女の戦い ⑤
3月16日 午前7時51分更新
「…ってか別に言い争うつもりはねー」
「さいですか」
鼻の頭を掻きモミジは笑う。
「……それにちょっと嬉しいぜ」
「嬉しい?」
「ライバルが増えるのは嫌だけどよぉー…同じ悩みで話せる友達ってのはありがてぇじゃねーか」
「………」
レイミーは照れて頰がほんのり染まる。
「どっちが勝っても恨みっこ無しだぜ」
「…ええ」
微笑み頷く。
「裏を返せば他の連中も好感度にゃあ差がねぇし…全員に希望はあるって意味になっちまうが」
「…成る程。彼がどう女性の好意を捉え曲解してるのか……こっちから襲って既成事実を作れば観念すると思うけど」
「き、既成事実って…おまっ…それ…」
「顔が真っ赤ね」
「うっ、うっせー!…オ、オレは純愛なんだよ!!…ま、ま、まだ…その…しょ、処女だし……」
「私だってヴァージンよ」
生々しい会話だった。
「…肝心のユウは超鈍感でクッソ無自覚だし…もし、もしもだぞ?覚悟を決めて夜這いしても…普通に心配されて失敗に終わったら…」
「……立ち直れないかも知れませんね」
想像して背筋が寒くなるレイミー。
悠ならば起こり得る話だ。
優しく説教タイムに突入するに違いない。
「だろ?」
「それでも奥手は悪手よ。多種多様のアプローチは検討し試みるべきだわ」
「恋愛本でも買ってみっかなぁ…」
強気で男勝りな姿は形を潜めしおらしく悩む乙女な一面が顔を覗かせる。
「……ふむ」
書類を束ねて差し出す。
「……敵に塩を送るのもどうかと思いますが」
「あん?」
「見て頂戴」
「さっき言ってた重要案件の書類じゃねー……んっ!!?」
渡された書類を見て驚く。
「こ、こ、これは」
「悠さんのギルドに開く道具屋の予算案よ。御覧の通り共同経営者は私です」
「レイミー!お、お前……いつの間に!?」
「プレゼントを貰った日に多少、強引でしたが開店の約束を交わしました」
悠が聴けば吹き出すだろう。
多少という単語は不適切である。
「勿論、彼の目覚ましい錬成技術が無ければ無理な話だし運営資金の補助を第一に目的とした私なりのサポートよ」
「……」
何か言いた気にモミジはレイミーを凝視した。
「……個人的な私欲が絡んでる事も否定しないわ」
「だろーよ…チッ!…ま、マジで羨ましい…」
「羨むだけで良いの?」
「はっ?」
「彼が鍛治師としても超一流の職人だからこそ可能な事業案がある」
「!」
レイミーの言いたい事をモミジは即座に理解する。
「で、でも…前例が……」
「どのギルド法にも違反該当はしないわ」
「……」
「新しい時代の新しい冒険者ギルド…これはビジネスとして…友達として…貴女に提案しているの」
「レイミー…」
「乗り気でないなら無理にとは言わない」
「……バカヤロー」
モミジの瞳に熱が宿る。
「ユウの技術と信頼がありゃ文句を言う奴ぁ…『巌窟亭』に一人もいねーよ」
「なら?」
「鍛治屋のある冒険者ギルドを作ろうじゃねーか!」
「……そう答えると思ってたわ」
「ユウにはオレから話すよ」
「彼も驚くでしょうね」
「拒否ったらぶん殴る!…レイミーは良くてオレがダメってのは納得いかねーし」
「理に叶ってるビジネスで彼も文句は無いでしょう」
「…ライバルに助けられちまったな…この借りはいつか返すぜ」
「期待してるわ。早速、具体案を練りましょうか」
「おう!」
意気揚々と具体的に事業展開を話す二人。
…悠は冒険者ギルドと職人ギルドの関係の改善を望んでいるので強ち的外れでもないが…本人の知らぬ間に了承も得ず同意が前提のもと話が進んでいく。
そこに恋慕が混在している真実に彼が気付けるかは定かではない。
恐らく……いや、確実に気付かないだろう。
一人の男を巡る女達の戦いはヒートアップするばかりだ。
…誰が勝利と祝福を手にするのか…?
これだけは言える。
近い将来、鈍感な博愛主義者の彼が痛い目に遭うのは間違いないと。




