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威風堂々。⑤

11月28日午前10時34分更新

11月29日午前8時26分更新



「まず契約者っつー存在もんを警戒するゼノビアや他の奴らの気持ちは反対するお前らも汲んでやれ」


「……」


ルウラは納得し兼ねる不機嫌な顔で父を睨む。


「だーっもう!…いいか?あらためて言うまでもねーが契約者っつーのは強ぇし想像以上に危ねぇんだよ。契約した従魔の力にくわえ固有のアビリティを身につけんだ。当然だわな。……さらに厄介なことに契約者を倒しても力が継承され従魔が解放される場合がある。解放された従魔が神霊化…もしくは神獣化したら手がつけらんねー。必ずそーなるってわけでもねぇが……恐らく親密度が高いほど『神化』する確率は高くなると俺は睨んでる」


事実、契約者と従魔の関係性について謎が多いのが異世界(パルキゲニア)での現状である。


「ましてや暴走の危険性も孕んでやがるしよ。…未熟な契約者は従魔に侵食され意識を支配されちまう。こうなるとある意味、神化より厄介だ。ルウラは知らねーだろ?『フェミアム』を焼き尽くした契約者はまだ子供だったんだぜ」


「…っ」


唇を噛み反論したい気持ちを飲むこむ。


「だから契約者は特性上、殺すことも倒すことも難しい。……かと言って放って置くには危険だ。そうなると手段は拘束・封印・拘留の無力化が妥当になっちまう。例え手段が非人道的でもな」


…度々、話題に上がる亡国フェミアム。余程、凄惨な大事件だったのだろう。


「……それに契約者と闘ったことがある奴は少ねぇ。正面切って闘った経験があんのはこの中じゃ俺とゼノビア……あとはムクロくらいだろ。その上で断言するがあいつの従魔が解放されたら世界中の誰も止められねーぞ。俺でも瞬殺だろうよ」


「それ程か…」


「キンジシガカテナイナラダレモカテナイ」


「ま、まじっスかー」


悠の事情を知る三人と()()()()()以外が驚愕する。


一騎当千の十三翼が束になっても勝てない強さと評価されるゴウラが瞬殺と明言したのだ。


衝撃を受けるのも仕方ない。


「今のあいつになら全然、負ける気がしねーが……この先どうなるか分からねぇってのは確かだ」


「ならば拘束が適切とお考えで?」


「それは違ぇ。悠に『金翼の若獅子(うち)』は世話になってんだろ。Gランク依頼にトモエの件…それとアイ……まぁ、とにかく色々と、な。ガンジやソーフィも惚れてるし他の連中にも好かれてる。ラウラとルウラもこーまで信頼してんだし……あ。俺よりよっぽど評判が良いじゃねーか」


感心した顔で手を叩く。


ラウラを含め他の十三等位めんつは…そう思うなら仕事しろよ…っと言いたくなったがぐっと堪えた。


「それに腹も座ってっし度胸もあって……がはは!こーしてみるとリョウマのジジイにそっくりだな。聞いた話だが孤児院に寄付もしてるって?」


「…うん。自分の冒険者報償金ランクボーナスをベルカ孤児院へ寄付してるよ」


「おー、大したもんだ。…ゼノビアよー。お前が契約者を危惧する気持ちは分かる。だが、オルティナを救ったのも事実だしべヒトも悲しむことはねぇ。こうまで善い奴を収容所へ送るってのは……さすがに違うよな?」


「…ふん。それなりに評判は良いみたいですね」


「おい。てめーらの不始末を誰が片付け」


「『巌窟亭』のねーちゃん。さっきの話を忘れたか?」


「チッ…」


「まあよ、悪人なら対応は簡単だがあいつはそうじゃねぇ。だから話が揉める。…んでそれら全部を踏まえた上での結論だが…」



「明日、悠の話を聞いて俺が決める」



全員が絶句した。


この二日間の査問会の根本を揺るがす……というより意味が無くなってしまう答えだったからだ。


「…巫山戯ているのか?『金獅子』よ。それならば最初から緊急査問会の意味が無い。GMの独断選考ではないか」


一番に反論を唱えたのはユーリニス。


「お前たちに任せてたら査問会はなしが平行線だから仕方なくだって言ってんだろ。俺も苦渋の決断だよ」


そう言う割に顔は笑っている。


「…いやさ……そんなん全部、あんたの一存じゃん。子供が肩入れしてっから公平な判断が下せるっスかね〜?」


「はぁ?くだらねぇ心配してんなよフィン。…()()()()()()はてめーも観戦てたよな。子供のために私情を挟んで肩入れする子煩悩な父親に俺が見えるか?」


「…あー…まっったく見えないっス」


ラウラとルウラは苦い顔をした。


継承戦。倅。


黒獅子とのGMの座を賭けた過去の一戦の話である。


「その点は心配してません」


「…っつーかね、話の腰を折ってわるいけどさ〜。おいらも()()()そろそろ引退したいんよ。…リョウマも居なくなってジークバルトも後継者を探してるって話だしなぁ。…この二日間でずっと考えてたんだが……クロナガユーを()()()()()()にどうだろう」


ムクロの思いがけない提案に皆、驚く。


「ユウが…『金翼の若獅子』の…」


「……十三翼の一員に…?」


モミジとレイミーは顔を見合わせる。


「…マジにゃん?…ムクロは……まだまだ若いよー」


「『小人族ホビット』だから若く見えるだけだろ〜。おいらは今年で8()2()()…外見は子供でも中身は立派なお爺ちゃんだかんな。嫁さんと子供にも『引退はまだなの?』…ってせっつかれてるんだぞー」


小人族は外見と年齢が比例しない種族であり幼い容姿のまま成人を迎える。


「彼は職人ギルドと商人ギルドにも強いパイプを持ってるしさ〜。…実力も申し分なさそうだし周囲の信頼も厚い。所属すれば下手なことはできないし行動も見張れる。…良い案じゃないかい?」


これを聞いて目を輝かせる三人。


「……そうだね!悠にはその資格が十分にある。書類業務も出来るしムクロが言ったように他のギルドとの繋がりも強い。……僕は大賛成だ。引継ぎの調整は任せてくれ」


「ああ。間違いないな。くくく…『戦慄を奏でる旋律(ティーメン・モディ)』よ。最後の花道は吾がしっかりと用意しよう」


「ないすじじぃ!」


「……おいらが言うの変だけど三人とも現金だな〜」


「あらあら〜…これはちょっとぉ〜」


「おぅ。悪くねぇ提案だが…」



「その提案は認めれない」


「…性急で早計だ。派閥はどうする?」



「まーた、揉めるよなぁ」


ガンジの言う通りユーリニスとゼノビアが難色を示す。


「その辺はおいおい考えればいいさ〜」


「考えが甘いな。十三翼の入替りはこの場で決められる問題ではない。…ムクロの派閥に属する所属登録者ギルドメンバーが離反したら大事だぞ」


「数だけならユーリニスの次に多いっスからね〜。…それに登録期間が二ヶ月ちょっとのひよっこ冒険者が第10位の座に就くには早すぎっしょ」


「ふむ。新しい風か」


「ふぁ〜あ…くっだらネ」


「…くっくく!今の十三翼の()()は頼りにならん輩が多い。……加入され自分と比べられるのが余程、怖いとみえるな」


「いえす。とくに『瑠璃孔雀』と『貪慾王』と『冥王』。…内心、びびってる。実力でも人気でも勝てないからに決まってる。悔しくてもそれがとぅるー。だから必死にあんちするのさ気持ちはぶるー」


エリザベートとルウラがお返しとばかりに煽る。


「喧嘩売ってんっスかこのど貧乳」


「…よく聞こえなかったナァ。…『串刺し卿』…耳元でもう一度、言ってみろヨ。おい」


「おやおや、『冥王』は難聴なのか。悠と同い歳で可哀想に……良かろう。何度でも言ってやるさ。…悠と比べられるのが恐いのだろう?貴公は鼻息の荒い猪と一緒で単細胞だから」


剣呑とした雰囲気だ。


「…一昨日から君は一方的に契約者…いや、悠が危険だと主張してるよね。功績を考慮してないし客観的じゃない。彼は素晴らしい男だ。理解すべく歩み寄ろうとは思わないのかな?」


「客観的じゃないのは()()でしょう。感情移入し過ぎよ」


「感情移入、か…否定はしない。でも悠が危険だと言うならこの場に居る面子も大概だけどね」


「…私は()()()が危険だと言っているの。闘った経験がないラウラには分からないわ。……普段は澄まし顔で隠してもルウラと同じで彼に惚れてほだされてるだけでは?」


「……口が達者だな。君にそう言われる筋合いはないよ。父に付き従う()()を家族の僕が察してないとでも思ったか?」


「………」


ラウラとゼノビアが火花を散らす。


「…アナタノカワリガアノオトコ二ツトマルトハオモエナイ」


「デポルさ〜。最初はみんな初心者だよ。長い目で見てあげなきゃ」


「…十三翼で…一番の平和主義者で二番目に…お金持ち……ボクにゃんもムクロが引退したら困るなー…」


「御主はムクロ殿からの援助がないと困るからであろう。……成果も実らぬ無駄な研究に金をせびる気性は以前からどうかと思うが?」


「……んー…無駄な研究かー。…『金獅子』の足元にも及ばない剣術の鍛錬で…日々の時間を無駄にしてる…君に言われたくないかなぁー…」


「………」


「あぁ〜…刀に手を伸ばす気だろー?……不本意だけど…抜いたら……ボクにゃんも応戦するよ」


()()、か。…げに忌まわしい瞳よ」



もはや収拾がつかなくなった。


ムクロの発言をきっかけに再び場が荒れる。


「やれやれ」


騒ぎに辟易した顔でゴウラは口を開いた。



()()()()()()()



決して大きな声では無い。


しかし、言い争っていた面子が言葉通りに黙ってしまう。


そして、次の瞬間……。



「ぐっ…!?」


「……かっ、はっ…」


「…こ、これは…あぐっ…!」


「お、『王吠おうぼう』…す、するなら……言ってよ…ふぁっきんだでぃ!」


「あ、ぅー…ひっさびっさだと……き、効くにゃん゛…!」


「ち、ちくしょう…!?…あ、頭がい、痛ェ!!」


「…くっくく……!?」


痛みに呻いた。


「き、急にどーしたんだよ!?」


「これは一体、何が…」


モミジとレイミーは目を丸くした。


「あれはねぇ〜…『王吠』っていって戦闘に秀でた『獅子族』の中でもぉ…血が濃くてぇ才能を極めた者しか扱えない戦闘技の一つよぉ」


「無事なのは俺らとムクロ…あとはデポルとユーリニスか。嬢ちゃんたちは魔圧って知ってか?」


「…ああ。魔力で敵を威圧するってやつだろ?」


「おう。あれはその強化版ってとこだ。相手を個別にターゲットして攻撃し見ての通りダメージを与える。…仮に一般人や戦闘力が低いもんが食らったら一発で死んじまうぜ」


「……」


レイミーは身震いした。


垣間見た力の一端。


言葉だけで人を殺せる想像を超えた強さ。


「(…これが世界に名を轟かす冒険者ギルドの頂点に立つ男…ゴウラ・レオンハート)』


暫く呻き声が続く。


「いいか?また騒いだら承知しねーかんな」


七人は黙って渋々、頷いた。


「んで…ムクロ。今の話は本気か?」


「このタイミングで冗談なんて言わないよ。…六年前からずっと考えてたんだ。老害は引退して若者に未来を託すのが筋ってね」


今度は誰も口を挟まない。


「……わーったよ。俺から話してやる。あんたには親父も俺も世話になったからな」


「悪いね〜」


「仕方ねぇさ。これも転換期ってやつだろ。さーて……ずいぶん長くなっちまったが結論は決まった。さっきも言ったが明日、悠には俺から話す。あいつの主張も聞いた上で処遇を決めるが……」


真剣な表情ではっきりと告げた。


「悠が契約者である以上、見過ごせねぇ点は多い。しかも素性に謎が多いのも事実だ。…生半可な答えじゃお前らも納得しねぇ。っつーか俺もできねぇ」


「素性…素性かぁー…にゃん」


「…ミコー。お前、もしかして」


「あー………なんでも…ないかなぁ。話を続けて…どうぞ」


ミコーは敢えて口を噤んだ。


あの日、自分が見た悠の記憶の断片を。


彼女なりの思惑があるに違いない。


ゴウラは勘付いた様子だが追及はせず話を続けた。


「ふん。……つまり、だ。場合によっちゃあ、俺があいつを制裁し拘束する。…これでも色々と目を瞑っての妥協点だ。免責を望む反対派も納得しろ」


「あと、制裁と制約を希望してるお前ら(十三翼)も覚えとけ。決めた結果に後からあーだこーだ文句を言うなよ。絶対だ」


誰も返事はしないが異も唱えない。


「時間は午前10時で場所はここな。立会人は十三翼とこの場にいる他ギルドの四人。…お前らに喋らせたら悠も混乱すっから話すのは俺とあいつだけにする。今日の査問会の内容は派閥に属するギルドメンバー・職員・他の関係者…とにかく誰にも言うな。よーし……これで今日は解散!ゼノビア。ベアトリクスに連絡しといてくれ」


「分かりました」


「慣れねぇことしたら腹が減っちまった。俺は飯食いに行くからお前らも勝手に帰れ。じゃあな」



言うだけ言ってゴウラは席を立ち部屋を出た。


暫くした後、一人、また一人と退席していく。


余りの展開にその場で喋る者は誰もいない。良くも悪くもGMの采配で全てが決まってしまった。


この結果に喜ぶべきか哀しむべきか……その判断は難しく予想外と言う他になかったからだ。


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