ギルドへ行こう。③
〜午後14時 金翼の若獅子 一階フロア〜
建物に入ると賑やかな喧騒が聴こえた。
酒場があるようで酒や料理を運ぶウェイトレスが忙しなく働いている。…大勢の亜人でごった返してんな。
「これ全員がギルドの人?」
ボッツが笑いながら説明してくれた。
「依頼者や他の業者の人もいますが殆ど冒険者ギルドの登録者です」
「こっちだよユウさん!」
「先ずは俺たちのクエスト依頼の達成報告からで良いですか?事情を説明して貰いたいので」
「ああ。了解だ」
〜 一階フロア 受付カウンター 〜
「フィオーネさん。クエストの達成報告にきました」
とても美人な女性が名前を呼ばれ微笑む。
狐耳と鳶色のさらさらのショートヘアで婉容で大和撫子を思わせる雰囲気を纏わせている。
…男性の冒険者が遠巻きに鼻の下を伸ばして彼女を眺める気持ちが分かるな。
「お疲れ様です。其方の方は?」
「この方はクロナガユウさん。…実は今回のクエスト依頼達成に関わってる人でご相談があるんです」
ボッツさんが経緯と事情を説明し三人が赤色のカードをフィオーネさんに渡した。
「確認しました。仰る通りギルドカードから黒永悠がウェンディゴ・変異種とウェデコの討伐の記録が残ってますね。…悠さんは何故、戦闘に参加されたのでしょうか?」
「…えっと…苦戦してたので助けようと思って参戦しました。一応、その変異種の死骸と素材も腰袋にあります」
「ユウさんの言ってる事は全部、本当だよ。わたしたちを助けてくれたの」
「ああ!スッゲェ強かったぜ」
「そうなると…悠さんが報酬金並びに死骸と素材の権利を主張された場合、依頼者と冒険者ギルド側の判断となります。確認に時間が掛かりますがボッツさん達と悠さんはそれで宜しいですか?」
「俺たちは危機を救って頂いただけで十分です。報酬等に関しては全てユウさんに譲ります」
善意の申し出は嬉しいが時間が掛かるってのが面倒だ。モンスターの死骸や素材が欲しい訳じゃないし。
「いい。報酬金も死骸も素材も…いらない」
「…ユ、ユウさん?」
「ダメだよそんなの!私たちが得するだけじゃん」
「メアリーの言うとおりだぜ」
「気にすんな。フィオーネさん…でしたよね?俺が権利を放棄すれば三人がその依頼を達成した事になりますか?」
「はい。その場合はそうなりますが……本当に宜しいのですか?」
「いいです。それでお願いします」
「素材や死骸まで俺たちに譲るって事ですよ?」
「早く冒険者ギルドに登録したいし時間が掛かるのは御免だ。…案内してくれたお礼だと思ってくれ」
「……ではクエスト依頼のその方向で受理しますね。死骸と素材は地下の解体場になります。こちらです」
〜金翼の若獅子 地下一階 解体場〜
解体場はかなり広い地下室でフックや使用意図が想像できない専用の解体道具が配備されている。
死骸と素材を腰袋から取り出す。
「凄い…。ウェンディゴ・変異種をそのままそっくり持ち運べるアイテムパックなんて…」
「な〜?びっくりすんだろ」
「…ねぇ本当にいいの貰っちゃって」
「ああ。権利を放棄するのは…」
「いいんだよ。…フィオーネさん。冒険者ギルドに登録するのに手続きはどうしたら良いですか?」
「…あ、はい。一階の受付カウンターまで一緒に来て下さい。もう直ぐ解体業者が来ますからボッツさん達はお待ち下さいね」
また一階へと二人で戻った。
〜 一階 受付カウンター 〜
「…さて。正式に自己紹介をさせて頂きます。私は冒険者ギルド総本部『金翼の若獅子』の一階フロアの受付嬢を担当しているフィオーネ・アルタランと申します」
ぺこり、と綺麗な姿勢で頭を下げるフィオーネさん。
「どうもご丁寧に」
「冒険者ギルドに登録したいとのご希望ですがギルドに関しての各種説明は必要でしょうか?」
「お願いします。教えて下さい」
「………」
少し驚いた表情のフィオーネさん。なんで?
「……いえ、すみません。登録される方は殆どご存知の方ばかりで大抵は必要ないと仰られますから……少々、驚きました」
「先に言いますけど俺は田舎者なので世間一般の常識に疎い。吃驚させますよ?」
「うふふ。わかりました」
…上品な姿はモーガンさんにちょっと似てるな。
「まずは冒険者ギルドの登録とギルドカードの作成ですね。こちら同意書の書類に名前の記入をお願いします。契約書に記載されているのはクエスト達成の際の報酬金から仲介料や施設利用費等が引かれる事に関しての同意書です。登録料は3万Gになります」
「…ん。これ結構、引かれるな」
「そうですね。ただ、モンスターの死骸や素材はギルドで買取をしています。総合的に見るとプラスになる計算です」
「なるほど。登録します」
3万Gを渡し同意書に名前を書く。
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所持金:12万G
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「…」
「どうかしました?」
美人に見詰められると照れるぜ。
「…何でもありません。それでは血の押印をお願いします」
針で親指を刺して同意書に押す。
すると同意書が光って登録完了の文字が浮き出た。
「おぉ!すご!」
「ふふふ。…はい。これで登録は完了です。悠さんはこれで冒険者ギルドの登録者となりました。…魔紙を使うのも初めてなのですね。大切な契約の書類は魔紙で執り行うものですよ」
「へぇ」
「次はギルドカードです。このカードはもう悠さんの物です」
真っ白なカードを受け取る。
「ウィンドウを開いてみてください。新たにギルドの項目が増えている筈です」
どれどれ…。
―――――――
ステータス
装備
所持アイテム
ギルド ←
―――――――
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冒険者ギルド
ランク:F
ギルド:なし
ランカー:なし
GP:0
クエスト達成数:0
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「ギルドを選択したら色々と項目がありますね」
「上から順番に説明していきますね。まず等級はG〜SSSまであります。初心者のメンバーは例外もありますがFからスタートします。Gランクのクエスト依頼は…少し特殊でランクに関係なく受注が出来ますが基本、『GR』に応じて受けれる依頼が変わります。ランクが高いほど報酬金は上がりますが依頼内容も相応に難しくなりますね」
ふーん…。
「ウェンディゴ・変異種を単独討伐した悠さんはCランク…Bランク相当に近い実力があるかと思います。先程、申し上げた例外は『GM』やランカーの紹介状・推薦があればFランク以外からスタートできる制度の活用の話です。私が副GMに報告し紹介状の準備が済めばCランクからスタートできると思いますが…?」
「興味ないです」
「…興味がありませんか?」
不思議そうに俺を見てる。
「ええ。全く」
「…ふふ、分かりました。次にギルドですがこれはギルドに所属すると所属ギルド名が記載されます。BBBランク・一定のGPと資金・他冒険者ギルドのGMの推薦状があれば自分の冒険者ギルドを設立する事も可能です。…悠さんは何処にも所属してませんので現在は『無所属登録者』ですね。冒険者ギルドに所属するには条件を提示するギルドもあれば…全く条件がないギルドもあります。所属するメリットは様々ありますが……PTを組み易くクエストの成功率も上がる事が一般的な見解です」
「うん」
「ちなみにボッツさん達はCランクで『金翼の若獅子』に所属している期待の若手メンバーです。『金翼の若獅子』はCランク以上でないと加入できません」
期待の若手か。…頑張れ三人!
「『順位』は700人以上のギルドメンバーが在籍する冒険者ギルドで実力に応じ与えられる位です。これは大変名誉ある称号でランカー限定のクエストもありランカーを目指すギルドメンバーが大勢居ます」
…あんまり興味ないな。
「『GP』は依頼のクエストをクリアして溜まるポイントです。一定数のGPが溜まりギルドからの昇格依頼を達成すればGRがランクアップします」
「了解です」
「クエストは幾つも受注する事が可能で達成したクエストはクエスト達成数にカウントされます。達成したクエストは受付で報告して貰いその際、必ずギルドカードを提出して頂く事になってます。理由はギルドカードに『記録』と呼ばれるクエスト内容の記録が記載され専用の魔導具で記録を読み取り事実確認するためです」
虚偽防止ってとこだな。
「悠さんも先程の件でお判りかと思いますが……虚偽報告を防ぐ為です。また、記録改竄は不可能で仮にされた場合は冒険者ギルド法違反でギルド追放と厳しい処罰を課せられます。…項目については以上ですね」
ウィンドウを閉じる。
「次に依頼の種類ですがクエストは主に討伐・採取・護衛・傭兵に分かれます。討伐はモンスターや手配書に載るような犯罪者等の文字通り討伐が依頼になります。採取は特定の素材やアイテムを集める依頼で…護衛は対象の人物や荷物をモンスターや敵から守るクエストです。傭兵は依頼者のボディーガードや用心棒ですね。基本的にどの依頼も戦闘力が重要です」
モーガンさん。俺のスキルめっちゃ活かせそう。
「施設についてですが首都ベルカには無数のギルドがありますが『金翼の若獅子』の施設の説明です。ここが本部で一階フロアがG〜Cまでのクエストの受付をしてます。二階フロアはB〜A。三階はS〜SSSの受付フロアになります。四階から上は上位ランカーの居室や来客者専用のフロア…GMの自宅です。各フロアには酒場・喫茶店もありますのでご活用ください。地下は先程、行きましたが解体場で入りきらない大型モンスターは外にある解体場を使います。他に所属メンバーやフリーメンバーの宿泊施設もありますよ」
「…分かりました。丁寧な説明ありがとうございますフィオーネさん。詳しく聞けて助かりました」
「いえいえ。うふふ…私も楽しく説明させて貰えたので。…あ、悠さんは住民登録はされてますか?されてないなら手数料はかかりますが此処で登録もできますよ」
「ならお願いできますか?」
「はい。5000Gになります」
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11万5000G
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「質問は他にありますか?」
「あー…ちょっと聞きたいんですが冒険者ギルドに登録して職人ギルドや商人ギルドにも登録ってできます?」
腕を組み指を顎に当てて少し困った顔のフィオーネさん。可愛いじゃねぇかちくしょう。
「……兼業は可能です。実際に商人ギルドに加入されている方もいます。ただ…」
「ただ?」
「職人ギルドと冒険者ギルドは昔からトラブルが絶えません。悪質な武器を売られたり…その仕返しに卸す素材を高値で売りつけたり…見兼ねて仲介業者として商人ギルドが間に入るようになりましたから」
「……なるほど。ありがとうございます」
両方、登録してみたいんだよなぁ…。無理なら仕方ないが…行くだけ行ってみよう。
「いえいえ。そういえば泊まる所はどうされます?フリーの宿泊施設を利用されますか?」
「うーん…」
一日ぐらい野宿でも良いんだけどなー。
「ユウさん!」
ボッツとアッシュが走ってくる。
「登録は終わったみたいですね」
「ああ。Cランクのボッツさん達は先輩だな」
「やめてくれよ。先輩より強い後輩とかぜってぇやだ。それよりさっき三人で話したんだけどユーさん今日どこ泊まるの?まだ住むとこ決まってないでしょ」
「野宿でもしようかなって思ってた」
「…なら俺たちが借りてる一軒家に泊まってください。狭いですが野宿よりマシです。それにユウさんが素材と死骸をくれたおかげで資金に余裕ができました。せめてそれぐらいのお礼はさせてください」
ボッツにガシッと肩を掴まれる。
「そーだぜ。メアリーなんて家片付けるって走って先に帰っちまったよ」
「ずいぶん好かれましたね」
ニコニコしてるフィオーネさん。
「…なら言葉に甘えようかな。あとさ」
ずっと我慢してだことがある。
パルキゲニアに来てから…ずっとだ。
「タバコって売ってる店ある?あるなら教えて欲しい」
幸い売店で販売していた。久しぶりの喫煙に満足してボッツ達の家に向かったのだった。
〜 夜19時30分 第15区画 ボッツの家〜
ボッツ達の家は住宅街の一軒家。
新居ってわけではないが三人で住むには充分な広さ。
夕飯をご馳走すると言われたが外出も面倒だし俺が作る事にした。
「ユーさんって料理できんの?」
「まあな。ラッシュは普段作らないのか?」
「無理無理。俺が作ったら死人だす。いつもメアリーとボッツが作るかギルドで食ってくんもん」
「あんたの作る料理は料理じゃないからねー。でもユウさんの作る料理って楽しみ」
「…すみません。お客さんに夕飯を作らせるなんて」
「気にしない気にしない」
さて、モンスターの死骸があったよな。
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プルゴッコの死骸。
・猪型モンスターの死骸。解体により多くの肉の食材が手に入る。特に後脚が美味しい。
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…よし。決めた。
調理器具を取り出し腰袋から取り出す。早速、料理に取りかかった。
〜30分後 リビング〜
「待たせたな」
「おぉ!?」
「うわぁ…美味しそう…」
「…これは」
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プルゴッコの牡丹鍋。
・プルゴッコの肉と野菜を煮込んだ鍋料理。肉の脂が野菜と絡み旨味を引き出す一品。
テンションアップ(30分付与)
プルゴッコの岩塩焼き
・プルゴッコの後脚を焼き岩塩を振った焼き料理。シンプルな料理だが火加減を見極めた一品。
筋力+10(1時間付与)
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三人が料理を食べる。…口に合うといいが。
〜15分後〜
結果から言えば大好評だった。
「…むぐ…ガツ…うめぇ!!うめぇ!!」
「あー…お肉…とろける」
「酒が欲しくなる」
ラッシュの耳とメアリーの耳がぴこぴこ動く。
「(…なんだろ。ペットを眺めてる気持ちになる)」
〜30分後〜
鍋や皿が綺麗に空になった。
「もう食えねー…。料理めっちゃ上手じゃん」
「だらしないわよ。でもこれ…もしかしてモンスターディッシュ?」
「そうだよ」
「えぇー!すごーい」
「モンスターディッシュを作れるなんて…玄人の料理人でも失敗するのに。ユウさんは何者ですか?」
「田舎者」
「えー…」
「俺の事はいいだろ。それより三人はギルドメンバーの宿泊施設は借りないんだな。一軒家を借りて住むより楽じゃないのか?」
「…俺とメアリーは村出身だ。あそこは有力な冒険者ギルドのガキがうるせーから」
「ラッシュの言う通りなんです…。今回のウェンディゴ・変異種の討伐依頼だって……別クエストの依頼達成後に急に受けろって押し付けられたの。HPやMPも回復し切れてないし準備も出来なかった…」
「……」
色々と複雑なんだなぁ。
「良いじゃないか。そのお陰でユウさんと知り合えたんだぞ」
「…だな。ギャハハ!」
大声で品なく笑うラッシュ。…イケメンなのにラッシュって性格と言動で損してそうだ。
「…そうだね!ユウさんは強いし…優しいし……助けてくれた時も…」
人差し指をつんつんしながら頰を赤くする。
「……あー!もしかしてお前さ…ユウさんに一目ぼえっは!?」
ラッシュの顔面に拳がめり込む。
「黙れっ!死ねっ!このっ!」
「ふふ…あはは」
楽しい。心からそう思えた。モーガンさん達と暮らしていた時とは違う暖かさを感じる。
夜は更け眠りにつく。
翌朝、早く起床し三人に朝飯を作り置きしてから金翼の若獅子へ向かった。




