家を探そう!
〜午後18時 ギルド総本部 金翼の若獅子 広場〜
第2区画から金翼の若獅子へ戻ると既にフィオーネさんが広場で待っていた。
「すみません。お待たせしました」
「いえいえ。私も丁度、来たところでしたよ。『巌窟亭』は如何でしたか?」
「登録できましたよ」
「………紹介した私が言うのも変ですがよく『紅兜』のモミジさんに認めて貰えましたね」
「紅兜?」
「ええ。『巌窟亭』のモミジさんはベルカで有名な鍛治師でギルドガールも兼務されてます。彼女へ弟子入りを志願する若手職人も多いですが…眼鏡に叶わず門前払いされるそうです。腕をへし折られた方もいたとか…」
筋力があって良かった…。ありがとう祟り神さまぁ!
「『紅兜』は鍛治師としての評判・容姿・気性から広まった字名です。私も何回かお会いしていますが…冒険者ギルドを毛嫌いされてました」
俺もめちゃくちゃ怒鳴られたからなぁ。
「心配してましたが『巌窟亭』の登録もおめでとうございます。……ふふふ。冒険者ギルドと職人ギルドを兼業されるメンバーは中々、いません。頑張ってくださいね」
「はい。冒険者ギルドの依頼も疎かにするつもりはないので…それと今日は仕事が終わってからも付き合って頂いてすみません」
「良いんですよ。今から行く第6区画はベルカで生活するには快適な区なんです。食材店や日用雑貨店……新築の物件が多くて騎士団本部も近いので治安も良いですから」
「おぉ。だから第6区画を勧めてくれたんですね」
「…私のお家も第6区画にあるので何かあれば直ぐご相談にも乗れます」
「なるほど」
「ええ。ちなみに一人暮らしですよ」
にこにこ笑うフィオーネさん。
「ご、ご家族は?」
「首都ベルカから西へ離れた『リヴァーエンド』という街で暮らしてます」
「フィオーネさんみたいな素敵な娘さんが離れて暮らすのはお父さんも心配で仕方なさそうですね」
「まぁ…ユウさん。素敵だなんて…」
頰を赤くして耳が後ろにぺたりとなっている。
何かおかしいこと言ったかな俺…。
「そういえば不動産屋の名前は?」
「…あ、はい。『マージョリー不動産』という不動産屋です。対応が丁寧で良い物件を紹介してくれますよ。では行きましょう」
二人で第6区画にあるマージョリー不動産に向かった。
〜夜19時 第6区画 商店街〜
ベーカリーショップにカフェに本屋…お洒落な雰囲気の区間だ。
整備が行き届いているし騎士団が近いとあって出入国管理所で見た騎士達の姿もちらほら。
「ユウさん。あそこが日用雑貨店を売っているお店で……あっちがダイナーです」
…案内をしてくれる彼女の距離がやたら近い。
「フィ、フィオーネさん。近くないですか?」
「ご迷惑ですか?」
しゅん、と寂しそうな顔をする。…その顔は卑怯だ。
「い、いや…迷惑じゃないですよ?でも周りから恋人とか誤解されたらフィオーネさんが嫌じゃないかなって」
すれ違う男から舌打ちされた気がする。
「でしたら何も問題ないですね。…あ、ほら!見えて来ましたよ」
今度は嬉しそうに腕を引っ張る。
…女ってよくわかんないな。
〜夜19時15分 マージョリー不動産〜
店に入ると恰幅の良い亜人のおばさんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい」
「マージョリーさん。こちらは黒永悠さんで…今日は賃貸物件の御紹介をお願いしたくて来ました」
「どうも」
「あらあら〜。フィオーネちゃんが男とくるなんてね。…うふふ!恋人との新居探しかと思ったよ」
「ふふ、マージョリーさんったら」
………え。否定しないの?
「じゃあお兄さんとフィオーネちゃん。こちらに座って貰える?」
案内されたソファーに座る。
「あたしはマージョリー不動産の社長で名前もマージョリーだよ。まあ一人でやってんだけどね」
「黒永悠です。よろしくお願いします」
「それでお兄さんはどんな物件をお探しで?」
「風呂と台所があれば良いです」
最低限の設備があれば生きていけるだろ。
「あはは!面白いことを言うねぇ。その条件で物件を紹介してたら朝になっちまうよ」
「そ、そうですか…あはは」
「私が契約している『ルクスリエード』に空きはありませんか?」
「あそこはねぇ…家賃が高いけど立地条件も良いし人気があるから先日、埋まっちゃったよ」
「家賃は幾らなんですかそこ」
「35万Gだよ」
3…35万……!?
そんな賃貸物件に住んでるフィオーネさんの給料って……ギルドガールって高給取りなんだな。
「そうなのですか……残念です。他に近場に空いてるお部屋は?」
マージョリーさんがファイリングされたページを捲る。
「んー……ダメだわ。第6区画のマンションタイプやアパートタイプは空きがないね。第6区画以外なら直ぐに空き部屋を紹介できるわよ」
「じゃあ第6区画以外でも…」
「いえ。第6区画で探してますので。一軒家の賃貸物件はあります?」
…あれ。部屋探してるのって俺だよね。
「一軒家なら……あったあった。見て頂戴」
素敵な一軒家の写真が並ぶ。何ページか捲って見ているが正直、全部高い。
最後のページの物件を見ると見慣れた一軒家の写真があった。モーガンさんの家にそっくりな一軒家。
別れて間も無いが懐かしく感じる。
…ふむ。家自体はとても古いが土地付きで安いじゃないか。
「すみません。こちらの物件は?」
「…ああ。そこは……一応、載せてるけどお勧めできないよ」
フィオーネさんも写真を見る。
「……このお家は…。確か昔、魔女が住んでたって噂のお家ですよね?」
「ええ。実際に借りた家主が大怪我したり取り壊そうとした業者が次々と不幸に見舞われたりしたもんだから…魔女の呪いだの祟りだのと騒がれてね……今じゃ誰も近寄らない第6区画にある一軒家さ。本当かどうかは知らないけど…ベルカがミトゥルー連邦の首都になる前からずっとあったって噂だわ。ここ数十年借りられた記録もないし」
「……」
「…悠さん。もしや賃貸契約を結ばれるつもりでは?」
「ええ。この一軒家をお借りします」
広い庭付きの家で賃貸金も一ヶ月10万G。他の第6区画の物件に比べたら破格だ。
祟り神と契約した俺にとっては呪いも祟りも今更だ。
フィオーネさんもやっぱりみたいな顔をしている。
「…お兄さんってば話は聞いてたかい?」
「ちゃんと聞いてましたよ。…怪我をしても自己責任ですし絶対に文句は言いません。マージョリーさんにご迷惑はお掛けしませんから」
「でもねぇ……フィオーネちゃんの紹介であの物件と賃貸契約を結ばせるわけには…」
「お願いします」
「うーん……清掃作業も全然、出来てないし内装や外装の塗装も剥げてるし…やりたがる業者もいないから当時のままだよ?」
「掃除や塗装も自分でします。…出来るなら今日からお借りしても良いですか?」
「…今日から…って…本気かい?」
「はい」
揺るがない俺を見てマージョリーさんが折れた。
「………分かったよ。じゃあ賃貸契約の書類とあの家の鍵を持ってくるから待ってて頂戴な」
店の奥に書類と鍵を取りに行く。
「…本当に宜しかったですか?」
「もちろん。庭付きの家が安く借りれるんだからありがたい話だ。良い不動産屋を紹介してくれてありがとうございます」
「…でも、ですね…悠さんが…その…宜しかったら…暫くは……私の部屋の一室に…住んで……頂いても……」
「?」
顔を伏せ膝の上で手をもじもじさせる。小声過ぎて何を言ってるか分からなかった。
「待たせたね。書類と家の鍵だよ」
マージョリーさんが戻ってきて書類記入を行う。
フィオーネさんはちょっとむっとした顔だった。
…何故だろう?
無事に書類記入と契約書のサインが終わる。
他の市役所への手続きは契約金に料金を上乗せすればマージョリーさんが代行してくれるサービスがあったので是非、お願いした。
契約金とサービス料15万Gと家賃先払い六ヶ月分の60万Gをマージョリーさんに渡す。
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所持金:46万8千G
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「こんな先払いまでしてくれて助かるわ〜。この地図はサービスよ」
首都ベルカの精巧な地図と賃貸物件までの簡単な地図を貰う。
何にせよ無事に住居も見つかった。
マージョリーさんにお礼を言って店を出た。




