プレゼントを贈ろう!〜第二弾〜⑩
2月10日 午後13時12分更新
2月11日 午後22時更新
〜10分後 二階 第三騎士団『竜』団長室〜
「ここがジークバルト団長が居る団長室よ」
「でかい扉…いや、あの人の身長と体格を考えれば当然か」
分厚い鋼鉄製の大きな扉には竜の紋章が彫られている。
「特注の大扉よ。剛鉄鋼石と鈍重石を大量に加工し製作された扉の重さは約10t。…騎士団では『試しの扉』と呼ばれてるわ」
じゅ、10tって…。
「…なんでわざわざ不便な扉を注文して作ったのか疑問なんだけど…」
「歳を取って体が鈍るから日常的に鍛えるため…だ、そうよ」
散歩でええやないかーい!
…おじいちゃんってば頑張り過ぎだよ。
「これ仕事に差し支えるだろ?」
「ええ。騎士団員には頗る不評です。…この呼鈴を鳴らして団長に開けて貰うか…自力で開ける以外、入室方法がないの。普段も施錠はしてないわ。鍵穴がないでしょう?」
「あ、本当だ」
「団長は亜人の中でも希少な種族…『巨人族』の一人。オーガを圧倒する怪力を誇る故に私達と感覚が違うのは致し方ないと思うけど…」
「ふぅーん」
「…この扉が『試しの扉』と呼ばれる由縁は…『自力で扉を開けた団員には第三騎士団団長の座を継いで貰う』…とジークバルト団長自ら流布したからです」
選抜基準が厳し過ぎね?
「騎士団でジークバルト団長以外に自由に扉を開けれるのは…第一騎士団の団長だけよ。因みに『金翼の若獅子』の『金獅子』と…今は引退した『鬼夜叉』も昔、扉を開けたそうです」
「ゴウラさんなら余裕で開けるだろうな」
「悠も挑戦してみますか?」
「えー…呼鈴を鳴らして普通に開けて貰おうぜ」
自信はあるが無駄に疲れたくないし。
「分かりました」
大扉の横に設置された呼鈴を鳴らすが反応がない。
二、三度続けて鳴らすも…。
「……出ませんね。中に居る筈ですが」
「うん。居るな」
マップを確認するとマークがちゃんと点滅してる。
突っ立ってても仕方ない、か。
「こうなったら俺が開けるよ」
「お願いするわ。…筋力値が4000以上無いと微動だにしない扉です。私には絶対に無理なので」
「任せとけ」
筋力にはめちゃくちゃ自信があるぜ。
アルマに原始人と揶揄される一端をシーにお見せしよう。…原始人って褒め言葉ではないけどな!
ドアノブはなく所謂、押し戸だ。
右腕に力を込めておす。
「よいしょっと!」
「す、すごい…」
ぶっちゃけ余裕だ。…10tを余裕って思う日が来るとは思って無かったが。
実際、今の俺が全力で人を殴ったら相当やばい。
無惨な肉の塊を大量生産してしまうだろう。
…普段から気を付けてはいるが力加減には改めて注意しなきゃと実感するな。
「まさか、片手で開けるとは…」
感心と驚愕が入り混った顔で俺を見ている。
「先に入ってくれ」
「…ではお言葉に甘えて」
シーの入室を確認し自分も部屋の中に入る。
手を離すと重々しい音と共に扉が閉まった。
〜第三騎士団 『竜』団長室〜
「ーー…簡単に開けるとはのう。流石、儂が見込んだ男じゃ」
「…ジークバルト団長」
「六十年、か。思い返せば…長いようで短い団長生活じゃった」
「……」
「老兵は去り新兵へ未来を託す…儂も漸く次代の担い手へバトンを渡す日が来たようじゃ…」
「ジー」
「あぁ…泣くでないシーよ。子宝に恵まれんかった儂にとって…お主は娘のような…孫のような…大切な存在だった。…ユウとシーが力を合わせれば第三騎士団の将来も安泰じゃろうて」
「………」
「…ふっ…寂しがるでない。儂は何時だってお主達の心の中に居る…さぁ、『辺境の英雄』よ!この初代第三騎士団団長…『焔の暴君』から受け継がれしドラッヘの外套を受け取るのじゃ!!」
「帰ります。お邪魔しました」
差し出された外套を無視し一礼して踵を返す。
「じょ、冗談じゃ冗談!…素っ気ないのー」
…部屋に入るなり小芝居を打ってからに。
「団長、目が本気でしたけど」
「ふぉふぉふぉ!」
豪快に笑って誤魔化すジーグバルトさん。
…食えないお爺ちゃんだぜ。
「えーっと、俺が呼ばれた理由は…?」
「うむ…騒動の噂は小耳には挟んどる。…その件でユウと直接、話がしたい思っとってな。丁度、騎士団へ来とると聞いて部屋に呼んだ次第じゃよ」
なるほど。
「分かりました。…実は俺もジークバルトさんに質問があってですね」
無論、アレッサさんのことだ。
「ほぉ」
「出来れば二人だけでお話できますか?」
俺の顔を見て髭を撫でながら目を細める。
「…シーよ。済まぬがユウと二人にして貰えるか?」
「分かりました。扉を開けて貰えますか?」
「うむ。それと…」
ジークバルトさんがシーの耳元で何か囁く。
「よ、余計なお世話です!」
「ふぉふぉふぉ」
一体、何を言ったんだろ。
〜10分後〜
16日の出来事を事細かに説明した。
…ゴウラさんとの死闘…そして、レイヴィーさんの真実を教えて貰った事も。
「…成る程のう。真相を知ったか」
「ええ」
「ふぅーむ…ふぉふぉふぉ!」
ジークバルトさんは一頻り笑い、言葉を続ける。
「あの悪童に随分、気に入られたんじゃのう」
「悪童ってゴウラさんですか?」
「うむ!昔はとんでもない悪餓鬼での…度が超えた悪戯をしょっちゅう繰り返してなぁ……ふぉふぉ!何度、しょっ引いて儂の拳骨をくれてやったか数え切れんわい。…ゴウラに比べたら娘のルウラなんぞ可愛いもんじゃ」
「ま、マジか」
…なんってゆーか…親子って感じだなぁ。
「レイヴィーのことは儂も至極、残念じゃった。ユウに話したのは…きっと……」
そこで言葉を切ってジークバルトさんは目を綴じる。…故人を忍ぶ様に。
「…兎に角、じゃ。お主の境遇が気懸りじゃったが…ふぉふぉ!無事、解決したようで良かったわい」
「はい。問題は山積みですけどね」
「儂に出来る事があれば力を貸してやらんでもないが」
「あ、それなら一つ」
「言うてみい」
「アレッサさんの亡骸は何方へ埋葬されたか…墓の場所は何処か…教えて欲しいんです」
「…もしやさっきの質問とは」
「ええ。その通りです」
「目的は?」
難しい顔だ。
「…目的も何も…ただ、アイヴィーに墓参りをさせてあげたいからですよ」
「……ふぅーむ」
「何か問題が?」
「…実は彼女の遺体は儂が故郷に帰した。アレッサの義理の父とは知人でのう。無縁仏では寂しかろうと思ってな…」
故郷…義理の父…あ!
「それってまさか」
「うむ。義理の父とは犯罪国家の統治者…ドライケル家14代目当主『シンガード・ドライケル』…レイヴィーの実父じゃ」
「アレッサさんの墓はヘルに…」
「…彼処は色々と危険な国じゃ。ミトゥルー憲法が通用せんし独自の法がある。…シンガードも一筋縄ではいかん男じゃぞ」
「……」
「それでも行きたいか?」
……愚問だ。答えは決まってる。
「はい。…アイヴィーは行くか分からないが…無理なら俺だけでも行きます。…保護者として…その責任があるでしょう」
「……ふぉふぉふぉ!義理堅い奴じゃな」
今の話を聞いてある疑問が浮かんだ。
…獅子抗争後に何故、幼いアイヴィーを放って置いたのか…その理由が知りたい。
仮にも一国の統治者だ。金翼の若獅子に匿われたとして…何故、接触すらしなかったのか?
…いや、まさかな…。
……もし、俺の想像が当たってたら…幾らアイヴィーの祖父でも許し難いものがある。
「決意は固いようじゃし…良かろう。儂がシンガードと会う手筈を整えてやるわい」
「え、良いんですか?」
「ヘルはミトゥルー連邦非加盟国じゃ。如何に契約者で強いお主でもヘルの入国には政治的な問題がある。…今回は儂の立場を利用して工面してやるわい」
「あ、ありがとうございます!」
「ふぉふぉ…気にするでない」
ジークバルトさんって良い人だなぁ。
「只、準備に相当の時間は掛かるからのー…それでも良いか?」
「構いません」
「うむ!…これは代わりと言ってはなんだがユウに依頼を一つ頼みたい」
「依頼ですか?」
「ああ。当面先の依頼になるが…『鬼夜叉』…リョウマに関するものじゃ」
「…『鬼夜叉』…」
俺と同じ契約者で色々と噂は知ってる。
…一度、会ってみたかったしいい機会かも。
「勿論、構いませんよ」
「助かるわい。ヘルの件はユウも大船に乗ったつもりで連絡を待っとってくれ」
「了解です」
頼りになるお爺ちゃんだ。
「それと全く関係ない話じゃが…」
「はい」
顎髭を撫でながら俺を一瞥する。
「シーをどう思う?」
「……シー、ですか?」
「儂が言うのも何だが…シーは頭が良くてなぁ…仕事が早いし部下の面倒見も良い」
「その通りだと思います」
「…それに綺麗じゃろ?」
「え、ええ。可愛いと思いますよ」
「うむ!…閲覧系統のスキルを持つ故、要らぬ誤解や噂で…落ち込んだ時期もあったが…立派に成長してくれてのー。…これで頼り甲斐ある男が娶ってくれたら…言う事無しなんじゃが…」
「へ、へぇ…」
「さっきも言うたが儂には子供が居らん。…じゃから実の娘みたく想っとってのう……儂も歳じゃ。死ぬ前にシーの晴れ姿が見たい」
「…し、心中お察しします」
「ユウよ。…シーならアイヴィーの義理の母に相応しいと思わんか?ん?」
「えっ!?」
「ふぉふぉふぉ!あれは夫に尽くす良き妻になるぞ〜」
…暫くジークバルトさんにシーとの縁談を薦められた。
どんだけ俺と結婚させたいんだよ!…っつーか無理矢理、俺を紹介されるシーが可哀想だろ。
その後、何とかジークバルトさんの話を切り上げ最新版のビンゴブックも貰えた。
……やれやれ。大分、時間は食ったが次は予定通りオーランド総合商社に行こう。
大事な買取査定が待ってるしレイミーさんにもプレゼントを渡さなきゃな。




