鉄と炎の芸術 ②
「…あ、そーだ。『串刺し卿』から成功報酬金を預かってるぜ」
「おー」
「報酬金の1500万Gだ」
札束がカウンターに置かれる。
「…たしか最高で1000万Gだったと思うが」
「『相応の品には然るべき対価を支払う』…っつってぽーんっと置いてちまったよ。さすが馬鹿強ぇだけあって武器を見定める眼は確かだな…オレもざっと見させて貰ったがそんぐれーの価値はある武器だった」
…エリザベートに会ったらお礼を言わなきゃな。
「有難く貰うよ」
「おう!」
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職人ギルド
ギルド:巌窟亭
創作依頼達成数:7
受注依頼達成数:1
納品達成数:3
CP:1450
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所持金:1億6500万G
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大金を支払って再び大金を手に入れる。
……いひ!
お金に困らない生活って贅沢ぅ〜。
「あといつもの納品だ」
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鉱石
・鉄鉱石×30
・銅鉱石×30
・銀鉱石×30
・金鉱石×30
・鋼石×20
・玉鋼×20
・魔鉱石×20
・鉛重鉱石×10
・白鉄鉱石×10
・竜鉄鉱石×1
・竜鋼石×1
・黒鉄鉱石×1
・純銀鉱石×1
・純金鉱石×1
・翡鉱石×1
・純硫黄石×1
・雹鉱石×1
・龍鉱石×1
・重魔鉱石×1
・重竜鉱石×1
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前回より数は少ないが質が良い鉱石を選んできた。
「毎度毎度、助かる……ってめちゃくちゃ良質な鉱石ばっかじゃねーか!」
「今回は量より質を重視してみたよ」
「…本当に感謝しなきゃな。『巌窟亭』の職人を代表して礼を言うぜ」
「気にすんなって。それと依頼はある?」
「創作依頼ならあっけど」
「依頼書を見せてくれ」
モミジが依頼書を渡す。
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創作依頼:オーダーメイドの銃が欲しい!
依頼者:楔の教会 ギルドメンバー シュウ
成功報酬金:30万G
依頼期間:7日
内容:よーやく所属するギルドが決まって頑張らなきゃいけない時期なんだ!…あたしは銃って珍しい武器を使ってるんだけど…既製品は威力も低いし困ってるの…良ければ威力が高い散弾銃を作ってくれない?
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創作依頼:かっこいい刀をお願いします…
依頼者:楔の教会 ギルドメンバー ユージン
成功報酬金:25万G
依頼期間:7日
内容:あの…憧れてる人が刀を使ってて…できれば黒刀の刀が欲しいです。耐久力があって切れ味が……あ、い、いえ!頑丈であれば文句はありませんはい…。
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「ふむ」
「さっき来た若い冒険者共の創作依頼だな。刀はともかく銃を頼むなんざ珍しいぜ。魔法より使い勝手が悪いし整備にゃ知識が必要だかんな」
俺も銃を扱ってるし親近感が湧く。
「この二つの依頼を受けるよ」
「わーった」
「最近はウェポンバフの武器ばっか鍛えてたからな…威力や性能は大事だが依頼者の意に沿う物を作ってこその職人だ。初心を忘れず頑張るよ」
「そーゆー考え方は好きだぜ。実力がある職人ほど基本を忘れねぇーかんな」
「嬉しいなぁ」
「…ふん」
照れ臭そうに鼻の頭をを掻く。
「俺もモミジのさっぱりした性格が好きだよ」
「す、す、す、好きってお、おまっ…!」
「頼りになるし優しいし」
「ば、バカ!…んなん当たり前だっつーの」
言葉とは裏腹に表情は嬉しそうだ。
「へへへ…ふっふっふーん〜!」
上機嫌に鼻歌を歌いながらカウンターに散乱した依頼書を整理する。
「……」
「ん?」
視線を感じ振り向くとダーニャが柱の影からこちらの様子を窺っていた。
…さっき怒られた手前、顔を出し辛いのかな。
「ダーニャ?」
「!…ちっ…気付いてやがったか」
声を掛けると観念したのか姿を現した。
「…テメー…さっきはよくも逃げやがったなぁ?…拳骨と尻を叩かれんのどっちが良いか選びやがれ」
「あ、姉貴ぃーー!ご勘弁をーー!」
頭を下げて謝る姿にモミジは溜め息を吐き告げる。
「だったらユウにちゃんと謝れ」
「うっ…そ、それは…」
「…お前がヒュームを嫌う理由は分かっけど…知りもしねぇ相手を一方的に毛嫌いすんのは差別と一緒だろーが」
「うーー…」
「…人間が悪いんじゃねぇ。悪いのは帝国の連中だ」
「………」
項垂れるダーニャ。
きっと心が理解を拒んでるのだろう。
帝国の奴等がこの子を傷付け与えた恐怖の罪は重いものだ。
…分かって貰うには言葉でなく行動で示す他ない。
「ダーニャ」
「…んだよ」
「良かったら俺の鍛治仕事を見てみないか?」
「……」
「鍛冶場は空いてるかな?」
「あ、あぁ…この時間は皆、休憩してっから」
「な、なんだっつーんだよ…」
「よし!じゃあ行こうぜ」
工場に向かう。
「…どーゆーつもりよ?」
モミジが小声で囁く。
ダーニャは離れた位置から後ろを着いてきた。
「あの子に仲間って認めて貰うために必要なのは言葉じゃない。…実力と態度で示すのさ」
「……」
「俺が考えてるとーりなら……ま、何とかなるよ」
それを聞いて呆れ半分に呟く。
「こーゆー時の行動力と察しの良さも普段から働かせて欲しいもんだぜ……ったくよー」
「?」
「なんでもねぇーよ」
金属音が響く工場へ足を踏み入れる。
何気に入るのは初めてだな。
〜巌窟亭 鍛冶場〜
……おぉー!流石は巌窟亭だ。
設備は万全で整備も行き届いてる。
咽せ返る炭と鉄の嗅ぎ慣れた匂いが体を満たす。
「あの端が空いてるぜ」
「ありがとう。道具を借りて…あと鉱石も貰うぞ」
「おう」
早速、取り掛かるか!
〜2時間後 巌窟亭 鍛治工房〜
「ーーふっ!」
精錬した鋼を金槌が叩く度に火の粉が空中に舞い肺を熱気が焦がした。
…水で急冷し固まった鋼を再び叩く…それの繰り返しだ。
角張った鉱石が形を変え自分の想像した姿へ変わっていく様は言いようのない楽しさがある。
鍛治職人の醍醐味とでも言おうか。
……あと少しだ。
〜10分前 鍛治工房〜
炉の周りに集まる職人達。
脇目も振らず鍛治に没頭する悠は気付いていない。
「…ごくっ…」
「…直で見るのは初じゃが大したもんじゃわい…」
「積み沸かしの早さ…正確な鍛錬に土置きのタイミング…仕事な早いのも納得じゃなぁ」
「技術が想像に追い付いってから迷いもねぇ…技術と鍛治の数値が並じゃねぇ証拠だ……ものの二時間で完成寸前じゃねぇか」
「ご、ごくり…」
迫力ある悠の仕事に生唾を飲み込むダーニャ。
「……ダーニャ」
「は、はい」
「オレも最初はユウを見縊ってた」
「…え?」
「へっ…冒険者と職人を片手間で兼業する甘ちゃんがって…怒鳴り散らしてよぉー…懐かしいぜ」
モミジは悠を見詰めながらダーニャに語り掛ける。
「今じゃ誰もが認める『巌窟亭』の超一流職人だけどな」
「……」
「…頑固で鈍感で意地っ張りで…自分がどんな辛い時も言い訳はしねぇし誰かのせいにもしねぇ。…損得考えず他人に一生懸命になって……だから放って置けねぇーし…慕われるのさ」
「…姉貴…」
姉貴と慕うモミジの初めて見た女の顔だった。
「……まぁ故郷を奪われたお前にヒュームを憎むなってのは酷な話だよな」
甲高い金属音に合わせ炎が踊る。
「…綺麗だろ?」
「……うん」
「一流の職人が魅せる鉄と炎の芸術は職人しかその凄さを理解できねぇ。…理解できるのはダーニャも同じ職人だからだ」
モミジはそれ以上、何も言わない。
伝えるべき事は伝えたからだ。
「………」
ダーニャは黙って見詰める。
悠が織り成した芸術の一端を瞬きせず見続けた。




