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トモダチトモダチトモダチトモダチ ②

2月26日 午前9時45分更新



〜ファンタジア 1Fホール〜


「ーー…元は王が住んでた城を改装した訳ですか」


「左様で御座います」


荘厳華麗と言うべきか…どんな言葉に喩えようと伝え切れない贅を極めた内装に圧倒される。


…住む世界が違うと言わざる得ない。トモエはお姫さまなんだって実感が今更、湧いてきた。


総支配人のイワンさんに案内されながら感嘆の溜息を漏らす。


「ナイルトラホテプ家が新たな王宮に移り住み残された城跡を改装して生まれたのが当ホテルで御座います。…以来、王族や大貴族の方々に長年、御愛顧頂き感謝の言葉も御座いません」


「他の客の姿は見ませんね」


「当ホテルは二階、三階、四階、最上階のフロアが御部屋になります。故に飛び込みのお客様は御宿泊出来ません。…常に予約が殺到しておりまして」


「…ほへー…」


それで予約が殺到ってやばい。


「トモエ殿下は最上階のスイートルームに御宿泊されて居ります。…黒永様の御噂は予々、私共も御拝聴していましたが…まさか殿下の御友人とは存じ上げず…御連絡したら直ぐに御通しせよと」


「ドレスコードとか、その…大丈夫ですか?」


「お気になさらないで下さい」


常識ない奴って思われてる気がする。


「…それはそうと黒永様は此度、冒険者ギルドを新たに設立されると聴きましたが…?」


「はい」


「左様で御座いましたか。…当ホテルの警備・防衛は冒険者ギルド『傲慢なる鉄槌』に一任して居りますが…貴方様にも何かしら御依頼する日が来るやも知れません。その際は何卒、宜しく御願い申し上げます」


「こ、こちらこそ」


…俺にできる依頼があるか甚だ疑問だが。


「どうぞ此方です」


最上階へ向かった。



〜ファンタジア 最上階〜



豪華絢爛にして一線を画す…とでも言おうか。


もう絨毯がやばい。歩く度に柔らかく沈む。


ど、土足で本当に歩いていいの?


価値すら分からない彫刻や絵画ばっかで目も痛いし。


「支配人。ご苦労だった」


()()()()…。


「とんでも御座いません。また御用がありましたら何時でもお申し付け下さい。…黒永様。この先は『月霜の狼』の第三親衛隊の皆様が厳重に警備されてますので御案内は引き継がさせて頂きます」


「…あ、いえ。どうも有難うございました」


「では御ゆるりと」


馬鹿丁寧に一礼し去っていく。


「……」


「……」


沈黙を破り先に口を開いたのは彼だった。


「…あの実技試験以来か。久しいな」


「え、ええ…貴方もお元気そうで」


Sランク昇格の実技試験以来のご登場!


ドグウ・フジバハマ大隊長だ。


「君が放った凄惨な一撃は今も鮮明に覚えてるよ」


「あ、あはは」


渇いた笑いしかでねぇ…気不味いよぅ…!


「…あの時、君の家族を侮辱した非礼を先ず詫びさせて欲しい。闘いの礼儀に欠く下賤な発言だった」


「も、もう終わった話です!頭を上げて下さい」


土下座しそうな勢いで深々と頭を下げる。


…彼ってこんな人だったっけ?


「君の強さは羨望を通り越し…絶望を覚える程、残酷で美しかった。…狼人族は種族が違えど強き者を敬愛し尊ぶ。……クロナガ。君は凄い漢だよ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『元々、狼人族は他種族に排斥的です。仲間内でも厳格な縦社会で形成されてます。…裏を返せば遵守すべきは自分達の掟と法だけ。それ以外はどうでも良いって程なんです。…全員がそうでは有りませんが無頓着な理由は主にそれですね。一度、仲間と認められれば愛深き種族らしいですが…』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



…フィオーネはこう言ってたっけ。


闘いを通じて仲間と認められたのかな?


「まだ不敬を働く隊員が居たら教えてくれ。…私が責任を持って処罰する」


「大丈夫ですよ。皆、約束を守ってくれてます」


「そうか。では姫の下へ行こう。…君が来るのを楽しみにしてらっしゃるぞ」


そりゃ嬉しいな。



〜最上階 スイートルーム 応接室〜



応接室に到着するまで警備中の隊員に嫌になる程、敬礼された。…心変りが激し過ぎるぜ。


「姫。…クロナガ殿がご到着されました」


「!」


こちらにトモエが駆け寄る。


「よっ」


「…私…心配してましたのよ?」


潤んだ瞳で俺を見上げる。


「色々とすまん。…ラウラから聞いたが俺の処遇を王様に掛け合ってくれたらしいな」


「当然じゃない!トモダチだもの」


やっぱり根は優しいだなぁ。


「…嬉しかったよ。ありがとう」


「ぁ…」


「き、貴様…誰の頭にか、軽々しく…!」


「く、クロナガ!」


「…あっ」


や、やべっ…遂、いつもの調子で頭を撫でちまった!?


鬼の形相で俺を睨むルツギ指揮官が恐い!


焦るドグウ大隊長と隊員達。


タチヅキは目を丸くしていた。


「……ふ、ふふふ…止めなさい」


「トモエ様…?」


「悠は唯、感謝の気持ちを表現しただけじゃない」


「ですが!」


「ルツギ」


「…ちっ…」


舌打ち!?…にしても凄まじい殺気だった。


斬られるかと思ったぞ。


トモエってばナイスフォロー!


「座って話しましょうか」


「あ、ああ」


尻尾を左右に振って耳はぺたりと後ろに倒れる。


ご機嫌じゃないか!狼と犬は近縁種だっけ。


…決して馬鹿にしてる訳じゃないが感情表現が分かり易くていいな。



〜5分後〜



あの日の顛末を簡単に説明した。


「…そうだったのねぇ」


「ああ」


「『金獅子』と決闘だなんて…無事で本当に良かったわぁ。もう少し私が早く事態を知ってれば…悠が辛い思いにせずに済んだのに…」


「違うよ。これは成る可くして成ったのさ」


「成る可くして…ふふ!…彼と闘いそう言える者が世にどれだけ居るかしらぁ」


「仰る通りです。正気の沙汰とは思えません」


正気なんだけどなー。


「…難題を吹っ掛けられ大変でしょうに」


「もう慣れたよ」


半端な秘密主義が招いた結果でもある。


自業自得だ。


「そうね…初回献上金(お金)の問題なら私が」


「もう解決したし大丈夫だぞ」


「……3億Gを集めたの?」


「おー。正しくは今日な」


「………本当に?」


本気マジだ」


「…失礼だがどんな金策を講じたのだ?先程の話では大分、切迫している様に聴こえたが…」


「アイテムを売ったんだ」


「…億に届く程、希少なアイテムを売った?」


「あー…」


「「……」」


説明が面倒臭くなってきた。


「…無事解決したし良いじゃないか」


「ふぅーん」


トモエは深くは追及せず頬杖を突き頰を膨らます。


「…()()()()()()()()()労せず…うふふ…私ったら反省しなきゃねぇ」


「……」


「…トモエ?」


小声で何か呟く。


その横顔は妖しい艶やかさを醸し出していた。


「急に塞ぎ込んで御免なさい。…最近、悠が心配で眠れなかったから…大丈夫と知って安心したの」


一転し朗らかに笑う。


「重ね重ねありがとう」


可憐な美少女にこうまで想われるって俺も捨てたもんじゃないな。


「そうそう!実は約束のお菓子を作ってきたんだが」


「まぁ…ちゃんと覚えていてくれたのね」


「勿論。さっぱりしてて美味しいぞ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ジェミニ・アガー

・空葡萄の果汁をゼラチンで固めた冷菓子。澄んだ青空を彷彿させる瑞々しさと滑らかで歯切れの良い食感が楽しい美味なる一品。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ラッピングした袋に小さな無数の玉が入ってる。


これは寒天だ。


空葡萄の果汁で色と味を整えてる。

モンスターのゼラチンが店で普通に売ってたので作ってみた。


動物の獣皮から抽出するより質が良いって店主は言ってたな。


「…毒は入ってませんね」


「当たり前じゃない。次、巫山戯た戯言を言ったら怒るわよ」


「申し訳御座いません。…()()()()で鑑定してしまうもので…クロナガ殿も気を悪くしないで頂きたい」


「御免なさいねぇ…ルツギは私への献上品や食事に人一倍煩いの。…親衛隊の規則で必ず鑑定のスキル保持者が検分の上、受取る事になってるから」


「気にしてないから大丈夫」


…所謂、毒味役ってとこか。


確かに鑑定のスキルがありゃ毒殺は不可能に近い。


一国の姫を護衛する隊の長として神経質になる気持ちは分かる。


トモエがジェミニ・アガーを口に運ぶ。


「!…御世辞抜きで…本当に美味しいわぁ」


寒天なんて異世界の人は食ったこと無いだろうよ。


「ふっふっふっ!これは寒」


「瑞々しい甘さの理由は…空葡萄かしらぁ?…果汁を固め柔らかく不思議な歯応え…これは『倭国』の()()()()の一つ…寒天じゃない?」


「……その通りです」


畜生!既にあんのかよ!!


全部、言い当てられたし。


…どうやら地球の料理を異世界に逆輸入し流行らすって甘い考えは通用しなそう。


「昔、食べた寒天よりずっと美味しいわよ」


「お口に召してなによりだ。…あ、良かったら親衛隊の皆も食べて下さい」


別の袋を取り出して渡す。


「お気遣いどうも…失礼して」


「では私も」


「「!」」


タチヅキとドグウが目を見開く。


「ほ、本当に美味ですな」


「ああ…驚いたよ」


「料理は得意なんだぜ」


男は家事場に立たずなんて古臭い考え方はナンセンス!


「………」


「…指揮官も御一つ如何ですか?」


ドグウ大隊長がルツギ指揮官へ勧める。


「要らないわ。二人とも警護中に気が緩み過ぎよ」


手厳しいなぁ。


「貴女は甘い物が好きでしょう。…それとも…悠の厚意を無下にして…私に恥をかかせるつもりぃ?」


「…決してそんなつもりは」


「なら食べなさい」


有無を言わせぬ口調だ。


「……では」


咀嚼し飲み込む。


「…ふむ…」


また一つ口に放り込む。


「……これは中々…」


今度は二つ一気に食べた。


「お、おー」


ジェミニ・アガーを気に入ったみたいだ。


「あらあらあらあらぁ〜」


トモエが笑う。


「…味は悪くない。粗末な品では無いようです」


「素直じゃないわねぇ」


場が和やかな空気に包まれた。



〜15分後〜



頃合いを見計ったようにトモエが切り出す。


「……そうだわぁ。悠に()()()()があるの」


「大事な話?」


「そうよ…あの日、二人でゆっくり話しましょうって私が言ったのは覚えてる?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『…今度、私と二人っきりでゆっくり話ましょうねぇ…ラウラには秘密よ。…ずぅーっと待ってるから』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


…あぁ!あれか。ラウラには秘密って言ってたっけ。


「覚えてるよ」


「ルツギィ…暫く警護を解き二人っきりにして頂戴。許可するまで…一切の入室を禁じるわ」


「…畏まりました」


「えっ」


身辺警護に煩い彼女が二つ返事で了承って変だな。


「何かあったら悠が守ってくれるでしょう?」


「あ、あぁ」


「誰よりも頼りなる護衛だわぁ」


「私達は通路で待機しますが御用の際は御呼び下さい。…クロナガ殿。済まないが緊急時は姫の身を」


「ええ。守りますよ」


「有難う。それでは…」


ぞろぞろと退室していく隊員と給仕(メイド)


「……後程、お話があります」


すれ違い様、タチヅキが囁いた。


「あっ」


呼び止める暇もなく応接室を出ていく。


「うふふふ、ふふ!…漸く二人っきりねぇ」


トモエは瞳を爛々とさせ嬉しそうに笑う。


不思議と彼女が獲物を見つけ舌舐めずりする肉食動物に見えてしまった。


…ともかくプレゼントを渡そっか。


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