オルティナの決意 ①
3月4日 午前7時30分更新
〜扉木の月24日〜
十三翼からの個人指定依頼をこなし四日が経過した。
フィオーネが超高難度と言うだけあって歯応えがある依頼ばかりだ。
…未だ達成済みはデポルとムクロさんの二つのみ。
二人の信頼もそこそこ獲得したし知り合いが増えたのは喜ばしい。
詳しい経緯と顛末は……またの機会でいっか。
話すと長くなるしね。
この調子で残る個人指定依頼も片付けていこう。
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冒険者ギルド
ランク:S
ギルド:なし
ランカー:なし
GP:14500
クエスト達成数:55
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所持金:4億5000万G
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大事なのはここから…。
今日はいよいよ初回献上金の納品日!
オルティナがベルカに上京してくる日に調整したのだ。
…彼奴に屁理屈を捏ねて機を脱するチャンスは与えん。
約束通り二人へ土下座と謝罪をして貰う。
…ネフ・カンパニーの件も問い詰めたいしな。
んー…こー考えると俺って意外と性格が悪いかなぁ…罪悪感は微塵も湧かないけど。
役者は揃ってるしさっさと終わらせよう。
〜午前12時 金翼の若獅子 三階 会議室〜
「ーーこれが約束の献上金だ」
「………」
積み上げた3億Gの札束の山。
「誰にも援助は受けてない。アイテムを売って自力で稼いだ金だ。証明書もある……疑うなら見て」
「疑う余地はない」
「あ、あれ?」
予想だにしないユー二リスの返答だ。
「…一昨日、『世界市場』に目を疑う巨塊のゴールド・メテオが売りに出された。…出品者は『オーランド総合商社』…お前が所属する商人ギルドだ。既に調査済みさ」
「まあな」
…抜け目のない野朗め。
しっかり動向を探ってたんじゃねーか。
「部下の報告では…121億Gで『宝都』の領主が競り落としたそうだ。『オーランド総合商社』への売却額は知らんが……ふはは!今更、3億Gなど端金だろうよ」
「…ほ、本当に考えがあったのだな…それが純金隕石の売却だったとは吾にも予想外だ」
「私とエリちゃんのために…レアアイテムを…」
両隣に居る二人が息を飲む。
帯同するギルド職員も驚いていた。
「この場で紙幣を確認し数える必要は無さそうね」
ゼノビアさんが頷く。
「黒永悠。冒険者ギルド総本部『金翼の若獅子』へ期日内に初回献上金の納入を確かに見届けたわ。…申請手順と書類記入に関しては改めてラウラから説明があるでしょう」
「しゃあっ!」
小さくガッツポーズをする。
「運んで頂戴」
「了解しました」
職員がケースに入れ分けて金を運び出す。
育てた牛が買われた気分だ…ドナドナ〜ってか。
ばいばい俺の3億G!
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所持金:1億5000万G
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「貴方が交わした約定よ。分かってるわね?」
ユーリニスを一瞥するゼノビアさん。
「…心配せずとも覚えてるさ」
椅子から立ち上がった。
「……」
強烈な殺気をエリザベートが飛ばす。
しかし、ユーリニスに焦り悔しがる様子は一切ない。
…かと言って嘲り挑発するわけでもなく…機械のように冷たい無表情のまま二人の前に立った。
離れた位置で黙って成り行きを見守る。
「「!!」」
重苦しい空気は驚きで振り払われた。
ユーリニスは両膝をつき額を床に擦り付け文句の言いようがない土下座を披露した。
「え」
素直に応じると信用して無かった俺の口から声が漏れる。
「此度の件はすまなかった」
「………」
「あっ…」
立ち上がり両膝を手で払い当然の様に言い放つ。
「…何かね?約束は守っただろう」
うわっ…瞭然としねぇ。
土下座して謝ったが…もっとこう…誠意を込めろって怒鳴りたい。
「…また吾の同胞を騙し傷付ければ問答無用で処す…その際は精々、地面に注意を払うんだな『貪慾王』」
「私は謝ってくれたので〜…もう…はい」
むー…二人がそう言うなら敢えて口は挟まないが。
「くく…『串刺し卿』も『水雲の息吹』も竜人族は寛大だな…私は感動で涙を流しそうだよ」
虫唾が走る皮肉をよくも…この野朗っ…。
「怖い顔してるわよ」
「べ、別にぃ!」
「…嘘が下手ね」
ゼノビアさんが小さな溜め息を吐いた。
「苛立つ気持ちは分かるが悠のお陰で大分、溜飲は下がった……有り難う」
「お気持ちだけで凄く嬉しかったですから〜」
納得してない俺を見て諭すように微笑む。
荒んだ感情が少し引いた。
「……分かった」
「皆が執務室で待ってるし戻ろうではないか」
「はいな〜」
「…悠?」
「先に行ってくれ。少しユーリニスと話がある」
「ほぅ…これはこれは…まさかの御指名とは」
「……彼の謝罪が想像と違ったからと言って武力に物を言わせる気かしら」
「ち、違いますよ!」
ゼノビアさんが訝しげに俺を見ていた。
信用してくれよな…もうっ!
「私は構わんよ」
「……分かった。外で待つ。何かあれば躊躇せず踏み込むぞ」
「ああ」
エリザベートを先頭に三人が部屋を出て行く。
会議室にユーリニスと二人っきり。
「黒永」
「……」
「先ず褒めておこう。…私が一分の反論の余地も無く土下座と謝罪をする羽目になるとは驚いたよ」
「……そうかい」
「過小評価をしていたと言わざる得ない。…思えばあの実戦試験が始まりか。…こうも極短期間でここまでの地位を築き上げるとは……くくく!まるで…伝説の勇者か英雄か…素晴らしい限りだ」
「褒められても嬉しくないのが不思議で仕方ない」
「やれやれ……哀しいよ。随分と嫌われてしまったようだ」
肩を尽くめ笑う。
残念だと微塵も思ってないだろう。
反省する気は更々ない、か。
…さっさと本題に入ろう。
「…俺の話ってのは」
「ネフ・カンパニー」
「!」
「…図星だったか。憶測が当たったな」
「うぐっ」
「『氷の女帝』が言う通り嘘が下手な男だ」
ほんっと嫌な奴。
「…だったら言いたいことはもう分かるよな」
「さて検討もつかんよ」
「孤児院にちょっかいを出すのは止めろ」
「ほぅ…」
「代理決闘の約束を守れ」
「…約束を守ろうにも『蝦蟇の貯金箱』はもう存在しない」
「そんなの詭弁じゃねぇか」
「詭弁でも事実だ」
段々と距離が縮まる。
「彼処に固執する理由に興味もないが…手を引かないなら容赦しない…俺はやると決めたら必ずやる。後悔するぞ」
「奇遇だな。私もそうだ。…幾ら貴様が手駒を潰そうと私に繋がる決定的な証拠は何一つ残らん…法も味方はしない……私と敵になる覚悟は出来てるのか?」
明確な敵意を隠さず露わにする。
どうしても譲らないようだ。
「そっちこそ」
「ふはは!…大した度胸だ」
交錯する視線。瞬きせず互いを睨む。
「この先も長い付き合いになるな」
「ああ…そうだな」
…俺とこいつは極端だ。
性格も考え方も生き方も真逆故に通じる物がある。
互いに行き着いた先は正反対だが似通ってるのだ。
「…話は終わりかね?」
「終わりだ。じゃあな」
踵を返し俺は振り返らず踵を返し部屋を出た。
事前交渉は決裂した。
…きっとネフ・カンパニーの連中は後悔するだろう。
こいつのせいで地獄への片道切符を発行されちまったからな。




