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鉄と炎の芸術 ①

3月7日 午後22時25分更新



〜午後13時30分 第2区画 巌窟亭〜


巌窟亭に到着っと。


「ーーすみませーん!依頼書ができました〜!」


「おう。品は七日後に取りに来い」


「はーい……あんたはまだ書き終わってないの?」


「…うーん…創作依頼の要望ってどこまで反映して貰えるか分からなくて」


「あン?職人の腕次第だが見せてみ…チッ」


「や、破いた!」


「身の丈にあった注文をしやがれってんだ。書き直せ」


「いつもご利用ありがとうございまーす!ウルブスローダーです〜!配送物の受け取りに来ました〜」


「明日の夕方までに店まで運んでくれ」


「へーい!」


相変わらず大盛況の巌窟亭。


客で賑わうカウンターから離れ様子を見守る。


「ダーニャ!鉱石の検品は済んだか?」


「姉貴ぃ!完了でっす!」


ん?…あの角が生えた女の子…見ない顔だな。


暫く落ち着くまで待機した。



〜15分後〜



客も捌けたし声を掛けても良さそうだ。


「お疲れ」


「おう!…顔も出さねーし連絡は寄越さねーし…今日でもユウの家に行こうと思ってたわ」


モミジに肘で胸を小突かれた。


「悪い悪い。モミジも忙しくて暇が無さそうだな」


「前より冒険者の連中が頻繁に来るよーになってよ」


「へぇ」


「嘘みてーに礼儀正しくなってっし」


「うんうん」


素晴らしい!


「その原因はお前だけどな」


「俺?」


「巷じゃ『辺境の英雄』は仲間を侮辱されると『阿修羅(アスラ)』になる…って噂が広まってんだ」


「…アスラ…」


「『巌窟亭』にユウが所属してるのは周知の事実だし職人を蔑むとヤベーって思ってんだろ」


…まーた変な二つ名が広まりつつあるなぁ。


「…あと職人ギルドを敬遠して店売りの武器を使ってる冒険者が多かったが…冒険者が兼業してる『巌窟亭』なら注文し易いってのもあんじゃねーか?」


「敷居を低く感じてるってやつか」


「おう。お陰で店売りの既製品よりオーダーメイドの良さに目覚めたんだろ」


「ふーん」


理由はどうあれギルド間の関係修復に微力ながら貢献できて万々歳だ。


「あっ!…それより献上金の件はどーなってんだ?」


「それはーー」


モミジに説明した。



〜数分後〜



「クソっ!!オレも土下座が見たかったぜ」


「あはは」


悔しそうに拳を握る。


「…っつーか3億Gも払っちまって懐は大丈夫か?」


「貯金に余裕はあるから」


口をへの字に曲げた。


「…んだよ…生活の面倒を見てやろうと思ってたのに…」


「女の子に金を借りるほど落ちぶれてないよ」


「そーゆー意味じゃ……ったく鈍感!!」


「えぇ」


どーゆー意味なんだろう。


「…ただでさえ女の知り合いが増えてっから…ぶつぶつ…油断してっと…ぶつぶつ……」


「ーー姉貴ぃ!!」


元気な声が響き渡る。


「…考え事してっときにうっせぇーなぁ」


「さーせんっ!依頼書の整理が終わっしゃあしたっ!!」


「だ・か・ら……静かに喋れっつってんだろ!」


モミジが拳骨を少女にお見舞いした。


「〜〜っ!…あ、頭が叩き割れっかと思いました…さっすが『紅兜』!羆みてぇーな怪力で女とは思えねー……あ、痛ってーーー!」


「…だーれが…羆みてぇな女だって?ん?」


「いだだだだ!ほ、ほ、褒め言葉ですよぅ!!」


アイアンクローが絶賛、炸裂中。


「…モミジ。この子は?」


「あ、ユウは会うのが初めてだっけか」


手を離し少女を解放する。


「し、死ぬかと思ったーー!」


「このうるせーガキはダーニャ。オレと同じオーガで『巌窟亭』の見習い鍛治師だ」


赤い髪にバンダナを巻いたボーイッシュでやんちゃそうな可愛い女の子。オーバーオールが油と炭で汚れてるのは仕事熱心な証拠だろう。


「俺の名前は黒永悠。よろしくなダーニャ」


「……」


「え」


差し出した右手を払い退けダーニャは俺を睨む。


「慣れ慣れしくダーニャって呼んでんじゃねーぞ!…加齢臭がくせぇんだよおっさん」


がーーーーん!!


「おっ、おっさん…」


こ、心が粉々に砕けそう。


加齢臭って…くんくん…タバコ臭いのか?


「先輩の職人にどんな口の利き方してんだテメーはッ!」


「痛ってぇぇーー!!!」


モミジの拳骨にダーニャが頭を押さえて叫ぶ。


「ユウは皆が認めた本物の鍛治職人だ。…ちゃんと敬意を払わねーか!敬意を!」


「……へーい」


頭を摩りながら不満そうに返事をする。


「ったく」


「まぁまぁ…あんまり怒らないでやってくれよ」


「あぁっ!?偉大な姉貴の指導(愛のムチ)に口挟むんじゃねーよ!この糞ヒューム!」


愛の鞭!?


「…テメーの耳はお飾りかぁっ!?」


「あ、痛ったーーーー!」


モミジの愛の鞭にぴょんぴょん飛び跳ね痛みを全身で表現するダーニャ。


「ちゃんと謝らねーか!」


「…ふ、ふーふー…軟弱でずる賢いヒュームめ…姉貴を上手く騙しやがって……ちくしょー!……おれはお前なんかぜってー認めねぇかんなっ!」


「ダーニャ!!」


「べー!」


舌を出し奥へ走り去ってく。


「ーーははは!元気があって面白い子だな」


思わず笑ってしまった。


「…悪ぃ。嫌な思いしちまったろ?」


「気にしてないから大丈夫さ」


生意気な子供ほど可愛いもんだ。


「…ちょいちょい面倒は見てたが先週から正式に『巌窟亭(うち)』に所属して…まー…オレの弟子っつーか…妹みてぇなもんなんだわ」


「へぇ」


小さい頃のモミジもあんな感じだったのかなぁ。


「ダーニャは『鬼の里』ってエイヴンの()()沿()()()()()()オーガの集落の出身なんだ」


「国境沿いにあった?」


今はないって言い振りじゃないか。


「あ、いや……隠すわけじゃねーけど…」


整った眉を顰め頭を掻く。


「…九年前に帝国(ガルバディア)の『魔導兵』の侵略で集落は滅んじまったんだよ」


「……」


「国境警備軍の活躍で奇跡的に死者は誰一人居なかったけど…()()()()()が土地一帯を汚染し枯らしたせいで……人が住めねぇ場所に変わっちまってさ」


モミジが眉を顰めた理由が分かった。


「…故郷を失った里の皆は近隣の国や街に身を寄せて暮らす羽目になったそーだ。…帝国はヒュームが支配する国で…それでダーニャはその…」


「俺が嫌い、か」


「……ああ。ユウ以外のヒュームもスッゲー毛嫌いしてっしよぉ」


故郷を奪った人間(ヒューム)はあの子にとって許し難い存在だろう。


「…人間がごめんな」


無性に謝りたくなった。


「ユウは悪くねぇーよ」


「……」


「ーーおらっ!」


「痛っ!」


ばしっと背中を叩く。


「そんな情けねー顔すんじゃねー!」


モミジが笑う。


「ダーニャだってユウと仲良くなりゃきっと分かってくれるさ…な?」


「姉貴…」


「だ、誰が姉貴だっつーの!バカ!」


力強い頼もしさに思わず姉貴と呼んでしまった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ダーニャ嬢…よかったね、モミジしかいなくて 他の女性陣もいる時にそんなこと言ったら針の筵ってレベルじゃねぇぞw 一部の女性陣はきっとソレに乗じて匂いを嗅ぐ系イチャコラをしようと図るんだろうな…
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