プレゼントを贈ろう!〜第二弾〜⑤
1月27日 午後12時30分更新
「こいつは愛想がない。飼い主に似てる」
「…ほぅ。天空竜は竜種の中では知能が高く穏やかな気性の飛竜だ。……ツェルが嫌なら彼処で寝ている侠刃竜のオスカーにしよう」
「………」
この子の名前はツェルって言うんだ。
白い鱗が綺麗で……うん。キルカを思い出すな。
…えーっと…お!あの子がオスカーか。
崖端で寝ている紫の…うっわぁ…気性が荒そうな貌。両翼は砥いだ剣みたく鋭いし引き締まった四肢も力強そう。
「どうしたルウラよ。まだお気に召さないか?残るは…土塵竜のモガ・三首竜のトライ・炎飛竜のロシナ…この三匹だけだぞ」
エリザベートの声に反応し其々、寝床から顔を覗かせる。…どれも立派な体躯で漂わす風格は一級品。竜の巣で出会った飛火竜サラマンドルなら対抗できそうな気がする。
…あの可愛い二匹の赤ちゃん竜は元気だろうか?
「…気に入らないってゆーか…」
「さぁ早く選んでくれ。…よもや自信が無くなったとは言うまい?昨晩、吾の就寝を散々、邪魔し忠告を無視して…『ルウラなら余裕。竜の一匹や二匹、わたしの魅力を前にメロメロ。腰砕けにする』…と言ってではないか」
…さっきの余計な一言でエリザベートを怒らせたな。
「…うっうー!!……ばーか!エリザベートのばーか!…でぶ!悪趣味などらぐにーと!」
子供かよ。…いや、子供だったな。
「あ、おい」
ルウラは苦し紛れの悪態を吐き俺の背後に隠れた。
「やれやれ。…自分から我儘を言い出した挙句、逆上するとは情け無いぞ」
「……」
フォローしとくか。
「…ルウラ。失敗は恥じゃない。何事にも挑戦する姿勢は大したもんだ。でも、頼んだ相手にその言い草は失礼じゃないか?」
「うー」
可愛く唸っちゃってるよ。
「自分の失敗を認める事も強さだと思う。…大丈夫。エリザベートも本気で怒ってないよ。謝って仲直りしよう。俺は素直なルウラが好きだな」
「……」
そう嗜めると背後からひょっこり顔を出した。
「………そーり。エリザベート」
「くっくっく…まぁ、吾も少し意地悪だったな。ルウラよ。再三、言うが召獣を従えるのは簡単では無い。強さより調教師としての専門知識と技術…何よりそのモンスターとの絆や意志が土台に必要になる。……極稀にアイヴィー嬢のような特殊なケースもあるがな」
「…さー」
「召獣を従えたいなら先ずは勉学に励め。…本気ならば喜んで手伝おう」
「……うん。さんきゅー」
前に出て照れ臭そうに礼を言う。
「ーーよし!これで仲直りだ」
良かった良かった。
「ふっ…気を遣わせて済まぬな」
「別になんてことないさ」
「そーいえばゆーは何でここに?」
「…確かに。悠がモンスターハウスに用事があるとは思えんが」
漸く当初の目的を達成できる。
「俺が用があったのは二人だ。大分、待たせちゃったが……っと?」
背中を小突かれる。
ーー………。
振り返るとツェルが直ぐ側まで近付いていた。
ーー……貴公カラ龍ノ匂イガスル。…コノ澄ンダ魔力…ソシテ…雄々シイ猛リ…間違エヨウガナイ。……モシヤ龍ノ縁者カ?
喋った!知能が高いって言うだけあるなぁ。
「ああ。大切な龍の友達がいるよ」
「「!」」
何故か驚く二人。
ーー…友カ。クックック…成程。龍玉ヲ授ッタノダナ。道理デ息吹ヲ感ジル筈ダ。
「へぇ…よく分かったじゃないか」
ーーフン。分カラヌ訳ガナカロウ。人ニ従エド…コレデモ竜ノ端クレ。見縊ルナヨ。
喋り口調はエリザベートそっくり。
「…そうだ。自己紹介がまだだったな。俺の名前は黒永悠。エリザベートの友達だ。宜しくなツェル」
ゆるりと尻尾を振る。
ーー……悠ヨ。貴公ハ竜語ガ堪能ダガ…本当ニ人カ?ドラグニートノ主ヨリ流暢ニ話スデハナイカ。
「んー…まぁ、契約者だし色々あるのさ」
ーーホゥ。契約者トハマタ珍シイ。
「それよりもツェルは天空竜だっけ…綺麗な鱗だ。撫でてもいいか?」
ーー……クックックッ。本来、不遜ダト噛ミ砕イテヤルトコロダガ…龍ト親シイ貴公ハ許可シヨウ。
首の付け根を撫でる。オルタとオルカもここを撫でられるのが好きだった。
ーー…ホ、ホゥ!…中々上手イナ…心地ヨイゾ。
低いごろごろ音を喉から鳴らすツェル。
…ネコみたい。
あ、そうだ。良いこと思い付いた!
「ツェルは何でルウラを警戒するんだ?」
ーー……アノ小娘ハ竜ヘノ敬意ヲ感ジン。態度ト物言イガ気ニ食ワン。…竜語モ話セン癖ニ生意気ニ。
「なるほど」
ーーソモソモ誇リ高キ天空竜ノ吾ガ主ニ従ウノハ……竜ノ誓イ故ダ。愛玩動物デハナ…グルゥゥ!…気持チイイ…。
可愛い奴。
「…ルウラは初見でツェル…いや、飛竜との接し方が分からなかっただけなんだ。もう一度、触れ合うチャンスをくれないか?俺が言って聞かせるから」
ーー…………。
「頼む!」
わしゃわしゃと撫でつつ頭を下げる。
根負けした顔でツェルは呟いた。
ーー……シ、仕方ナイ。モウ一度ダケダゾ。
「ありがとう!…ルウラ。ちょっとこっち来てくれ」
「…なに?」
おずおずと近寄る。
「もう一度、触ってみろ。…ただ、ツェルはペットじゃない。敬意を払い対等な友として接するんだ。真心を込めてな」
「………」
ーー………。
はいはい!互いに睨まない!
「…今、言った事を守れば大丈夫だよ。ほら」
ルウラが慎重に手を伸ばし呟く。
「さっきはごめん。ふれんどになろ」
ーー………。
「わぁ…ゆ、ゆー!るっく!るっく!」
「あぁ見てるよ。…な?ちゃんと触れ会えただろ」
最初はおっかな吃驚だったが次第にルウラも慣れ、ツェルも気持ち良さそうに身を委ねてる。
「良い子だろ?」
ーー……フン。…癪ダガコノ小娘ハ主ニ並ブ強者。強キ者ガ敬意ヲ示スナラ相応ノ態度デ応エルノガ竜ノ礼ヨ。
素直じゃないなぁ〜。
「…あれが前に言ってたアザーの加護とやらか?」
神妙な面持ちでエリザベートが俺を見る。
「まあね」
「…あれ程、素晴らしい竜語の発音を聴いたのは鯉の里に居る婆様以来だ。…しかも、悠の場合は竜以外のモンスターとも意志疎通ができる…くっくっく!」
「変か?」
「逆だ。…両親と婆様に良い報告が出来ると思うと嬉しくて遂、笑ってしまったのだ」
「報告?」
「くっくっく…気にするな。近い内に分かる」
得意気に微笑む。
「えー。気になるなぁ……ってうぉ!?」
ーークンカクンカ!ホントダ!ニオイガスルー!
ーー………ダネ。シカモ一ツジャナイ。
ーー無数ノ龍玉…炎ヲ眷属セシ飛龍ノ力モ感ジル。
ーーグモゥ〜。ツェルトモ話シテタシオイラモ〜。
巣で寝ている筈の他の飛竜が傍に来ていた。
どの竜も特徴的で非常に興味深いが…。
「おうふ!急に…な、舐め」
ーーペロペロペロペロ!
ーー…ウン。契約者ッテ言ッテモ味ハ普通。
「…こ、こら。裾を引っ張るな!?」
ーーグモゥ〜!話シタイ〜!
ーーオイ、我ガ先ニ話スノダ。
…揉みくちゃにされわちゃわちゃだ。
「ふむ…召獣は主に似る、か。…くっくっく!確かに的を得てる。これ程、吾の飛竜と悠が相性が良いとは…照れるではないか」
納得してないで助けてぇ!
…案の定、たっぷり一時間くらいエリザベートの飛竜達の遊び相手をした。




