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姉と弟。⑤



〜観客席〜



「…終わったね」


「ん」


「ああ…」


覚醒が解けその場に座り込むオルティナ。立ち上がる余力も無い。戦闘続行は不可能だろう。


…残念な結果だが無事に終わりそうで良かった。



〜リング〜



「…ぼろぼろだな」


「あ、はは。…強いね。お姉ちゃんはも〜…限界だよ」


体の至る箇所に残る痣と裂傷が痛々しい。


…だが痛みを意に介さずオルティナは笑った。


「…ヨッくん。辞めろだなんて〜…悲しいこと言わないで」


「……」


「色々、あったけどさ〜…支え合って一緒にがんばろ?」


「……っ」


「二人ならどんな壁だって乗り越えられる。…仲間として…家族として…私、がんばるから」


ヨシュアが唇を噛む。


「皆だって…ヨッくんの良さをきっと分かってくれるよ〜。…本当は不器用なだけだって」


我慢するように目を伏せて口を紡ぐ。


「…私も強くなる。もっともっと…お頼りになる姉ちゃんになれるよーに…」


座ったまま手を差し伸ばす。和解を求めたのだ。


ヨシュアを…いや。九代目を支える者として。


「…俺はっ…」


手を掴もうとしたヨシュアの右手が止まる。


「ヨッくん…?」


「…強くなりたいんだ」


逡巡し顔を歪め呟く。


「誰の道とも交わらぬ修羅の道だとしても引き返すことは出来ない」


「いったい何を…?」


「…だから…縁を断ち切って進むよ」


懐から小さな砂時計を取り出した。


「……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『あはは〜。ヨッくんってば〜…泣き虫さんなんだから』


『…うぇぇぇん…!』


『ほら、泣かないの〜』


『う…ん゛…』


『今日はヨッくんの好きなハンバーグを作ってあげるから〜…ね?』


『…ほんと?』


『うん』


『わーーい!!おねぇちゃん大好き!』


『ふふ〜。私も大好きだよ〜』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『くそっ!』


『…ヨッくん…』


『…竜人族の戦士が聞いて呆れる。何故、戦わない!?…このままあの豚に従ったら…白蘭竜の息吹の未来はないぞ!!』


『…落ち着いて。大丈夫、大丈夫だから』


『彼奴の姉さんを見る目……!思い出しただけで八つ裂きにしてやりたくなるっ…』


『私の心配をしてくれてありがとね。でも…』


『…許婚だが知らないが姉さんがあんな奴に!!…俺がブッ殺してやる…!』


『ダメだよ〜。…婚約を条件に両ギルドが同盟を結ぶ約束だし…反故にしたら皆が困っちゃう。…いずれGMになるヨッくんのためだもん。…お姉ちゃんは大丈夫だから…』


『…姉さん…』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『…ヨシュアよ』


『……』


『お前の気持ちは分かる。…しかし、やり過ぎだ。長年、ギガースと白蘭竜の息吹は小競り合いを繰り返し仲が悪かったが……今回の一件で完全に敵対する事になったぞ』


『……』


『金翼の若獅子が間に入らなければ抗争にも発展し兼ねない事態だった』


『…エリねぇ。あの糞野朗は?』


『一命は取り留めたが重症だ。二度と自分の足で歩く事は叶わぬだろう』


『くっくくく…!ざまあ見ろ。姉さんを穢そうとした罰だ。俺は豚を屠っただけ…。あんな弱い奴が釣り合うわけないのさ』


『…ヨシュア…』


『俺が守るんだ…。姉さんも…親父も…皆も…どんな敵からも。もっと強くならなきゃ…』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『八代目はオルティナ。…お前だ』


『…パパ…』


『ふざけるなよ親父っ!何で俺じゃないんだ!?』


『…ヨシュア。お前には大切な物が欠けている。…私の教育が至らぬせいでもあるが』


『強さ以上に何が大切だって言うんだよ!?』


『…それが判らぬお前に皆を任せられん。オルティナの下で学び成長するのだ。息子よ』


『…っ!…』


『ヨッくん!』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『やぁ』


『…あんたは…』


『最近、白蘭竜の息吹を賑わせてる事情は知っている。…一度、直接会って話をしたくてね。探したよ』


『…失せろ。話すことなどない』


『おやおや。私は悩める若人の味方だ。…それに金翼の若獅子の上位級でもある。君の想像してる以上に力になれると思うがね』


『エリ姉…いや、エリザベートからあんたには気を付けろって言われてる。狡猾な悪魔だからってな』


『狡猾な悪魔か。ははは!否定はせんよ』


『……』


『ふむ。…しかし、だ。君が求めるものを手に入れるにはその悪魔の知恵が役立つかも知れんよ』


『…俺が求めるもの…』


『私は()()()()()()()。隠しても分かる』


『……本当に力になってくれるのか?』


『勿論さ。貪慾王ペギーアテの名に誓い惜しみ無い助力を約束しよう』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


思い出の数々がヨシュアの決意を固める。



「姉さん。大好きだったよ」



砂時計を握り締め破壊した。


砂と破片が地面に落ちていく。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『…これは?』


『ハーデスの惜涙せきるいと呼ばれる呪物だ』


『……』


『瀕死状態の者を静かに眠るように死へ誘う。自身よりLvが低い者にしか効果はないがな。聖都ラフランに居る友人からの贈り物でね。…私には使い道が無かったが()()()()()()()()


『…姉が冒険者を辞めれば使う必要はない。勝って無理矢理にでも追い出すさ』


『追放の要求の一件を忘れたか?…串刺し卿(ヴラド)が居る限りオルティナをギルドから排除する事は不可能に近い』


『……』


『灰獅子…舞獅子…それに辺境の英雄。あの者達は串刺し卿と懇意にしてるからな。必ず()()の邪魔になる』


『……』


『情を捨てろ。少年時代に終わりを告げ大人になれ。己が道を歩む為に、な』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


別れの言葉とともに…。


「さよなら」


…決別の涙が頬を伝った。




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