忙しくも楽しい毎日を謳歌しよう!⑬
4月11日 午前7時57分更新
4月12日 午前8時55分更新
〜午後16時29分 ケードルの湖亭〜
あれから約6時間後。
宿屋で仮眠し起きた後は街に出てお土産を買った。
城下町はお祭り騒ぎだ。饕餮の脅威に怯えずに暮らせる幸せを皆で満喫している。
…出歩くと人が付いてきて面倒だったけど…。
面白い話も聞いた。
テオムダルの東の崖底に巨大な断層湖があり観光名所として有名らしい。
気の良い土産屋の店員が教えてくれた。
湖を推すのはそーゆー理由がある訳ね!
…次に来た時はゆっくり観光巡りをしたいな。
ロビーのソファーに座り賑わう街路を眺めながらのんびりしていた。
「騒がしいのはお嫌いか?」
「のんびりしてただけさ」
どこからともなく現れたのはゲンノスケだった。
「ユウ殿にはしてやられたぞ…あの場で我々に手柄を譲るような物言いをするとは…」
まだ納得してないのか不満気にぼやく。
「事実さ」
「お陰で他の門弟も其方を見る眼が変わったがな」
「ふーん」
喧騒をBGMにお互い黙る。嫌な沈黙じゃない。
大人の男同士の独特な会話の間ってやつだ。
「本当に独立されるのか?」
独立…ギルド設立の話か。
「約束だからな」
「…口惜しいな。ユウ殿の実力あれば…何れ十三翼に名を連ね富も名声も思いのまま得られたろうに」
「ゲンノスケは偉くなりたいのか?」
「拙者も地位に興味はごさらんよ。ただ…」
「ただ?」
「剣の道を極めとうござる」
「…剣の道…」
「この世は兵で溢れておる…狭い世界で強者になれど大海は広い…この身…この腕一つで何処まで往けるのか…極めた先の景色を見てみたい」
男らしい目標だ。
「…ふっ…師の足元にも及ばぬ拙者が言うても妄言に聴こえるな」
自嘲し笑う。
「そんなことないよ。立派な目標じゃないか」
暫く取り留めない雑談に興じた。
〜20分後〜
「ーーなんと…今日の夜に出発されるとは」
「明日の夜は約束が入ってるもんで」
「どのような移動手段をお持ちか?」
「んー」
「…実は先刻、師に此度の依頼完遂を連絡したが大層驚いていた。聞けば個人指定依頼を受けたのは先日との話……ベルカからテオムダル迄は相当な距離がある…早馬でもあの悪路では二日は掛かろうて。この辺りに転移石碑は無いゆえ『串刺し卿』のように竜に乗り空を翔るか…『魔導飛空挺』に乗るか…方法は限られる筈だが…?」
今更だし隠す必要もないな。
「召喚した蛇に乗って来たんだ」
「…これまた稀有な…契約者ならば不思議でもないが…いやはや驚かされるばかりよのう」
目を丸くさせ呟く。
「ゲンノスケ達はどーするんだ?」
「もう暫し滞在し周辺の魔物を駆除する予定よ」
アフターケアもばっちりだな。
「頑張ってくれ。あとさ…」
「うむ」
「亡くなった市長の娘の名前って知ってるか?」
「ああ…リッカ…彼女の名前はリッカ・リンドーだ」
…もう間違いない。
「…答え難いなら答えなくてもいいけどカネミツさんが来れない理由はその娘が原因だろ?」
「………」
ゲンノスケの表情を見れば一目瞭然だ。
口程に物を言う。それが答えだった。
「…そっか」
「ユウ殿…済まぬがこの件は…」
「分かってるよ。誰にも言わない」
「有難い」
外の馬鹿騒ぎがやけに静かに聴こえる。
これ以上の詮索は控えよう。
後はこれを本人へ渡せば良いだけだ。
「…腹が空いたな。夕食でも食べに行かないか?」
「是非に」
「湖海鼠の料理が食べたい」
「うむ…僭越ながら拙者が美味い店を紹介しよう」
宿屋から出て店へ行った。
交流を深め分かったがゲンノスケは好漢だ。
昇格依頼の実技試験でぶっ飛ばした時はこーやって仲良くなる未来を想像もしてなかったぜ。
〜夜23時 ワーガー街道〜
遠ざかる都市の灯。
泥酔したゲンノスケを宿に連れ帰ったのち人知れず出発した。
空を見上げると満天の星と月が輝いている。街灯もない夜道じゃ月明かりが道標だ。
夜景を楽しみながらゆっくりと街道を歩く。
「ん?」
マップに幾つか赤いマークが浮かぶ。
…街道から外れた川の近くに集まってるぞ。
ちょっと寄り道して様子を見てみよう。
〜ワーガー街道 テオムダル川〜
「でっけーな」
茂みに隠れ覗く。
角が生えた三頭の巨獣が川の水を飲んでいた。
とりあえずサーチっと…ふむふむ…名前はホーン・ヒルシュ…夜行性のモンスターか。巨大に似合わず逃げ足が速い…あの体格でブードゥラット並の敏捷値かよ。
肉質は独特の食感で美味…あ!
お誂え向きに数は合うし狩って白蛇に食わせてやろっと。
〜20分後〜
「ふっふふ〜ん」
ホーン・ヒルシュの丸焼きの下拵えを始める。
内臓は不味いらしいので飢餓竜の腰袋で肥料に変えた。
手付かずの二頭は川で冷やしている。
「さてさて」
ナイフで全身の皮をさっさっと剥いでいく。
…やばいな。
技術の数値が一万台に突入したお陰か熟練の猟師を上回る有り得ない速度で迷いなく剥げる。
足りない知識を器用さでカバー!
〜40分後〜
他の二頭も同様に下拵えを済ませた。
「こんなもんか」
出力を最低限に抑え燼鎚・鎌鼬鼠の炎で肉を焼く。
焼き過ぎないよーに注意しないと…。
おー…脂が焼けた良い匂いが漂ってきた。
「ーーよし!この辺で良いだろう」
ホーン・ヒルシュの丸焼きの完成だ。
料理とは言えないがきっと三匹も喜んでくれる。
早速、呼び出すか。
「真神樂蛇…!?」
神々しく光輝く魔法陣の演出……前と違うぞ!
そして現れたのは見慣れた白蛇じゃなかった。
「主の命に従い馳せ参じました」
「やっほー!マスター」
「…お肉…お肉…」
君たち誰っ!?…っと叫びたくなったが我慢する。
真神樂蛇で召喚したし大体の予想は着くが…。
「……ハク?」
左から順番に名前を呼んでみる事にした。
「はっ」
真面目で気難しそうな印象の美女が返事をする。
真っ白の長髪を靡かせ前髪で右眼が隠れており左眼の瞳孔は細く赤い瞳が印象的だ。
髪や肌とは対照的に闇夜に溶けそうな黒い巫女衣装に身を包む。
「えっと……シロ?」
「はいはーい!シロちゃんでーす」
ハクとは対照的に元気っ娘なシロ。
前髪は左眼を隠している。
「……君はラン?」
「…うん…お肉…お肉が食べたいよマスター…」
前髪が両眼を覆い目元は見えない。
ランは不思議ちゃんってゆーか…自由だなぁ。
「……」
ミコトの面影を感じる美人三姉妹…いや三つ子か?
三人に共通してるのは長い白髪と黒い巫女服。
そして…身長の高さだ。
恐らく2mはゆうに超えてるだろう。
「…真神樂蛇の真の力ってこれなのか?」
見事に蛇から人に化けている。
「ハクが説明させて頂きます」
「……ぜひ頼む」
〜数分後〜
説明を聞いて呟く。
「俺の一言が原因かぁ」
確かにあの森で自由に話せたら〜…云々は言ったけどさ。
「ミコト様が主の願いを叶え我々は人の姿で顕現する事を可能としました」
「マスターとミコト様の親密度が高いお陰だよ。僕たちもマスターと自由に話したかったからさ〜」
「…愛しき主と言葉を交わせて…ハクは感動の余り涙が溢れそうです」
「ハクってば大袈裟〜」
「大袈裟ではない」
「…お肉…はやく…」
ランは会話に混ざらずホーン・ヒルシュの丸焼きを凝視している。
「もう蛇には戻れないのか?」
「いえ」
ハクが一瞬で白蛇に変化した。
「おぉ」
「このように姿形は主の望むがままに変えれます」
また人の姿に戻る。
要するに蛇形態と人形態になれるっつーわけだ。
「ともあれ我ら神樂蛇……これからも精魂尽き果て朽ちるまで主の力になりましょう」
「そーそー!気軽に呼んでね〜」
気軽に呼んだら俺の血がなくなるわい。
…まぁ驚いたが便利っちゃあ便利…かな?
「分かった。これからも宜しくな」
「…ご主人様…お肉…食べたい…」
膝を抱え懇願する。
ランはさっきから肉ってしか言ってないな。
「もちろん食べて良いよ。ハクもシロもどうぞ」
「やりぃー!美味しそーじゃん」
「…主の手料理を食べれるなんて…ハクは幸せ者に御座います」
「肉…肉…」
三匹の顔だけ蛇に戻り口が大きく裂けた。
肉を千切り丸呑みして咀嚼せず呑み込んでいく。
…巫女姿の蛇顔の女が肉を啄む…言葉にするとホラー感が半端ないな。
「…ふぅ」
食べ終わるまでタバコを吸って待つ事にした。




