クエストに行こう。⑤
〜午後13時 金翼の若獅子 一階フロア〜
冒険者ギルドに戻るとボッツとメアリーが駆け寄ってきた。
「ユウさーん!…大丈夫!?ケガはしてない?」
「あ、ああ」
「アルカラグモに一人で挑もうとするなんて…無茶すぎるよ…ほんともう…!」
「落ちつけメアリー」
え、なにこの騒ぎ。フィオーネさんとラッシュも近寄って来る。
「お疲れ様です。色々とお伺いしたい事がありますが…先ずご無事で何よりでした」
「おー。ケガしなくて良かったじゃん」
「う、うん」
周囲を見て不可解そうな表情のフィオーネさん。
「…お一人ですか?他のギルドメンバーは?」
他のギルドメンバーってなんだろ。
「俺一人ですよ」
「合流してギルドに戻られたのでは…?」
「いや、FランクとGランクの依頼が終わったので戻ってきました」
「……ブードゥラットとアルカラグモの討伐依頼を達成された、と?」
「ええ」
全員が信じられないって顔で俺を見ている。
「…話が噛み合わないな。事情を聞かせてくれ」
フィオーネさんが説明を始めた。
〜5分後〜
「…なるほど。そんな経緯で高ランクのギルドメンバーに俺の捜索依頼が出されたんですね」
知らない間に行方不明者扱いされとるやん。
「…すみません。Fランクの方がアルカラグモの討伐依頼に本当に行かれるとは思ってなくて…安全の為、私の判断で副GMに相談して……捜索依頼をお願いしました」
しゅん、とした様子のフィオーネさん。
垂れた耳が可愛い。
「あ、いや…」
「わたしも心配してたよ!」
「あ、ありがとな」
ぷくーっと頬を膨らませてるメアリー。
やれやれ…。このままじゃ埒があかないな。
「…一先ず、ギルドカード確認して貰って良いですか?」
〜 金翼の若獅子 一階受付カウンター 〜
「ーーはい。確かにログを確認しました。……Fランクの依頼並びにGランクの依頼…どちらもクエスト達成です」
フィオーネさんがギルドカードを返す。
「うぉぉ!!ユーさんすっげぇ!」
「…Gランクの依頼達成なんて…はじめて見た」
「ブードゥラット…あんな素早いモンスターをどうやって…いや、アルカラグモも無傷で倒したとは」
「苦戦したよ。噛まれて凄い痛かったし」
「ア、ア、アルカラグモに…か、噛まれた…?毒は!?大丈夫ですか!?」
ボッツが体を凄い剣幕で触る。…やめて!!
「だ、大丈夫だから!」
ボッツから離れる。
「アルカラグモの毒は劇毒ですよ!?」
「ポ、ポーション!!…ポーションを飲んでるから大丈夫だって!」
「そ、そうでしたか。すみません」
「…でもよー…アルカラグモに噛まれてポーション飲んでも傷が一つもないのは変じゃん」
「うん。…ユウさんってレアスキル持ちなの?」
心配してくれるのは嬉しいが…スキルや耐性…いや、自分のステータスに関する事は隠し通したい。
勿論、ボッツ達やフィオーネさんが悪人とは思わないが……トラブルの火種になる事は避けたい。
どう説明したらいいだろう…。
「…三人とも悠さんが困ってますよ。それに悠さんが心配なのは分かりますが自分達の依頼は良いのですか?」
フィオーネさんが助け船をだしてくれた。
ありがとうフィオーネさん!
「そ、そうだぞ」
「…正論ですね。ラッシュ、メアリー。悠さんも無事に戻ってきたし自分達のクエストに行くぞ」
「えー!?…俺はユーさんの話が聞きたい!」
「わたしも聞きたーい!」
「うるさい。ほら」
ボッツに引きずられ転移石碑に向かう三人。
飼い主が散歩に行くのを嫌がる犬を連れてく…みたいな光景だ。
「…では、収集した薬草と鉄鉱石をカウンターに出して頂けますか?……はい。依頼品を確認出来ました。こちらがFランクの報酬金になります」
薬草×12と鉄鉱石×6を渡し3000Gを受け取る。
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冒険者ギルド
ランク:F
ギルド:なし
ランカー:なし
GP:25
クエスト達成数:6
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所持金:11万8000G
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「モンスターの死骸と素材はどうされますか?」
えーっと…。
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バロウルフの死骸×10 素材×5
ブードゥラットの死骸×6 素材×2
アルカラグモの死骸×1と素材×1
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錬成もしたいから少し残して売ろう。考えた結果、以下の死骸と素材は売る事にした。
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バロウルフの死骸×6 素材×3。
ブードゥラットの死骸×5 素材×1
アルカラグモの死骸×1
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「…はい。承りました。そちらの死骸と素材を『金翼の若獅子』で買取させて頂きます。業者を手配しますので地下一階の解体場に死骸と素材を置いてお待ち下さい。査定が済み次第、悠さんに買取額をお渡しします」
「ありがとうございます」
〜20分後 地下一階 解体場〜
業者が到着し死骸と素材の解体が始まるが…。
「アルカラグモに…ブードゥラット…。こりゃ少し時間かかるぞ」
「そうなんですか?」
「死骸が全部あっからなぁ。欠損した箇所が少ないし…まあ、おらぁ達は腕が良い。これなら二時間だな」
「わかりました。よろしくお願いします」
「おうよぉ……野郎ども!とりかかんぞ!」
ドワーフとはまた違う感じの亜人だ。
…暇だし上に戻ろう。
〜金翼の若獅子 一階 受付カウンター付近〜
「あ、悠さん。解体はどうでした?」
フィオーネさんが声を掛けてきた。
「二時間程かかるって言われましたよ。上でタバコでも吸って待ってようかと」
「……でしたら私も今から昼休憩なんです。良かったらご一緒しても?」
小首を傾げ微笑む。
「はっ!?」
「えええ!!」
「嘘だろ…あいつなんで…」
「初めて見た…」
一階にいた男性の冒険者達は落胆の声と殺意まじりの視線が…受付カウンターにいる女性達からは驚愕の声と好奇心の視線が…それぞれ突き刺さる。
「は、はい。分かりました」
「では広場に行きましょうか」
視線が痛いので足早に広場に向かった。
〜午後13時55分 金翼の若獅子 広場〜
「風が気持ちいいですね…」
「ですねー」
ベンチに座る。
髪をかきあげる仕草が絵になる人だ。
「…悠さん」
「はい」
「先程はボッツさん達の手前ああ言いましたが…昨日初めてギルドに登録したFランクの冒険者とは思えない矛盾した点が貴方は多過ぎる…ログを見たらブードゥラットの巣も駆除されてましたよ。……それに短時間でアラカラグモを討伐し傷を負ったにも関わらず怪我がもう治ってる…仮にスキルや耐性の効果とはいえ…やっぱりおかしいです」
…やばい。俺ってば疑われてる?
「ベルカ孤児院へと渡されたポーションもそう。…簡単に用意出来る品物ではない筈。…他にも不可思議に思う事がいっぱいです」
簡単に用意したんだけどなぁ。
フィオーネさんの大きな胸が俺の左腕に微かに当たる程、距離が近付く。
柔らかい花のようないい匂いが鼻腔を擽った。その綺麗な瞳は真っ直ぐに俺を見詰めている。
「…貴方は何者ですか?」
目を逸らしたらいけない気がした。
そして俺はーー。
「田舎者です」
ーーこう答えた。
「…あ、あははははは!」
フィオーネさんが笑う。
「え、えぇ…?」
「あははは…ふ、ふぅ。す、すみません。まさかボッツさんが言ってましたが…本当に田舎者って答えるなんて…ははは」
「ははは…」
こっちは乾いた笑いしかでねーよ!!
一頻り笑った後に真顔に戻りまた問う。
「…何でGランクの依頼を受けてくれたのですか?」
理由ねぇ…まぁ大した理由はないが。
腰袋からジェシーが描いてくれた絵を取り出す。
「…それは?」
「アルカラグモ討伐の依頼者の……女の子がお礼に俺を描いてくれた絵です。しわくちゃで汚れて…お金にはなりませんがアルカラグモを討伐したら凄い喜んでくれました」
俺もとても嬉しかった。
「報酬金やGPを貰えなくてもこんな風に誰かの助けになれるなら…それだけで依頼を受ける理由になります。だからこれからもGランク依頼を受けますよ」
「……」
祟り神のスキルを活かす絶好のチャンスだし。
…何故かフィオーネさんの顔が赤かった。
「………そう、ですか。不躾に色々、聞いて不快にさせてすみません。…でも込み入った事情もお有りなんですね?」
「……はい」
「…なら…いつでも私にご相談下さい。力になりますから」
「一日しか会ってない俺にどうしてそこまで良くしてくれるんですか?」
「悠さんと同じ理由ですよ」
くすり、と小首を傾げ頰を赤くして笑う。
「…ふふ。私、悠さんのファンになっちゃいました。『狐人族』の女性は…気に入った男性に尽くすのが性なんです」
ふぁ、ファン…!?
反応に困ってるとフィオーネさんが質問してきた。
「悠さんはお幾つなんですか?」
「30歳です」
「そうなんですか。私は23歳ですよ」
「へー」
若くて美人でスタイルも良くて優しい。さっき周囲にいた男性陣からの殺意の視線も納得だな。
「住む家は決まりましたか?」
「これからですねー。モンスターの死骸と素材の買取額と相談です。…ベルカの地理にも疎いし賃貸物件の相場も知らないので」
「でしたらーー」
その後もフィオーネさんと談笑を続けた。やたらと第6区画の賃貸物件を勧められたが…何故だろう?
休憩時間も終わり一服してギルドへ戻った。




