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プレゼントを贈ろう!〜第二弾〜⑥

1月28日 午後12時47分更新

1月29日 午後14時42分更新


〜午後13時35分 召獣区層 苔野原〜


「……」


「ゆーってば涎でべとべと」


「くっくっく…オスカーは好き嫌いが激しいが一度、気に入った相手とはずっと遊びたがるのだ。風貌に似合わず甘えん坊でね」


「身に染みました…」


他の飛竜も似たり寄ったりだったけどぉ!


「しかし、予期せず悠とルウラのお陰で皆も楽しい時間を過ごせたようだ。…飛竜にとって此処での生活は退屈で窮屈なもの。当分は機嫌を損ねずに済みそうだよ。…どれ、魔法で涎の汚れを拭きとるか」


「あ、大丈夫。俺に支援魔法は効かないからさ」


タオルを地下水で濡らし顔を拭く。


「難儀だな」


「うん。不便」


「仕方ないさ」


魔法が使えなくても十分過ぎる力を貰ってる。


「それはそうと…先程、言いそびれた吾等に用事とは何だ?」


「いえす」


「あー…そうだったな。すっかり忘れてたよ」


「…まさか早速、ユーリニスが妨害工作を」


エリザベートが眉間に皺を寄せる。


「違う違う。大分、待たせちゃったけど約束の品を渡そうと思ってな。それで二人を探してたんだよ」


「おぉ」


「ないすさぷら〜いず!」


「先ずはエリザベートからな」


腰袋から突撃槍を取り出す。


「これは…!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

螺旋唄リート・スピラーレ

・黒永悠が鍛えたウェポンバフが付与された武器。重竜鉱石・竜鉄鉱石・龍鉱石・竜鋼石・重魔鉱石・銅鉱石で造られた螺旋状の突撃槍。MPを消費し螺旋部分が回転を始め無数の貫通魔法を放つ。威力は消費したMP量と装備者の魔力に依存し溜め段階により上下する。


・掠れた声が響き螺旋の唄は命を穿つ。


必要戦闘パラメータ

筋力2500 魔力1500 MP500

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「武器の名前はリート・スピラーレ。知恵サビエンティの紀章文字の効果でMPを消費し無属性の貫通魔法を放てるんだ。溜めると威力が増幅するよ」


「…螺旋唄、か。見事な仕上がりだ」


片手で軽々と振るう。…結構な重さなんだけどな。


「この蒼と黒のコントラストが美しい。…問題は使い勝手だな。早速、試し撃ちと洒落込もう」


リート・スピラーレが回転し掠れた金属音が鳴ると同時に三本の螺旋の槍が地面に放たれた。


苔を毟り岩盤を渦巻き状に抉る。削岩機で岩を削るような音が止まない。


呆気に取られるエリザベートを尻目に数秒後、渦巻き状の三つの穴ができた。…溜め時間無しでこの破壊力。魔力の数値が高い証拠だ。


「…これがリート・スピラーレの力…」


「どうだ。気に入ったか?」


「…くっ、くっくっく!あーはっはっはっ!!」


急に笑い出した!?


「悠よ!!文句無しの出来だ!正に吾に相応き至高の武器ではないか……流石としか褒めようがない!」


近っ!眼力凄っ!


「そ、そうか。気に入ってくれて良かった」


「…ラウラの『星雲(イメラルダ)』にも劣らぬぞ。金を幾ら積んでも感謝し切れん。後世に名を遺す業物になるだろうよ」


褒め過ぎぃ!


ま、エリザベートはご満悦だしこれで納品完了っと。


「ルウラも早くるっくしたい」


期待に胸を弾ませた声。


「勿論だ。…これもかなり凄いぞ」


俺は腕を組み頷く。


「いぇーい!!」


「注文通りスペシャルな武器になったし」


「ふぅー!…はりー!はりー!」


ふっふっふ。待ち切れないよなぁ。


…ではお披露目といこう。


「じゃーーん!!」


「いぇーーー……い…?」


「これがルウラへ贈る新たなウェポンバフ付きの武器だ。その名も……ってどうした?」


「………」


苦虫を千匹潰して飲んだってそんな顔はしないぞ。


「…ゆー…これはぶーつだよ」


編み上げの長い金属靴を指差し不満そうに呟いた。


「どう角度をちぇんじしても武器に見えない」


「ふむ。…確かに見えん。デザインは良いが…」


「……うーー!エリザベートと違う!!…お金を払わないからって差別だ!すとらいきする!」


地団駄を踏む。


「…まだ説明は終わってないぞ。これは()()()()()()()()()()()()()()なんだ」


「空を飛ぶ?蹴撃に特化?」


「その金属靴の名は『韋駄天ヘルメス』。…ま、論より証拠だ。履いてみるといい」


「…うー…ゆーがそー言うなら」


ルウラが革のブーツを脱いでヘルメスを履き直す。


すると…。


「!」


「宙に浮いた!?」


「ふ、ふぉるむも変わった…!」


ヘルメスの両踵から魔力と魔素が合わさった翡翠色の翼が出現し半透明の金属が膝上から足先まで両足を覆う。


…うん!良く似合ってるじゃないか。


軽装の足鎧とロングブーツを足して割ったイメージで作ったのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

韋駄天ヘルメス

・黒永悠が鍛えたウェポンバフが付与された武器。重魔鉱石・雹鉱石・翡鉱石・純銀鉱石・純硫黄石・魔鉱石で造られた金属靴。周囲の魔素を吸収し特殊な翼が出現。一定時間、自由に空中を移動する事が可能となり装備者の敏捷の数値に左右し速度が上昇。また吸収した魔素とMPを消費して戦闘技『ヘルメス・アーツ』を放てる。


・装備者の任意で形状が変化。武器化と装具化の二つの側面を持つ。


・黒永悠がルウラへ日頃の感謝の気持ちを込めて製作した特別な贈り物。



必要戦闘パラメータ

敏捷2000 MP2000

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ヘルメスには右靴に『変化ムーターティオ』…左靴に運命フォルトゥムの紀章文字を彫って()()のウェポンバフを宿してる。その効果で周囲の魔素を吸収し発現した翼で空を飛べるのさ。…それにヘルメス・アーツって戦闘技も使えるようになるんだ」


「期待を胸に…じゃんぷ!」


凄まじい跳躍と共に空を縦横無尽に飛び回る。


「…信じられん。羽根の無い種族が…獅子族のルウラが魔法も使わず空を飛んでるぞ…」


「とぅ!」


空中でルウラが放った蹴りが竜巻を生む。


上昇した気流に乗り更に高く飛翔した。


…嘘ぉ!もう使い熟してんじゃん。


試運転した時、夜刀神の加護の効果があっても俺にはあんな動き出来なかったぞ。


「ふぅ」


柔らかく地面に着地。


ルウラの頰は興奮で紅潮していた。


「気に入ったか?」


そう聞くと…。


「…超…超くーるっ!ゆー!大好き!!」


「ぐふっ!?」


ぶ、武器化したまま飛び付くのはあかん!


鉄球を真正面から受け止めたよーな衝撃が…。


「魔法や魔導具も使わずふりーに空をふらいした!…こんなすぺしゃるな武器を作ってくれたゆーは…すーぱーないすがい!らびゅ〜」


無邪気な笑顔。


こんなに喜んでくれると鍛治師冥利に尽きるぜ。


「…ふふ。気にいって貰えて嬉しいよ。ちなみに武器化と装具化は任意で切り替えれる」


ヘルメスが装具化した。


「いぇー!便利」


「…いやはや…斬新で画期的だぞ。別々の紀章文字を片方づつ靴に掘るなんてよくぞ成功したものだ。…くっくっく!悠は鍛治師として非凡な才と想像力に恵まれてるな」


非凡な才と想像力、ねぇ。


「…偉大な()()に感謝しなきゃな」


「先人?」


偉大な先人とは緋の魔女ことランダ。


彼女が工房に残したレシピ案のアイデアを参考にリート・スピラーレとヘルメスは完成したのだ。


「ゆー」


「どうした?」


「ラウラにもヘルメスを自慢してくる。…昨日、散々でぃなーで小言を言われた恨み。泣きっ面に蜂。あんさーを返すちゃんす。…二人には感謝感激。えいよー」


「…また喧嘩になるではないか」


呆れるエリザベートを余所にルウラの鼻息は荒い。


「望むところ!」


「程々にな。口喧嘩ならまだしも殴り合いの喧嘩に発展したら俺も怒るぞ」


贈り物を家族へ自慢したい妹。…構図は微笑ましいんだけどね。


「さー。…それとゆー。ますく外して」


「?」


言われるまま外す。


ふわりとルウラが浮遊した。


襟のファスナーを下ろし口元が露わになる。


次の瞬間…。


「ん…」


「なっ!?」


「!!」


ルウラの唇がほんの一瞬だけ俺の唇と触れた。


…い、い、い、今のはキッ、キッ、キッ…キスゥ!?



「……It is the gift in return of the wonderful present。…ぎゃはは!悠兄ちゃんってば顔が真っ赤だよ… ?」



悪戯っぽく笑い頰を染めたルウラは…とても…とても…可愛かった。


「お、おい」


「See you!」


そう言い残し行ってしまった。


…素敵なプレゼントのお礼、か。


不覚にも未成年の少女のとんでもない不意打ちに心臓がドキドキしてる。


…こーゆーのは未来の恋人にしてやったらいいのに。


そう心の中で思いつつも遂、頰が緩んでしまう。


男って単純だよね〜!


「…だらしない顔になってるぞ」


「はっ…!?」


慌ててマスクをする。


「未成年に劣情を催すのは感心せぬな。大体、簡単に接近させ接吻を許すとは気が弛んでいる証拠だ」


「えぇ」


さっきまでの上機嫌が嘘のようにご機嫌斜め。


尻尾は荒ぶり地面を叩いて不満を表現してる。


美人な女性を怒らせると怖い。


こっちに来て学んだ教訓の一つ…。


…な、なんとか弁明して()()()()()()()()()雰囲気を作らなきゃ!


「こ、子供がした事だし…いや〜最近の子はませてるね!俺もびっくりしたよ」


「然らば吾から口付けをされたらまた違う想いを抱くのだな?」


どうしてそうなる。


「エリザベートも14歳…」


「竜人族と他種族の年齢は比例せん」


「そ、そもそも女の子が男に簡単に唇を許すのは感心しな」


()()()()()()()()()どうなのだ?」


誤魔化そうにも凄い迫力で迫られ尻込む。


このせんとうはにげられない!


「そりゃ…まぁ……エリザベートは綺麗だし…嬉しい、かな?」


…俺は一体、何を告白してるんだ。羞恥心が高まるぅ…。


返答に満足したのか笑みを浮かべエリザベートは頷く。


「うむ!その反応は当然よ。…吾のこの魅力ある肢体で迫れば悠も滾る精力を我慢できまい。ベッドで押し倒し胸を揉みしだいたのが証拠よな。先程の件は不問としよう」


「…うーん。男の好みって複雑で…人それぞれなんだけどなー…」


ぽつりと呟く。


「何か言ったか?」


「…あー!彼処で犬みたいな召獣が欠伸してるぞ!可愛いな〜」


「む…あれはランカー序列第15位『箱舟』の召獣…ライガーだな。幽魔獣種は調教が難しいモンスターだがあれは人懐っこいぞ」


「へ、へぇ」


あ、危ねぇ…。


余計な一言でまた機嫌を損ねるとこだった。


…よし。この雰囲気なら渡しても大丈夫だろう。


「エリザベート」


「どうした」


「…依頼品とは別に俺からの個人的なプレゼントだ。受け取ってくれ」


装飾した小箱を渡す。


狼狽しつつエリザベートは受け取った。


「…プ、プレゼントだと?」


「いつも世話になってるからな」


「何を言う!…オルティナとヨシュアの一件で迷惑を掛け…世話になったのは吾の方ではないか」


「違う。あれは成る可くしてああなったんだ。誰のせいでもない」


「…悠…」


「…精一杯、日頃の感謝の気持ちを込めて作った。受け取ってくれないか?」


「くっくっく……悠からの贈り物を拒否する訳が無かろう。どれ…」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

竜神の十字架

・純銀鉱石と重魔鉱石を細工し竜神『ベスティアリ』を模して作った数珠の十字架。装備者の魔力に呼応し竜魔法の威力を上昇させる。黒永悠がエリザベートへ日頃の感謝の気持ちを込めて製作した特別な贈り物。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「これは竜神の…?」


「…実は本で調べたんだ。竜人族(ドラグニート)は『竜神教』を信仰し祈りを捧げるんだって?」


「あぁ…都市部へ移住した竜人族の間では廃れつつあるが吾の故郷…鯉の里では根強く信仰されてる。無論、吾も信徒だ」


『『ベスティアリ』は天空を支配し尊厳と秩序を司る立派な神様らしいな。…エリザベートにはぴったりだと思ってさ」


「…美しい…」


繋ぎ目は数珠の首飾りの祈具。


竜神の十字架は純銀鉱石と重魔鉱石が混ざり合い、深みのある銀の輝きを放っていた。


「…ふふ、感動の余り上手く表現できる言葉が…見つからんではないか…」


俯き両手で十字架を握り締めながら呟く。


「ふっふっふ!調べて作った甲斐があったぜ」


贈り物(プレゼント)を渡して喜んで貰えると心がぽかぽかする。


「この十字架を貴公の手で吾の首に着けてくれ」


エリザベートは涙目で頰が紅く染まっていた。


「…俺が?」


「ああ」


フィオーネにアンジェ・エルを贈った時も頼まれたっけ。


「分かった。背後を向い」


言葉が途切れる。


伝わる体温と傍に落ちた軍帽。


「…このままで構わん」


ち、近い!


背中の大きな羽根が俺とエリザベートを包む。


至近距離過ぎだよ…。


「お、おー」


首筋に手を回し十字架の留め具を探す。


…喉が乾いて手が少し震える。


息遣い…女性特有の感触…匂い…。


煩悩って袋を串刺しにされた気分。


流石、串刺し卿だぜ!…なーんて馬鹿な事を考えて緊張を紛わしてるのは内緒。


「…填めたぞ」


「そうか。では…」


「ひゃ、ひゃう!」


情け無い悲鳴が口から漏れる。


コートの襟をずらしエリザベートが首筋に噛み付いたのだ。…いや、噛み付くってよりも甘噛み…す、吸ってる!?


金縛りにあった様に体が硬直する。


数秒後、羽根を折りたたみ俺から離れた。


軍帽を拾い被り直して踵を返す。


どんな表情をしてるのか窺えない。


「…え、エリザベートさん…い、今のは…?」



「くっくっく…()()()は癪なんでね。()()()()()()()()を選んだだけさ」



…二番目ってさっきのルウラへの対抗心か!?どんだけ負けず嫌いなんだっつーの!


「びっくりしたぞ…」


「仕方あるまい。竜人族の女は狙った(えもの)は逃がさん性なのだ。…今のは吾が必ず悠を射止めるという竜神への誓いと証よ」


「獲物を射止めるって…あははは!まるで捧げられる供物みたいじゃん」


「……ここまで鈍感だと呆れと殺意を通り越し尊敬の念を覚えるよ」


「ん?何か言ったか?」


小声過ぎて聴き取れない。


「ふふふ…何も」


振り向いたエリザベートの顔は溌剌(はつらつ)としていた。


「兎に角、素晴らしい贈り物を有難う。…一生の宝物だ」


「ふふふ」


満面の笑みに俺も笑顔で応える。


「…そうだ。忘れる前に伝えて置く。昨夜、オルティナから連絡が来て扉木の月24日に此方に到着する予定らしい。…色々と彼方での()()()()に手間取っていて都出が遅れてるそうだ」


「…そっか」


「到着次第、また連絡する」


「よろしく頼む」


その後、飛竜の世話でまだ召獣区層に残るエリザベートと別れ昇降機に乗って移動した。



〜昇降機内〜



「…腹が減ったな」


偶には中央区画の店で飯を食べるか。


紆余曲折はあったけどプレゼントは無事、渡せたし気分が良い。


あとはラウラとベアトリクスさんだ。


適当に時間を潰して夕方、渡しに行こう。


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