忙しくも楽しい毎日を謳歌しよう!⑥
3月27日 午前9時10分更新
「どうかなぁー……黒永くーん…力を貸してくれにゃい…?」
「……ふむ」
俺は少し考えて返事をした。
「いいですよ」
「おぉ…即決じゃん…」
文明が発展すれば貧富の差が減る。
無論、発展と改革は新たな火種も生む要因でもあるが現実を見れば悠長に構えてられないのだ。
…それ程、ベルカと近隣の村々の格差は凄い。
危機感に警鐘を鳴らす良い提案じゃないか。
「素性は明かしませんがミコーさんの仰る通り俺は機械に身近な生活をしてました」
「……」
「…その経験が貧しい人々の暮らしを改善できるきっかけになるなら喜んで協力したい」
「ふぅーん……やっぱ…君って…馬鹿みたく人が良いね……面接した時から思ってたけどさぁー…」
「情けは人のためならずって言うでしょ」
「…勘違いしにゃいで欲しいけどぉー……ボクにゃんの目的は…知識好奇心を…ふぅ…満たし自分の……研究成果を実証…したいだけ…人民救済が目的じゃないよー……あくまでその過程と結果で…貧困層が…幸せになるかもしれないって…希望的観測だしー」
誤魔化さずはっきりとミコーさんは言った。
「寧ろ…余計な問題を巻き起こすかもねー……こんな現状じゃ…問題が発生する確率すら……低いけどにゃー……」
「構いません」
「そっかー…」
…この人の思惑がどうあれ暴走したら止めればいい。
著名な科学者ってのは最初は世間に敬遠され馬鹿にされるのが世の常……耐え忍ぶ時期があるもんだ。
地球で言えばアインシュタインだってそーだった。
トーマス・エジソンやステラ・コイルだってな。
あとはゴッホ……あれ?ゴッホって科学者だっけ…。
………。
と、とにかくそーゆ感じなのだ!
「…にゃふー…これで黒永くんはボクにゃんの…協力者になったってわけだ…よろしく頼むよ」
「こちらこそ」
「お礼じゃにゃいけど…君の素性については…これ以上は詮索しないし……吹聴しない…秘密にしておくよ…」
「それは有り難いです」
ミコーさんの天眼は厄介極まりない。
味方にした方が良いに決まってる。
「それで具体的にはどんな風に協力しますか?」
「そだねー…君は鍛治職人として手先が器用みたいだしぃー……錬成術も得意だ……ボクにゃんと部下は知識はあれど…機械を再現・発明・修復する…ふぅー……技術がない……つまり設計図を作っても実現できないんだ…」
「俺は工作担当ってことか」
今のステータスなら機械弄りも大丈夫だろう。
「そのとーり…あとは…」
ミコーさんが両手を差し出す。
「…資金援助をしてくれると嬉しいにゃー…」
「苦労してるって話でしたもんね」
「…うん…この部屋にある壊れた機械の大半は……ガルバディアの品なんだけど…輸出禁止の帝国から輸入するのに…違反ぎりぎりの……特別なルートを使っててさぁ…めちゃくちゃ大金を叩いてる……たまーに…国境を超えた『機械兵』を襲っ…けふん…防衛して残骸を拾ったりもするけど……」
「…襲う?」
「気のせいだよー…」
絶対に気のせいじゃない。
「幾ら援助すると良いですか?」
「…それは任せるよー……最近はムクロも…援助を渋るしぃ…世知辛い…世知辛いなぁー…」
「えーっと」
所持金は1億6480万G、か。
…依頼をこなせばまた金は稼げるし先行投資も悪くない。
「じゃあ2000万Gで」
札束を腰袋から取り出しテーブルの上に置く。
「にゃ…にゃふ……太っ腹だぁー…!!」
喜んでる喜んでる。
「有効活用して下さいね」
「勿論だよぉー…研究成功のあかつきにはー…資金提供した黒永くんやムクロに……投資額の倍額を払うつもりだからさぁ……」
とらぬ狸の皮算用にならない事を願う。
「…ふっふっふ〜…」
すっかりご機嫌な様子だ。
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所持金:1億4580万G
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〜クエストを達成しました〜
依頼はこれで終了だがこっから先が本番。
最終目標はミトゥルー連邦内での科学の発展と機械の流布……モンスターの討伐依頼より遥かに難しい。
彼女とも長い付き合いになりそうだ。
ならば……。
「ミコーさん」
「ん〜…?」
「部屋の掃除をしましょう」
「…えー…なんでぇ…?」
あからさまに嫌がる。
「ゴミ置き場みたいな部屋じゃ研究も捗りませんよ」
「ひどーい…一見すると…汚く見えるけどぉ…完璧に…ふぅ…配置してるだけだもーん…」
掃除しない奴の常套句だ。
「必要な物だけ言って下さい。言わなきゃ全部捨てますから」
「無視かぁー…にゃむ…黒永くんってば…意外と強引だねぇー…」
錆びた鉄と油で澱む部屋… 流石に汚過ぎる。ルウラの部屋と良い勝負だぞ。
こっちが動かないと彼女はやらないだろう。
…ミミちゃんの苦労がちょっと分かった気がした。
〜6時間後〜
「ぜぇ…ぜぇ…!!」
「…ふぉー…見違えたねぇ…」
肩で息をする俺の隣でミコーさんが呟く。
…時刻は午後16時27分。
部屋の掃除に随分と時間を費やしたな。
その甲斐あって見違えるように綺麗になった。
……さぁ御覧下さい!
オイル漏れの汚れは強力洗剤で擦り部屋に蔓延した油臭さを解消!
頑なに必要だと言い張りスクラップ……機械の残骸を捨てれない彼女の要望に匠は応えます。
…蕪雑に放置されてた機械の山はあら不思議!
大・小に分類しアイテムパックに小分け……しっかり付箋を貼り分かり易い優しい配慮も忘れてません。
各種アイテムパックは匠がギルド職員に頼み用意させて頂きました。
三つでお値段はなんと……30万G!
高い!ちくしょう!!
…渋る彼女に根負けした匠が自腹で買って提供しています。
穴が空いたソファーは匠が裁縫…椅子と机もギルドで廃棄予定だった物品を回収し修繕してご用意させて頂きましたーーーー……っと劇的ビフォーア○ター風に実況してみたけど……これが限界だな。
もう疲労が半端ない。
「…黒永くんってばー…掃除妖精みたいだったよぉ……」
「こ、今度から定期的に掃除してくださいね?」
「………」
「おい」
「…にゃむー…」
そっぽを向くミコーさんの首根っこを掴む。
…この自由で気紛れな感じは本当に猫っぽいぜ。
「君は…厳しい…厳しいなぁー…」
「…女の子なんだしちょっとは気を遣って下さい」
「そーゆーのは…偏見だにゃー…女性は女性らしくって考え方は…ふぅー…ナンセンス…」
「協力するって話は撤回しましょうか?」
「…脅しだぁ……酷い…うぅ…ボクにゃん…泣いちゃうー…」
嘘泣きが下手過ぎる。
「…もういいです。それと報酬金の件ですが」
「ふぅー…300Gでどーかな…?」
子供にお使いで渡す駄賃かよ。
そもそも金に困ってるミコーさんに報酬金の支払いは期待してない。




