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威風堂々。終



〜同時刻 血の甌穴〜


「リガルダ!…リガルダ!」


ルウラが必死に脇腹を抑え回復魔法を唱える。


「…ごふっ…」


悠は吐血した。


傷口の壊死が広がり赤黒の血が流れる。


「ーーおぃ!?…ユウ!!起きやがれ…起きろよっ!!…ちくしょう!ちゃんと回復魔法をかけてんのか!?」


モミジは必死に岩の残骸を両手で退かす。


「…なんで…?…回復魔法が効いてない…傷が酷くなってる…。ゆー!…ゆぅ!げっとあっぷ!!」


悠は兇劒の効果で属性に問わず回復魔法が大ダメージに変わり致命傷になる事をルウラは知らない。


スキルの詳細まで話してないのだ。


現在、不死耐性の治癒も追い付かない程の重大なダメージを負っている。


左肘から先は重複骨折で捻じ切れる寸前。右足は大腿骨が粉砕し左足は逆方向に曲がっていた。


それだけではない。


折れた肋骨の骨も内臓に刺さっている。擦過傷は抉れ筋肉が露出し出血は止まらない。


「…ふた……泣か…れ」


「ゆー!?」


「喋るな!…助けてやっからな!?……ぜってー…助けっから…!!」


雷神の石槌で悠は数百メートル近く吹き飛び最後は崖に衝突した。


一目散に駆け付けた八人が見たのは無残に変わり果てた悠の姿だった。


まるで壊れたおもちゃの人形。


「おっけぃ!今度こそ…回復魔法を」


「……駄目だ!止めろっ!…恐らく回復魔法がダメージに変わってる…。一種の属性を極めた者が反属性の魔法を弱点とする原理と一緒…糞っ!…思い返せば()()()()…」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『納刀すると展開した力場が奪った魔素を治癒魔法陣に変え痛ってぇぇ!!!』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


エリザベートは悠がトモエに刀を披露した時、治癒魔法陣に触れ痛みを感じていた事を思い出す。


「ふぁっく!!…でも、でも…このままじゃ…ゆーがぁ…」


「どうすんだよ!?」


泣き叫ぶ二人。自分も泣きたいのを堪えエリザベートは必死に思案する。


「……そうだ。誰かポーションを持ってる者は居ないか!?…悠のアイテムポーチは……ちっ!空だ」


携帯しているポーションは底を尽きていた。


…そもそも強者ほどポーション類のアイテムは使わず魔法や他の能力で回復に依存する傾向が強い。


理由は過剰回復中毒。


飲用や塗布で患部を癒し誰でも扱える利便性は素晴らしいが服用し続ければ中毒症状に見舞われる。


血液に流れる魔素の自然治癒の速度を促し回復させる原理なのだが過剰に摂取すると魔素は異常発生し人体に害を及ぼすのだ。


白血球の働きと同じである。


その点、回復魔法は習得と効果は適正や才能に個人差が生じるが元素(エレメント)を利用して回復するので害は無い。


ポーションの質が良い程、多量の使用は悪影響を招いてしまう。そこまでの事態を招くのは稀だが……。


「あるよ〜。…スポンサーから貰った試供品だけど使いな〜」


ムクロだった。


他の観戦していた十三翼も付近に集まっている。


「礼を言うぞ!!」


ひったくるように奪い、患部へ小瓶の液体を垂らす。


若干ではあるが傷口の変色が治まった。


「ーーよし。…ルウラ!急いで転移石碑へ運ぶぞ。ギルドにあるポーションを…用意……」


エリザベートは言葉を失う。


「…ゆ、う……」


「あ、あっ…」


ルウラとモミジも絶句する。


「…だ、闘…る……から」


悠は立ち上がった。


定まらぬ焦点で先に待つゴウラを見据えていた。


自分の状況を全く分かっていない。


折れた足を引き摺り前へ歩き出す。


血が滴り落ちる。…本来なら動ける筈がない。


ミコトの力が作用しているがそれだけではない。


精神が肉体を凌駕し突き動かしていた。


ーーーーーーーーーーーーーー

HP3/250000 MP200/18500

ーーーーーーーーーーーーーー



〜血の甌穴〜



「退けよ」


ゴウラは立ちはだかる四人へ告げる。


「もう決着は着いた。武器をしまえや」


「まだ着いてねぇ」


「…あなたぁ、本気で言ってるの?」


「あいつの目は死んでなかった。瀕死状態(HP0)なら従魔が黙っちゃいねぇはずだ」


「…ふざけるな…!…なんで…なんで…悠がこんな目に遭わなくちゃいけない…。全部…僕たちの…貴方の勝手な都合じゃないかっ!?……あんなに…ぼろぼろになって…傷ついて…こうまでする必要は無かったはずだ!!」


「……」


ラウラ胸倉を掴み泣いて叫ぶ。…ゴウラは戦闘中に度々、忠告をしていたが弁明しない。


「『金獅子』。…彼にこれ以上の不都合が生じれば予期せぬ厄災を招きますよ」


アルマとの約束をベアトリクスは思い出す。


「あいつは恩人だ。まだ闘いてぇなら俺が代わりに相手になるぜ」


「ええ〜。私もよぅ…()()()()()()()()()()()()()()


大きな溜め息を吐き四人を厳しい眼差しで射抜く。


「俺より付き合いが長いくせに分かっちゃいねぇーな。…あいつの強さを侮ってんじゃねーぞ」


その言葉にラウラの顔が怒りで歪む。


「あっちを見てみろ」


「悠…?」


胸倉から手を離し愕然とする。


「うそぉ…」


「……あ、の怪我でなんで…おめぇ」


「信じられないわ…」


「駄目です!本当に死にますよ!?ああ…こんなに血が…お願いだから止まって…」


レイミーの必死の制止を意に介さず風が吹けば押せば簡単に壊れてしまいそうな脆い足取りで真っ直ぐに向かって来る。



「…ンジさ…ソー…ん……ベア…リク…いが…邪…だ。……退い…れ」



「…ゆ、悠ちゃん。あなた…意識が…」


「あっ、あぁ!!」


瞳に光は無い。


「ーーーー悠っ!…頼むから…止まってくれ!!…もう…吾は…耐えられない…そんな姿は…見たくない…」


泣きながら肩を掴み悠を止めるエリザベート。


「…くなよ。…こ…から…逆転…して…ら」


堪えていた涙は瓦解し止めどなく頬を伝う。


ルウラとモミジも泣いていた。血で服も顔も赤く汚れている。


無理矢理にでも止めるべきだろう。それが出来ないのは…無残で…ぼろぼろでも…威風堂々として…まだ自分達の為に闘おうと…信頼に応えようとしているからであった。


「………」


「…ラウ…そ…な顔…くれ。約束…し…じゃないか…。絶…に止めな…れってさ」


まともに喋ることも出来ない程、衰弱し意識は混濁している。


「…君は…ずる、いよ…」


しかし、止められない。


再び悠はゴウラの前に立った。


「…こ、こから…だ。俺は…勝つ…んだ」


「来いよ」


武器すら持てず拳を振り上げる。


ぽす。


「…み、ん…が…信…て…待って…る…ら」


ぽす。


「俺は…あん…に勝たな…ゃ…」


ぽす。


「……諦め…な…ぞ」


ぽす。


「…ぜった…倒…」


ぽす。


「……」


…余りにも弱々しかった。


動く度に転倒しそうになっている。


先程までの苛烈な攻撃は見る影も無い。


その悲痛な姿は見ている者の涙を誘う。


ぽす。


「…やっぱり()()()()()()()。尊敬に値する男だぜ」


ぽす。


「ったく。生殺与奪の権利を握ってても…俺が攻撃できねぇんじゃ仕方ねーな。とんでもねぇド根性だよ」


ぽす。


「この勝負はお前の勝ちだ。…その覚悟。しかと見届けさせて貰ったぜ」


「……」


限界を超え体を支えていたのは強靭な精神力。勝利宣言を聴き緊張の糸が切れたのか足元から崩れ落ちる。


「おっと」


ゴウラが受け止めた。


「…意識もねぇのにこの怪我でよく動けたもんだ」


「悠!!」


心配で駆け寄る八人。他の十三翼も各々、集まる。


その表情は複雑だ。


「直ぐに運ばなきゃ!」


「慌てんな。さっき悠が飲んでたポーションの小瓶だ。雷神の木槌を回避した時に落としたんだろうよ。飲ませてやれ」


「…成る程。彼が精製した超特製エックスポーションですね。このポーションなら瞬く間に怪我も治るわ」


その通りである。回避に夢中で一本落とした事に気付いていなかった。ゴウラは神樂蛇の三匹と闘ってる時に拾う。あの激しい戦闘の最中で壊れなかったのは奇跡としか言いようがない。


「……悠。飲んで」


ゆっくりと小瓶を傾け飲ませる。


「すぅ…すぅ…う、うっー…」


過剰摂取の影響で苦悶の表情を浮かべたが骨折・内臓の損傷・擦過傷がみるみる治癒していく。


もう大丈夫だろう。


「…本当に心配したよ…」


「ひっぐ…すん…ゆー!!」


「…マジで…心配させ……ぐす!…やがってよ」


「あぁ。…こうまで女子を泣かせるとは…全くもって罪深い奴め」


死力を尽くし手に入れた勝利。…それは力及ばずとも自己の理念を証明した証であった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後まで諦めない驚異的な精神力、 熱いだけじゃなく、すごく涙させられる回でした(´;ω;`) これからも頑張ってください! 楽しみにしていますヾ(●´∇`●)ノ
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