威風堂々。⑬
12月25日 午前10時50分
〜血の甌穴〜
「ハク!シロ!ラン!…もう十分だ。ありがとな。戻って傷を癒してくれ」
三匹の躰は雷霆の攻撃で酷い火傷と手傷を負っている。…お陰で発動する下準備が出来た。
頭を撫でると微かな光を残し静かに消えた。
「悪くねぇ召喚技だったな。あの三匹の強さは大したもんだぞ。命令に忠実で連携もしっかりしてる」
「どうも」
皮肉にしか聞こえない。
「…でも、いいのか?また一人になっちまったが」
「はい。諦めてませんから」
右手を天に翳す。
「根性があるのは分かった。実際、想像してたより強い。…けどな〜…もう降参してもいいんだぜ?焚き付けた俺が言うのもなんだけどよー」
頭を掻くゴウラさん。
「……」
「続ければ五体満足で帰れる保証はできねぇぞ」
「………」
沈黙で答える。
「そうかい…仕方ねぇな。意地を通して後悔す」
「俺は臆病だ」
「…あ?」
「口では強がって不安な癖を誤魔化してた」
「……」
「ようやく分かったんだ。…俺は弱くて…臆病で…一人じゃ何もできないんだって。支えてくれる相棒…家族…友人…仲間…皆がいるからこその俺なんだ」
「!」
血が滾り魔力が漲る。
俺も支えになりたい。
愛する人や苦しむ人達の希望でありたい。
この想いが俺の根源。心の強さなんだ。
「これが最後です」
吹き荒れる風。躍動する大地。
「森羅系…ちげぇな。これはお前の従魔の……ははは!概念に…世界にも影響を与えるってか。まるで神さまだ」
ーーー…おぉおぉおおおおおぉっ!!
顕現した祟り神の慟哭。
段々と暗く闇に染まり蠢く海。
天高く浮かぶ朱い月が赫く空を染めていく。
……いくぜ最強。
「…禍面…」
翳した右手をゆっくりと下す。
半分に割れた白面が赫く光輝いた。
「蛇憑卸」
冠ると心臓が爆ぜ体中を血が駆け巡る。
燦然たる魔力が解き放たれ辺りを破壊した。
鼓動が耳にはっきりと残る。
…静かだ…。
他に何も聴こえない。痛みも…疲労も…感じない。
抑えきれない高揚感が口から洩れた。
「…ォ…オォ…オオヲヲヲヲ……!!」
魔力の渦が吹き荒れ赤黒い光が空に昇る。
全てが止まって映る。禍面越しに宙に浮かぶ砂の一粒一粒までも鮮明に見えた。
ミコトが消えると朱い月も消え海も元通りになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
HP999999/999999 MP500000/500000
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蛇憑卸の効果でHPとMPの数値が桁違いに増加する。他の項目も同じだ。
「……」
「オ待タセマシタ」
初めてゴウラさんがまともに武器を構える。
「へっ。背筋が騒つくこの感じ…最高じゃねぇか。これが最後って言ってたっけな。…うし!かかって来いよ」
時間の猶予は12秒。
…空中に大太刀を放り投げる。
お返しだ。受け取ってくれ。
ーー簒奪技発動。能力の有無により変化。新たな戦闘技『火蛇拳・闇蜘』を習得しましたーー
「ぐっ!?」
雷霆でも回避不能の鳩尾への一撃。
鳩尾に刺さる右拳からの……。
「…こ、こりゃ…俺の!?」
左腕、右太腿、人中、足首への殴打。
禍面・蛇憑卸の状態で放つ神速の連続打撃技。
これが俺の火蛇拳・闇蜘だ。
「ぐ、がっ…この…!」
宙高くに跳躍した。
「…なめんじゃねぇぞ…。俺の雷霆があって初めて成り立つ戦闘技だぞ。体は自由に……って足に蛇が絡みついてやがる!?…引き剥がせねぇ。なんつー拘束力だよ…!」
「淵断・轟」
…地球で有名な伝説がある。
旧約聖書の登場人物のモーゼは約束の地へ向かう為に海を割ったそうだ。俺は無神論者だがTVの特集でその内容を知った。
何故、今になってそれを思い出したか?
異世界で俺も伝説の仲間入りを果たしたからだ。
妖刀・金剛鞘の大太刀が放った飛ぶ斬撃は地表だけでなく海を裂いた。
海水が大量に流れ込み砂浜に押し寄せる。
…蛇憑卸の解除まで残り10秒弱か。
「…上等だよ…」
着地した瞬間、地震で地面が揺れる。
揺れはどんどん大きくなり岩礁は隆起し崖が崩れ波が畝りをあげた。
「地母餐拝」
…これが震霆。途方も無い破壊力だな。
「がはははははっ!!…盛り上がってきやがった…これで終わりじゃねぇよなぁ!?」
金色の闘気を撒き散らし叫ぶ。さっきまでの軽傷と違い体中が切創だらけで流血している。
雷霆を上回るダメージを与えてる証拠だ。
…残り8秒。時間がない。
「ヲヲヲ……ォオオォォッ…!」
小細工は不要。真正面から押し切って倒す。
〜同時刻 血の甌穴〜
体感時間を凌駕する濃密な12秒の死闘。
観戦する全員が声を失い行く末を見守る。
終末のような光景を作り出した二人の闘いは誰も止められない。止める術がない。
金と黒の激突に地が割れ海を裂き天が鳴く。
…しかし、決着は唐突であった。
〜血の甌穴〜
百折剣がハンマーを弾き押し除けた。
「!」
いける。あと一撃だ。頼む。この一撃だけでいい…。
…時間が迫ってるんだ…。
「ヲオオォォッ!」
淵嚼蛇で墨色に染まった大太刀が唸る。
空間を歪める程の魔力と呪術の影響に体が耐え切れず鮮血が噴き出した。
「やっぱりな」
しかし、渾身の斬撃は不発に終わる。
「あっ…あぁ…?」
意思に反し両手から金剛鞘の大太刀が滑り落ちた。
「…強力な呪術はリターンが大きい分、リスクもでかい。長くは続かねぇと思ってたぜ」
0.00秒。タイムリミットだ。
禍面は消え黒い瘴気と魔力が霧散し体から力が抜けていく。
体勢を立て直す間も与えず反動が襲う。筆舌し難い神経を擦り潰されるような激痛に手足は震え視界がぼやけた。呼吸も浅くなり思考が鈍くなる。
蛇憑卸の代償は蛇憑き面の時とは比較にならない。
「終いだ」
避けなきゃ。まだ闘いは続いてるんだ。
俺は負けてない。諦めない。
膝をついてる場合じゃない。
立ち上がれ。……立ち上がれ!!
「壊震」
頭を鷲掴みにされた。
「ぁ…あがああああああっ!!?」
規則正しく痛みの揺れが頭から爪先まで浸透する。
反動との相乗効果で気が狂いそうになり絶叫した。
「楽にしてやる。もう目を瞑れ」
…ぜっ…ぜったい……瞑るもん、か…。
「雷神の石槌」
巨塊のハンマーが肋骨を砕いた。
…余りに痛いと何も感じなくなるんだな。…こんな体験は初めてだ。…体がくの字に曲がって…吐瀉物は真っ赤に……ああ、吐血したのか。
一瞬、視界が真っ暗になった。
…気付けば震えが止まってる。痛みはまだ酷いがいけるな。…よし。武器を持って…あれ?左手の掌が不自然だ。だって甲と逆じゃないか。
足も捻れてるし岩が布団のように覆い被さってる。
ゴウラさんもあんなに遠い。
…そうか。ふっ飛ばされたのか。蛇憑面の反動は収まったのに体の動きが鈍いのがもどかしい。
瞬きをした。
大泣きするモミジが必死に岩を退かしている。
ルウラは脇腹に手を添えて必死に何か唱えてた。
口から血が溢れる。
…二人とも泣かないでくれ。まだ闘えるから。
体を起こす速度がやけにゆっくりだな。
うーん…ちょっと疲れてるのかも。
足が前に出ず引き摺ってしまう。
必死に呼び止めるレイミーさん。いつも無表情なのに珍しいなぁ。…ベアトリクスさんも…ガンジさんも…ソーフィさんも…悪いが邪魔だ。退いてくれ。
おっと。急に肩を掴まれた……ってエリザベートか。
泣くなよ。ここから逆転してみせるからさ。
大丈夫。こんなに冷静だし元気なんだ。
皆が俺を信じて待ってる。絶対に勝つんだ。
ラウラもそんな顔をしないでくれよ。
約束したじゃないか。絶対に止めないでくれってさ。




