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僕と私の英雄。⑤

7月22日午後18時24分更新

7月23日午前7時4分更新

注)サブタイトルを変更しました。


〜扉木の月9日〜


あれから四日。


俺たちは工房で渇流放魔体質を変化させる新薬の作成に昼夜問わず没頭した。事情を知ったアイヴィーも困難な作業にも関わらず喜んで協力してくれた。


新薬の調合・合成は二人に任せ俺は禮花オオカミヅ以外の材料の調達とアルマの指示で瓶に紀章文字の一つ『反対アドヴェルサス』を刻む。良い変化が起きる確率を少しでも上げる為だ。……液体が入った瓶に文字を刻むのは骨が折れる作業だったぜ。


…繰り返し問題も起きる地道で辛い作業。液体が魔物モンスター化した時は焦ったなぁ。しかも結構、強かったし。


…他にも爆破したりと失敗を重ねたが遂に完成まで辿り着いたのだった!



〜午前9時 マイハウス 地下一階 工房〜



「で、できた!」


アイヴィーが両手で頭上に掲げる小瓶。中の液体が揺れ七色に極光を放つ。


「…はぁ〜。久々に頭をフル回転させて疲れたわ」


「おぉ!!」


「…も、もう…当分、調合はしたくない」


机に新薬の小瓶を置きアイヴィーが呟く。


「アルマもアイヴィーもありがとう。…二人が頑張ってくれたお陰だ」


俺は材料集めと紀章文字を彫っただけ。


…余り役に立ってない気がする。


「ぶい」


アイヴィーがピースサインをして応える。


「悠。最後の駄目押しを頼むわ」


「駄目押し?」


「前にレムレースの封印のためにランダが自身のスキルを封じた結晶石をあげたでしょ。あれと同じことをして貰うの」


「…これで完璧なんだろ。必要なのか?」


「どんな変化が起きるかわからないって言ったでしょ。紀章文字を彫ったのは気安め程度よ。100%じゃない。ここまできたら必ず成功させたいの」


小瓶を咥え持ってくる。


「…前にもしかしたらって言ったけどあんたの錬成・鍛治・農作業をずっと見て確信したわ。…ミコトの力は間違いなく作用してる。魔導具錬成の成功率を考えたら当然ね」


「ふむ」


「方法は簡単よ。魔力を滾らせ小瓶に触れて願いなさい。『能力付与スキルエンチャント』の成功率は……いいえ。大丈夫よ。ミコトが力を貸してくれるわ。きっと上手くいく」


「わかった」


右手を小瓶に触れ体中の魔力を集中させる。


エンジ君を助けたい。エンジ君を助けたい。エンジ君を助けたい。エンジ君を助けたい。エンジ君を助けたい。……エンジ君を助けたいっ!


頼むミコト。力を貸してくれ!


何度も強く願う。


「お。きたわよ」


「闘技場でも…演習場でも見たけど…顔が違う。優しそう…」


そっと右手にミコトの手が重なる。


七色の液体が変色し黒く変色した。小さな粒が現れ時折、強く光る。


ミコトが消えた…これ成功か?


「終わったみたいね。鑑定してみなさいよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

約束の禮薬

・アルマとアイヴィーが共同開発した禮花オオカミヅムの新薬に黒永悠の従魔ミコトが祝福を与えしポーション。飲んだ者のステータス・特性・状態の事象に左右し完全に反転させる神の秘薬。


・交わした約束を果たす為、男とその家族が結束し作った薬は祟り神の祝福を受けこの世に一つしかない禮薬へと変わった。奇跡の価値が今、試される。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…完全にステータス・特性・状態を反転させる…やったぞ。大成功だ!!」


「わーい!」


「ほらね。言ったとーりでしょ」


()()の結束力のお陰だな」


アルマに向けて微笑む。


「……こ、小っ恥ずかしいこと言ってんじゃにゃいっつーの!魔王の頭脳を持ってすれば楽勝よ」


照れてそっぽを向く。目を擦りながらアイヴィーが俺の服の裾を引っ張った。


「…ふぁ〜…ゆー…。ねむいし…アイヴィーはお部屋で休むから」


「ああ。ゆっくり休んでくれ」


「わたしもそーするわ。あんたはその子のとこへ行くんでしょ?戻ったら結果を聞かせなさい。あ!ここまで手伝ったんだし…今日はとびっきりのスペシャルディナーを用意しなさいよね」


「勿論だ。好きなだけ食っていいぞ」


「にゃふ〜」


…本当に感謝しても仕切れない。


その後、一人で工房の後片付けをして用意した木箱に禮薬を丁寧に包装む。いざ出発しようとすると玄関前で寝そべるキューが戯れてきた。


皆が忙しくて構って貰えなくて寂しかったのかも…?


可愛い奴め。折角だし連れて行こう。


キューと一緒に勇猛会へ向かった。



〜午前10時30分 勇猛会 客間〜



若衆に案内され客間に通される。


キューは案内する男二人に臆する事もなかった。


今は庭で遊んで貰っている。


「おぉーいっ。こっちじゃあ!キューちゃん……ほらほら…よーしよし!甘い菓子が好きなんじゃのぅ」


ーーきゅう〜!


体は大きくなり凛々しくなっても可愛さは以前と変わらない。甘える仕草で嬉しそうに鳴く。


「……おいヤスゥ。店行ってありったけの菓子買ってこいやぁ!」


「ヨシのあにぃばっかズリィっすよ。オイラも一緒に遊びてぇっす」


ーーきゅきゅう。


「馬っ鹿野郎。…オークみてぇな凶悪な面しゃーがってなに寝言言ってやがんだ。…キューちゃんが吃驚すんだろうがい!」


顔が刀傷だらけで筋肉隆々のお兄さんが叫ぶ。…負けず劣らず凶悪に見えるのは俺だけだろうか?


「は、はは。…良かったな。遊んで貰って」


ーーきゅきゅうきゅ!


「…すいやせん旦那ぁ。親父と姐御と坊ちゃんもまもなく来るんで」


「お構いなく」


出された茶を啜る。


〜5分後〜


ガンジさんとエンジ君を先頭に一歩下がってガラシャさんが大勢の若衆を付き従えて登場した。


「ほぉ。あれが噂の『常闇の令嬢』の召獣ヴィーゾフ……キューか。黒い飛竜って聞いてたがぁ…愛嬌があって可愛いじゃねぇか!わははははは」


「す、す、すごい!!ほ、本と写真でしか見たことがない飛竜がこんなに近くに…!ゆ、悠様。触って」


「坊」


興奮したエンジ君が近付こうとしたがガラシャさんに静止された。


「……はい」


「はは。また後でな」


「んでユウよう。…大事な話があるって聞いてすっ飛んできたが用件はなんだい?」


「……」


ガラシャさんが絶対零度の眼差しで睨む。


「ええ。単刀直入に言います。魔漏病の問題を解決する方法を見つけました」


暫し沈黙が訪れる。


「…んだとぉ?」


「…え…」


驚く二人。


「調べて分かった事ですが…そもそもエンジ君は魔漏病ではなく渇流放魔体質という特異体質なんです。だから治療しても一切効果が無かった。…病気ではないのだから」


「……」


「…体、質」


絶句する二人と騒めく若衆達。


「調べた方法の詳細は伏せさせて貰いますが…そこで俺の家族が協力してくれて渇流放魔体質を改善するポーションを錬金術で調合しました」


約束の禮薬が入った木箱を机に置く。


「これを飲めば体調は必ず良くなります。長生きだってできる。…ただ、どんな変化が体に起きるかまで予測できません」


「…理に叶っちゃいるが…」


再び静寂が訪れる。


最初にガラシャさんが口を開いた。


「……はん!眉唾話で煙に巻こうって寸法でありんせんか?わっちとの約束が怖くなって」


「約束ってなんの話だ」


「ユー殿はわっちと約束したんでやす。…必ず坊の魔漏病を治すと。無理ならば世迷言なら両眼を抉るとも」


立ち上がりガラシャさんに詰め寄るガンジさん。


「おめぇよぉ」


迫力あるドスの利いた低い声。


「…なんです親父様。忘れたでありやせんか?…治ると騙され…絶望したあの日々を。姉が毎日…苦しみに喘ぐ姿を……わっちは忘れやしなし」


「…っ」


ガンジさんが言葉を詰まらせる。


何とも言えない空気だ。


…だが、引き退る訳にはいかない。


「ガラシャさん。ガンジさん。突拍子も無い俺の話を信じて貰えないのも仕方ない。…でも、エンジ君を助けたいって言葉は嘘じゃないです」


「悠様…」


「飲めば必ず良くなる。俺を信じてくれませんか?」


「……」


「……」


黙る二人を余所にエンジ君は意を決した表情で木箱を開け小瓶を手に取った。


「坊!?」


「エンジ。おめぇ…」


「父さん…ガラシャ…ごめん。僕は悠様の言葉を信じる。どんな結果になっても……絶対に責めないでね」


蓋を外し躊躇する事なく一気に飲み干した。


「…ふぅ。に、苦いですね」


小瓶が机に置かれた。


液体の色で戸惑うかと思ったが杞憂だったみたいだ。


どうなるか行く末を全員が息を呑み見守る。


「!?」


急に両手で胸を押さえた。


「エンジ!」


「坊!?…やはり紛い物やったでありやせんかっ!おどれ覚悟は」


「ち、違うよ!…苦しくなくなったんだ…」


「え…?」


俺に飛び掛かろうと鉄扇を構えたガラシャさんの動きが止まる。


「こりゃあ…」


「む、紫の蛍火…?」


「い、いってぇ何が起きてんだよぅ」


若衆達が騒ぐ。


浮遊する淡い紫の光玉が次々と体に吸い込まれる。


体に変化が現れた。


肌には赤みが差し髪の色も濃い菫色に変化していく。


「…体が軽い…怠さも消えた…。自分の体じゃないみたい。胸も苦しくならないし…喘息もしない…!」


最後に浮いていた光玉もエンジ君の体に吸収された。


一瞬、甲高い音が鳴り不可思議な煙が体を覆う。



「あ、あれ?」



煙が消える。


…成り行きを見守っていた俺を含め全員が絶句した。


「…え、エンジ…お、お前…」


「……ぼ、坊…その体は…?」


ま、ま、まさか!?


…た、確かにステータス・特性・状態の事象に左右し()()()()()()()()…って鑑定にはあったが…これは予想を超えてる…。


「え…えっと…」


()()()()()()をぺたぺたと触った後に恐る恐る股間に手を伸ばし確かめる。



「…あ、はは。…ぼ、僕…女の子になっちゃった…」



禮薬は性別すらも反転させていたのだ。



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