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姉と弟。終



〜観客席〜


「!?」


「ほわっと。様子がおかしい」


オルティナが突然、倒れた。エリザベートが慌てて駆け寄り審判のゼノビアさんとゴウラさんも集まる。


決着の宣言もないまま騒然とした雰囲気に包まれた。


「…行こう。緊急事態みたいだ」


「ああ」


「おっけ」


観客席からリングへ移動した。



〜数分後 闘技場 リング〜



「目を開けろっ!…オルティナ!オルティナっ!!」


エリザベートが必死の形相で体を揺さ振る。


「無駄よ」


「無駄とは何だ!?…早く回復魔法を…治癒術師を呼べっ!!」


「…もう死んでるわ」


「… はっ…?」


その一言に場が静まり返った。


「私の『霊獣の嗅覚(スピース・ブルート)』で確認したから間違いない」


「嘘だ…」


「信じたくないでしょうが事実よ」


「…オルティナ。目を開けてくれ。……なぁ?」


悲痛な声で名前を呼ぶ姿が痛々しい。


「……」


ゴウラさんがヨシュアとユーリニスを睨む。


「偶然とは思えねぇな。お前の差し金か?」


「差し金とは?」


「とぼけんなよ」


「『金獅子』よ。人聞きが悪いにも程がある。正々堂々と闘った結果が不幸を招いた。それだけだ」


「…ヨシュ坊。俺ぁ見てたが懐から取り出しもんはなんだ?」


「……」


心ここに在らず。


ヨシュアの返事はない。


「…マスター。恐らく呪物です。この砂…破片…。推測ですが聖都ラフラン所縁の物かと。昔、武装神衛隊の衛兵が自決に使用した呪物の残骸と酷使してる」


冷静に亡骸の側にある砂と破片を触り分析するゼノビアさん。


「聖都…ちっ!…やっぱそうか」


「……勘違いして貰っては困るが此度の決闘の趣旨を誰も自覚はしてないのではないか?」


ユーリニスがはっきりと告げる。


「GMの座を賭けた決闘だぞ。互いに死を覚悟していた筈だ。誓約書にも凡ゆる手段の有効性…自己責任の旨が記載され両名は同意した。…確かにオルティナ・ホワイトランの死は悼むべき事だ。しかし、全てが正当で冒険者ギルド法の法律に則ったもの。ヨシュアへの追及は御門違いだろう」


この状況でも動じず堂々としている。


「我等はただの見届け人。…審判である『氷の女帝』は決着の宣言すらしていない。この事態に動転する事は不要。それこそ二人の覚悟を踏み躙るものだ」


…よくもまぁ、この状況で言えるものだ。


「煙に巻くのが得意ですね。…マスター」


「…ムカつくがその通りでもある。一度、決着を宣言してから現状把握。細けぇことはそれからだな。べヒトには辛い報告になるが……ミコー。お前にも手伝って貰うぞ」


俺たち以外の上位陣も側で待機していた。


「ふぅ〜…りょーかいー…。ボクにゃんの出番だね」



「…巫山戯るな…」



エリザベートが立ち上がった。


「…駄目だ。辛いだろうが……今は堪えてくれ」


「…くーるだうん」


ラウラとルウラがエリザベートを宥める。


「全ての元凶は貴公だ…オルティナの死も…打算の上だろう?…ヨシュアに呪物の流通ルートの伝手などある筈がない…」


「…おやおや。恐ろしい形相だな」


「ヨシュアよ。警告した筈だ…その男は悪魔だと。…進むべき道を誤らせ…取り返しの付かぬ結果を招いた。……だが、吾はお前を許そう。オルティナの願いと思いを無下には出来ぬ」


「…エ、リ姉…」


途方も無い怒りと悲しみで震える声。


突撃槍を握り締めユーリニスへ向ける。


「…友を喪った悲しみに暮れ泣くのは後だ。諸悪の根元は今、ここで吾が断つ。…竜人族の仲間として…友として…家族として…責任を果たそうっ!!」


「違反行為だぞ『串刺し卿』」


「ユーリニス……お前だけは許さん!!オルティナの覚悟を踏み躙ったのは他でもないお前だ。殺してやる…!」


殺意が魔圧に現れた。


「エリザベート!頼むから退いてくれ……戦えば彼奴の狙い通りに事が運んでしまうんだよ!」


「地位もろすとする。それに他のらんかーが立ち塞がるよ。…ルウラもラウラも」


「退がれ。お前達でも邪魔をするなら容赦せんぞ…」


「ギャハハ!!オレも混ぜてくれヨ!!…良いじゃねぇか。熱い展開だゼ!」


「…矛を納めて。私も今の貴女と争いたくないわ」


事態は悪化するばかり。


喧々轟々の最中、部外者の俺はどうすべきか?


…いや、愚問だったな。答えは決まってる。


両雄の間に立つ。否が応でも注目を集めた。


「…悠。何のつもりだ。如何に貴公でも吾は引かんぞ」


「全員、黙って下がってくれ」


「はァ?何を出しゃばってやがル」


ヨハネが詰め寄った。


「オルティナを助けるんだよ」


「…助け、る?…」


この一言にエリザベートの怒りが和らいだのは気のせいでは無いだろう。


「……おいおい。寝惚けてンのか?死んだ奴を助けるだとヨォ」


「いいから黙って下がれ。…エリザベート。俺を信じろ。オルティナは必ず救う」


「…だが…死者を蘇らせるなんて…聞いた事が…」


「大丈夫だ」


アジ・ダハーカとの約束を破ってしまうが…。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『見て分かった。あれを二度、三度と使えば其方は間違い無く死ぬ。…妾の推測だが逆誄歌は世界の理に反して起きる捻れや歪みを術者の命を持って修正しておるのやも知れん。不老耐性で伸びた寿命なぞ蝋燭の火が如く消えよう』


『咎めておるのではない。…じゃがな悠の仁恕と自己犠牲の精神は己を死に至らしめる牙と成り得るのじゃ』


『……其方が苦しむのを見ると妾も辛い。きっと妾だけでは無いぞ。オルガやオルドも…悠の家族や友人も…皆、同じ気持ちじゃろうて』


『約束しとくれ。逆誄歌は二度と使わないと』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


…救える命があるのに無視は出来ないし命を削る事に不思議なほど不安も恐怖も感じない。


大丈夫。二度目で死ぬ事は無い。…そう信じよう。


「死者を救う術などこの世にないわ。余計な混乱を」


「本気で言ってんのか?」


ゼノビアさんの言葉を遮りゴウラさんが問う。


「ええ。嘘じゃない」


真っ直ぐに射抜く強い意志を感じさせる瞳。


…ああ、やっぱりラウラと家族なんだなぁ。


「いいぜ」


「…マスター?」


「いいじゃねぇか。…直感だが面白ぇことになりそうだ。全員下がれ。これは俺の勅命だぞ」


「ケッ。…物好きなこって」


唾を吐き捨て睨みながら下がるヨハネ。


「ゆー…」


「心配すんな。安心して見てろ」


ルウラの頭を撫でる。


「ほぉー。ルウラに懐かれてんだな」


あご髭を撫でながらゴウラさんが笑う。


「エリザベート。…悠に任せよう」


「…分かった」


ラウラに促され突撃槍を下ろす。


「悠、済まない。…どうかオルティナを…」


「ああ」


全員が下がって行く末を見守る中、深く息を吸って吐いた。


うし!頼むぜミコト。


オルティナの側にしゃがむ。


…今、助けてやるからな。


「逆誄歌」


心臓が早鐘を衝くように鼓動し幾何学模様の鮮やかな魔法陣が展開されていく。


「ひゅー。こいつはぁ…驚いたぜ」


「…噂には聞いてましたが…」


「流石に間近で見ると迫力がありますわね」


「カッカカカ!…いいねぇゾクゾクしやがル」


「おぉー…ビューティフル…凄い!並みの従魔じゃ…んん〜…これはー…?」


「ひゃー。…やっば!バケモンっスね」


事情を知る三人は黙って成り行きを見守っていた。


「…な、んだこれ…?」


「……」


ヨシュアが目を見張り後ずさった。


ミコトが両手をオルティナの頰を添える。



ーーー…渦まく淵に眠りし死者よ。この者に我が祝福を奏でよ…輪廻を廻り回帰せり。淵の神と死者が唄う誄歌を…魍魎と冒涜の宴で嗤う者よ…命を授けん。



…あれ。オルタの時とちょっと違うな。


ミコトが両手を離すと俺を一瞥し微笑んで消える。


「あっ…」


光と魔法陣がオルティナへ収束した。



「…かっ…ごほっ…ごほっ…!?」



よし。息を吹き返したぞ。


逆誄歌の奇跡は成功したみたいだ。


「…あ、れ。…わ、たし…は〜…?」


「事情を説明するのは後だ。…これをゆっくり飲むといい」


超特製エックスポーションを腰袋から取り出して飲ませる。一瞬で擦過傷や打撲による痣が治った。


「ぷは〜」


辺りを見回したオルティナが首を傾げる。


「…これは〜…?」


「オルティナっ!!」


「わぷ!」


エリザベートが力強く抱き締めた。


「え、エリちゃん〜。どうしたの〜…?」


「良かったっ…本当に良かったっ…!!…ぐす…吾はもう…二度と会えないと…」


安堵と喜びで涙が溢れる。


「…そうだ〜。私はヨッくんとGMの座を賭けて決闘した…でも、敵わずに負けて……ダメ〜。そこから思い出せない」


「……マジかヨ。死者が生き返りやがった…」


「こんな事って…有り得るのでしょうか…?」


唖然とするヨハネとベアトリクスさん。


「…マスター」


「がははは!契約者って時点で普通じゃねぇが……その中でもありゃ()()だわ。ふむ…ラウラとルウラ……それにエリザベート。仲が良さげだったし事情を知ってっかもな」


「あんびりばぼー!!みらくる!」


「…信じられない…夢を見てるみたいだ…」


どくん。


「…っ…!」


この感じは…。左胸を手で抑えた。


…心臓が張り裂けそうに痛い。血の味が口いっぱいに広がり鈍器で殴られたような酷い頭痛が何度も襲う。


「ぐうぅ…っ!」


膝をつきその場で蹲る。


最初の時とは桁違いの反動…じゃないか…!?


「どうしたんだい!?」


「…うぐぁ…あっ…!」


「これは…!」


声も出せない。我慢できずマスク越しに吐血した。


「…ベアトリクス!至急、救護班を呼んでくれ!!」


「しっかりして!…ゆー!ゆー!!」


周囲の声と音が次第に消えていく。


不思議な感覚だった。痛みが薄れ視界がぼやける。


ーーーや…やれ…困っ…子…わ…。


朦朧とする意識の最中、声が聴こえた。


この声は…たしか…()()()()()…?






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