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職人ギルドに登録しよう!



〜午後15時55分 金翼の若獅子 一階フロア〜


二時間が経過し受付カウンターの前で買取額を受け取る俺の手が震える。


「……本当にこの金額で合ってます?」


「はい。死骸の解体後に素材と併せて査定した金額になります。もう一度、内訳を説明しますね。…まずバロウルフはそこまで価値はありませんが…ブードゥラットは滅多に死骸と素材が手に入りません。それに死骸の状態が良く内臓も綺麗ですし学術的に価値があります。アルカラグモの死骸は一部欠損してますが出糸突起が完全な状態で残ってる。…その結果、こちらの買取金額になります」


フィオーネさんから再度、説明を受け渡された金額は…。



「128万G……」



…128万G。所持金が一気に大幅アップした。



ーーーーーーーーー

所持金:139万8千G

ーーーーーーーーー



「…こんな貰えるとは思えなかった…」


「死骸と素材を全部、持って来られたのと状態が良かったので特別です。本来は専用業者に頼むか一部ぐらいしか持ってこれませんから」


モーガンさん…あなたの腰袋がやばいです。


「…それと…この後の予定ってどうなってます?」


フィオーネさんがそわそわしてた。


耳もぴこぴこ動いてる。


「職人ギルドを探して登録してこようかなって思ってます。…駄目かもしれませんが」


「そうですか。その後は?」


その後…?


「商人ギルドの登録のつもりでしたけど時間的に遅くなりそうですしまた今度にします。…んー…住む所を探しに行くかな…見つからないなら野宿かここの宿泊施設でも借りますよ」


「!」


耳がぴーんと立った。


「それなら私が良い不動産屋さんを知ってますのでご紹介しますよ」


「…流石にそこまで付き合わせるのは申し訳な」


「仕事は18時には終わりますので」


フィオーネさんがにこにこと笑う。


「尚更、仕事が終わった後まで迷」


「18時頃にギルド前で待ってますね」


……遮るのやめてぇ!最後まで聞いたげてぇ!


「フィ」


「待ってます」


「………」


「…付き合わせてすみませんがお願いします」


「ふふふ、はい!18時に広場でお待ちしています。…それと職人ギルドの件ですがーー」


負けるわこんなん。…この押しの強さ…モーガンさんを思い出すなぁ。


またもや周囲の男性陣からの怨嗟の声と視線が突き刺さり受付カウンターの奥から女性陣が興味深々に俺達を見ていた。


足早にギルドを出てフィオーネさんに教えて貰った第2区画にある有名な職人ギルド『巌窟亭』へと向かった。



〜午後16時10分 第2区画 巌窟亭前〜



第2区間は工房が建ち並ぶ工業区間だった。


武器屋・防具屋・金具店・貴金属店…沢山の店が活気に溢れている。店の中には『金翼の若獅子』で見掛けた冒険者が商品を物色している姿もちらほら。


巌窟亭は大きな工房でベルカでは一番の腕利きが集う職人ギルド……ってフィオーネさんから教えて貰ったけど。


最奥まで行くと鍛冶場と隣接し看板には巌窟亭と掲げられている建物があった。


煙が立ち登り金属を叩く音が絶え間なく聞こえる。


「ここか」


冒険者ギルドと仲が悪いらしいが中に入ってみよう。



〜職人ギルド 巌窟亭〜



「失礼します」


中に入るとケーロンさんが数人いた。…いや、違うけど似ている。ドワーフは皆、顔が似るのだろうか。


「…誰だおめぇ」


ごわごわ髭のドワーフに話し掛けられる。


「職人ギルドに登録にきました」


ジロリ、と睨まれた。


「…その装束…冒険者ギルドの冒険者だろ?」


「ええ。そうです」


「…それで…職人ギルドに登録にきたってぇのか?」


「はい」


負けるな俺。


ドワーフの人は小馬鹿にする様に鼻を鳴らす。


「受付カウンターに行っておんなじことほざいてみろ。…せいぜぇ泣かねぇようにな」


カウンターには女性が座っていた。


バンダナを巻き紅赤の跳ねた長髪と二本の小さな角が生えた綺麗な麗人。


…座ったまま忙しそうに仕事をしている。


「すみません」


「ーーあぁ?」


鋭く睨まれる。


顔が整っている分、余計きつく感じた。


「し、職人ギルドに登録にきたのですが…」


「………」


上から下まで睨めつくように見られる。


暫くするとテーブルの上に転がった鉱石を手に持ちルーペで検分を始めた。


「…職人を目指してる奴の格好には見えねぇな」


「冒険者ギルドにも登録してま」


そう言った瞬間だった。


ばきぃ、と右手に握られていた鉱石を砕き女性がゆっくりと立ち上がる。


「(でけぇ…)」


俺の身長は180㎝はある。その俺が見上げている。


2m以上はあるよな…?


「…たまにテメーみてぇな冒険者ギルドのクソ野郎がくるがよ…この巌窟亭には鍛治師・鋳物職人・彫金師・貴金属細工師…いろんな職人が毎日汗水流して働いてんだ。…自身の鍛え上げた腕と磨かれた技術で鎬を削ってよ。それを……冒険者ギルドのクソ野郎が…登録するだぁ…?…片手間でやれるほど甘ぇもんじゃねぇんだぞアアッ!?」


テーブルを強く叩きオーバーオール越しのでかい胸が震え怒鳴り声が響く。


「……職人の技術もねーヤツに言っても仕方ねぇけど……侮辱してんじゃねぇぞタコが」


こ、怖っ………!?なにこの人…。


ぶっきらぼうだけどケーロンさんは優しかったのに。


「遊びじゃねーんだ。物見遊山でくんなボケ。帰れ」


正に門前払いも良いとこだが…。


「…技術があれば良いんですよね?」


……ここで引くのは癪に触る。


「…あ?」


「遊び感覚で来た訳じゃない。あなた達を侮辱したくてきた訳でもない…仕事をしたくて登録しにきたんだ。せめて登録するに値する実力があるか見て貰えませんか?」


…言った!言ってやったぞ俺!声は震えてなかったよな…?


「………」


無言の沈黙が嫌だなぁ。


「…実力だと…?」


驚きの表情を浮かべてる。


「俺が鍛えた武器・鎧・ナイフが手元にあります。目利きして頂き職人ギルドに登録できる腕前じゃないと判断されたら大人しく帰ります」


「…ほぉ。オレから怒鳴られてそこまで言えるって中々、度胸あんじゃねーか…名前は?」


「黒永悠です」


「…クロナガユウ。…オレは『鬼人族オーガ』のモミジ・アザクラ。巌窟亭の鍛治師兼ギルドガールだ。後悔すんなよ…吐いた唾はもう飲めねぇからな」


文字通り鬼みたいなギルドガールさんだ。



〜数分後 受付カウンター前〜


カウンターに武器・防具・ナイフを取り出し並べる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・鋼の双剣

・クレイモア

・アイアンヘルム

・アイアンプレート

・アイアンフィスト

・アイアングリーヴ

・悠のナイフ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これが俺が鍛えた武器と防具…それにナイフです」


周りにいたドワーフ達もカウンターに集まりモミジさんと一緒に目利きを始めた。



「…ほぉ」


「識別魔道具の形跡は見当たらんな」


「中々…剣身も正確…」


「凹みもないのぉ」


ナイフを手に取ってモミジさんがぶつぶつ呟く。


「…このナイフ…玉鋼製…鍛造も…丁寧に…素延作りの反りも…」



〜15分後〜



「モミジ嬢よ…素人の代物じゃねぇぞこりゃ」


「防具も問題ないのぉ。これならすぐ卸せるぞい」


「識別魔道具も使われとらん」


識別魔道具…?とにかく悪い評価じゃなさそうだ。


「ああ…鑑定で確認した。間違いねぇ。こいつんだよ」


へぇ。鑑定のスキル持ちなのか。


「たまげるぜ。冒険者ギルドの小僧が鍛治師顔負けの一品をつくるたぁよ」


「実力は申し分ないわい。登録を断る理由にはならんな」


「…お前さん元々は鍛治師か?」


「いえ。以前に恩人のドワーフの方に鍛治仕事を教えて貰ってたんです」


モミジさんがギロッと睨む。


「………チッ。技術はあるみてぇだな。仕方ねぇ」


「じゃあ」


ごちゃごちゃしたがこれでーー。


「オレと腕相撲しろ」


……ぱーどぅん?


「…腕相撲でオレに勝ったら認めてやんよ」


何言ってんのこの人。


「技術は認めてくれたんですよね…?ならオッケーじゃないんですか?」


「あ?なんだテメェ。文句あんのか?」


いや、文句しかねーよ。


「……ユウっつたな?黙って受けとけ。もうお前さんが職人ギルドに登録できる腕前があんのはモミジ嬢もわかってんのさ。冒険者ギルドのメンバーなのがワシらも気に食わんかったが……武器や防具を見りゃ遊びのつもりじゃねぇのがわかる」


「おうよぉ…。オーガのモミジ嬢に啖呵ぁ切る度胸もあんしよ。知りてぇのは気概…根性…まあ要するにやる気だな。…怪我させるつもりもねぇしオーガに勝てるわきゃねぇし負けても登録させてくれっから。…頑張れよ」


こそこそと髭もじゃの二人が教えてくれた。


やっぱりドワーフの人はなんだかんだ優しい。


「いつまで待たせんだオイ!」


これが職人の流儀なんだろう。……そうだよな?


「…分かりました。受けます」


「ふん。ついてきな」


カウンターから離れ鉱石で作られたテーブルの上で対峙する。


「このテーブルは剛鉄鉱石で創ったテーブルでどんだけ踏ん張っても割れることはねぇ。…ま、お前の腕が割れっかもしんねぇけど」


怪我させるつもり満々じゃねーか。テーブルの上で左手と左手を組む。……めっちゃ柔らかい。


「準備はいいな?……ゴー!」


レディは!?


「………っ!?…っんだこれ…」


筋力1270の数値には鬼人族って種族も勝てないみたいだ。


正直、負ける気はしない。ただ困った事がある。


「てめっ……!!…顔…背けて…ヨユーのつも……りかよっ!?」


でかいおっぱいの谷間がすっごい見える。


しかも上下に震えてやばい…というよりエロい。


「いや…その……胸の谷間が見えるんで」


モミジさんの顔が真っ赤になった。


「どこ見てんだゴラアアアアァッ!!?殺すぞテメェェェーーッ!!!」


腕相撲をするって言ったの自分だろーが!!


…長引かせると精神衛生上良くないので左手の甲をゆっくりとテーブルに向け倒す。


「…んぐぐぐぐぐッ!?」


ぺたり、と左手がテーブルについた。


「嘘じゃろ……ッ!?モミジ嬢に勝ちやがった…!!」


「し、信じらんねぇ」


モミジさんは肩で息をしながら呆然とした表情で俺を見る。


「…はあ…はあ……はぁ…おまえ……何者だよ……?」


俺は答える。


「田舎者」


ばっちり決めた気がするぜ!



〜数分後 受付カウンター前〜



「……これに名前書いて血判しろ。したら『巌窟亭』の登録完了だ」


ぼさっと俺の前に書類とペンをぶん投げるモミジさん。…対応が雑すぎない?


「え、書類の説明とかは…」


「…あ?職人ギルドに登録するつもりできたんなら『巌窟亭』の説明なんかしなくてもわかんだろ」


「事情があってギルドの常識とかに疎いんで説明して欲しいです」


「おま…そんなんで登録にきたのか…?」


「ベルカで一番の腕利きが集う職人ギルドだって教えて貰ったので」


モミジさんは珍獣でも見るように俺を見ている。


「…バカみてぇに力が強ぇし変なヤツだな」


「よく不思議がられます」


仕方ないじゃん地球人なんだもん!…元だけど。


「…ったく。面倒くせぇ…いいか?職人ギルドはそれぞれが独立してる。同意書で共通してんのは製法の守秘義務とギルド会費を毎月払うってだけだ。…登録料は3万Gでギルド会費はギルドによって違ぇが『巌窟亭』では毎月5万G払ってもらうぜ?」


「…分かりました。サインします」


名前を書き血判を押す。紙に登録完了の文字が浮き出た。


「会費は今日から発生すんぞ」


「でしたら三ヶ月分前払いしても良いですか?」


金があるうちに払っとこう。


18万Gをモミジさんに渡す。


ーーーーーーーーーーーー

所持金:121万8千G

ーーーーーーーーーーーー



「……これで登録完了だ。ほらよ」


鉛色のカードを渡された。


「これでもう『巌窟亭』のメンバーだ…せいぜい頑張れ」


「はい。モミジさん」


「……そのモミジさんってのと敬語をやめろ。モミジでいい。背中が痒くなんぜ。オレもユウって呼ぶからよ」


少し照れた様子だ。可愛いじゃないか。


「わかりま…わかった」


一瞬、敬語を使いそうになったら凄い睨まれた。


やっぱり怖い。


「ステータスを開いてギルドを見てみろ。冒険者ギルドの他に職人ギルドの項目があるはずだから」


確認すると選択出来るようになってた。


職人ギルドを選ぶ。



ーーーーーーーーーーーーーー

職人ギルド

ギルド:巌窟亭

創作依頼達成数:0

受注依頼達成数:0

納品達成数:0

CP:0

ーーーーーーーーーーーーーー


色々と項目がある。


「順に説明すんぜ。創作依頼は材料を全部、自分で用意して依頼主の依頼品を作成する依頼だ。労力はかかるが…一番、成功報酬がいい。けど材料を用意するには商人ギルドや冒険者ギルドへ頼むか自分で準備するしかねぇからな。手間がかかる」


「それで冒険者ギルドに依頼がくるわけか」


「……昔、注文で依頼料をぼったくられたり素材の値段を倍近く請求されたから商人ギルドが間に入るようになったのさ。……ユウが悪いわけじゃねーが冒険者ギルドに良い印象があるヤツは少ねぇ」


両者の言分もあって怨恨の根が深そうだ。


「…チっ。話が逸れたな……次は受注依頼だ。相手側が素材を用意するから創作依頼より楽だし依頼数が多いけど依頼した内容と違うとかクレームも一番だ」


ふむふむ。


「最後に納品。これは自分が作った品物を商人ギルドを介して各店に卸す。自分のペースでやれっけど仲介料を取られるし売れねーと金は入らねぇ。『識別魔道具タグメーカー』を使って誰が作ったかわかるよーになってっから偽装はできねーぜ」


CPクラフトポイントは依頼を達成してくと貯まるポイントで一定数、貯まれば独立して自分の職人ギルドを持てる許可が下りっけど資金や土地がねぇと無理だな。…だいたいこんなもんだ。鍛冶場の設備は自由に使え。朝から晩まで炉はつきっぱなしだからよ」


「詳しい説明ありがとう。モミジ」


「……ケッ。なれねーことしたから疲れるぜ…ったく」


満更でもなさそうに見える。


「早速、納品してもいいか?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・鋼の双剣

・クレイモア

・アイアンヘルム

・アイアンプレート

・アイアンフィスト

・アイアングリーヴ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ケーロンさんの鍛冶場で鍛えた武器と防具は納品することにした。持ってても使わないし。


「……はいよ。売れたら仲介料を引いて渡すから」


「ああ」


そろそろフィオーネさんとの約束の時間だ。


「じゃあまた」


「……まてよ」


「?」


「……最初に怒鳴ったりして…その…なんだ……わるかったよ」


そっぽ向いて謝る。


…最初の態度を気にしてたみたいだ。


「はは。全然、大丈夫さ。それに」


「あ?」


「腕相撲で顔を真っ赤にして怒ったとき可愛かったぞ」


仕返しに笑って言ってやった。


「なっ………!?」


後ろから怒声が聞こえるが殴られそうなので巌窟亭を急いで出て行った。



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[一言] 職人ギルドに登録する必要ある?勝手に作った物売ればいいじゃん。
2021/03/23 17:11 退会済み
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