オルティナの決意 ③
3月6日 午前7時10分更新
「う〜ん」
眉を八の字に困り顔で俯く。
「何かあるのか?」
「実は私、忌避されてるんです〜…今回のGM交代と…ヨッくんがその…」
言い淀むオルティナ。
「…成る程、ね。『白蘭竜の息吹』は古参で傘下が多い冒険者ギルドだ。ヨシュアの命令かい?」
「はい〜。ラウちゃんの言うとーり…近隣諸国の同盟を結ぶ冒険者ギルドに…私の所属申請を受ければ同盟破棄と見做す…って通達が出回ってるみたいでぇ〜」
「…内情を知らぬ者からすればオルティナは火種…内情を知る者さえも『爆炎の息吹』と『貪慾王』の名を恐れてる……糞っ!全く持って忌々しい!!…出立が遅れた原因もそれか?」
「そうだよ〜」
「……先代は?」
「『流れに任す』って…父は一切、口を挟む気はないみたい〜」
自分の一人娘が困ってるのに無責任だ。
それとも何か理由があるのだろうか…。
「…『金翼の若獅子』に脅しは通用しない。所属するなら僕が全力で擁護するけど…」
「無論、吾もだ。しかし…」
二人が口を紡ぐのは『貪慾王』がいる限りまたトラブルに発展すると分かってるからだ。
「ルウラが『爆炎の息吹』をぶっ飛ばして言うことを聞かせよっか?」
「…ルウちゃん」
「…気持ちは分かるけど駄目だよ」
「だってオルティナが可哀想だし」
……本当にルウラは変わったな。
オルティナを思い遣る気持ちが伝わってくる。
その成長に一役買えて光栄に思うぜ。
「ありがとう〜…でも気持ちだけ受けとるね〜…家族と揉めるのはもう嫌なの…」
「むー」
「ルウちゃんはかわいい良い子ちゃんですね〜」
「…べつに」
「耳が真っ赤でお猿さんみたい」
「しゃっとふぁっくあっぷ」
「そんな理由があったんだな」
家族想いの彼女が貧乏くじを引かされてる。
世の中は理不尽極まりない。
「…はい〜」
「オルティナの実力もGRも申し分無いし無所属でも問題なく通用すると思うけど…」
「そこは別問題!…私はユウさんの役に立ちたいの〜」
ラウラに絶対に譲らないって顔で明言する。
オルティナの決意は固いようだ。
「…悠」
ーーきゅきゅ!
アイヴィーが俺に目で訴えかける。
……やれやれ。言わんとしてる事は分かってるよ。
俺も話を聞いた以上、意固地に拘る馬鹿じゃない。
「…新米のGMにしたらGM経験者のメンバーの所属ってのは願ってもないチャンスだもんな」
「!」
「渋って悪かったなオルティナ」
「ユウさん…」
「一緒に頑張ろう。ご指導ご鞭撻を宜しく頼む」
差し出した右手。
「……はい!」
両手で握り締めて力強く返事をする。
…オルティナ・ホワイトラン。
初ギルドメンバーの誕生だ。
「驚きはしたが悪くない。…どこぞの馬の骨とも分からぬ輩より安心してオルティナを任せられる」
「…現状を省みるとベストな選択だと思う。オルティナのGMとして培った知識や経験も活きるし」
「えへへ〜!私、頑張るよ〜」
「ルウラもそっちがいい」
「副GMの権限で断固、拒否する」
「……ゆー!GMの権限でルウラも入れて〜」
「ラウラが許可したらな」
「却下」
ぴしゃりと言い放つ。
「むーーー!」
可愛く剥れちゃってまぁ。
「アイちゃんもキューちゃんもよろしくね〜」
「ん」
ーーきゅ〜。
「…しかし『辺境の英雄』と『常闇の令嬢』…それに『水雲の息吹』…三人しか居ないが現段階でも相当な戦力だぞ」
「話題になるのは間違いないよ」
「あんまり騒がないで欲しいなー…」
心から願ってる。
「そう云えばオルティナの住む家は決まってるのかい?」
「大丈夫ですよ〜」
「そうなのか?暫く吾の部屋に泊めるつもりだったが」
「今、決まったから〜」
へぇー…事前に住む家やアパートを探して不動産屋で目星を付けてたのかな。
用意周到じゃん。
「さてと……用事も済んだし俺は『巌窟亭』に行くがアイヴィーも一緒に来るか?」
「ううん。ここで勉強する」
「勉強?」
「私は副GMとしての知識が足りない。本には載ってないしラウラに教えて欲しいから」
責任感のある台詞だ。
…よっぽど入れ込んでるなぁ。俺も見習わないと。
「嬉しくて涙が出そうだ。……父と妹にアイヴィーの爪の垢を煎じて飲ませたいね」
「ひゅーひゅー」
明後日の方向を向き口笛を吹いて誤魔化す妹。
「……ふふ!僕で良ければ幾らでも教えるよ」
「ありがとう」
「仕事があるのに悪いな」
「ううん。後進の教育も立派な仕事だから」
「…くく!ならば吾も久々に手伝おうか」
「気乗りしないけどルウラも」
「私は移民登録の書類を書かせて貰うね〜」
こーゆー和やかな雰囲気は大歓迎だ。
幸せな気分に浸りつつ巌窟亭に向かった。




