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プレゼントを贈ろう!〜第二弾〜⑧

2月4日 午後17時24分更新

2月4日 午後19時04分更新


〜午後17時55分 金翼の若獅子 一階フロア〜


昇降機に向かう途中、帰り支度を済ませたフィオーネと鉢合わせた。


「あ、悠さん」


「よ!お疲れ様。今日の仕事は終わりか?」


「はい。市役所に寄ってから家へ帰ります。悠さんは?」


「俺は個人的な用事でラウラに会いに行くとこだ」


「…もしかして初回献上金の件ですか?」


不安そうに顔を曇らせる。


「違う違う!そんなに心配しなくても大丈夫さ」


そう言うと頬を膨らませた。


「…GMと闘った挙句、新規冒険者ギルドの建ち上げに…百日紅の月16日まで3億Gの大金を納めなくちゃいけないのに心配しない要素がありますか?」


「うー…あー…」


「うーとあーじゃ答えになってません」


き、厳しいなぁ。


「…3億Gの当てはある。心配してくれる気持ちは有り難いけど…隠し事も一切してないし安心してくれ」


「……この先も絶対に隠し事はなし、ですよ?」


「ああ」


「…私にとって…皆にとって…貴方は特別な人なんです。どうしても心配で…口煩く言ってしまいたくなります。…一人で抱え込まないで辛い時は私にも傍で支えさせて下さいね」


「…ありがとう」


ええ子や…。


「うふふ!礼を言われる程の事じゃありません。…あ、それと…悠さん宛に個人指定依頼を承ってますよ」


「おー」


「依頼者は十三翼…上位陣の方々でした。内容を拝見しましたが()()()()の依頼が多数です。受注する際は準備を万全にしてからの方が宜しいかと」


「了解。その内、受けるよ。…あー…フィオーネ」


「はい」


「良かったら今度、食事に行かないか?」


そう言うとフィオーネの獣耳がぴんっと立った。


「…私と()()()()()で…ですか?」


「ああ。嘆願書の件のお礼も兼ねて奢るからさ」


実は()()()()()事もあるし。


「よ、喜んでお受けします!!」


「お、おう」


獣耳がすっげぇ動いてるぞ。


「店が決まったら俺から連絡するよ。時間は夜でも大丈夫か?」


「はい!何時だって構いません!」


嬉しそうに頷く。…テンションが凄い。


こんなに喜んでくれるならいい店を選ばないと。


「これは絶好の機会です!し、勝負下着を…用意しなきゃ…それで…悠さんと…悠さんと…!!…えへへへ…」


「?」


よく聴こえんが…ま、いいや。


「そろそろ行くよ。また今度な」


「う、うふふ…悠さんってば駄目ですよぅ…」


「駄目?」


目を閉じ恍惚した表情でうっとりと呟く。


これまたエロ…げふんげふん!


「あっ!な、何でもありません。ふふふ…ではまた」


挨拶もほどほどに超上機嫌のフィオーネは意気揚々と帰った。


「さて俺も」


「…ちっ」


え、舌打ち?


振り向くと…。



「…まーた酒に砂糖を入れたな〜?おじさん虫歯になっちまうよ」


「俺の天使…天使がぁ…マジで…もうっ…あ゛あ゛あ゛あ゛ーー!!」


「た、耐えろ!逆立ちしても…お前じゃ『辺境の英雄』には敵わねぇーよ!」


「ケッケッケ!一昨日、食事に誘ってたけど秒で断られたもんな」



男性冒険者のやっかみの視線と怨嗟の声がやばい。


…でも、安心してくれ。お前らの想像は全くの的外れだぞ。フィオーネと俺じゃ…豚に真珠…月とスッポン…提灯に釣り鐘…ってなもんだ。


頑張れ若人よ!


仲間に励まされる青年に心の中でエールを送る。


そそくさと昇降機に乗り込み執務室へ移動した。



〜午後18時10分 金翼の若獅子 八階 GM執務室〜



「失礼しまー…」


「ちゃんと聴いてるの!?」


入った瞬間、甲高い怒鳴り声が耳を劈く。


「…怒るなって…明日、俺がシャーロックんとこ行って事情を説明してくっから」


「絶対だよ!?解決するまで帰って来なくていいから」


「わーったっつーの!…まー…トモエが悠をこうも気に入ってるとは俺も予想外……お」


ゴウラさんが俺に気付いた。


「よう」


「どうも」


「あ…こほん」


ラウラは取り繕う様に咳払いをした。


「…やぁ!悠がこんな時間に執務室へ来るなんて珍しいね」


これはタイミングが悪かったかも。


「忙しそうだし日を改めるよ。急に来てすまない」


「大丈夫さ。GMはもう帰るから」


「…んだよぅ。俺にも話させろよ」


「もう帰るから」


無視!?


「あのな〜…一応、ここは俺の部屋だぞ」


「普段、仕事もしない放浪癖のあるGMに執務室は不要じゃないかな」


し、辛辣だなぁ。


「…がははは!こりゃ皮肉に磨きがかかってるわ。年々、母ちゃんに似てきやがるなぁ」


「ふん」


…家庭問題に不躾な立ち入りは厳禁だ。


「これ以上機嫌を損ねると後が恐ぇーし大人しく帰るとっすかね」


ソファーから立ち上がる。


「…あー…そうだ。さっきの話は悠に」


「僕から説明しておくよ」


「ならいい」


さっきの話ってなんだろ。


「またな。詳しい説明はラウラがしてくれっから」


「話の流れがよく分かりませんが…了解です」


「おう」


ゴウラさんは執務室から出て行った。


「…ラウラ?」


「うん。実はーー」


〜数分後〜


「そ、そんな大事に…」


「驚くのも無理はないよ」


…ラウラの話はこうだ。


昨日の昼、金翼の若獅子にベルカが属するエイヴン国のシャーロック国王から密書が届いた。


内容は簡単に言えば…同盟国のヴァナヘイムへ俺の身柄を引き渡す…というもの。


密書を届けた宮廷大臣と臣兵隊に問題は解決したとラウラは申立をしたが…俺を連れて来いの一点張り。


しかし、居合わせたゴウラさんの…。


『帰れ。…文句があんなら俺と勝負すっか?』


この脅し文句(鶴の一声)で速攻で帰ったそうだ。


あ、ありがとうゴウラさん!


「…帰り際、大臣は父にシャーロック王へ謁見し報告する様に言ってたが…よりによって父は『適当に行けばいいだろ』…なんて言うから怒ってたんだ」


「て、適当…」


最後まで面倒をみてぇ!


「大丈夫だよ。王の誤解を解く為に明日、王宮に行って謁見すると約束した。…シャーロック王は父と仲が良いし『賢王』と民衆に愛される名君主さ。悠の事も理解してくれると思う」


「それは有り難いな」


「…それに『金獅子』の勇名を王は無碍に出来ない。五大国家間の抑止力を担う『最高國家戦力(アルティメット・ワン)』の一人だからね」


アルティメット・ワン…突出した武力で牽制してるって事か。つまり…。


「虎の名を借る狐みたいなもんか?」


「簡単に言ってしまえばそうだね。…エイヴンがミトゥルー連邦代表国を務めるのは『金翼の若獅子』がベルカに存在してるのも大きな理由の一つだよ」


「やべぇな」


最高國家戦力(アルティメット・ワン)と闘った自分を褒めてあげたい。


「これは僕の憶測だけど…父が悠を何度も手助けするのは…将来、()()()()()にって考えてるのかも。…君を特別視してる気がするんだ」


「ははは!それはないって。考え過ぎだよ」


「……」


そんな大役は絶対、務まらん。


「そもそも王様はどうして俺をヴァナヘイムに引き渡そうなんて思ったんだろうな?」


「……原因はトモエ姫さ」


ラウラが吐き捨てる様に言った。


「トモエが?」


「彼女は騒動が起きる前から王宮に招待されてる。…宮廷大臣は言葉を濁してたが…自国へ悠の身柄を引き渡す様、シャーロック王へ進言したのはトモエ姫だ。…僕が思うに彼女は君を」


分かった!!


「俺を助けようとしてくれたってわけだな!」


権力を振りかざした人権無視の酷い方法だが善意は善意だもん。


会ってお礼を……って渋い表情でラウラが俺を見てるじゃないか。


「ん?」


「……うん。悠が納得したならそれでいいよ」


え、違うの?


「お、おー」


「ただ、いよいよ君の名がシャーロック王まで届いたのも事実…世間へ露出する頻度もこれから更に増えてく。秘密が暴露たら…言わなくても分かるよね?」


「余計な火種を生むってだろ」


「その通り」


…やれやれ。心配事は尽きないなぁ。


「僕も力になるから一緒に頑張ろう」


「ああ。頼りにしてるよ」


「…そうだ。用件をまだ聞いてなかったね」


「そうだったな。…話す前にちょっと確認だが…日中、ルウラが来なかったか?」


喧嘩してないと良いけど…。


「ああ…悠から貰った武器を自慢しに来たよ。仕事中にも関わらず部屋を飛び回ってさ……書類が飛び散らかって集めるのが大変だったよ」


「あ、あいつ」


今度、会ったら説教だな。


「でも」


「…でも?」


「昨晩、口論した件は自分から僕に謝ったんだ」


「おー」


「悠とエリザベートのお陰で召獣とも仲良くなれたって言ってたっけ。…ふふ!自分勝手で…我儘で…まだまだ子供だけど成長を実感できて嬉しいかな」


偉いじゃないか!説教はお預けだな。


ラウラが喜んでるのが俺も嬉しい。


家族仲良くってのは良いもんだ。


…出来ればゴウラさんとも…。


「…しかし、あの韋駄天ヘルメスは凄いね。…機動性・実用性に加え見事にルウラの適正とマッチしてる。武器枠も空くし超一級品の武器だ。…やっぱり僕が代わりに代金を」


「受け取らないからな」


「……」


男が頰を膨らまして可愛く剝れるなよ!


「日頃の感謝の贈り物ってやつさ。…それに、はい」


小さな箱をポケットから取り出し机に置く。


「ラウラへのプレゼントだ」


「ぼ、僕に?」


サプライズ大成功ってね。


「ああ。…ラウラにはいつも感謝してる。ささやかな俺の気持ちだ。受け取ってくれ」


「悠に感謝してるのは僕の方なのに…」


「いいからいいから」


「…ふふふ!分かったよ。開けてもいいかい?」


「どうぞ」


丁寧に包装紙を外し木箱を開ける。


「!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

心紡ぎの指輪

・雹鉱石と重魔鉱石を細工し作った指輪。装備者の魔力に呼応し青く透き通り、誓約(ユーラーティオ)の紀章文字の効果で距離に関係なくどんな相手にもメッセージを送る事が可能になる。但し一度、外すと輝きを失い二度と使えなくなる。黒永悠がラウラへ日頃の感謝の気持ちを込めて製作した特別な贈り物。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…青い半透明の指輪…すごく綺麗だ…」


指輪を見詰める綺麗な横顔に思わず見惚れてしまった。


「…あ、ああ。この心紡ぎの指輪は誓約の紀章文字の効果で装備するとどんな相手にも距離に関係なくメッセージを送れる便利な品物だが…一度、指輪を外すと二度と使えなくなる難点があるがな」


誓約の紀章文字は高い効果と代償を伴う。


お陰で使い勝手と使い難さの矛盾した側面を併せ持つプレゼントになってしまったが…。


「いや、これは凄いよ。通信魔導具は非常に高価で距離の制限があるのに…相手と距離を選ばす通信が可能なんて…それにとても美しい…」


「気に入ってくれたかな?」


良かった!


「…うん。でも、本当に貰っていいの?」


「元々、ラウラのために作った指輪だ。…要らないって言われたら泣く泣く倉庫に仕舞う羽目になる」


「僕のためだけに…?」


「ああ」


副GMの仕事柄、連絡手段が増えれば便利な筈だし。


「…ありがとう…嬉しくて…言葉にできないよ…」


指輪を両手で握り締めて微笑む。


お、男が頰を染めて乙女みたいな反応しないで!


俺の性癖が行方不明になっちゃうからっ!


「ふふふ!どの指にはめようかな…」


「あ、それなら…ちょっと貸してくれ」


「……え?」


ラウラの左手を握る。


「一応、サイズは問題ないと思うが…間違えて合わない指にはめたら大変だろ?俺が指を選んでやるよ」


「え…ちょっ…え!?」


「動くなって」


「…だ、だって!…これじゃまるで…プ、プロポー…!…こ、婚…やっ…約指…!!」


ププロポーココンヤックユビ?


…獅子族の呪文か?


「えーっと」


指ほっそ!女の子みたいに綺麗な手だな。


「あ、あぅ」


「おいおい、顔が真っ赤だぞ。大丈夫か?」


「…だ、大丈夫なわけ…ない…ょ」


鍛治師の直感では薬指か人差し指だ。そもそもサイズをしっかり測っとくべきだったか。


反省、反省。


「ゆ、悠…」


…よし。こっちの指に決めた!


「おー!ぴったりじゃん」


「………」


ラウラはぼんやりと左手の人差し指を眺めている。


「俺に用がある時は気軽に連絡してくれよ」


「……よ」


「へ?」



「…こんなの…されたら…我慢できなくなっちゃうよ?」



愁いを含んだ眼差しが俺を射抜く。


その切ない顔は婀娜っぽくて…とても…美しかった。


「が、我慢?意味が分からないぞ」


意を決し覚悟を決めた表情でラウラは言う。


「…あのね、ずっと黙ってたけど僕は…」


「……」


「本当は…」


「…本当は?」


長い沈黙だった。


気付けば俺とラウラの距離は縮まっている。


「女の」


ラウラの声を遮るように大きな音が突如、鳴った。


「え…?」


「あれは…」


振り向くと……。


「…急に押すから気付かれちまったじゃねーか」


「私は押してませんよ」


「…お二人は何してるんですか?」


音の原因はゴウラさんとゼノビアさんだ。


執務室の扉の隙間から覗き見していた。


「忘れ物を取りに来たんだが…がはは!いい雰囲気だったもんで…父親としちゃ気になっちまってよー…つい、な!」


男同士でいい雰囲気って表現はやめて。


「…私はラウラに仕事の件で偶々…」


「偶々だぁ?興味津々で覗いてたじゃねーか」


「……」


黙るってことは図星かーい!


「…やれやれ。ラウ」



「〜〜〜ッ!!!」



「…ラ…?」


顔が真っ赤だ。


…歯を食い縛り怒りで全身を震わしている。


そ、そこまでブチ切れる…?


両端に刃を付けた神々しい光を放つ両剣を携え……ふぁっ!?


「お、やっべーな」


「…怒らせたようですね」


「ラ、ラウラ!お、落ち着け!」


両剣を振り翳した。


必死に宥めるも怒りの余り声が聴こえてないらしい。


「待っ」


「…星雲よ…我が呼び掛けに応え…星屑の雨を…降らせたまへ…」


やばそうな詠唱を始めたんだけどぉ!


「ゼノビア」


「はい。氷盡絶礫アプソリュート・ウォーム


え、堅っ!…防御壁!?


「お、俺も中に入れて!このままじゃ直撃…」


「悪ぃな。定員オーバーだ……ま、()()()()()()()()を黙って受け止めてくれや」


なんだよそれ!


「意味が分かんな…!…ちょっ…ラウ!す、ストッ」



「ーーアマ・デトワールッッ!!」



「あっーーーーーーー!!!!」



…ラウラの怒りの攻撃は凄まじく淵噛蛇でガードし直撃は免れたが超痛かった。


俺が盾となったお陰で損害は軽微で済んだけどね!


その後、我に返ったラウラに平謝りされる。怒らせた張本人達はさっさと逃げてた……ちくしょー!


二人で部屋の掃除をしながら続きを聞いたが…。


『…またの機会にするよ…はぁー…』


…と教えて貰えなかった。


気になるが仕方ない。次の機会を待つとしよう。


ま、プレゼント自体は喜んでくれたし万々歳さ。


帰り際、トモエの所在地を教えて貰う。


普段は第21区画にあるVIP御用達の超高級ホテル『ファンタジア』の最上階に宿泊してるそうだ。


流石はお姫様。庶民と金銭感覚が違う。


今日の夜に王宮から帰って来るらしいので明日、お礼とプレゼントを渡しに行こう。


あ!お菓子を作るって約束もしたんだっけ。


帰ったら作るか。


…その前に晩飯の準備が先だけど。


なにはともあれ…ふふ!皆の喜ぶ顔が見れて充実した一日だったな。


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