プレゼントを贈ろう!〜第二弾〜⑪
2月12日 午後19時43分更新
2月13日 午後15時30分更新
〜午前10時20分 第5区画 オーランド総合商社〜
エントランスホールに到着っと。
「相変わらず大盛況だな」
齷齪と商談に勤しむ人々を眺めてると懐かしく感じるのは昔を思い出すからだろう。
そんな社畜だった俺も今やフリーランスの個人事業主!
…もう時間に縛られて働くなんて無理かも。
どれ、先ず受付で手続きを済ませるか。
〜数分後〜
「お待たせ致しました。次の方、どうぞ。御用件を……あ、悠様」
「どうも」
「…先日、朝礼の際に社長より悠様の此度のご決断と真意を改めて伺いました。…あの『金獅子』や『十三翼』を相手取り雄々しく啖呵を切られるなんて……貴方は当社の誇りです。これからも宜しくお願い致します」
馬鹿丁寧にお辞儀された。
え、えぇ…先日って…皆に話したの?
恥ずかしいなぁもう…。
「あ、いや、困ったな。ローランさん…そんな畏まらないで下さい」
「ふふふ」
今更だけどローランさんはオーランド総合商社の総合受付窓口を担当しているれっきとした受付嬢。
「御用件はレイミー社長と買取査定の御約束の件ですよね?」
「はい」
「到着次第、最優先で御案内するよう指示されてます。昇降機で四階執務室へどうぞ」
最優先…気を遣わせて申し訳ないが有難い。
「ありがとう」
昇降機に乗って四階に移動した。
〜四階 執務室〜
ノックして部屋に入る。
「失礼します」
「待ってたわ。査定の準備は出来てます」
は、早っ!
…約束してたとはいえ…普段より気合いが入ってる気がするのは俺の勘違いだろうか?
「そ、そうですか」
「悠さんは自信があると仰ってましたが献上金の額が額です。…期間内に不足分を埋める金策を講じる時間も必要…リスクヘッジは十全にしないと」
…そこまで考えてくれてたのか。
お気楽な俺と違って流石、レイミーさんだ。…プレゼントを渡すのは査定が終わってからにしようか。
賄賂と思われても嫌だし。
「ありがとうございます。…ただ、物がちょっと大きいので別の場所の方がいいかも」
「成る程。三階の宝物品金庫室に行きましょう。彼処なら問題ありません」
「了解です」
執務室から三階の宝物品金庫室に向かう。
〜オーランド総合商社 三階 宝物品金庫室〜
「ここが金庫室ですか」
「ええ。当社で買取した希少品類・運営資金・毎月の収益は全て此処に保管されます」
円状の金属空間の中には財宝と紙幣が山の様に積まれている。
…道中、護衛魔導具による警報システムと数回に渡る配置された警備員による検査…極め付けはこの重量金庫扉だ。全面を防御する頑丈な構造になってるな。
「内装と外装は耐魔法コーティングと不干渉コーティングを施してます。…入室するには私が所持する『魔法鍵』で開けるしかないわ。運搬も搬入も私の立会がなければ絶対に不可能よ」
「この金庫から盗もうって馬鹿は居ないでしょうねー…」
「自慢になりますが王宮の宝物庫にも匹敵する金庫よ。…故に入室制限も厳しく定めてます。『オーランド総合商社』の部門統括責任者しか付添いも出来ません」
「マジか。…そもそも俺は入って良かったのか?ただの所属登録者だけど…」
「悠さんは」
「あなたは特別ですよぉ!ユウさんのお陰で貴金属部門は上半期に収益が大幅な黒字が見込めましたし…いやぁ〜契約者ってのは凄いもんだ…ねぇ社長!」
「……」
「ホライゾってば社長の言葉を遮ってるよ」
この薬剤師のような格好をした舌の長い女性は『避役人族』と呼ばれる珍しい種族で…錬成品部門代表のクルルさん。
「…あ…し、失礼しましたぁ!」
隣に居る恰幅の良い男性は『豚人族』の亜人…貴金属部門の代表のホライゾさんだ。決してモンスターのオークではない。非常に似ているらしいが…。
ホライゾさんはあの日、部下と俺の為に金翼の若獅子に来てくれたのでよく覚えていた。
二人はオーランド総合商社でもレイミーさんに次ぐ目利きのプロだ。
今回は急遽、レイミーさんの指示で査定に同席して貰っている。
「しかし、楽しみですなぁ!…あなたが持ち込む品々はいつも私の心を踊らせるもので…今回はどんな宝を拝めるか…期待に胸じゃなくこの三段腹が膨らむ…ってね!わっはっはっは!」
「あ、あははは」
彼の自虐ギャグに愛想笑いをしたのは俺だけだった。
「いっつもギャグがウッゼェんだよ!この豚ッ!」
「ぶ、ぶひぃ!?ひ、脛蹴りはやめて!」
クルルさんの鋭いローキックがホライゾさんの左脛に刺さる。
あー…完全に上下関係がはっきりしたわ。
「…ま、ホライゾの気持ちも少し分かっけどね。あーしはきみに錬成品の精製方法を詳しく聞きたいな」
「錬成炉を使ってるだけですよ」
「錬成炉って初心者が使うもんじゃん。…貴重な品を大量に作成するには…合成・調合の手順も踏まえなきゃ普通は無理だよ?」
「…きっと運が良いだけかな」
「またまた〜。…ほんとは調合書があんでしょ?ん?」
…錬成炉に関しては嘘偽りなく本当なんだけどなー。
「悠さん…二人との無駄話に時間を費やしてる暇はないわよ。早く約束の物を出して下さい」
「は、はい!」
無表情で淡々と告げるレイミーさん。
…丁寧な口調だけど…なんかこう…苛々してるのが伝わってくる。
「今日の社長って不機嫌だよな?」
「あー…多分、彼が関係してんじゃん?初回献上金の件でかなり心配してるみたいだし」
「『鉄仮面』と名高いレイミー社長が心配って…まさかぁ〜!」
「マジだっつーの。…今日なんてめっちゃ気合い入ってるし…あーし達も呼ぶなんて相当だよ?しかも役職も就いてない兼業のギルドメンバーにここまでするって……私情が絡んでんに決まってるよ」
「い、言われてみれば確かに…!社長が命より大事にしてる宝物品金庫室に簡単に人を通すってだけで異例かも」
「ホライゾ。次、余計な事を喋ったら給料を50%減給します」
う、うわぁー。
「ぶひぇ!な、なんで私だけ!?」
「…おら!養豚場に突き出すぞ豚ぁ!」
ひでぇ…。
これ以上、待たせるとホライゾさんが可哀想だな。
「ーーよっと!…お待たせしました。今回、査定して欲しい物はこれです」
貪欲な魔女の腰袋から目当ての物を取り出し三人の目の前に置く。
「……こ、れは……」
「ぶふぉっ!!!」
「え、え…ま、マジ…?」
眩い黄金の輝きを放つ塊…前に煌星龍の宝玉で天空から召喚したゴールド・メテオだ。
「よろしくお願いします」
「「「…………」」」」
…あ、あれ?
愕然とした表情のまま三人が動かない。
ホライゾさんに至っては今にも倒れそうだ。
「…一体何処で…これを手に入れましたか…?」
「えーっと…前に龍峰に行った時に偶然、拾ったんですよ。腰袋に閉まったまま忘れてましたが…あの日、ユーリニスと口論してる最中に思い出して」
さらっと嘘を吐いてしまったが仕方ない。
アジ・ダハーカの存在は内緒にすべきだろう。
「わ、忘れてた!?こ、これが…どんな価値がある品なのか…ちゃんと分かってますか!!?」
興奮してるホライゾさんの目は血走っていた。
「い、いや…?」
「レ、レイミー社長!!」
「…鑑定したけど間違いないわ…百年に一度、天空から地上へ流れ落ちると言われる煌星の贈り物…純金隕石よ。…私達は今、奇跡を見てるのね…」
「あーしは社長ほど正確に鑑定できないけど…うん…このサイズと輝きはヤバいわ」
…ふむ。鑑定結果の内容が俺と違うっぽい。
前から薄々、勘付いていたが同じスキルでも各個人で差異があるようだ。
「…クルルの言う通りサイズが桁違い…小石程度の大きさでしか発見されないゴールド・メテオが岩塊で…」
「うーむぅ…純金ゆえ熱伝導率が高く鉱石としては使えませんが価値は計り知れませんぞ…」
「まーね。金の相場も上がってるし」
ゴールド・メテオを前に三人が話す。
概ね悪くない評価っぽい。
いい査定額を期待できそうじゃないか。
「高値になりそうで良かった」
俺の何気ない一言にホライゾさんが反応した。
「………それ本気で言ってますか?」
「は、はい」
「…まぁ…冒険者が素材の価値を把握してないってのは別に珍しい話じゃないけどさー」
「これは困りましたな社長…」
「………」
三人の表情が険しい。
「困った?どうしてですか?」
「…悠さん。このゴールド・メテオの金銭価値は貴方の想像を遥かに凌駕してます」
「え、1000万とか?…も、もしかして5000万G!?」
テンションが上がってきたぞ…もし5000万Gならあと1億ちょっとで3億Gじゃないか!!
「桁が二つ足りません」
「ん?」
今、桁が足りないって聴こえた気がしたけど…。
「すいません。ちょっと耳の調子が悪くて…もう一度、言って貰えますか?」
「桁が二つ足りないと言ったの」
「まっさかぁ〜!田舎者の俺でも流石に騙されませんよ。……揶揄ってるんですよね?」
揶揄ってると言ってくれ。
「これが揶揄ってる顔に見えますか?」
…レイミーさんの顔は真剣だった。
今度は俺の体から血の気がさーっと引いていく。
「…百、千…万…億…10億……ふぁ!!」
じゅ、10億…テンションが急激に下がってきたぞ。
金額がやば過ぎて頭の整理が追い付かない。
「少なく見積っても…恐らく40億G以上の価値があります。金の相場はクルルも言ってましたが一定ではありません。…近年、ミトゥルー連邦の辺境国では紛争の影響で紙幣価値が低下し…代わりに金や銀等の財宝類の価値が高騰してます。売却時期を考えれば100億Gに届くかも知れない…。そもそもゴールド・メテオは通常の金より遥かに希少な…超希少の宝よ」
「ですなぁ。これだけの純金なら相当、質の良い魔導具を量産できますし」
「…魔導具に金を使う?」
「ユウさんはご存知無いのですか?……魔導具を作成しても起動するには核が必要ですぞ。その核には宝石や金銀の魔力伝導率が高い品を使う…この間、ユウさんが持ち込んだドラコ系の宝石で大変、良質な結界魔導具と空間拡張魔導具が作れましたぞ」
「はー…」
全然、知らんかった。
「魔導具の製作は色んな方法があっから一概には当てはまらないけどねー。…因みにきみがさっき使ってるって言ってた錬成炉だけど…世の中には魔導具を錬成する錬成炉があるんだよ。…ま、国宝級の代物で所持してるとしたら…マナケミアの総学長くらいかな」
はーい!俺も持ってまーす!…ってやっぱ家にある錬成炉は凄い物だったんだな。
「雑談はそこまで。…話を戻しましょう」
「そうですね」
問題はこのゴールド・メテオはどうなるか。
「…レイミーさん。率直に聞きますが買取は難しいですか?」
「正直に申し上げるとゴールド・メテオは私の予想を遥かに超えた品なの。…小粒ならまだしも…この大きさになると私でも適正価格を判断し兼ねるわ」
「えーっと、仮に40億Gで買い取っても…百合木の月16日までに本社と支店の収益を足して…運営諸経費を差っ引いてっと…ふーむ…まぁ精々、集めて15億Gが限界でしょうな」
「個人売買でより『商工組合』に加入してる複数の商人ギルドで競売するべき案件だよねー」
アジ・ダハーカが言ってた富を齎す隕石ってのは真実だった。…煌星龍の宝玉やっば!
驚きと戸惑いが一周して逆に頭が冷静になる。
お、ピカッと閃いた!
「良い案を思い付きました」
「案とは?」
「砕いて小さくすればいいじゃないですか」
「……え」
「「!!」」
燼鎚・鎌鼬鼠のトリガーを引く。
火力は抑えて…よし!
「いっせーの……うぉ!?」
「だ、駄目ですぞ…貴重なゴールド・メテオをぶっ壊すなんて…絶対、やめて下さい!!後生ですからぁぁーー!」
振り被るが必死の形相でホライゾさんが立ち塞がり止めに入る。
「でも…」
「ぶひぃぃ!!」
は、半狂乱じゃねーか。
「私もお願いするわ。それは止めて頂戴」
「だなー」
「…わかりました」
渋々、武器を仕舞う。
「妙案だと思ったんだけどなー」
「…誰でも見過ごないに決まってます」
「うーん」
再び唸る。
……あ、これならどうだろ。
「レイミーさん」
「はい」
「ゴールド・メテオを3億Gで買って貰えますか?」
三人が顔を見合わせた。
「40億G以上になるアイテムを3億Gで売るって…きみは頭がイカれてるの?」
失礼な!至って正常だっつーの。
「お金に無頓着なのは知ってますが…それは常識の範疇から逸脱し過ぎです。如何に安く買い叩くのが商人の本分とはいえ…」
「ちゃんと理由はあります。…40億Gの内訳はゴールド・メテオを3億Gで売って差額分37億Gは『オーランド総合商社』へ投資させて下さい」
「…投資、ですって?」
「ええ。詳しく言うと…ベルカ孤児院付近の農墾開拓…町興し事業でしたっけ?あれに投資したい」
「!」
「資金が潤沢ならより成功に近付くでしょ?…あ、そのお金でベルカ孤児院の改装もお願いします。『オーランド総合商社』の地域貢献の一環ってことにして…孤児院の皆には俺の名前を伏せて下さいね」
「…貴方は…」
「それでもお金が余ったら使い道はレイミーさんに任せます。…上手く資金運用してくれるって信じてますから」
「………」
皆、ハッピーになれる素敵な案だろ?
「…ユウさんの提案を社長が承諾すればあの一帯に…本当に新たな町を建設できますな」
「牧場に必要な畜産の売買…人材スカウト…工事費…どれを含めても今、検討してる案より高水準になるねー」
「…確かに願ってもない提案です。商人として…GMとして…この申し出を断る理由が一つもない」
「でしょ」
「…良いわ。悠さんの提案を受け3億Gでゴールド・メテオを買い取らせて頂きます。差額分は所属登録者からの事業投資として処理しましょう」
うっし!
「おぉ…社長!!」
「ひゃー!…案件担当の畜産部門と企画部門の奴らも大変だな〜」
「この後、悠さんは執務室で私と書面契約を交わしましょう。…ホライゾは直ちに必要書類と証明書発行の準備して頂戴。クルルは企画部門及び畜産部門へ予算の大幅修正と見積書の再提出の伝達を」
「分かりましたぁ!」
「りょー」
うんうん!こーゆー円満な解決って喜ばしいな。
…大体、40億Gもの大金は俺には必要ない。
初回献上金を集めれただけで満足さ。
使い切れない沢山のお金に囲まれるよりも…このお金で誰かが幸せになってくれる方が嬉しいしね。




