聞いておるが?」
「討伐まで饕餮の襲撃に持ち堪えテオムダルを守ったのは貴方の部下だ」
「………」
カネミツさんは眉一つ動かさない。
…惚れ惚れするほど凛々しい顔だな。
「俺は100万Gで十分です。残りは頑張った皆に支払ってあげて下さい」
「…結果より過程という訳か?」
「だって過程がなけりゃ結果に繋がらないでしょ」
カネミツさんはその答えに満足した様子だ。
「ふっ…あいわかった。此度の黒永殿の報酬は100万Gで宜しいかな?」
「はい」
それでも大金だけどね!
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所持金:1億4594万G
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札束を一つ貰い腰袋に入れた。
「ふむ…」
カネミツさんは値踏みするように俺を眺める。
「どうかしましたか?」
「…いや…黒永殿と仕合し一手御指南仕りたいと思うてな」
空気が張り詰める。
「えぇー…勘弁してください」
急に何を言い出すんだっつーの。
「済まぬ。…『霄太刀』と呼ばれ幾年も経つが好敵手を求めるは武の道に生きる者の性……許されよ」
…カネミツさんもそーゆータイプか。
ヨハネとは違って自制心があるっぽいけど。
「『金獅子』殿との闘いは正に見事の一言に尽きる…其方の強さは自己に非して他に有った…拙者には手に出来ぬ強さを持っている」
「?」
「それは愛故か」
…急に一人で喋って納得してるぞ。
「何時か刃を交え語り合いたいものだ」
「普通に会話で語り合って欲しいんですけど…」
かっこいい顔で言われてもノーセンキューでっす!
話題を変える訳じゃないが渡す物があったな。
「それよりカネミツさん」
「何かな?」
「これを見て下さい」
懐から指輪を取り出し差し出す。
「!」
顔色が変わった。
「…饕餮が潜む森の奥で見つけました」
この指輪の裏面には小さく文字が彫られている。
永遠の愛をトウカへ誓う…カネミツより…と。
「………」
彼は黙り込み指輪を凝視している。
「貴方に渡すべきだと思い持って来ました」
「……そうであったか」
「ご迷惑でしたか?」
「…この指輪は拙者がトウカに贈った指輪だ」
「!」
やっぱり繋がってたか。
「彼女と拙者は婚約の契りを交わしておった間柄よ」
「…そうですか」
「歳下だが思慮深く優しく…それでいて可憐な美しさがあり朗らかに笑う女子だった…」
「……」
「…一年前に拙者は確かに檮杌を屠ったが彼奴は死に際に…拙者が一番に愛すべき者を呪った…それが檮杌の能力と事前に調べ知っておれば彼女は死なずに済んだのに…」
「そんな力が…」
「うむ…檮杌の怨嗟の呪がトウカを醜い魔物へと変え…結果、この手で拙者は愛すべき女を斬ったのだ」
カネミツさんは淡々と喋る。
…やるせない話だ。
どちらも救いがない結末を迎えてる。
「…血に酔う武芸者に愛を語る権利も花を手向ける資格もない…修羅道を歩みこの身朽ちるまで闘うが運命…」
カネミツさんは小さく頭を下げた。
「幾ら鍛えても『金獅子』殿に少しも及ばぬのは…ふふ…この脆弱さが原因やも知れぬな」
自嘲し哀しく微笑む。
「門弟を派遣し向き合う事を恐れる武士…刃は曇らずとも心の曇りが晴れぬ」
「…あの何も知らず持って来ちゃって…その…」
「謝られるな。其方は何も悪うない」
そして天井を仰ぎ一言だけ呟いた。
「逃れられぬ宿命か…はたまた天の思し召しか…」
「………」
もしかしたら…。
「ちょっと指輪を貸して頂けますか?」
「む」
受け取った指輪を握る。
試した事は無いし無駄かも知れないがこの終わり方はあんまりだ。
…ちょっとばかりの救いが欲しい。
「骸の呼び声」
「これは…!?」
指輪を黒い靄が包む。
靄は次第に消え光る粒子が残った。
『彼に…伝えて…くだ……さい』
優しく澄んだ女性の声が耳に響く。
「!」
「…黒永殿?」
『それでも…私は…貴方を……愛していた…と』
『…この身が朽ち果て消えても…カネミツさまの心に…私は生きる…』
『…千年鏡花に誓いし…愛は…決して枯れません』
『強く…強く…生きて下さい…トウカは…貴方と出逢えて幸せでした…』
粒子が消えると同時に声が止む。
「…簡単に説明しますね」
訝しみ俺を見るカネミツさんに告げる。
「俺には死者の残留思念を拝聴する奇跡があります」
「…なんだと?」
「指輪を介しトウカさんの残留思念を聴きました」
「……」
「…彼女から伝言を頼まれてる」
「拙者への…」
「聞く勇気はありますか?」
目を閉じ黙るカネミツさん。俺は返答を待った。
「…聞こう。どのような罵倒も受け止める」
一呼吸置き伝える。
「それでもカネミツさんを愛してるそうです」
「……」
「…貴方の心に自分は生きる…千年鏡花に誓った愛は永遠に枯れない」
「!」
「強く生きて欲しい…自分は貴方と出逢えて幸せだった……そう言ってました」
「…幸せだった…?」
カネミツさんの声は少し震えていた。
「この指輪はお返しします。…やっぱり貴方が持つべき物だった」
そっと指輪を返す。
「…ちなみに千年鏡花って?」
「東国の仙境で千年に一度咲くと言われる幻の花…求婚の際に指輪と共に拙者がトウカへ贈った…誰にもここまで話した事は無い……知るのは拙者とトウカのみ…」
「…そうですか」
「………」
俯き指輪を見詰めたまま沈黙の時間が続いた。
〜15分後〜
「黒永殿」
俯いた顔を上げ漸く口を開いたカネミツさん。
左手の薬指に指輪をはめる。
どこか晴々とした様子だった。
「はい…」
反対に俺の顔は険しいだろう。
正座に付き合ったせいで足が痺れたからだ。
…頑張れ…俺の坐骨神経…!!
「『灰獅子』に伝言を頼まれてくれぬか?」
「伝言?」
「これより拙者はテオムダルへ行く。…急で申し訳ないが予定の仕事には代理を立ててくれ…と」
「!」
俺は頷き答える。
「分かりました」
「…其方には大きな借りが出来たな」
「借りって別に」
「この恩は生涯忘れん。拙者で良ければ何時でも力を貸そう…他の十三翼とは相容れぬとも黒永殿は別ゆえ」
「いやいや…本当に大丈夫ですって…」
「先の査問会では済まぬ事をした」
三つ指をつき律儀に頭を下げる。
「あー…もー…」
「ふふふ」
困る俺を見てカネミツさんは笑う。
「…あははは」
気付けば俺も笑っていた。…救われない結末が少しだけ変わった事が嬉しかったのだ。
庵室を出てテオムダルに向かうカネミツさんを見送りラウラが居る執務室へ足を運んだ。
作者のキキです(。ゝω・。)ゞ
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