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威風堂々。③

11月25日午後19時05分更新



〜扉木の月15日 午後12時55分〜



時間は遡り舞台は金翼の若獅子。


悠が自宅謹慎中の三日間、金翼の若獅子を中心に今回の一件は世間を大きく賑わしていた。


緊急査問会で十三翼の意見は真っ二つに割れる。


それに上位陣だけではない。


ラウラから知らせを受けた者達が悠に対する処遇措置撤回の署名活動や弁護が騒ぎに拍車を掛けたのだ。


…元々、金翼の若獅子は一枚岩と言い難かった。


大きな岩だけ積み上げても土台は酷く脆い。

小さな石を積み重ねる必要があるだろう。


難度の高いGRの依頼を受注する者と難度が低いGRの依頼を受注する者のバランスが悪くては運営は成り立たない。


高難度専門の冒険者ギルドもあるがそれは極少数だ。


GRの高い者だけで金翼の若獅子の維持費を賄うのは不可能に等しい。それを顧みれば低GRの冒険者の存在は必要不可欠である。


しかし、悲しいかな。


強者は優遇されどその逆は無い。世の注目を浴びるのは才ある者だけであるように強者こそ正義なのだ。


戦闘を生業とする以上、致し彼方が無い現実。


低GRの冒険者達に不平不満がない訳ではないがそれを覆す力もないので受け入れるしかない。


…だが、悠は違った。


契約者という強者でありながら地位に固持せず常に弱者の傍に立つ。


Gランク依頼…アイヴィーとの一件…月霜の狼の仲裁…。


望めば手に入るはずの地位や富も放棄し無所属であるのだ。…これが彼等の目にどう映るか?


意図せず悠は弱者の希望となっていた。


結果、絶好の反抗議活動と相成る。全員が純粋に悠を助けたいとは思ってはいないだろう。


されど数の力とは強大である。


如何なる獅子も群がる蟻の大群には勝てない。


ゼノビアが情報漏洩の防止を徹底させたかったのもこれを危惧してのこと。


ラウラはそれを予期しわざと関係機関へ情報を流す。


まさか規律と規則を遵守する副GMが黒永悠の情報を部外に伝える影響を考えないわけが無い……そう彼女は考えていた。


だからこそ見誤る。


()()()()()以前の彼女ならばそうだったろう。


…ともかく喧囂な査問会は今日も始まったばかりだ。



〜金翼の若獅子 最上階 獅子王の間〜



十三等位全員と壁際で待機する四人。


ラウラが立ち上がり発言する。


「ーー僕の招集に応じてくれた関係者諸君に『金翼の若獅子』が執り行う黒永悠の制裁処置に対しての反対意見を順番に述べて頂こうと思う。…彼が職人として登録する『巌窟亭』の代表からお願いしよう」


「職人ギルド『巌窟亭』GMの代理をしてる鍛治師兼受付嬢(ギルドガール)のモミジ・アザクラだ」


席に座る十三等位が注目する。


「クロナガユウは冒険者ギルドの冒険者メンバーである前に『巌窟亭』の職人だ。……しかも並みじゃねぇぞ。超一流の鍛治職人なんだよ。最近の話だが『月霜の狼』のトモエ姫と『巌窟亭うち』の間に起きた一件を解決したのがユウだっつーのは…もちろん知ってんだよな?」


「…うんざりするほど聞かされたっスね〜。なぁ『天秤』」


フィンが隣に座るミコーへ呟く。


「だねぇー…ふぅー…ボクにゃんは聞き飽きちゃったにゃん…」


二人の態度にモミジの相貌がきつくなる。



「…あの時、『金翼の若獅子』は同盟相手の『月霜の狼』との体裁を気にしてなんもしちゃくれなかった。……親衛隊を傍観して野放しにしてたんだ」


突き刺すような口調だった。


「ユウが不甲斐ないお前ら(十三翼)に変わって事態ケツ解決(ふいて)やったんだぞ。…そんな恩人に制裁処置を設けるたぁおかしいだろ」


「あいつが契約者でも関係ねぇ。…『巌窟亭』の大切な仲間だ。不当な扱いは絶対に許せねぇ…もし制裁案が可決されたら『巌窟亭』は『金翼の若獅子』との業務提携を破棄する。今後一切、注文も受けねー。これは在籍する職人全員の総意だぜ」


十三翼に対する怒りと侮蔑で表情が歪む。


「…貴重な反対意見をありがとう」


「ふん」


ラウラの礼に鼻を鳴らし答える。


「んー。それは参っちゃうなぁ」


頬杖で溜め息まじりに一言漏らした背の小さな亜人。


彼の名前はムクロ・キューベイ。


栗毛の髪に愛くるしい顔と首に巻いたチェックのマフラー。幼い美少年の容姿に似つかわしくない哀愁を感じさせる雰囲気を纏っていた。


「あーうー…『巌窟亭』から業務提携を破棄されたらやばいよ。ただでさえ冒険者ギルドと仲が悪いのにさ〜。他の職人ギルドも離れちゃうかも」


「…一国の姫を客分として預かる安請け合いをした『金獅子』の責任を私は追求したいがね」


「黙りなさいユーリニス。論点はそこでは無い。…そうでしょうマスター」


ゼノビアがゴウラを見る。


「まぁな。反対意見はまだあんだろ?」


「…勿論。次は彼女だ」


「はい」


レイミーが返事をした。


「私は『オーランド総合商社』代表取締役社長のレイミー・オーランドです。冒険者ギルド総本部『金翼の若獅子』を始めとし各冒険者ギルドとの手厚い取引を自社でさせて頂き…常日頃から感謝申し上げます」


「おう」


「……さて今回の緊急査問会の議題にある黒永悠の件…彼はご存知とは思いますが商人ギルドである『オーランド総合商社』に登録している我が社の所属登録者の一人です」


淡々と述べる言葉に熱は込もっていない。


「『灰獅子』より反対意見とありましたが……契約者の脅威並び危険性は非戦闘従事者の私には押し計れませんので制裁処置に関して反論は致しません」


「…賛成と取って構わんと?」


「賛成も反対も致さないだけです。…代わりの要求はさせて頂きますが」


「要求ってのはなんだヨ」


カネミツとヨハネの問いに淀みなく答える。



「彼が今後五年間で我が社に齎らしたであろう予想収益額を請求させて貰う。請求金額は47億9千万Gです」


一瞬の静寂。


「…はは、意味がわかんネーぞ。なんでうちに請求すンだヨ」


ヨハネが呆れ顔で見る。


「黒永悠は類稀な錬成技術を持っています。…彼の錬成品は超一級品。特にポーション類に関して言えば一国が抱える錬金術師のレベルに並ぶ……いえ、凌駕すると言っても過言じゃない」


レイミーは続けて喋った。


「卸した品は全て即日完売ですからね。…しかし彼が制裁処置を受け行動に制限が設けられたら当社の予想収益を大幅に下方修正しなければならない。持ち込む頻度と品数の統計から割り出した五年間の請求金額を要求するのは当然でしょう」


「こんなに一個人で大金を稼ぐ逸材は他にはいないわ。それは商人ギルドも職人ギルドも……冒険者ギルドとて同じでしょう。それを踏まえ塾考して頂けると幸いです。()()()()は以上になりますわ」


情に訴える言い方はしなかった。


彼女は分かっている。情に訴えれば一蹴されると。


だが功績は無視できない。全て事実だからだ。


他の者は人格や人柄を押す。


…ならば自分は違う観点からアプローチをするまで。


途方も無い請求金額も金翼の若獅子ならば払えない金額ではない。


伝えたかったのは制裁に於ける有能な人材の損失。


金の卵を産む者を無下に扱うなと言いたいのだ。


「ボウケンシャニショクニン…ハテハショウニンカ」


「兼業者は数入れど全て網羅する者は彼奴以外にベルカでは居らん。…鍛治師として非凡な職人であるのも誠なり。この目で見たがあの一振りは業物よ」


「ケッ……欲張りな野郎だゼ」


「…その点はラウラにも散々、説明されたわね。あなた達が何故、反対なのかも聞かせて貰いたい」


ゼノビアがソーフィとガンジへ問う。


「何故ってか?…ユウには家族の命を救って貰ったっつー返し切れねぇ恩がある。味方すんのは当然だろ」


「ええ〜。悠ちゃんにはうちもぉ…ギルドメンバー全員が世話になったわぁー…そもそもぉ〜…あなた達だって悠ちゃんにはずいぶん助けられてるでしょ」


にこやかな顔だがソーフィの口調は普段より厳しい。


「…ふぅー…たしかにねぇ。黒丸くんの…活躍は…評判良いし…少なくともボクにゃんたちより仕事熱心かなー」


()()よぅ。…相変わらず名前を覚えるのが苦手なのねぇ〜」


「そうそうー…黒永だった」


「俺たちも元『十三翼』だ。偉そうに言えねぇけどよぉ……旦那に教えられあ仁義を忘れたこたぁねーぞ。…契約者云々を考慮しても、だ。ベヒトの娘を救ったユウ(恩人)に感謝はすれど危険人物扱いはひでぇじゃねーか」


「うんうん〜…。そ・れ・にぃー…偉そうに悠ちゃんの処遇がどーこー言える資格があるのはラウラだけでしょ〜?…『金翼の若獅子』は副GMのお陰で成り立ってるんだからぁ」


その一言にフィンが双眸を細め苛立ちを露わにする。


「…あのさぁ先輩。『金翼の若獅子』は慈善団体じゃねーんっスよ。十三等位に就く誓約書にも業務項目にもきっちり特権適用の旨が書いてあんだっつーの。ボケて忘れたっスか?」


「あらあらあらあら〜!鼻垂れ小僧が生意気な口を利くじゃない〜……それを承知の上で言ってるのがわからないのかしらぁ」


「鼻垂れ小僧?何年前の話をしてんスか?…今はあんたより強いっスから。なんなら相手をしましょーか『魅惑の唇』」


「『瑠璃孔雀』なんて呼ばれてぇー…調子にノっちゃってるのね〜」


空気が張り詰める。


「ヒャハ!オレも交ぜてくれヨ!?喧嘩なら大好物だ」


「…ケンカヨクナイ」


「血気盛んだね〜。おいらは座りっぱなしで持病の腰痛が…」


「黙りなさい。…二人も現『十三翼』を批判する為に来た訳では無いでしょう」


「…そーねぇ。話を戻しましょー」


「ちっ…」


「まぁよ。俺とソーフィはユウの制裁処置には断固反対だっつーことさ。あいつは『鬼夜叉』の旦那とそっくりだ。…この扱いも全部、引っ括めてな」


「ええ。自分を顧みず誰かの為に必死になれる…不器用な優しさと純粋な正義感。…あの時、リョウマさんを助けれなかった後悔は未だに消えないわぁ〜」


「…『ヴォータン事変』か」


カネミツの呟きに何人かが顔を強張らせた。


「とにかく、だ。ユウはきっと旦那に負けねぇ偉大な冒険者になる。結果によっちゃあ『勇猛会』は加盟から抜ける覚悟だ。…ソーフィ」


「はいはい〜。『リリムキッス』も同じよー…そして『勇猛会』と合併し新たな冒険者ギルドを設立するわぁ。…その冒険者ギルドのGMにはぁ〜…悠ちゃんを推挙する」


この言葉に言葉を失ったのは上位陣だけでは無い。


モミジとレイミーもだった。


「ギルド法にもあんだろ。…GMの認可に伴う事案で国内の定着と隷属及び支援要請の服従につき種族・前科・経歴を問わず免責を一時的に行う……これを無視はできねーよな?」


「…彼の為にそこまでしますか?」


「するわぁ。悠ちゃんにはそうするだけの価値があるもの〜…リョウマさんの時と同じと考えないでねぇ…ゼノビア」


「はははっ。大した人脈と信頼ではないか」


傾聴に努め沈黙を貫いていたユーリニスが口を開く。


「『氷の女帝』のデザートヘル収容所への収監案には他の者も反対だった。…しかし、野放しも出来ないのは御理解して貰いたい」


「何が言いてぇんだ?」


ガンジさんが睨む。


「ヴォータン事変で『鬼夜叉』が救った人々の総数を私以外に知る者はいるかね?」


「…大勢よぅ。たくさ」


「その答えは正確では無い。…正しくは4749人だ。そして彼の戦闘に巻き込まれ死亡した騎士団員・冒険者・一般市民の総数は6071人。致し方ない状況だったが救命者より死亡者の方が多いのが事実」


「それは…!」


「その事実を『鬼夜叉』本人が知るからこそ監視付きの郊外で軟禁……いや、隠居生活に反対しなかったのさ」


「知った口を利くのはやめなさい。殺すわよ糞餓鬼」


ソーフィの顔が怒りで歪む。


普段の口調と態度から一変した。


…彼女にとってリョウマ・ナナキの存在はそれ程、大きいのだろう。


「貴様らは信じないだろうが()()()()()()()()()()()。くくっ…自分が袖にされ生意気な私が可愛がられた事実を気に喰わないのは承知するが黙って最後まで聞け」


「…ソーフィ」


「……」


席を立とうとしたソーフィをガンジが諌める。


「黒永悠も同じ末路を辿らぬよう管理は必要処置ではないか?…それが総本部としての義務。自由を多少は奪う結果になろうとも、だ」


「彼の功績を評価し世間体も考え『金翼の若獅子』に所属させる。誰が監視……言い方を変えよう。面倒を見るかは追い追い決めようではないか」


「『巌窟亭』の彼女も『牛鬼』も『魅惑の唇』も… …脅迫じみた反対意見を述べているが彼はそんなことを望む性格では無いだろう?」


「「「「!」」」」


痛い箇所を突かれる。そう…悠はきっと望まない。


彼を知る仲だからこそ四人も分かってしまう。


これにはソーフィもガンジも口を噤んでしまった。


「(…不味いわ。流れが変わる)」


レイミーは商売柄、些細な変化を察するの早い。


この場の空気はユーリニスの発言で変わりつつあった。


誰かが反論しなくては…そう考えた矢先である。



「戯言を宣うな」



沈黙を破ったのはエリザベートだった。


「戯言だと?」


「…貴様の目的は悠の力。あの力を手中に収めれば『十三翼』の中でも頭一つ抜きん出るからな。他の幾人かも同じ考えの筈だ」


「仮にそうだとしても何の問題がある?私は適切に導くのが我等の役目だと言ってるだけだぞ『串刺し卿』。…お前はあの日から冷静じゃない。口を開けば感情論ばかりで具体案は一つもないではないか」


「ええ。その点は『貪慾王』に同意するわ」


「ダサンガアルノハミナオナジ」


「ん〜…まぁー……そりゃあね〜…にゃん」


「放って置くには惜しい力ゆえ」


あっけらかんと認めた。



「ーー黙れっ!!」



エリザベートは激昂する。


「……彼奴は底抜けの善人だ。…いつも自身の身を顧ず…甘く理想に生き…その癖、頑固で…無自覚に…鈍感で変わり者。…しかし、誰よりも優しく純粋だ。…そんな男だからっ…悠の尊厳の為、吾は全力を尽くす!!」


「自由を脅かす者に容赦はせん!貴公達の謀計は同胞オルティナの命を救った恩人に対する最大限の侮辱なのだっ!!」


火を灯すように爛々とする瞳。


「…ユーリニス。今、吾に感情論と言ったな?…認めよう。この件に関してだけは…論理的思考は要らんっ!!…第11位の座など最早、不要…『十三翼』全員と敵対し闘う覚悟ぞっ!」


全てを失い離別すらも厭わぬ敵対宣言。


今のエリザベートは冷静では無い。


悠を救いたい一心が彼女を感情的にさせていた。


オルティナを救った恩義…友人への感謝…淡い恋慕の情…胸中は複雑である。


「ルウラも同じ」


今度はルウラが続く。




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