パーティを楽しもう!②
1月15日 午後16時22分更新
〜夜21時50分 リリムキッス エントランスホール〜
楽しい時間はあっという間だ。
夜も遅いので帰り支度を済ませる。
「すみません。わざわざ見送りまで」
「当然でしょ〜。…それにぃ接待するつもりが逆にご馳走になっちゃってぇー」
「気にしないで下さい。俺もアイヴィーもキューも楽しかったです。…な?」
ーーきゅっきゅ〜!
「あーー!キューちゃんがぁ!…キューちゃんがぁぁ!!帰んないでぇ!?」
「悪酔いしすぎだっつーの」
「あはは。スウェーはかなりキューちゃんが気に入ったみたいね」
「う、うるさくしちゃダメっスよぅ」
「すぅ…すぅ…んんー…」
アイヴィーは俺の背中で気持ち良さそうに寝息を立て夢の世界へと旅立ってる。
疲れたのか途中から眠そうだったし。
「本当に馬車を呼ばなくていいの?直ぐ来るけど」
「ああ。転移石碑も近いし酔い醒ましも兼ねて歩いて帰るよ」
本当は全く酔ってないんだけどね。
転移石碑使用許可証も返して貰ったし問題ない。
「…ユウは酒強すぎじゃんよ。結局、ロゼ・ジャンパニを14本も空けて顔色一つ変わってねーし。アルコール度数40%のシャンパンよ?」
「へ、へぇ」
うわぁ…狂気の極みに感謝だ。
普通なら急性アルコール中毒で死んでるぞ。
「それはそうとぉ…もし献上金に困った時はぁー…ちゃんとお姉さんに相談してねぇ。…黙ってたらぁ…怒るわよ」
「お気持ちだけ有り難く受け取ります。絶対に揃えますので安心して下さい」
ソーフィさんは苦笑する。
「頑固ねぇ…ふふ。…でもぉ…悠ちゃんが言うと嘘に聴こえないから不思議。…大変な時期だと思うけどぉー…『リリムキッス』は喜んで力を貸すからぁ」
「手伝えっことあったら早めに言えよ。日中は時間も空くし」
「うん!私も絶対に行くから」
「そ、そうっス」
「ギューぢゃああああああん!!…うぢ逢いにいぐからねぇえええぇ!」
な、泣き上戸なのか?
とにかく…。
「ああ。…俺の力が必要な時も言ってくれ。必ず助けになる」
「ふふふ。…ならぁ食事提供の委託の件、考えといてねぇ〜」
「え。あれ本気ですか?」
「当然じゃなぁーい。…あんな美味しい料理は久しぶりに食べたわぁ」
冗談じゃなかったんかーい!
「マジで美味かったわ〜」
「で、デザートをもっと…食べたいっス…」
「私はユウに料理を教わりたいな。…いつか手料理を食べて欲しいし」
いやぁ喜んで貰えると作り甲斐があるな。
直ぐに返事は出来ないけど。
「…うーん。とりあえず返事は保留でお願いします」
「ええ〜。いい返事を期待してるわぁ」
「そろそろ行きますね。キュー」
ーーきゅうぅ〜。
「ゔわあああぁん!!いがないでぇえぇぇーー!」
皆に見送られリリムキッスを出た。
賑やかな夜の歓楽街。
子供を背負い、竜を連れて歩く男が珍しいのだろう。
自然と注目を浴びるが絡んでくる輩はいない。
逆に遠巻きに…。
「おい。あれって…」
「…ああ。『金獅子』と決闘したやべぇ契約者だろ。…生で見ちゃったよ」
「ねぇねぇ!あれって飛竜だよね?」
「かわいいじゃん」
「ば、バカ。あんまジロジロ見んな…!目が合ったらどーすんだっ…!?」
「噂じゃ戦闘狂で一度、火が点くと血を見るまで止まらねーって話だ……変に因縁つけられたらたまんねーよ…」
警戒されていた。
…人混みが勝手に割けるのは助かるけどさぁ。
戦闘狂じゃねーしぃ!
目が合っても何もしないっつーの。
〜30分後 第6区画〜
商店街の店が閉まり街灯の明かりが輝く。
夜の静けさを肌身に感じるなぁ。
「ん…ゆう…」
「お。起きちゃったか」
アイヴィーが目を覚ます。
「…じぶんであるく」
舌ったらずな発音。まだ寝坊助ちゃんだな。
「いいよ。家まで負ぶわせてくれ」
「でも」
「いいからいいから」
「…ゆうがそー言うなら…仕方ないから」
「おう」
ナーダ草原を背負って歩いた時を思い出す。
…あと数年もしたらこうする機会も無くなる。
その内、大人びて反抗期を迎え俺に甘える事も少なくなってしまうだろう。子供は大人が想像するより体も心もずっと早く成長する。今、感じてる体温や息遣い…重さは二度と味わえないのだ。
…大変、不本意だが遅かれ早かれアイヴィーにも好きな男ができる。結婚して将来は親の手元を離れてしまう。
この子ならきっと幸せな家庭を築ける。……俺はその後押しが出来ればいいさ。
レイヴィーさんとアレッサさんの代わりに……あぁぁぁ!!…やっぱ駄目だ!馬の骨とも分からん輩と付き合う姿を想像しただけで血が沸滾る…!
そもそも反抗期にだって耐えられる自信がない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『…一緒に洗濯しないで。加齢臭がうつるから』
『アイヴィーの下着に触らないで!この変態親父!』
『ご飯は部屋で食べるから入ってこないで』
『あっちいて。邪魔』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…やべぇ!!こんなん言われたら俺、死ぬぞ。
「ゆう」
「…はっ!あ、あぁ。なんだ?」
首筋に感じる吐息と暖かい温もり。
一呼吸の間。
「ずーっといっしょにいてね」
「……」
「だいすき」
「……おう。俺もだ」
「えへへ」
天使かよ。不安も一気に消し飛ぶわ。
そうだった。
…ずっと先の未来を考えても仕方ない。
この一瞬を…この幸せを…謳歌しなきゃ馬鹿だ。
レイミーさんと買取査定の約束をした日は明後日。
扉木の月20日だ。
…うしっ!気合い入れて3億Gを稼ぐぜ!
目に物を見せてやっから楽しみにしとけよ『貪慾王』。
〜同日 深夜0時 海都シー・ムーン〜
首都ベルカから南に位置する海都シー・ムーン。
ベルカと同じ『エイヴン国』に属し豊かな海の資源に充ち外国との貿易が盛んで知られる。
景観も良くリゾート地としても有名だ。
…しかし、復興して尚も三年前の獅子抗争の傷跡は未だ深く…風光明媚の裏に闇が蝕んでいる。
〜海上ホテル ボナパルト スイートルーム〜
「ーーひひひひ!やーっぱし化け物やん〜。わても是非、生で見てみたかったわぁ」
「『金獅子』相手に善戦……それ程、強かったのか」
「私の見立てが正しければ……そうだね。単純な戦闘力に於いては『氷の女帝』と『霄太刀』よりも高いだろう。…ふはは!厄介な敵が増えてしまったよ」
「…何故、嬉しそうなんだ?」
「そやで。珍しいやん」
「腹立たしさより痛快さを感じてしまってね。…私も不思議だ。当初は仲間に引き込むつもりだったが……くく、敵対した方が愉しいな」
「初回献上金の件も本気か?」
「当然だ。彼なら用意できると信じてる。土下座ぐらい構わんさ。…ま、見込みが違えばそれはそれで面白い展開だがね」
「本気かいな。土下座するなんて想像できへん」
「良い機会なのだよ。決闘の一件で私は『十三翼』の半数以上に警戒されてる。…信頼を得ようとは微塵も思わんがやり辛くて敵わん。不信感を僅かでも払拭しておかなくてはな」
「…ふん」
「GMの土下座なぁ〜。写真に撮って他の連中にも見してやりたいねんけど」
「ふっ…『忌剣』は喜ぶだろうな。それより潜入の手筈は整えた。よもや失敗は許されんぞ」
「任しときんさいや。『教授』も『囀る腐泥』も『黒髭』も準備万端やってよ」
「宜しい。各自、目標の『人造神の遺骸』回収に尽力するよう伝えてくれ」
「あいあいさ〜。ヨシュ坊も気張りやぁ」
「その言い方は止めろ。メノウ」
「おー!こっわ。…お子様は沸点が低いのぅ」
…海都が誇る高級リゾートホテル最上階のスイートルームでの密会。妨害魔導具による盗聴防止に無法者達による厳重な警護。室内にいるのは…。
「殺されたいのか?」
『爆炎の息吹』こと白蘭竜の息吹の新たなGM…ヨシュア・ホワイトラン。
「君には無理やろ〜」
『道化師』の異名を持ち八つの大罪の大幹部…メノウ・スペルビア。
そして…金獅子の若獅子…序列第9位。
「下らぬ喧嘩は控えろ」
『貪慾王』ことユーリニス・ド・イスカリオテ。
…物語という名の時計は動き出す。
全てを巻き込み、針は新たな時を刻もうとしていた。




