プレゼントを贈ろう!〜第二弾〜③
1月22日 午前8時20分更新
1月22日 午後12時20分更新
〜モンスターハウス 地下1F 哺獣区層〜
昇降機で地下一階に降る。
着いた先は…。
「おぉ…」
「ここは植生種や小型種のモンスターを管理・研究している哺獣区層。危険度が低いモンスターが主な研究の対象で生態の解明が一番、進んでるんだ」
第一印象はまさに植物園。
危険度は低いと言っても警護は厳重だ。
中々、強そうな冒険者が各要所に配置されてる。
あれは食虫植物か?…あ!根っこを器用に動かして歩いたぞ!小さな鼠のモンスターの群れは区層内を自由に駆け回っている。
職員に警戒する事もなく無防備に寝っ転がり餌を強請っているのはバロウルフだ。
しかし…。
「俺が知ってるバロウルフと違う」
「希少種だからね」
あれがバロウルフの希少種とは…。
良い機会だし聞いてみよう。
「マリーさん。変異種と希少種は通常のモンスターと何が違うんですか?」
「…Sランクの冒険者なら討伐依頼で倒したことがあると思うけど」
訝しげな顔だ。
「意味を知らずに倒してました」
「…うっそぉ!逆に凄いね。希少種と変異種の危険度を知らずに依頼を受けてたとか…」
「あ、はは」
違いなんて気にした事がない。
「…えっと簡単に言うとね、希少種は通常種と違って特別な魔力・才能・能力を生まれ持ったモンスターだね。親の遺伝子…つまり遺伝情報を子に伝える因子が細胞に伝わり難いから体毛の色素や躰も原種の要素を残しつつ…独自な個体として成長するの」
「なるほど」
まだ大丈夫!理解ができる。
「ただ、希少種を親に持つ次世代のモンスターが完全に遺伝情報を受け継ぐとは限らない。…例えば母体の雌が希少種で番いの雄が通常種だと希少種は生まれ易いけど逆は通常種が生まれ易い。劣性や優性遺伝子の兼ね合いだよね〜」
「ほ、ほぉー」
…うん。大丈夫。
「どっちも希少種だと子も希少種で確実に生まれるよ。モンスターの遺伝子は人間とも亜人とも違う機造遺伝子だしモンスターの種類で変わるから…メカニズムの解明は砂漠の砂の中から色が一つだけ違う砂粒を見つけるほど途方も無い難題だね。あ!因みにモンスターの遺伝子は学術用語で『魔粒伝子』って呼ばれてるよ」
「…あー…魔粒伝子ね!」
そ、そろそろ頭の容量が…。
「研究者側の意見を言うと生息する個体数が少ないもんで討伐はして欲しくないんだけどね〜。…ただ、希少種は知能も高く戦闘に長けたモンスターが多いし危険だから仕方ない部分はあるけどさ…」
物憂げな横顔だった。…ふむ。
「…っと…変異種の説明がまだだったね。変異種は環境・怪我・病気で成体にも関わらず通常種から突如、変異したモンスターを示してるの」
「突如ですか?」
「そーだよ。私たちも病気になると薬で免疫力を高めて治すでしょ?…それと同じで苦境を糧に変異したモンスターが変異種!…分かりやすく言うと本来、浅い沼地を好むスライムが溶岩が煮えたぎる火山地域で活動すると普通は死んぢゃうけど……稀に環境に適応して変異するんだ。原理はそんな感じ」
アルマの派生進化や原種進化の話と似てる。
「ほんと適性属性も変わっちゃうから凄いよ……モンスターは生物として非常に完成されてる。魅力が沢山あって…人の常識なんて簡単に覆しちゃうんだ。…種によって独自の言語を使い社会性も構築するし…人は醜く争うけどモンスターは違う。純粋な本能と欲求はとても美しい……」
うっとりした表情で恍惚としてる。
アザーの加護で知能が高いモンスターとも話せる俺としては少し複雑な気分だが…。
「詳しい説明をありがとう」
「にゃはは!この程度はお安い御用ってね〜。…冒険者の人にとって希少種のモンスターも変異種のモンスターも厄介な難敵で素材や死骸の価値が高い程度にしか思ってないかも知れないけど…命の価値って単純じゃないからさ。…黒永君は違った見解を持ってくれたら嬉しいな!」
「参考にします。良い勉強になりました」
命の価値、か…。モンスターを討伐しまくってる俺には耳が痛い話だ。
マリーさんは俺が想像してるより立派な人なのかも。
「そろそろ次の区層に行こっか〜」
「ええ」
下層へと向かう。
〜モンスターハウス 地下2F 水獣区層〜
「うっわー!」
「2Fの地底湖では水棲モンスターを中心に研究してるの。人工的に構築された自然環境でも上位捕食者…二次消費者…腐食生物の食物連鎖が成り立つってのは勉強になるよね〜」
ーーくっ!?鱗の採取がまだ…警備員の冒険者よ!手伝ってくれ!!…女性の柔肌を撫でるよーに…優しく魔法で刺激してあげるんだ。過剰な攻撃は控えるんだぞ!
ーー…いい加減食われちまえこの頭でっかち。
水面で繰り広げられる巨大肉食魚との格闘。
研究ってより普通に戦闘じゃん。
「あれは…?」
「にゃはは〜。…対象モンスターのサンプル回収だね。うん!大丈夫大丈夫!次、行こっか」
「え、あ、はい」
昇降機に再び乗り込む。…あれが通常運転なのか?
そこから…。
〜モンスターハウス 地下3F 巨獣区層〜
「地下三階は巨獣種・牙獣種を中心に生態の研究と調査をしてる。ここから先は対象のモンスターが攻撃的だから警備も超厳重だよ」
「…あの研究員の人の腕は」
「噛みちぎられた。腕の一つで済んで幸いだよ」
平然とした口調でマリーさんは言った。
よく見れば彼だけじゃない。
研究員は皆、生傷が絶えない風貌だった。
〜モンスターハウス 地下4F 幽獣区層〜
「ここでは軟体種や霊種なんかの生態種別の分類が難しいモンスターの研究をしてるよ」
「に、人形が笑ってる!」
「霊種は魔力と魔素で構成されてるから…ああやって物や他の生物に取り憑くんだ。油断すると研究員にも取り憑こうとするし」
〜モンスターハウス 地下5F 毒獣区層〜
「この臭いは……酷いな」
「にゃはは!異常状態に特化した有毒種のモンスターが生息する区層だから仕方ない。この区層を担当する職員は異常状態に対する耐性を自然と習得しちゃうぐらいだし〜」
…っとこんな感じで他の区層も見学して回った。
〜昇降機内 地下6F 移動中〜
「ーー次の区層は召獣区層。そこに『串刺し卿』と『舞獅子』もいるよ。ヴィーゾフの飼育エリアで『串刺し卿』の竜が沢山いるからさ〜」
「ヴィーゾフの…」
「うん!モンスターハウスは警護依頼で来る冒険者は多いけど単純に利用する冒険者って少ないんだ。厳しいGRの制限もあるし…十三等位でも頻繁に来るのは『串刺し卿』と『天秤』だけだもん。『舞獅子』も今日は気まぐれでついてきたんだろーね」
「なるほど」
…しかし、目から鱗だぜ。『金翼の若獅子』にこんな巨大地下施設があったとは知らなかった。
地盤とか大丈夫なのか?
そもそも広大な地下空間をどうやって形成……いや、魔導具や魔法で補強してるって考えると妥当か。
今更、一々驚いても仕方ない。
魔導具は超絶便利な不思議アイテム!
魔法は未知の新技術!
…それ位の認識で納得しとこっと。
「さて黒永君。モンスターハウスはどーだった?」
「そうですね…見学して思いましたが研究員の皆さんの仕事は俺が考えてたイメージと違ってました」
「にゃは!実験機材を弄って…分厚い本を読み耽って…机に齧り付くガリ勉を想像してたでしょ〜?」
「正直、まぁ…はい」
「答えは本には載ってないし経験に勝る宝はない。…つまり経験して得た知識と学んだ知識…その両方があって初めて真理に辿り着く!…難題や問題ばっかだけど…だから研究って面白いんだよね〜」
「…その結果、大怪我をしても?」
「勿論、痛いのは嫌だし怪我もしたくないよ。…でも自分たちが望んで就いた仕事じゃん?仕方ないっしょ。モンスターハウスの職員は変人しかいないって本部施設の職員と冒険者にはよく言われるけどね!にゃはは〜」
「……」
どの区層の職員も熱心な仕事振りだった。
中には片腕を失い…車椅子に乗り…顔が酷く焼け爛れてる人も…嫌々、仕事をしてる者は居なかった。
寧ろ少年のように目を輝かせていたのだ。
「マリーさんはどうしてモンスターハウスの研究職員に?」
「え、私?」
「はい」
「単純にモンスターと研究が好きでここの設備が最高峰だからってのもあるけど…」
「けど?」
「…んー…今日、初対面の人に話すのは私もちょっと恥ずかしいけど…ま、いっか〜。着くまでの暇潰し程度に聞いてね」
頰を指で掻きながら話し始めた。
「自分の持論に勝つため、かな」
「…持論、ですか」
「私さ〜…こー見えて『動物生態学』と魔物学に『魔粒伝子学』の博士号を貰ってて書いた論文が学術誌に掲載される程度には界隈じゃ有名なんだ」
「それは凄い。エリザベートも竜学と魔物学の博士号は持ってるって言ってたけど…三つも」
「『串刺し卿』は竜人族の中でも竜語がずば抜けて堪能だからね〜。…変異種の髑髏龍との対話の成功は歴史的快挙だし…一年前、『学者都市』で発表した『指定危殆種戦術論』の論文は凄い出来で本職の魔物学者顔負けだったよ」
対話だけは俺もいけるで!




