プレゼントを贈ろう!〜第二弾〜終
2月14日 午後20時57分更新
2月16日 午前7時48分更新
〜2時間後 オーランド総合商社 四階 執務室〜
「ーーこれでオッケーっと…」
色々と説明に時間が掛かったが最後の一枚…事業投資運用承諾書にサインする。
魔紙が仄かに発光した。
…これで必要手続きは全て完了だな。
「…はい。記入に問題はありませんね」
レイミーさんが書類を確認した。
「この承諾書は当社でお預かりします。…悠さんの望むように差額分のお金は孤児院改装と『牧場村開拓計画』の資金に充てますので」
「宜しくお願いします」
「……手続きを済ませた後で聞くのもおかしいですが…本当に残額分は此方で運用しても良かったの?」
「うん。好きに使ってください」
「そう」
んー…無表情の割にちょっと様子が変だな。
「まだ時間は掛かりますが運営資金・先月利益分から捻出し3億Gを用意しますので暫しお待ちを」
「はい」
「…また、買取査定額を更新しましたね」
「あ、本当だ」
俺ってタイトルホルダーですね!…って詰まらない冗談は言わないでおこう。
「…悠さんは」
「え」
「何故、赤の他人に身を尽くしそうまで一生懸命になれるのですか?」
唐突な質問だった。
「何故って…」
「あの日、『金獅子』との死闘だって一歩、間違えれば自分が死んでいた。…血だらけで…骨を折って…痛い思いまでして……楽な道を選ぶことは誰も責めないのに苦難ばかり背負って生きてる」
「………」
「…自己犠牲を貫き他者の幸せを優先し過ぎる貴方に疑問…いいえ、正直に言うと若干、怖さを感じました」
「怖い、か」
「…気を悪くさせたら御免なさい」
少し沈黙した後、こう答えた。
「…俺はただ、家族を愛して慎ましく暮らしてる人々が犯罪者や魔物に生活を脅かされたり…子供が苦しんでる姿を見るのが本当に嫌なんだ」
「……」
「それは嫌悪感の根本に…自分が子供の頃、酷い仕打ちを受け育ったからです」
「そう、だったのですか」
前にフィオーネにも話したっけ。
「ええ。困窮に喘ぐ人々は…幼い時、誰かに助けを求めていた自分自身に思える。…黙って見過ごしたら自分を許せないし…皆に支えて貰ってるって自覚もあるから一生懸命なんだと思います」
…あー…喋ってたら無性にモーガンさんに会いたくなったぞ。ミドさんとケーロンさんにもだ。
三人とも元気かなぁ。
「……成る程」
傾聴していたレイミーさんは目を瞑り一度、頷く。
「すみません。答えになってない気がしますが…」
「いえ、十分です。不躾に聞いて不快だったでしょうに誠心誠意、お答え頂き嬉しいわ」
「なら良かった」
「これで漸く分かりました」
「分かった?」
「ええ。…自分が貴方に魅入られた理由がね」
「?」
頭に疑問符が浮かぶ。
「危うく無防備な優しさを押し通す暴力…誰にも変えれない愚直な信念…普通なら偽善だと一笑し…お金を巻き上げ見限ってしまう筈なのに…こうも肩入れしたくなるのは放って置けないからね」
「えっと」
褒められてるのか貶されてるのか全く分からん。
「…誰も彼も貴方のペースに引き込まれる…それは自分が悠さんにとって特別なんじゃないかって…錯覚してしまうから。…『鉄仮面』と呼ばれ畏怖される私も例外じゃ無かった様です。…本当に嵐のようで…暖かい陽だまりのような…困った男だわ」
「!」
破壊力抜群の微笑み。
普段は感情を表に出さない彼女なだけに…これは…心を奪われるなー。
…綺麗で美人って言葉の表現は今までも散々、形容してきたが…それ以外、思い浮かばない自分のボギャブラリーの貧困さが残念。
花で喩えるとレイミーさんは鈴蘭だ。…ひっそりと美しく月を背に映えるって感じ。
「…あ」
「どうしました?」
プレゼントを渡さなきゃ!
今がベストタイミングだろう。
「実は日頃の感謝の気持ちを込めて今日はレイミーさんにプレゼントを持ってきたんです」
「…私にプレゼント?」
「どうぞ受け取って下さい」
リボンを結んだ長方形の小さな木箱を差し出した。
「……」
無言のままリボンを外し木箱を開ける。
「このアクセサリーは…」
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ミナーヴァングル
・純銀鉱石と純金鉱石を細工し商売の女神『ミナーヴァ』をイメージして作られたチェーンタイプのブレスレット。『快心』の紀章文字の効果で心労を和らげる。
・黒永悠がレイミーへ日頃の感謝の気持ちを込めて製作した特別な贈り物。
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「そのブレスレットを着けると快心の紀章文字の効果で心労が緩和されます。…少しでもレイミーさんの癒しになればと思って作りました」
彫るのがくっそ大変だったけどね!
「細いチェーンで二重三重に手首に巻くタイプのバングル……しかも商業の女神の『ミナーヴァ』を意識したデザインもセンスが良いわ」
書斎で神話に関する本を調べた甲斐があった。
ちなみにミナーヴァを象徴する生き物は梟だ。
「…職人ギルドへ転売すれば高値で売れるわね」
「ふぁ!?」
「冗談です」
…笑えないジョークだ。
「……」
レイミーさんは無言でミナーヴァンクルを左手首に巻き金具を留める。
「どうかしら?」
「お似合いですよ!受け取って貰えてよかった」
「まだ貰った礼を言ってなかったわね…ありがとう」
ま、美人でスタイルも良いしどんなアクセサリーも似合うだろうけど。
「………」
「…ど、どうしました?」
気付けば熱っぽい視線を注がれている。
「……悠さんは私の年齢が幾つかご存知ですか?」
「あー…何歳だろ?」
「正解は28歳です。…父が病気で逝去し17歳でGMの座を引き継いで11年になります」
ぱっぱらっぱーの高校生だった俺と大違いだ。
「11年、か」
「…がむしゃらに働き…ギルドの為にお金を稼いで…仕事に青春を捧げてきました」
幾ら商才があっても大変だったろうに…。
想像も及ばない苦労を経験してきた筈だ。
「…このまま仕事に熱情を注ぎ…一生を終えると思ってましたが……ふふっ…それは違うみたい」
レイミーさんの左手がそっと俺の右手に重なる。
「仕事以外で…私の愛を永遠に捧げたいと想う男にやっと巡り逢えましたから…」
身を斜めに角度を変え…切れ長の目尻を下げて頰を赤く染めながら見詰めるとか……。
そーゆー男を惑わせる小悪魔的な発言と動作を素でやるって…普段とのギャップもあわさって超萌える!
…はっ!?いかんいかん…冷静になれ。
「…ですね。仕事が人生ってのも味がないし趣味は大事だと思いますよ!」
「…………」
あれ?逆再生かってぐらい無表情に戻ってくぞ。
「………鈍いとは薄々、勘付いてましたが頭を鈍器で殴りたくなる程、鈍感なのは想定外です」
「えぇ」
…最近、皆から殴りたいとか刺したいとか言われてる気がする。
俺が何をしたって言うんだ!
「まぁ、他の女性との差は殆ど零に等しいという答えでもあるわ。…それはそれで喜ばしい事なので…この際、良しとします」
「あはは…」
不用意な発言は更に不機嫌にさせると俺の第六感が囁いてる。
…こーゆー時は笑って誤魔化すに限るってな!
「…そう云えば悠さんの冒険者ギルドの名前は決まりましたか?」
「あ、いえ。全く考えてないですね」
「初回献上金の問題も解決しましたし決めておいた方が宜しいですよ。…ギルドのエンブレム…正装用の制服…他にも考えるべき案件は山程ありますので」
確かに言う通り…あ!良いこと思いついたぞ。
「レイミーさん。裁断や刺繍に関する魔導具って『オーランド総合商社』で取り扱ってますか?」
「勿論。…家庭用・業務用・工場用・デザイナー用…各種用途に合わせ幅広く取り扱ってます」
ナイッスゥ!
「それは良かった。実は制服やエンブレムを自作しようと思い付きまして……よければお勧め品を幾つか売ってくれません?」
「専門業者に任せず製作するのですか?」
「ええ!自分で準備すればお金が安く済むし服職人にも興味があったので」
ミドさんの影響もある。
「…本当に多才ですね。確かにモミジが認める程、優秀な鍛治職人の悠さんならば手先は器用でしょうが」
「照れるなぁ」
「分かりました。最新の裁断魔導具と刺繍魔導具を紹介しましょう。…今回、代金は要らないわ。ゴールド・メテオを格安でお譲り頂いた当社からの御礼です」
「やったー!ありがとうございます!」
「……」
喜ぶ俺を見てレイミーさんは意を決した表情で口を開いた。
「…悠さん。私も一つ良い案を思い付きました。…これは事業提案になりますが…」
「事業提案?」
「冒険者ギルドの発足に併せ同施設内に道具屋を開店し運営してみませんか?」
「道具屋って…いやいや!俺には無理ですよ」
算数は苦手だし商売とか絶対に向いてないもん。
「当面の運営資金・設備費・人件費は投資して頂いたゴールド・メテオの売却額で充分、間に合います。…悠さんが錬成した錬成品を並べれば仕入れも無料よ」
「だからって」
「運営アドバイザーは私が責任を持って務めます。店員だって当社から人材派遣できる。…第6区画の立地条件を活かした店舗経営を意識すれば絶対に繁盛しますから」
「で、でも」
「冒険者ギルドを運営すれば確実に依頼の収入だけでは運営費を賄えません。…結果、経営破綻した冒険者ギルドを私は数多く見てきました」
「そ、それは困るな」
「…でしょう。道具屋の収入で冒険者ギルドの運営費を補うという方法は非常に理に叶った商法なの。…悠さんは唯、場所を提供し錬成品を作ってくれるだけで構いません。店舗のマネジメント・帳簿作成・税金管理…その他、業務は私が全てやります。それなら今と変わらず時間を割く事なく依頼業務に集中できますよね?」
「そうなるの…かな?」
「そうなるのです」
レイミーさんの弾丸トークに押されっ放しだ。
「…因みに私の肩書きは運営アドバイザー兼共同経営者となります。…つ、つまり意味するのは…私と悠さんの…二人で道具屋を運営するということ…利益も損失も…い、一蓮托生なのです」
「…いや…やっぱり待ってください!既に『オーランド総合商社』のGM業務で忙しいレイミーさんにそんな負担を強いるのは」
「……負担なんかじゃないわ!!」
「は、はいぃ!?」
言葉を遮り机を叩いて勢い良く立ち上がる。
「そもそも悠さんは『オーランド総合商社』の所属登録者ですよ!…社長である私の提案が不服と仰るなら……反対する理由をまとめ今直ぐプレゼンテーションしなさいっ!!」
えーーー!!感情が大爆発してますやん!?
「…き、急にプレゼンなんて…」
「さぁ!」
「えっ、だから…GMの業務と道具屋の兼務は…レイミーさんに多大なるふ、負担を…」
「一から十まで納得のいく説明をして頂戴!!」
「ち、ちょっと考える時」
「…さぁ!」
「………」
瞬きせず真剣な顔で俺を凝視するレイミーさんの迫力が半端ない。
お互い黙ったまま時間だけが過ぎていく。
気付けば…。
「ぜ、是非…宜しくお願いします…」
「…そ、そうですか!…つまり納得して頂けたみたいね…ふふふ…良い御返事を頂き感謝します。早速、共同経営に関する同意書にサインして頂きましょうか」
こう言っていた。
…だって鬼気迫るレイミーさんに反論しても勝ち目が全くこれぽっちも見出せなかったんだもん…。
怒涛の急展開で道具屋も営む結果になってしまったが冷静に考えると…マージン料も良心的で経験豊富なレイミーさんの監修付き…経費は投資した売却額から運用……俺の仕事は錬成品を錬成し店先に並べるだけ。
…利点しかないやん!
これでは流石に心苦しいので俺の申し出で売上は平等に折半する約束を同意書に一筆、追加して貰った。
それと建設に関しては俺が一切、引き受ける。
…理由はアルマだ。とんでもない創造魔法の使い手が家にいるのでわざわざ金を使う必要はない。
しっかし、あのレイミーさんが感情剥き出しでこうまでするって…うーむ…今回の一件で随分、心配させちゃったのかなぁ。
まぁ、その後はご機嫌な様子だったしプレゼントも喜んで貰えたから結果オーライ……かな?
暫くして3億Gとゴールド・メテオの売却証明書を貰う。服職人御用達の裁断魔導具・刺繍魔導具の最新モデルも紹介され譲り受けた。
…因みにこの魔導具一式は結構な額で買おうとするには躊躇する値段だった。
無料でラッキー!
幾ら大金を得ても金銭感覚が変わらないのは俺が根っからの庶民気質だからだろう。
あ、それと…前に畑で採れた野菜を見せて欲しいと言われたのを思い出し鮮血トマトと臓腑芋を見せたら…『これは邪神に捧げる供物ですか?』…と目を白黒させ呟いていた。…食ったら絶品なんだけどなー。
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所持金:4億4230万G
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〜オーランド総合商社 エントランスホール〜
「今日は色々とありがとう。お陰で初回献上金の問題も無事、解決しました」
「こちらこそ有意義な取引きをさせて貰ったわ。…道具屋の件は私の方で準備を進めますので心配しないで下さい。…近々、あらためて御自宅にも伺わせて頂きます」
「あ、ははは…よろしくお願いします」
時計を見ると時刻は午後12時15分。
すっかり長居してしまった。貪欲な魔女の腰袋のお陰で手荷物はないけど確かな成果が収まっている。
…これでユーリニスの土下座は確定だ。
「それと…今後、正式に当社から悠さんへ護衛依頼をお願いする予定です」
「護衛依頼?」
「はい。…以前、馬車でそれとなくお話はしましたが
漸く情報の裏取が出来ましたので」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『…そういう事にしておきます。話は変わりますが…近々、『オーランド総合商社』から悠さんに依頼を頼むかも知れません。発注したら受注の方を宜しくお願いしますね』
『依頼?…闘技場で戦うのは嫌ですよ』
『違います。依頼の詳細はまだ伏せさせて頂くわ。事実確認が全部、済み次第ってとこですから』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…あ、思い出したぞ!
「護衛対象はベルカ孤児院のシスターと孤児達よ」
「!」
「悠さんは『蝦蟇の貯金箱』を覚えてますか?」
「よーく覚えてますよ」
ベルカ孤児院が所有する土地を狙いオーランド総合商社と揉めた商人ギルドだ。
「…これは表沙汰になっていない話ですが…『蝦蟇の貯金箱』のガマローネは代理決闘後、GMを辞職し行方不明になったの」
「!」
「その後、『蝦蟇の貯金箱』は解散。新たなGMの就任と意向で傭兵を大量に雇い入れ…債権回収と高利貸しを主に荒稼ぎする武闘派の商人ギルド…『ネフ・カンパニー』に変貌しました」
「……」
「私が雇った密偵の情報によると…『ネフ・カンパニー』は『蝦蟇の貯金箱』の解散を理由に当社との約束を反故し孤児院の債権を狙ってるそうですが……今回は後手に回るつもりはありません。既に民間の警備会社に依頼し孤児院の警護を頼んでます」
「おぉ」
流石、レイミーさん!
「…ですが相手は戦闘を生業にする傭兵の集団…荒っぽい手段をこの先、講じるやも知れません。そこで悠さんに…」
「任せて下さい。荒事は好きじゃないが得意分野だ」
「有り難う。頼もしい返事だわ」
二度と変な気が起きない様に懲らしめてやる。
「…それと『ネフ・カンパニー』は『貪慾王』の傀儡です。彼は界隈じゃ有名で…政界・財界に有力な伝手がある一筋縄じゃいかない男よ。…奇しくも悠さんにとって因縁の相手でもあるわね。どうして孤児院の土地に固執するか疑問ですが…」
「…俄然、やる気が湧いてきましたよ」
懲らしめるのは止めだ。ギルドをぶっ潰してやる。
「依頼期日は警護会社との兼ね合いもあるので追って『灰獅子』に連絡します」
「了解しました」
話を終え、レイミーさんに見送られオーランド総合商社を出る。
一つ解決したと思ったら次の問題、か。…しかも関わってるのはユーリニスだ。
………。
…とりあえず腹が空いたし昼飯を食べに行こう。
あ、トモエの所に行く前に勇猛会に寄んなくちゃ。
弟子にも渡す物があるしね。




