新米師匠の教え!〜全力が大事〜 ①
2月18日 午後12時42分更新
〜午後13時30分 第9区画 勇猛会〜
「ーーさっさっ!お嬢は此方でごぜぇやすぜ」
「仕事中に案内して貰ってすみません」
「いえいえいえ!!…ユウのアニキが遊びに来てくれたんだぁ…俺にとっちゃあ最優先事項でさぁ」
「……気を遣わなくて大丈夫ですよ」
昼飯を食べ勇猛会に到着後、若衆の一人にエンジがいる稽古場まで案内して貰ってる。
彼の名前はゴンゾー。
初対面でサインを頼まれた坊主頭と縫い傷がチャーミングな男の子!
…って言い方を変えても可愛くねーな。
見た目は完璧ヤ○ザだし。
「好きでやってるんっす!大体、俺ぁ歳下ですし尊敬するアニキに生意気な口ぁ…聞けません」
「え、マジ?」
「あい!先月で25歳になりやした」
お、俺より5歳も下…だと…?
全然、見えねー!詐欺だよ詐欺!
…ってか俺も30歳だもんな。こちらの暦に誕生日を数え直すと…もうすぐ31歳になるし…。
……こーして段々とおっさんになってくのか。
自分の年齢に葛藤を感じつつ稽古場へ案内された。
〜勇猛会 道場〜
「着きやした。ここがうちの道場ですぜ」
「へぇ」
柔道や空手の道場に雰囲気がよく似てる。
随分、立派な…ん?この木製看板は…なになに… 無明一刀流…心剛術?
無明一刀流って確か『霄太刀』のカネミツさんも…。
「ゴンゾーくん。この『無明一刀流心剛術』ってのは?」
「ああ。うちの親父が無明一刀流の流派の一つ…心剛術って体術の免許皆伝者で…看板を掲げることを許された師範代の一人なんでさぁ。無明一刀流には剣術と無刀術にそれぞれ流派があるもんで」
「へぇ」
「取り敢えず中ぁ入りましょうか」
扉を開けると…。
「くっ…!!」
「脇が甘いっ!足捌きも杜撰!…もっぺんやり直しでありんす」
「お、押忍!」
「無理に避けようとすんな…そーゆー時は相手の勢いに身を任せて力ぁ利用すんだよ」
「…はい!父さん!」
道着姿のガラシャさんとエンジが中央で組み手をしていた。
正座し二人の稽古を眺めるギルドメンバーは心配そうな面持ちで見守っている。
真剣な稽古を邪魔しちゃ悪いし静かに…。
「…ん?おぉ!!ユウじゃねぇーか」
「どうも」
ガンジさんが俺に気付いた。
「悠さん!」
「あら」
「兄貴じゃねーか!」
「…今日はキューちゃんいねぇのか」
一気に騒がしくなる道場。
稽古を中断しこっちに集まる。
「…約束も無しに急に来ちゃってすみません」
「わははは!お前さんならいつだって大歓迎さ」
「律儀に先日、お礼を言いに来やして以来でありんすか」
「僕…あれからもずっとずっと…心配で…本当にお怪我は大丈夫ですか?」
「ああ。…はは、心配ばっかさせる情けない師匠で…エンジには申し訳ないな。師匠らしい教えも何一つ教示してないし…」
「そ、そんなことありませんっ!!父から聞きました…『金獅子』との一騎討ちでぼろぼろになっても…立ち向かった悠さんは誰よりも強かったって…!」
「お嬢の言う通りでありんす。…最強を相手に貫いた漢気…ほんに格好良いではありんせんか」
こーゆー慰めは心にくるよなぁ…。
「…二人ともありがとう」
他のギルドメンバーも頷き同調する。
「アルティメット・ワンと闘うとか…正直、想像すらしたくねーな…」
「間違いねぇわ」
「俺が女ならアニキに惚れてますぜ」
「おぅ!違いねー」
「………兄貴ぃ」
や、やめろぉ!!そんな目で俺を見んな!
そもそも兄貴じゃねーし!
誤魔化すように話題を変える。
「…そんな話は置いといて今日はエンジに渡す物がある」
「それって前に言ってた…?」
「ああ。練習用の武器だ」
「や、やったーー!!」
胸をわっさわっさと揺らし大喜びではしゃぐ。
…無邪気で無防備なのが余計、下心を…って何考えてんだ俺は!!
「練習用の武器、か。俺も興味があんぜ」
「鍛治職人としても非凡な主が作ったなら練習用とはいえ相当の物でありんしょう」
「…じゃ、じゃあ遂に…僕は悠さんの指導を受けれるんですね!!」
「あー…まぁ、軽くな。過度な期待はしないでくれ」
…実は昨夜、アルマに指導方法と内容をこっそり相談したのは内緒の話。
「よっと…はい!これだ」
「わぁ!」
「随分とまた不思議な…」
「…綺麗な棒でありんすね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
剴切を示す試練
・黒永悠が鍛えウェポンバフが付与された武器。重魔鉱石・魔鉱石・重竜鉱石・鉄鉱石で造られ棒状の形をしている。
・『成長』の紀章文字の効果で装備した者の最も適正が高い武具へ変容し装備した状態で鍛錬に励むと能力の練度上昇率が増加。Lv upに必要な経験値も獲得できる。…但し極めて扱い難く全力の鍛錬でのみ上記効果を得られ武器としての性能も非常に低い。またHPとMPを除外した戦闘数値(合計値5000以上)を持つ者は成長のバフ効果は適応外。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この武器の名前は剴切を示す試練。破壊力や殺傷能力はほぼ零…性能もめちゃくちゃ低い。一見するとスカイブルーに光る長さ50㎝程度の鉄の棒だが…」
力を込めて握る。
「え、えーっ!!」
「…面妖な」
「ほほーう」
瞬く間に巨大な大剣へと形を変えた。
「こーやって握ると紀章文字の効果で握った本人の最も適正に合う武器へ変わる」
「これが武器呪文ですかい…」
「…すげぇな…これって錬金術の奥義の一つだろ?」
口々に驚きを言葉にしている。
「本当に凄いです…ありがとうございます!」
「まだ続きがあるぞ。…このセレクシオンの最大の魅力は全力で鍛錬を積むことで装備した者のアビリティの練度上昇率を増加させ…レベルアップに必要な経験値も獲得できるんだ」
「ま、誠でありんすか?」
「マジだ」
全員、開いた口が塞がらないといった顔だ。
「ただ、扱い難いし戦闘数値の項目が5000以上の人には効果がない」
無論、俺とアイヴィーは適応外だった。
「武器の説明は以上だ。エンジも握ってみてくれ」
「分かりました!」
エンジが握るとセレクシオンは二対の短剣へ変容した。
「これは…」
「双短剣だな」
「僕の初めての武器だ…つ、使い熟せるように頑張ります!!」
気合いたっぷりだな。
「…で、だ。適正が合う武器も分かった事だし俺が最初にエンジに教えるのは…」
「い、いよいよですねっ」
「全力で素振りしろってことだな」
「了解です!もちろん剣術の基本は悠さんが教え」
「教えない。不格好でもいいから兎に角、全力でセレクシオンを振りまくれ」
「型とか技術は…?」
「要らん。力の限り振り続けろ」
「…えっと…」
エンジは戸惑っていた。
「言葉下手で悪いな。…ただ、全力を出すっつーのは想像以上に難しいんだぞ」
「全力を出すのが難しい?」
「…なるほどなぁ」
ガンジさんは俺の言ってる意味が分かってるようだ。
「順序良く説明するか。…例えばゴンゾー」
「へい」
「今から俺と闘うとしよう」
「……勘弁してください。まだ死にたくねぇですぜ」
「例えばの話だ!」
「へ、へい」
「ゴンゾーは俺とどう闘う?」
「…アニキと俺じゃ天と地ぐれぇ差があり過ぎて勝負になりません…白旗あげやす」
だっーー!!もうっ!例えになんねーじゃねーか!
「…分かった。一発でも攻撃を食らわせたら勝ちで俺は反撃しないってルールで、だ」
「それなら…まぁ…全身全霊で挑みますわ」
「その本気の攻撃をどの位、続けられる?」
「…うーん…数分が限度でしょうね」
「数分って…ゴンゾーはAランクの冒険者でしょ。もっと闘えるんじゃないの?」
「そりゃお嬢ってば無理な話でさぁ…スタミナが持ちやせんよ。戦闘技を使えばHPも減りやすし」
その通り。
「…分かるか?Aランクのゴンゾーでさえ全力の攻撃を継続できるのはたった数分…仮にこれが生死を賭した決闘だったらゴンゾーは数分後、俺に抗う術もなく蹂躙され死ぬ」
「…死ぬ…」
「モンスターはもっと容赦が無いぞ」
「……」
「…そもそも冒険者になればいつだって弱いモンスターや相手と戦える訳じゃない。GR制度があっても理不尽な強者との戦闘を避けられない事態を想定すべきだ。普段から全力を出す練習をしないと継続時間は延びず…いざって時に体が動いちゃくれないんだ」
「な、なるほど!」
「技術の研鑚も大切だが後々、幾らでも間に合う。…俺がエンジに教えたいのは冒険者として生きる術だ。結果、強さも付随してくる筈さ」
「生きる術…」
セレクシオンのバフ効果が全力で鍛錬に励まないと獲得できないって理由もあるけどね。
「つまり、何事にも全力を尽くせない奴に未来はないって話だな」
「!」
「…ま、この教えが絶対に正しいとは言わないが…弟子なら黙って師匠を信じろ。最後まで面倒をみるから」
「あっ…」
頭を撫で笑う。
相談したアルマも言ってたな。
全力とは…言うは易く行うは難し…だって。
「え、へへ…はいっ!!毎日、全力で素振りします!」
えへへ〜…きらっきらの笑顔が可愛い…じゃない!
師匠らしく振る舞わないと。
「…ち、ちょいちょい様子は見に来るぞ。どんどん厳しい修行内容になるから覚悟しとけよ」
「はいっ」
「うむ!…良い着眼点だ。技術一辺倒になりがちなてめぇらも聴いてて勉強になんだろ」
『お、押忍っ!!』
…違うんだなぁ。
俺なりの解釈も含め伝えたが尊敬されるべきはアルマだ。
他人に教えるのは自分の認識力を理解する良い勉強になるってアドバイスもしてくれたし。




