押しかけ女房! ①
3月16日 午後17時51分更新
3月16日 午後19時03分更新
〜扉木の月24日 午後17時〜
自分を巡る女性達の思惑も露知らず悠は鮮魚店で買った値引きの魚を片手に金翼の若獅子へ向かった。
〜金翼の若獅子 ギルド広場〜
「ーーふっふっふ〜ん」
鮮度の良い魚を4匹も手に入れた。
鋼の探究心で鑑定すりゃ鮮度の良さなんて一発だし…更に粗を突いて値引きにも成功して万々歳だ!
魚屋の主人が…『もう来ないでくれ』…って言ってたがまた行こう。
「お」
上機嫌でアイヴィーとキューを迎えに行くと広場で待っていた。
オルティナも一緒だな。
「おーい」
「ん」
ーーきゅきゅきゅう〜!
「あら〜」
「迎えに来たぞ」
「待ってた」
「その袋は〜?」
「これは魚だ。今日の夕飯は魚料理だぞ」
「…ハンバーグが良かった」
「肉ばっかじゃ栄養が偏るだろ」
「アイヴィーは不満に思いつつも我慢するから」
「うふふ〜」
「さぁ帰ろっか」
「はいな〜」
元気良く返事をするオルティナ。
「オルティナも帰り道は一緒か?」
「ですよぅ〜」
「へぇ」
仲良く皆で広場を歩く。
〜午後17時10分 第6区画 商店街〜
商店街は今日も賑わっている。
治安の良さがそのまま盛況具合に直結していた。
「ベルカは広くていろんなお店がありますね〜」
「だろ?俺も全部は把握してないんだ」
「メニーのパン屋さんのチョコクロワッサンは美味しいよ」
「まぁ〜」
「住む所は借家?それとも賃貸アパートか?」
「え〜っと…一軒家だと思いますぅ〜」
曖昧な返事だ。…悪質な不動産屋に騙されて変な物件を借りてないと良いけど。
「お!ユーさん」
「どうも」
顔馴染みの喫茶店の店員だ。
「美女のドラグニートを連れ歩いて〜…恋人かい?」
「ははは!違うよ」
「うふふ〜」
オルティナは美人だし一際、目立つ。
理由はその爆乳だ。目を奪われた通行人の男が振り返ってしまうのは仕方ない。
雑貨屋や飲食店をオルティナに紹介しつつ帰路を歩む。
〜午後17時25分 第6区画〜
「綺麗な道ですね〜」
舗装された道と等間隔に植えた並木を見て呟く。
「アイヴィーもよくここでキューと遊ぶ」
ーーきゅきゅ〜。
「そうなんだね〜」
「キューに乗って空を飛ぶのは楽しいから」
「面白そう〜」
「私とキューはこの一帯のスピード・キング!」
「ふふふ〜」
楽しく喋る二人が微笑ましい。
〜午後17時40分 マイハウス 庭〜
「ーーまぁまぁまぁ〜!!」
「お、おー…」
両手を胸の前で組み興奮してるオルティナ。
「綺麗な野菜畑に…見事な池と庭園…美しい若木と咲き誇る紅い花も…とぉ〜〜っても……とぉ〜〜〜っても素敵ぃ〜〜!」
俺とアイヴィーは顔を見合わせ首を傾げる。
オルティナはいよいよ家まで着いて来てしまった。
「…あのー」
「はいな〜!」
「家に帰らないのか?」
「もう帰りましたよ〜」
「か、帰りました?」
どう辺りを見回しても我が家しかないぞ。
……いや、当然だ。
混乱する俺を尻目にオルティナは恭しく一礼した。
「不束者ですがぁ今日から宜しくお願いします〜」
「…はい?」
「うふふ〜…家族以外の殿方と一緒に暮らすのは〜…私も初経験です〜」
可愛いウィンクと揺れるおっぱい。
「え、ええええええええええーーーー!!?」
俺は絶叫した。
〜午後17時55分 マイハウス リビング〜
「………」
空腹でご機嫌斜めなアルマが俺を睨む。
ーーきゅるるー……。
キューも早く飯を食べさせろと唸る。
「悠」
隣でアイヴィーが裾を引っ張り目で情を訴えた。
「ユウさ〜ん」
瞳を潤ませオルティナが懇願するように俺の名前を呼ぶ。
「え、えーっと…」
頭を掻き悩む。
どう返事をするか答えに窮してしまった。
まだ頭の中は絶賛混乱中だがオルティナの衝撃発言の真意を聞いた。
…理由は単純で簡単。
彼女の中でギルド所属は既定路線で俺の家に元々住み込みで働くつもりだったらしい。
……なので最初から賃貸物件は探さずエリザベートを頼るつもりも視野に入れて無かった。
彼女の感覚では所属登録者はギルドの寮に住むのが当然って考えが根本にあり……何一つ疑問には思ってなかったそうだ。
流石に…まぁ竜人族の年齢では14歳だけど…嫁入り前の恋人でもない成人女性と一つ屋根の下で暮らすってのは精神衛生上よろしくない…!
「取り敢えずだな…今日は家に泊まって明日、アパートや借家を一緒に探しに行くのはどうかな?」
「……」
「マージョリー不動産屋ってお勧めの不動産屋さんも知ってるし」
しゅんっと項垂れ呟く。
「……私はお邪魔でしょうか〜?」
酷い罪悪感が心を襲う。
「ち、違っ……邪魔だなんて思ってないよ!」
「…本当ですか〜?ご迷惑そーな顔でしたので〜…」
「…そ、そもそも嫁入り前の女性が恋人でもない男と一緒に暮らすってのは…なぁ?」
「恩人と…仲間と…一緒に暮らしたいと願うのは変でしょうか〜?慣れない土地で家族と離れ…一人で暮らすのが寂しい…」
「………」
「私ってば勝手にユウさんとアイちゃんとの生活を楽しみにしてました〜……」
「うぐっ」
「…エリちゃんは優しいから…部屋に住めって言ってくれたけど〜…経緯を考えれば…芳しく思わない人もいるでしょーし〜……」
「……オルティナが可哀想だよ」
裾を引っ張りアイヴィーは訴え続ける。
「お、俺もそう思うけど…」
「…私って厄介者なのかしら…」
「ちがう!そんなことないもん!!」
「アイちゃん…」
力強く否定した。
「…悠も私も…仲間が辛い時は傍で支える!!…種族が違って…血も繋がらなくて…それでも…ギルドメンバーは…友達は……絶対に見捨てない!」
「…うぅ〜!…嬉しくて涙が出そうです〜…」
およよ〜と目元をハンカチで覆う。
…な、何だろ…ちょっとわざとらしい気が…?
「そーだよね!?」
「……う、うーむ」
「アイちゃんの優しさだけで…も〜十分だよ…今日は橋の下で寝ますからぁ〜…」
「……」
「温もりを思い浮かべてマッチを点けて〜…」
マッチ売りの少女やん。
「…悠!!」
アルマがソファーから降りて俺の側に来た。
ーーー……一人や二人…家に住む奴が増えてもわたしは構わないわよ。
古代語で話し掛ける。
ーーー悠は自分の意思でその娘を助けたんでしょ……だったら最後まで面倒を見なきゃ無責任じゃない?
…反論できねぇ。
ーーーアイヴィーのお願いを無碍にするの?
………。
ーーー決めるのはあんたよ。
ーーきゅきゅきゅきゅう!きゅーー!!
ーーーあらあら〜!キューもその娘を気に入ってるみたいじゃにゃーい。
「………」
…助けたなら最後まで面倒を見るべきか。
「…分かった」
「「!」」
「オルティナは俺の事情も知ってるしユーリニスとの問題もある……一緒に住んだ方が都合も良い」
「じゃあ〜…」
俺は笑って答えた。
「今日から此処が君の新しい家だ」
「わ〜〜〜〜〜い!」
…さっきまでの悲壮感が綺麗さっぱり消えたぞ。
「ーー悠!大好きっ!」
「おっと」
アイヴィーが抱き着く。
……まぁこの笑顔が見れたら万々歳、か。
「うふふふ!私も〜〜…えいっ」
「お、おふぅー!」
オルティナはあかーーん!!
こ、これは…俺の自制心が日々試される気が!?
ーーーだらしなく鼻の下伸ばしちゃってまぁ……。
暫く地獄のよーな天国のよーな時間が続いた。




