僕と私の英雄。⑩
7月31日午前8時10分更新
注)サブタイトルを変更しました。
〜扉木の月11日〜
起床し夜に備え体を軽く動かす。
午前中は鍛治・錬成・農作業をいつも通りこなした。
…何かしてないと落ち着かない。
早めに夕食の準備を終え洗濯や家の掃除をして午後15時30分に家を出発。
第7区画こと歓楽街へ向かった。
〜午後16時10分 地下一階 フェアリー・キッス〜
到着後、ミネレさんからフェアリー・キッスを案内される。
「おぉー」
お洒落なアンティーク調の内装が施された雰囲気の良い店内にはバーカウンターと二人席、四人席、六人席…など多種に渡るブース席が設置されている。
ボーイ…じゃない。リリムキッスの制服を来たギルド職員がホールを丁寧に掃除をしていた。
「ふふ。こういった店は初めてですか?」
「あー…」
昔、会社の先輩とは行った事があるが…。
「フェアリー・キッスはキャスト数及び店内規模が歓楽街でも随一です。質もサービスも超一流の接待クラブで御座います」
「ほへー」
「GMは彼方のブースでお待ちです。ついて来て下さい」
奥へと促され後をついていく。
〜フェアリー・キッス 夜魔の寝床〜
「ユウさんをお連れしました」
「ありがとぅ〜ミネレェ」
「……」
言葉が出ない。
天井で漫然と輝く鮮やかな無数の宝石で彩られたシャンデリアと傷一つない黒光りの光沢が艶やかな黒革のソファー。
宝飾された金のスタンドと純銀の燭台。側で佇むキャストの女の子達も絢爛さに負けない美しさだ。
視覚で圧倒されちまう。
…いわゆるVIP席ってやつか?
「おっさんよー。あに呆けてんの?」
エイルが声を掛けてきた。
「…絢爛さに見惚れたんだよ」
「こっ、ここは…フェアリーキッスでも…特別なお客さんしか…招待されない席で『淫魔の寝床』って言うんスよ」
「チッ!あの短小包茎野郎の塵屑共が座るって考えっとムカつくわぁー」
タバコを吹かし忌々しそうに呟く。
…折角の美人さんが口の悪さと態度で台無しだ。
「そ、そーッスよ!キモ豚共が生意気っス」
い、意外とシャーリィも言うんだな。
「…っつーかネムにあんなことして…あり得ないよね。マジ…ブッ殺してやりたいんだけどぉー」
「そーそー!…こーしね?チ◯ポ引き千切ってさぁ。モンスターに食わせてやろうよ」
「いーじゃんそれ〜」
「えぇ〜。ならさ少しずつハサミで切り刻むほーがよくない?」
会話の内容を聞いて思わず縮み上がる。…見た目とギャップが激し過ぎるわ。
……いや、違うな。その怒りは当然だ。
「はいはぁーい。お喋りはぁ…そこまでぇ〜。悠ちゃんも来たしぃー…段取りの再確認をするわよぅ」
ソーフィさんが両手を叩く。
「20時にパーティが開始されるわぁ〜。30分後に悠ちゃんがぁ〜…乱入。戦闘ができる人数の把握…座席配置…それを悠ちゃんに伝えるのはぁー…恋人役のスウェーに任せるわぁ」
「はぁーい」
尖った尻尾を揺らし綺麗なお姉さんが手を挙げる。
…この人が恋人役かぁ。ちょっと照れる。
「よろぴくね。おじさん」
「…俺はまだ30歳だ。おじさんじゃないぞ」
「きゃはは!おじさんじゃーん」
屈託なく笑いやがって。
「わかってる段階でぇ注意すべきはぁ〜…ハット帽を被った奴よぅ。他は傭兵だと思うわぁ。…違法薬売買組織のボスの男の名前はぁ…ビバルディ。一度、会ってるからねぇ。この男の両サイドはエイルとシャーリィが座ってちょーだい」
「おー」
「り、りょーかいッス!」
「悠ちゃんが戦闘開始したと同時にぁ…戦闘ができない子は転移魔法で店外へ離脱させるからねぇ〜。…出入り口は外から施錠するからぁー…第二騎士団到着まで待機しててぇ。…戦闘ができる子は拘束をおねが〜い」
『はぁーい』
き、緊張感がない返事だなぁ。
「…んでぇ悠ちゃん。前にも言ったけどぉ…うちのメンバーの子は一切戦闘に参加させないわぁ。それにぃ…結界の維持は…今の私じゃそうねぇ〜…一分が限界。代わりにぃー…その間はどんなに暴れても大丈夫よぅ。でもぉー…Sランクメンバーを瞬殺した悠ちゃんなら余裕よねぇ」
「……」
「…ただぁ〜…ハット帽の奴だけはぁー…ほんっと要注意ねぇ。…見た感じあれは強いわぁ。うさぎちゃんの群れに一匹だけ得体の知らない肉食獣がいるって感じぃ」
「大丈夫ですよ」
きっぱりと断言する。
「メンバーの子に怪我はさせません。俺が守ります」
アルマからも警告されてるし。
「うふふぅ〜。…頼もしいわぁ。おねぇさんってば…年甲斐もなく胸がきゅんっ…ってしちゃったぁー」
冗談だってわかってるけどドキっとした。
さり気ない仕草の一つ一つが男心を擽りやがる。
「それじゃ…みんなぁー。悠ちゃんの協力のもとぉ〜…私たちの大事な仲間を傷つけぇ…淫魔を怒らせるとぉー…どんな目に合うか骨の髄まで愚かな男たちにぃ…思い知らせてやろうじゃないのぉ」
氷柱を突っ込まれたが如く背筋が寒くなる。
…正に零度の微笑み。
これがソーフィさんの魔圧。
代理決闘の際のルウラを思い出した。
『はい!』
今度は全員がきっちりと返事をした。
…流石、金翼の若獅子の元十三等位。諸事情で万全な状態では無いって言ってたが…。
「それじゃあー…時間までぇ〜…かいさーん」
キャストの子がフロアに散らばっていく。
「凄い魔圧でしたね」
「あらぁ。悠ちゃんには負けるわよぅ」
謙遜してるが全力ではない筈。…底知れぬ女性だ。
「ねぇ〜おっさん」
エイルさんが話し掛ける。
「…今更だが訂正を要求する。俺はお兄さんです」
「めんどくせーよ。20歳から見たら30歳は立派なおっさんだろ」
若っ!?
大人びてるしもっと歳が近いかと思ってたわ。…歳下だし…おっさんって呼ぶし…敬語使うのやめよ。
「20歳だったのか。それでなんだ?」
「演技できんの?わたしらは男に愛想振りまくのが仕事だし慣れてっけどぉ……そーゆーの苦手そうじゃん」
「…大丈夫だ。問題ない」
「へぇ〜。ほんとかぁー?」
正直、不安しかない。しかし、昔の自分を思い返して振る舞えば何とかなると…思う。
…そういや高校生の時が一番、荒れてたなぁ。
不良を気取って…勉強もせず喧嘩ばっかして退学になりかけ…学年で唯一、数学と物理のテストで0点も取ったっけ。
補習授業を受けても留年しそうになったし恩師である担任の先生も何度も泣かせた。
今じゃ懐かしくもあり恥ずかしい思い出。
先生は今も元気だろうか。
…おっと。つい感傷的になってしまった。
「なら替えの服は用意してっから上に行って着替えてこいよ。…その格好じゃ一発で冒険者って見抜かれちまうし」
「わかった。二階のどこで着替えたらいい?」
「あー…しゃーねぇなぁ。更衣室まで案内すんわ」
エイルがタバコを咥えながら言う。
…俺が言うのも何だが若いのにヘビースモーカーだ。
「あ、あたしもいくっス」
「きゃはは。なら恋人役のあたいも〜」
シャーリィとスウェーか。
「悠ちゃんってばぁー…うちの子にモテモテじゃない。折角だし私も〜」
…ソーフィさんまで…男の着替えなんて見ても詰まらんだろうに。
〜1時間30分後 二階 リリムキッス 更衣室〜
「……これでいいだろ」
「んん〜。ママどー思う?」
「悪くないわぁ〜…ただぁ…ネックレスは金より銀の方が似合うわねぇ。左手首のブレスレットもぉ〜…ゴテゴテし過ぎだしぃ。シンプルなデザインのほーがいいわよぅ」
「服っスけど…ジャ、ジャケットはグレーで股下の小さなパンツの方が似合うと思うっスよ」
「いやいや最高じゃん!いかにもって感じのカラーシャツと大きめのスラックスに革靴…。それにぃ…おじさんってめっちゃ筋肉質で意外とあたいの好みのタイプかもぉ〜……きゃは」
「かーっ!スウェーって変わってんねぇ〜」
「……」
かれこれ一時間以上も着せ替え人形になってる。
服を着る度に女性陣の厳しいファッションチェックが待っていた。
……依頼前なのに精神的疲労が半端ない。
趣旨が変わってないか?
「恋人役のスウェーちゃんが良いって言ってるし…」
「そーそー!」
「まぁ〜…んー。しゃーねぇ。妥協しとくわ」
…妥協って。
「…磨けばもっと光るのに」
磨くって…。
「うふふぅ。次の機会にまた、ねぇ?」
そんな機会あってたまるか。三十路の男の生着替えシーンなんて誰が得すんだよ。
「…そーいえばぁ…ネムが悠ちゃんにお礼を言いたいって言ってたわねぇー。まだ時間もあるしぃ…良かったら会ってくれるぅ?医務室で寝てるからぁ」
「いいですよ」
「わたしもいくわ。いいだろママ」
「エイルは二人と一緒に下で準備を進めといてぇ」
「けど」
「エイル」
ソーフィさんがエイルの言葉を遮った。
少し黙った後に舌打ちをして引き退る。
「…チッ。わーったよ。シャーリィ、スウェー」
「う、うん」
「おじさん。またあとでね〜」
三人が更衣室から出て行った。
「…あの子たちには内緒の話ですか?」
「うふふぅ。…ネムの希望よぉ〜。ギルドメンバーには聞かれたくないみたい」
成る程ね。だからソーフィさんは一緒に来たのか。
「じゃあ行きましょう」
更衣室を出て医務室へ向かった。




