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笑う角には福きたる。②

1月9日 午前11時30分更新



空いている第10位の席に腰を下ろす。


「皆が言いたいことは分かってる。でもっふ!?」


「…貴公は本当にどれだけ…吾を喜ばせ…泣かせるのだ…この大馬鹿者めっ…!」


「い、いひが」


沈むように柔らかく甘い香りの餅……じゃない。


エリザベートの…お、おっぱい!?


頭を両腕でしっかりと抱え顔が埋もれ……ち、力が強いな。息が続かないんですけどぉ…!


「ぎふ!ぎふぅ!!」


「…あぁ。済まない」


腕を叩くと解放してくれた。


「くくく。感動の余りつい抱擁をしたくなってな」


「ぷはっ…そ、そうか」


…て、天国なのに地獄だった。


服越しでも十二分に伝わる双丘の破壊力がやばい。


ご機嫌なのか尻尾が忙しなく動いてる。


「ゆー!」


「おっと」


今度はルウラかーい!


両膝に飛び乗り対面で密着する。


これは…絵面がやばい気が……。


「…こらこら。女の子がそんな風に抱き着くなん」


「ぎゅってしないと許さない。…魔法も効かなくて…ゆーが死ぬんじゃないかって…本当に怖かった…」


肩が震えていた。


ルウラの温かい体温が胸を締めつける。


「…悪い。ありがとな」


優しく抱き締め返す。


「ん。…ん!」


「どうした?」


「当ててる」


「…何を?」


「………」


「い、痛っだだだだっ!!」


む、無言で鯖折りだとっ…?肋骨がっ…肋骨がぁ…!


「悠は大怪我をした後なんだから無茶は駄目だよ。…大丈夫かい?」


腕の力が緩む。…た、助かったぜラウラ。


「あ、ああ。…言ってた通りゴウラさんは名実ともに最強の称号に相応しい人だな。途中から敵う気がしなかったよ」


「なに言ってるの〜。悠ちゃんもぉー…凄かったじゃない。お姉さんってば涙が出ちゃったわぁ」


「そうだぜ。胸を張ってどーんっと誇れ!」


「…あはは。お二人にそう言われると照れますね」


「途中までは優勢だったわ。あの術で押し勝つかと思うほどね」


「うむ。正に奥の手だな。その分、リスクも高いようだが…」


「…マジで心配したん…だから…な。本当に…ぐす…ユウのばかやろー…」


「…モミジも心配ばっかさせてごめんな」


「無事に帰って来たから…仕方ねーし…許す」


「あらあらぁ〜。…女の子を泣かせっぱなしでぇ…悠ちゃんはいけない子ねー」


うぅっ。痛い所を突かれる。


「反論の余地もございません」


「でも、君は父を相手に自分の覚悟を証明し皆を納得させた。理不尽に屈せず、ね。…本当は沢山、言いたい事があったけど全部、吹っ飛んじゃったよ」


「…まだ礼を言って無かったな。俺との約束を守ってくれてありがとう」


「ふふふ。次はないからね」


あぁ…素敵な笑顔だ。皆の信頼に報うことができたんだなって実感が湧く。


「良い雰囲気に水を差して悪いけど……貴方に聞きたいことがあります」


「ゼノビアさん」


察しはついてる。


「…まだいたの?ごーとぅほーむ」


「言われなくても直ぐに出ていくわ。私が残った理由は分かってる筈よ」


「アイヴィー嬢の父親についてか」


「「!」」


ソーフィさんとガンジさんの顔色が変わる。


「真実を聞いたのでしょう。教えて頂戴」


「…確かに教えて貰いましたが他言無用ってゴウラさんと約束しました」


「……」


「口が裂けても拷問されても言えません」


「…そう。マスターとの約束、ね。なら仕方ないわ。元々、期待はして無かった」


あっさりと引き下がる。


「すみません…」


「謝罪は不要。…世の中には知らない方が良い()()()()()()もある。これで用事は済んだし私も行くわ」


颯爽とコートを翻した。


「黒永悠」


「はい」


「…マスターは貴方に期待を寄せてる。……契約者を相手に不本意ですが…それが()()()()ならば私も力になりましょう。…冒険者ギルド設立…そしてユーリニスとの件…必ず果たしなさい。マスターの期待を裏切ったら承知しないわ」


それだけ言うと振り返らずに出て行ってしまった。


「…ったく。ゼノビアも素直じゃねぇな」


「ええ〜…あの子は昔から『金獅子』が大好きだから仕方ないわぁ。…悪い子じゃないんだけどぉ……極端なのよぅ。…『金獅子』も罪な男ね。んでぇ〜鈍いとこは悠ちゃんもそっくり」


「鈍い?」


「うふふぅ。そーゆーとこぉ」


ソーフィさんは悪戯な笑みを浮かべた。


…どーゆーことぉ?


「父と悠は違っ…いや、ごめん。何でもない」


「『魅惑の唇』の言葉は説得力がありますわ」


「うむ。一度、悠の左脳の扁桃体を見てみたい。さぞ独創的な構造をしてるのだろう」


「全面的におふこーす」


「…わり。擁護できねぇーわ」


「えぇ」


傷つくわぁー。


「悠さん」


「あ、レイミーさん」


考え事をしてたのか黙って難しい顔をしてたけど。


「『貪慾王』との件はどういうおつもりですか?…わざわざ悪条件を飲むなんて」


「…んー…」


「それは僕も気になってた。ユーリニスは確かに最低だけど……悠が喧嘩越しであんな風に敵意を剥き出しにするのは…多分、初めて見た気がする」


「おー。珍しく『糞野郎』とか『お前は敵だ』ってはっきり言ってたよな?」


「ええ。悠もですが『貪慾王』にも似た違和感を感じたわ。普段なら罵倒なんて寝耳に水。…痛くも痒くもない筈でしょう。体裁を気にする彼が皆の前で我を晒すなんて…不自然よ」


「そー言われるとさすぴしゃす」


「考えられる線は謀略、か。反吐が出る」


「…思ったんだが()()()()()()()()()気がするんだ」


「!」


「熱でもあるの?」


ルウラが俺のおでこに手を当てる。


「…術の後遺症で一時的に錯乱してるのかも知れん」


「いたって正常だよ」


失礼しちゃう!


「では何故、そんな馬鹿なことを言うのだ」


「そーだぜ。全然、似てねぇよ。あの気障ったらしい口調といけすかねぇ態度…思い出すと苛々すんぜ」


モミジの評価は散々だ。


「どうしてそう思うんだい?」


ラウラが神妙な面持ちで問う。


「うーん。…()()()()()がある気がするってゆーか…()()()()がするってゆーか…抽象的で上手く言えないけど…」


直感ってやつだ。


「ユーリニスは悪辣な詐欺師に過ぎん。故に隠し事も他人より多いかろうよ。……表沙汰になっていないだけで違法行為を平然とする屑だぞ。悠の思い過ごしではないか?」


「聖都ラフラン出身で名門イスカリオテの出なのは間違いねーが…」


ガンジさんが眉を顰める。


名家の出身とは知らなかった。


「…そうですか」


「悠の実力と比べ『貪慾王』は『十三翼』の中で下から数えた方が早い。武力より智略に富んでいます。…私も似てるとは思えないわ」


本当にそうだろうか?


…深い海の底で這う怪物のように…不気味で得体の知れない力を隠してる気がする。


俺の挑発に乗ったのも正直、演技臭い。


融資や援助を受けないって口約束で納得する奴じゃないだろうに。


……用心するに越したことはない。


…でも、一番許せないのは仲間を侮辱したことだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『ふははは。人気者は羨ましいな。貢がせるのが上手だ。女ったらしとでも言うべきか』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


小馬鹿にしやがって。


「…何にせよユーリニスの相手は俺がする」


「仲間への侮辱は俺の侮辱で…仲間の敵は俺の敵なんだ。叩き潰してやるさ。これ以上、誰も傷つけさせない」


一瞬、皆が黙った。


「急に真顔で…それは卑怯だね」


「…あぁ。無自覚なのが更に拍車を掛けるな」


「下心が無いのも余計ですわね」


「そーゆーのは時と場所を考えろよな…ふ、二人っきりの時とかよぉ…」


「…ゆーってばそーくーる。らぶを感じる」


「成る程。たちが悪いですね」


な、なんでだってばよ!!


「やだぁ〜。…お姉さんもキュンってしちゃったぁ」


「おばさんが歳を考え痛ってぇ!」


「ガンジってばぁ〜頭に蝿が止まってたわよぅ」


「…話が逸れましたね。単刀直入に聞きますが勝算はお有りですか?」


実は()()じゃない。


「ええ。…ただ、レイミーさんの協力が必要不可欠なので査定と買取を今度、お願い出来ますか?」


「成る程。今までの実績もある。それならば期待度は高いわ。…ですが査定に手心は加えませんよ」


「もちろん」


()()()()()は相当な物だと思う。


一括で3億Gの大金に変わるとは考え難いけどね。


他にも手段は考えてるし。


二級危険区域を巡り宝石の原石を採掘して加工すれば期日には間に合うと思う。


鋼の探究心の恩恵が実に有難い。


「てっきり売り言葉に買い言葉で承諾したかと思ったけど……良かった。ちゃんと考えがあったんだね」


「はは。俺も意外と策士なんだ」


「う、うん」


あれ。目を逸らされた…?


「…ま、献上金の他にも()()()()()()だ。大変なのはこっからだぜ。新規で『金翼の若獅子』の傘下に入らねぇってのは棘の道だ。…GMになりゃ苦渋の決断も時には迫られる。…悩んだ時は俺もソーフィも相談に乗ってやっから一人で抱え込むなよ」


「うんうん〜」


「はい。その時は是非、お願いします」


「そうだぜ。…職人ギルドとの提携業務関連はオレに任せろ。ばっちし準備しとくからよ」


「悠さんは当社の登録者です。当然、私もアドバイザーとして尽力します」


「…心強いな。モミジもレイミーさんもありがとう」


「吾等も当然、力になる。…悠は元々、無所属の身の上で関係性は変わらんしな」


「だね。独立型ギルドの利点を活かす策は僕も考えてる」


「ルウラは遊びに行く。むしろ住む」


「…貴女は懲りませんね。兎に角、私も()()()()()()を破らずに済み安心してます。今後とも力になりましょう」


「…本当に…何度、礼を言っても言い足りないな」


涙腺を緩ませやがる。


「礼を言うのはこっちだよ。…皆が君を待ってる。そろそろ行こうか」


「ああ!」



〜午後15時20分 金翼の若獅子 広場〜



皆が待機する広場へ到着した。


現実的に考えればまだ何も始まっていない。


漸くスタートを切ったばかり。


予想を超える難題が待ってるかも知れない。


でも、大丈夫。


俺は乗り越えていける。


育んだ縁や絆…これから先に待つ出会いや別れが…今より俺を強くするだろう。


「悠!」


「悠さん…」


アイヴィーとフィオーネが俺に気付き駆け寄る。


俺が笑えば皆も安心してくれる。


皆が笑えば俺も嬉しくなる。


顔を綻ばせ微笑むと一同、喜色満面の花が咲いた。


ちょっと詩的で似合わない表現だけど偶には良いよな。


…それに…笑う角には福きたるって言うだろ?




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