プレゼントを贈ろう!〜第二弾〜②
1月18日 午前11時02分更新
1月20日 午後12時27分更新
〜金翼の若獅子 三階フロア〜
三階に到着っと。相変わらず誰も居ない。
豪華な設備の維持費が勿体ない気がする。
「五階の部屋にいるかな?」
とりあえずミミちゃんに聞いてみよう。
〜 三階 受付カウンター 〜
「…あ!」
「おっす」
「…もう怪我は大丈夫かにゃ?」
「ああ。すっかり癒えたよ」
「ミコー様に話を聞いてびっくりしたにゃ。…ゴウラ様と闘うにゃんて…無謀すぎるにゃん。顔も出さないし…」
「心配してくれたのか?…ありがとな」
「!」
耳と尻尾がぴんっと立った。
「…べ、べつに心配にゃんてしてにゃいし!!…今だって仕事が大忙しで…あー!大変にゃ〜。ネコの手も借りたいぐらいにゃ〜」
嘘つけ。頬杖ついてボーッとしてただろ。
「はいはい」
「…でも、ユーはもっと大変にゃんでしょ?…冒険者ギルド設立で初回献上金3億Gを一ヶ月以内で準備しなきゃいけにゃいってミコー様が言ってたにゃ」
「まあな。金策の方法もあるし大丈夫だよ」
「すごいにゃ。変態なのにお金持ちなのにゃ」
「変態じゃねーし!」
「……はぁ。羨ましいにゃ〜。うちはミコー様の研究資金の捻出で極貧にゃ。…人も集まんにゃいし…変人ばっかだし…その癖、口ばっか達者で…派閥の運営も大変だし……にゃあああ!!」
机を叩くミミちゃん。
「…苦労してるんだな」
「ぐすん」
可哀想になってきた。
なんか差し入れを……あ!先日のパーティで用意したデザートが余ってたな。
腰袋に入れてたから味も衛生面も大丈夫だろう。
「これ食べて元気だしてくれ」
白銀プラムパイを二つ差し出す。
「にゃ!…すんすん…美味しそうにゃパイにゃ!」
「俺が作ったパイだ」
「え、本当かにゃ?…うっわー…似合わない特技にゃ。…はっ!?ま、まさか媚薬入りのパイを食べさせて…ミミを襲おうとしてるんじゃ……!」
「違うわい」
妄想が逞しすぎるだろ。
「…食べないなら返して」
「い、いらないっては言ってにゃいし!…特別に食べてやるにゃん」
…あー…そのまま食べたら生地が落ちて汚れるぞ。
「おっ!美味しいにゃ!!」
大きな瞳が更に見開いた。
尻尾を左右にぶんぶん振り回してる。
「もぐもぐもぐもぐ」
一心不乱に食べてるなぁ。
そうだ。二人の居場所を聞かないと。
「ミミちゃん。エリザベートとルウラ…それにベアトリクスさんが何処にいるか知らないか?」
「ふぉんぃぃくばふぁふぉ」
「ふ、フィックバーフ?」
「……ごくん。全然ちがうにゃ。エリザベート様とルウラ様は珍しく二人で『魔物研究所』にいるにゃん。ベアトリクス様は仕事で出掛けてるから夕方には戻って来るんじゃにゃいかにゃー」
ベアトリクスさんは不在か。
…にしてもモンスターハウスってどんな施設だよ。
「場所は?」
「広場から東に行って外れにあるにゃん」
敷地内が広すぎて未だに全施設を把握し切れてない。
地図を作って欲しいぜ。
「分かった。ありがとう」
「うにゃん…ユー!またお菓子や料理を作ってミミに持ってくるにゃん。次は魚料理が食べたいにゃ」
味を占めたなこいつ。
「…魚料理かぁ」
俺も最近、魚を食べてないし食いたくなってきた。
「いいぞ。近々、持ってくるよ」
「にゃふーい!!約束にゃ!…破ったらロリコン変態契約者って噂を拡散してやるにゃ」
脅迫じゃねーか。
「人の善意を悪意で返すのは感心しないぞ」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
「…聞けよ!」
楽しい一時を過ごしモンスターハウスへ向かった。
〜午前11時30分 金翼の若獅子 広場〜
「ここか」
魔物研究所と看板がある。
…コンクリート住宅っぽい建物だ。想像してたのと違うな。
建物も大きくないし…質素ってゆーか…飾りっ気がないってゆーか…本当に研究所なのか?
「どちら様でしょうか。当施設はAAA級のGR外の冒険者は立ち入り禁止で……おや。貴方は…?」
「あ、どうも」
守衛に話しかけられた。
「…大変、失礼しました。S級の冒険者…『辺境の英雄』のクロナガ様だと露知らず…とんだご無礼を」
そんなに頭を下げないで!畏まりすぎぃ!
「気にしないで下さい。エリザベートとルウラが此処に居るって聞いたんで来たんですが…」
「左様でしたか。受付のギルドガールがご案内しますので…どうぞ中へお入り下さい」
この広さで案内は必要ないと思うけどなぁ。
〜モンスターハウス 1F〜
…嘘ぉ…めちゃくちゃ広いやん。建物と内部空間の大きさが比例してないぞ。
物理法則がご臨終されちゃったじゃないか!
生き物の鳴き声も聴こえてくるし…用途不明の資材と器材が沢山、置いてある。…まるで博物館だ。
呆けてても仕方ない。受付に行こう。
〜モンスターハウス 1F 受付〜
「…ん〜……んーー…」
牛乳瓶のような眼鏡を掛けた亜人の女性が唸りながら分厚い本を読んでいた。薄汚れた白衣を羽織っているがギルドガールの制服を着てる。
「あ、あの〜…」
「んあ〜?…はいはい。そこにギルドカードを……って…え!き、君は…け、契約者の黒永悠!?」
本を机に叩きつけ立ち上がる。
「…そうですけど」
「ひゃっはーー!なんて僥倖なの…い、一生のお願いよ!!あなたの血液をちょーだい!」
ふぁ!?
「あ!待って。…やっぱり精液の方がいいなぁ…えーっと…確かここに…あったあった!…はい。トイレはあっち!これにいっぱいだしてきてよ」
汚れたビーカーを渡された。
「ちょ」
「…それとも後学のために彼の自慰を見学した方がいいかなぁ。自慰の方法は一般男性と変わらないと思うけど…従魔が契約者に及ぼす影響は性癖にも左右する可能性を検討すべき……?例えば四足歩行の獣類種の魔物と契約したらそれらの魔物に性的興奮を感じるのか…動物性愛者と分類すべきなのか…契約者の子は従魔の能力・特性が遺伝する場合がある…それは通常の精子の構造と遺伝情報の核自体が変異的と考えるしかない。…つまり、性癖は信じられないことに精巣へ影響を……うーん。駄目駄目!…女の契約者だったら的外れだし…先ず契約者云々を排除して…遺伝のメカニズムを解明しなきゃ話にならないじゃん」
急に高速で独り言を呟き始めた。
…しょ、初対面の男に精液を要求するって…。
幽霊とか怪物とは違う怖さをひしひしと感じる。
なんなのこの人ぉ!?
〜10分後〜
「驚かせてごめんね!」
「……」
「Sランク昇格依頼で君が契約者と知ってから研究協力の依頼を何度も『灰獅子』に申請したんだけど全部、却下されちゃって……あはは!」
「………」
「…そ、それがこの運命的な邂逅!このチャンスは逃せないって思っちゃうよねー。興奮と好奇心が爆発し欲求が本能を刺激したわけよ」
「…………」
「…だ、だから…ごめんって。離れてないでこっち来なよ…?」
俺は彼女から距離を取っていた。
…いきなり血液や精液を寄越せと喚く姿は恐怖でしかない。漸く冷静さを取り戻したっぽいが…。
「こ、こほん!自己紹介がまだだったね。…私の名前はマリー・アンソン。種族は『鳥人族』だよ。モンスターハウスの受付嬢兼研究員をやってます…にゃはは!あらためてよろしく黒永君」
差し出された右手。おずおずと握手に応じる。
「ふむふむ」
「あの…」
握ってる時間が長い。
「…あ、ごめんごめん。えーっと…君はなんの用で来たんだっけ?」
マリーさんに来所の理由を説明した。
「ーーへぇ!そーゆーことかぁ。二人は最下層に居るから私が案内するよ。ギルドカードを出してくれる?」
「はい」
受付手続きを済ませた。
〜数分後 モンスターハウス 1F 一般蔵書区〜
二人で所内を移動する。
壁一面に並ぶ本棚と等間隔で並ぶ木机。
白衣を着る職員達は熱心に本を探して読んでいる。
ほへー…映画や雑誌で見た外国の図書館みたい。
「外観と違い中は随分と広いですね」
「にゃはは!初めて来た人はびっくりするよね〜。この外部と比例しない内部は空間拡張魔導具のお陰なんだ」
やっぱ魔導具ってすごーい!
「広さだけじゃなく設備も一級品で研究資料も豊富…ゆ・え・に…モンスターハウスはミトゥルー連邦でも指折りの研究施設の一つ!」
「へぇ」
「意外と歴史は浅いけどね〜。28年前に『金翼の若獅子』の先代がルルイエ皇国から『鶸の魔女』って世界屈指の魔法使いを招待して創造魔法で建てたのが魔物研究所の始まり。…昔から創造魔法の使い手は少ないし希少価値が高い建物だよ」
家にはその希少な魔法の使い手が二人もいる。
…しかし鶸の魔女、か。
一概に敵対視されてる訳じゃないみたいだが…。
家の書斎でも調べたが魔女に関する書物は少ない。
分かったのは『古魔法』と呼ばれる魔法を扱う者を指す称号が魔女ってことだ。
代々、色の名を冠するらしい。
アルマも…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『ふぁ〜あ…魔女の由来?そんなの知らないわよ。…矮小な存在の基準で名付けられた称号なんて興味もないし』
『ランダに負けて封印された癖に?』
『……』
『痛っでぇぇぇえええっ!?あ、足がぁぁ…!』
『ふんっ!!』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…ってな具合で興味が無かったらしい。
「…んで年々、施設を拡張をしてった結果が今ってわけさ。空間拡張魔導具は核になる宝石自体の価値が高いから『金翼の若獅子』以外で複数個も容易するのは無理だろーね」
「なるほど」
「研究分野は様々だけどここで働く職員の殆どが兼務で研究職に携わってる……でさ!でさ!」
マリーさんが振り向き距離を詰めた。
「…私の『魔物学』の研究題材に黒永君はぴったしなんだよね〜。…とーっても素晴らしい研究対象で…ちょぴっと皮膚の一部とか体液をくれるだけでいいんだ。…協力してくれると嬉しいなぁ!!」
やめて。涎を垂らしながら俺を見ないで。
「…俺から10mくらい離れて貰えますか?」
「い、嫌だなぁ。冗談だよ冗談…ちっ」
し、舌打ちした。今の本気だったろ!
……うーん。色々と変わった人だ。
知り合いのギルドガールは皆、小綺麗な身なりで清潔感があるけど彼女は無頓着と言わざる得ない。
長い黒髪を無造作に結んだせいかあほ毛が無数に飛び跳ねてるし白衣や制服も汚れてる。……もう少し格好に気を配った方が良い気がするなぁ。
「…そうだ!折角、来たんだし最下層に行く前に他の層も見学してみない?」
「うーん」
「ね!ね!お願いだよぅ〜!!面白いからさぁ」
拝むように見上げるマリーさん。
「…分かりました。お願いします」
「やった!」
実際、どんな研究をしてるか興味もある。ここの博物館みたいな雰囲気も嫌いじゃないし。
「うぇへっへっ…興味を持てば…きっと協力を……」
…下心を隠す気がない人だな。




