これが黒永悠。⑩
7月12日午後17時16分更新
〜午後17時00分 金翼の若獅子 一階フロア〜
ガンジさんとソーフィさんに漸く解放され一階に戻って来た。
勧誘をラウラが断り続けたのは…ちょっと面白かったが…成り行きで二人の依頼を受注する約束をしてしまった。
まぁ、仕方ない…最近、仕方ないってよく思ってるがえっと…つまり……仕方ないのだ!
「…あの二人の押しは凄かったなぁ」
「僕も舌を巻いたよ。ガンジもソーフィも『金翼の若獅子』の元十三等位だが…有能な人材の確保もGMの仕事だからね。見事にこなしてるよ。二人のギルドの評判は頗る良いし」
「それ自分達でも言ってたな」
「今だに慕ってる『金翼の若獅子』のギルドメンバーは大勢いるよ。…あの二人の抜けた後釜が『瑠璃孔雀』とルウラさ」
…瑠璃孔雀…あの長耳の青年か。
「時間が掛かったではないか」
「お腹ぺこぺこ…あんぐりー。遅過ぎて…はんぐりー」
エリザベートとルウラだ。
「待たせてすまん」
「二人も待ってたんだね」
「ああ。他の者も待ってるぞ」
離れた場所に佇んでいたアイヴィーが俺に気付きダッシュしてきた。
「……」
「うおっと」
無言で抱き着かれ受け止める。
「…おいおい。どうしたんだ」
ーーきゅう!きゅきゅう。
「アイヴィーちゃんに甘えさせてあげて下さい」
「おう。そーだぜ」
フィオーネとモミジ。
続いてキャロルとボッツ達も集まってくる。
「お〜!Sランクの契約者さまの登場だぜ」
「ユーさんお疲れ〜」
「えへへ。おめでと!」
「…契約者だったのは驚きました。あの昇格依頼は既にすごい噂になってますよ」
「ああ。皆も応援ありがとな……ってアイヴィー?」
「……」
ぎゅうっと力を入れ腰に回した腕を離そうとしない。
「ゆー。実技試験中にーー」
珍しくルウラが事の説明を始めた。
〜数分後〜
「…そんな事があったんだね。あの六人は悠の逆鱗に触れたのか」
顎に手を当てラウラは呟く。
「……」
「ユーさぁ…アイヴィーは嬉しくて甘えたいんだよ」
キャロルの言葉に呼応し体を擦り寄せる。
「…そっか」
「……」
「アイヴィー」
「…ん」
「お前を馬鹿にする奴は俺が許さない。…これからもずっとだ」
「…うん」
「俺たちは家族なんだ。不安ならこの言葉を思い出せ。…分かったか?」
「うん!」
ーーきゅう!
「わっぷ…ははは。キューもだって」
どんな苦労も報われるこの笑顔で報われる。…男親にとって娘ってのは特別なのだ。
毎日、痛感してるぜ。
「うふふ。…ちょっとだけ妬けちゃいます」
「だな」
「ゆー。ルウラもはぐぷりーず」
「柱にでも抱き着けばいい。抱っこはアイヴィーの指定席だから」
「わたしもふぁみり〜」
「こ、こら。抱きつくな」
「わたしもー!」
便乗するメアリー。押し競饅頭かよ!
「……」
「…くくく。随分と羨しそうに見てるな」
「…ああ。僕も悠みたいな父親が欲しかったよ」
「ははは!アイヴィーの結婚相手は苦労しそうだな。ユウさんを納得させるのは一筋縄じゃいかないぞ」
……。
「だな〜。…パパはどー思ってるよ?」
「絶対、許さん。地獄を超えた地獄を見せてやる」
「オレがアイヴィーと付き合いたい〜とか言っ」
「……」
「…すいませんっした!!冗談でも言わないよーにしま…ちょっ…ユーさん!マジで冗談だって!?」
全く…。
「うわぁ」
「…本気の威嚇じゃん…寿命が縮んだぜ。ん〜…じゃあアイヴィーはユーさんの結婚相手とかどー思ってんだよ」
「悠の結婚相手?」
緊張感が走り変に張り詰めた空気になる。
「「「「「「……」」」」」」
「…ラッシュってばぶっこむねー」
「ユーさんだって将来は結婚すんだろ。そん時はアイヴィーの新しい母ちゃんになるんだぜ?」
「考えたことなかった」
「理想とかあ…痛ってぇ!?なにすんだよボッツ!」
「お前は毎度、爆弾を放り投げて走り去ってくな。…頼むから黙っててくれ」
「…うーん…」
悩むアイヴィー。
…確かにあり得ない話ではないかも。
俺だっていずれは結婚がしたい。
パルキゲニアでは種族間で歳の取り方が違うし難しく考えてたが……ふむ。良い機会だ。アイヴィーがどう思ってるか参考までに聞いてみたいな。
「アイヴィーちゃんのママになる女性は気配り上手で穏やかな……そう。暖かい家庭を築ける狐人族の女性が良いと思いますね」
「はぁ?男勝りで勝気な力がある女のほーが家庭が賑やかでいいだろ。鬼人族の女なんて打ってつけだぜ」
「…僕は仕事ができる女性が良いと思う。責任感があって…信念を持って突き進む人なんか教育的にも適切じゃないかな。…た、例えば獅子族の女性とか…ごにょごにょ」
「大切なのは感性だ。アイヴィーのセンスは一級であるし趣味が合う者が相応しいだろうよ。キューにも理解があって……おっと!竜人族の女子など理想的ではないか?」
「時代が見えてない。…やんぐでピチピチな女の子がなんばーわん。ルウラみたいなたいぷが理想。間違いない感想」
「そーだよ!あと胸がおっきい子とか!!」
「…ばすとさいずは関係ない」
「お、おっきいほーが男の人は好きだし…子供は母性を感じるってお母さんが言ってたもん!ルウラさんは……あ。ごめんなさい」
「へい。どこをるっくして謝った?」
…な、何やら具体的な提案ばっかだな。
「フィオーネよぉ。女は気配りと優しさだけじゃ足んねーだろ。豪気じゃねぇとユ…男を駄目にしちまう」
「一歩引いて…ゆ…こほん。夫を立てるのが妻の役目ですよ。…鬼人族の女性には無理かも知れませんが」
「あぁ?」
「何か?」
「センスなんて曖昧なものが基準じゃ母親になる資格はない。…ナンセンスだ」
「教育熱心な母ほど子供の可能性を奪う。自由な発想の妨げになるぞ」
「……君の美的感覚は昔から変わってるからね。趣味を押し付けられるゆ…夫と子供が可哀想だよ」
「……ラウラみたく完璧を求める者はゆ…夫と不和になりやすいであろうな。離縁するのが落ちさ」
「……」
「くくく」
は、白熱してる。
最早、抱っこしてるアイヴィーは置き去りだ。
「…よくわからないけど…アイヴィーは悠が好きな人なら誰でもいい」
「あははは。…じゃあアイヴィーが大人になったら俺と結婚してくれるか?」
「うん!してあげるね」
「…結局、アイヴィーの一人勝ちか」
ボッツが言い争う六人を眺め呟く。
「案外、マジかもよ〜。ユーってば若いうちから唾つけてんのかも」
「…キャロル?」
「冗談だって!」
……ま、結婚なんて焦って考えるもんじゃないか。
今のままでも十分、幸せだ。
恋人も居ない内じゃ取らぬ狸の皮算用ってな。
「ん〜…ここにレイミっちも居たらもっと面白かった予感がするなぁ〜。残念」
「レイミーさんも来てたのか?」
「うん。仕事が残ってるからって先帰っちゃったけど。『巌窟亭』のドワーフも三人来てたぜ。モミジから…『仕事片付けてきやがれっ!』…って帰されちゃったけど」
恐らくローマンさん達だ。……キャロルはレイミーさんと初対面だよな。
レイミっちってコミュ力が高過ぎだろ。
奇しくも事情を話そうと思ってた面子が残ってる。
…うし。
「皆、ちょっと良いか?」
モミジとの舌戦を止めフィオーネが振り返る。
「…はぁ…はぁ…な、何でしょう」
息上がってんじゃん。どんだけ真剣なんだよ。
「話があるんだ。…今まで黙ってた俺の過去と出身に関係する内容だ。事情を知ってるのは…アイヴィー、ラウラ、エリザベート、ルウラの四人だけだが…五人にも知ってて欲しい」
「悠さんの…」
「…過去の話だと?」
モミジとフィオーネが顔を見合わせる。
「いいの?」
「ああ。決めたんだ」
「…だったら場所を変えた方が良い。此処は人目に着き過ぎる。広場に行こう」
ラウラに促され全員で広場へ移動した。
残してた大仕事を片付けなきゃな。…これで関係が変わったら仕方ない。でも根拠は無いが確信してる。
信頼できる友達ってのはそーゆーもんさ。




