女の戦い ③
3月13日 午前7時53分更新
〜午後14時40分 空中庭園〜
心地好い風と気温が眠りを誘う。
ベンチに座り木漏れ日を謳歌する二人と一匹。
「ふぁ〜…いい天気ですねー」
「ん…眠くなってきた…」
ーーきゅあぁ〜〜…きゅむきゅむ…。
大きな欠伸をしてキューは丸まる。
さっき迄、一緒に居たベアトリクスは鉄騎隊に呼ばれ仕事に行ってしまった。
「おーい!」
「お疲れ様です」
キャロルとフィオーネだ。
「…お疲れ」
「どうも〜」
「オルティナ様もご一緒だったのですね」
「さっきも言いましたがオルティナで構いませんよ〜」
「あっ…済みません」
「うふふ〜!私はもうGMじゃないし畏る必要はありません。仲良くしましょ〜」
「勿論です。…私のこともフィオーネと呼んで下さいね」
「はいな〜」
「ユーのギルドに所属すんだしフレンドリーにいこーぜ!」
歩き回った際に既に二人に経緯は説明済みだ。
「…揃ってどうしたの?」
眠気を堪え聞く。
「実はアイヴィーちゃんにお願いがありまして」
「お願い?」
この展開にアイヴィーは既視感を感じたのだった。
二人の話を聞く。
〜数分後〜
「プレゼントですか〜」
「そーそー」
新規冒険者ギルド発足の記念にお祝いの品を渡したいとフィオーネは説明した。
「…お気遣いどうもだから…」
重力に負けつつある瞼に抗い礼を言う。
「ふふ!個人的な恋慕を大いに含んでますが」
「恋慕〜?」
「オルティナさんは突然の告白に吃驚するでしょうが…私は悠さんが好きなの…出逢った日に心を奪われまして…彼は特別な男なんです」
「ウチもウチも!…親友に遠慮はしねぇって決めたんよ」
「親友で強敵ね。…うふふふ!負けませんから」
「上等!…ま、今回は話し合って二人一緒に贈ろうってなったけどな」
恋敵となっても友情に亀裂はない。
心から互いを尊敬しているからだ。
「ユウさんはモテるのね〜」
「本人は呆れて口が塞がらない程、無自覚ですが……はい」
「気付けば女の影が増えてっしな」
悠は決して不細工ではないが美男子ではない。
誠実な人柄が異性を惹きつける要因の一つではある。
「……っと話が逸れましたね。そんな訳でアイヴィーちゃんに悠さんが欲しい物を内緒で聴き出して欲しいのですが…お願い出来ませんか?」
「サプライズで渡してーし頼むよアイヴィー!」
「…構わないけど先約がいる」
目を擦りながら答える。
「「先約…?」」
「さっきベアトリクスにも頼まれた」
思いも依らない人物の名前を告げられた。
「………べ、ベアトリクス様が?」
「驚きが一周して笑いたくなるなー…」
「それでもいい?」
顔を見合わせ二人は頷き答えた。
「…構いません。恋愛に身分は関係ないし正々堂々と勝負します!望むところです…ね?キャロル!」
「それな!付き合いの長さじゃ負けねーし!」
「熱い展開ですね〜」
燃えるフィオーネとキャロルを見てオルティナは感心する。
「ん…わかった」
対象的にのほほんと答えるアイヴィーだった。
〜午後15時20分 金翼の若獅子 GM執務室〜
「ただいま」
「戻りました〜」
ーーきゅきゅう〜。
空中庭園から移動し執務室に戻ると満面の笑みを浮かべた三人が出迎える。
「ーーアイヴィー嬢よ!施設の案内を有難う。…礼に美味い焼き菓子を用意してある。是非、御賞味あれ」
「ルウラが煎れたすぺしゃるてぃーもがーるに!」
「……あ、ありがとう」
テーブルに敷かれたレースには薄紫色の紅茶と美味しそうなフルーツタルトが置かれていた。
過剰な歓迎に違和感を感じつつ座る。
「オルティナも紅茶をどうぞ。ゆっくり見て回れたかい?」
「アイちゃんが丁寧に案内してくれたお陰で楽しかったです〜」
「…ふふ!それは良かった」
ーーきゅむきゅむきゅむきゅむ!
「キュー。夕飯前に食べ過ぎると悠に怒られるよ」
ーー…きゅむきゅむきゅむきゅむきゅむ!
さぞ美味しいのだろう。
一瞬、思案し止まるも再び食い漁る。
「くっくっく…御伽銘菓の焼き菓子は絶品ゆえ悠の料理で舌が肥えたキューもご満悦だな。アイヴィー嬢も食べ給え」
「おいふぃ」
熟練の菓子職人が働く御伽銘家は日頃から行列ができる有名店だ。
口に合わない筈がない。
「肩は凝ってない?まっさーじする?」
「他に食べたい物があったら遠慮せずに言ってね」
「…………」
アイヴィーは三人の顔をジーッと見較べる。
「…怪しい」
「あ、怪しい?」
ラウラが聞き返す。
「だってルウラが私にマッサージはあり得ない」
「…が、がーるは気にしすぎぃ〜…わたしは普段どーりだしぃ〜…」
顔を逸らし惚ける。
「何か魂胆がありそう」
鋭い子供である…いや、勘付くのは当然か。
「のっと!このくりーんな瞳にふぇいくはなし!」
「………」
アイヴィーは胡散臭そうにルウラを凝視する。
「あい!びりーぶ!ふゅーちゃー!…いぇーい!」
勢いで誤魔化す気が満々だった。
「…貧乳」
試すようにぼそっと呟いた。
「………」
「絶望の壁」
「…は、はっはー…意味がわからない」
ルウラの額に青筋が額に浮かび歯を噛み締める。
「永久に平坦で生まれぬ起伏」
「……そ、そんな挑発しても…ル、ルウラはあだると…き、き、気にしないしぃっーー!!」
「………」
胸の大きさを揶揄われると怒る彼女が必死に堪える。
目的達成の為に理性で感情を抑え込んでいたが…。
「下手くそラップ寸胴女」
…この煽り文句に我慢の糸が遂に切れた。
「ーーーーギャハハハハハァッ!!」
「ル、ルウラ」
「…だぁれぇがぁ…WarkなWrapperだってぇ……?」
ファスナーを下ろし瞳をぎらぎらと輝かせ本性を剥き出す。
「……」
「『舞獅子』の爪と牙の痛みでぇ躾けてあげちゃうからぁ……!」
アイヴィーのルウラを見る目は冷ややかだ。
「懐柔すんのはbad!悠兄ちゃんの欲しい物をsearchするよーにぃ…無理矢理…orderを聞きやがれ!!」
「…悠の欲しい物を探す?」
「あっ」
アイヴィーは聴き逃さない。
「やっぱり何かあると思った」
これを狙って悪口を言っていたのだ。
「…い、い、今のはち、違っ…hey!follow please!!」
「…アイヴィーにしては変に煽ると思ったよ」
「策士、策に溺れる…だな。それに便乗した吾等も同じ穴の狢か」
ラウラとエリザベートが溜め息を吐く。
「説明して」
「む、む、むぅーーー……!」
頰を膨らませ精一杯の意地を張るルウラだった。
〜5分後〜
事情を聞いたアイヴィーは淡々と言葉を吐く。
「下心で煽てられるのは良い気分がしない」
「……済まぬ」
「信用が無いみたいで嫌」
「ごめん…」
「アイヴィーを利用しようって考え方も気に喰わないから」
正論を言われ三人が項垂れる。
「皆は友達だし普通に頼んでくれればいい」
「…返す言葉もないな」
「そうだね」
「うぅー…がーる…ごめん」
「…さっき私もルウラに悪口を言ったしおあいこ」
「……」
「悠に暴露ないように聞くから心配しないで」
「…おぉー…らびゅー!!」
ルウラが感謝し抱き着く。
「…暑苦しい」
「丸く収まって良かったです〜」
オルティナが手を合わせ笑った。
「恋は盲目という諺の意味を痛感したよ」
「…冷静に考れば普通に頼むべきだったけど…気分が盛り上がっちゃって…満場一致で準備してたね」
アイヴィーは首を傾げ質問する。
「疑問だけど男なのに悠が好きなの?」
ラウラは苦笑し真実を話した。
「…悠と他の皆には内緒だよ?僕は女の子なんだ」
「え」
男性だと信じてたアイヴィーは絶句する。
「驚いたかい」
「う、うん…」
「私も最初、聞かされた時はびっくりしました〜」
「言って良かったのか?」
「アイヴィーなら問題ないよ」
「…おっぱいがないのに」
「晒しを巻いて潰してるんだ」
「触って確かめてもいい?」
「ふふふ!どうぞ」
服の上から恐る恐る触った。
「!」
柔らかい特有の手触りを感じる。
「…本当だ。ルウラより大きそう」
「へい」
「…真実だから仕方ない」
「がーるだってすもーる」
「私はまだ10歳。未来があるもん」
「……ルウラにだってどりーむが詰まってるし!」
「くっくっく」
「胸が大きくても困るだけですよ〜」
特大の西瓜が二つ揺れる。
「……オルティナに言われると虚しくなる」
「え〜」
フォローが止めを刺していた。
和気藹々とした雰囲気の中、女子話に盛り上がる。
〜20分後〜
話題が他の女性陣に移る。
「ベアトリクスにフィオーネにキャロルも…?」
「うん。頼まれたよ」
「……皆、考える事は同じか」
「ゆーは節操もなく愛想を振り撒くふりーまーけっと」
「皆には順番に平等に教える」
「…こうなれば一致団結し向かう他ないぞ」
「そうしよう。純粋にギルド発足も祝いたいし」
「ユウさんは幸せ者ね〜」
そして疑問を口にした。
「どんなとこに惚れちゃったか気になるな〜」
「ふっ…今度、酒を呑みながら肴に話してやろう」
「今更だけどアイヴィーの前だしね」
「ルウラは幾らでもすぴーちするけど」
「ふ〜ん……アイちゃんはどう思うの〜?」
「私?」
「お義父さんのことだもん〜。気になるんじゃないかしら〜」
「い、意外と攻めるんだねオルティナは」
「うむ……温和な性格と言動ゆえ目立たんが好奇心は人一倍旺盛だ」
「悠は私を誰よりも愛してくれてる」
当然とばかりに言い切る姿は堂々としていた。
「私が悠の一番だし他の人は何も気にならない」
「……くっくっくっ!流石、娘だ」
「がーるはわたしの義理の娘になるし母の愛もぷれぜんと」
「寝言は寝てから言って」
アイヴィーは隣に座るオルティナを見上げる。
「オルティナは悠のことをどう思ってるの?」
「私ですか〜?そうですね〜…」
小首を傾げ考える。
「……ふふ!素敵な男性だと思いますよ〜」
胸に手を当て微笑む。
「命を救ってくれた大恩人だし皆に好かれ愛されてますし〜……私も争奪戦に参戦しちゃおうかしら〜」
「「「!?」」」
「うふふふ〜」
「…オ、オルティナ?」
「はいな〜」
「その、なんだ……本気か?」
「エリちゃんってば慌てすぎ〜…冗談だよう」
そう言って破顔する。
「……また強敵が誕生したかも」
「ルウラも同意見」
ーーきゅう〜?
こうして女性だけで過ごす楽しい時間が過ぎていった。




